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秋の世界

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秋の世界

シナリオ完成!

名前:ジュリエット ◆uS0wTV.wKI 投稿日:2008/02/10(日) 23:10:29.50 ID:SiF7j8YeO

――それは夢と現の間にある、不思議なお話。
光一は気がついたら見知らぬ場所にいた。
気を失っていたかどうかすら定かではないが、以前の記憶は全くない。
見渡すとあざやかな色合いの木々が光一を取り囲んでいる。
さながら、紅葉の山にいるような……。
異常なほど秀麗な景色に目を奪われていると、遠くに巫女と思われる服装の少女を見つける。
彼女も迷い込んでしまったのかも知れない……。
光一は様々な疑問を抱えながら、少女と接触することを決めた。












これは、夢と現の狭間にある不思議なお話……。

背景:紅葉中の森か山。
【光一】「……ここは?」
目を覚ました光一は、自分の置かれている状況に呆然としていた。
色鮮やかな葉をつけた木々が見渡す限り広がっている。
建物や電線などの人間が造った物は一つも見当たらず、手付かずの自然が光一を取り囲んでいた。
どうやら紅葉を迎えた山の中らしいが……。
あまりにも秀麗なその色合いを纏う情景は、桃源郷を想起させる。
そして全く見覚えのない景色だった。
光一はそこに一人、立ち尽くしていたのである。
そう、厳密に言えば目を覚ましたわけでもない。
気がついたらそこにいた、という表現の方が近い。
光一は始まりを認識していなかった。
ならば原因は?
【光一】「…………」
わからない。
頭の中に霞がかかっているような、第三者が思い出す行為を止めているかのような、とにかくこの山の中にいる一切の理由は判らなかった。
記憶喪失。
瞬く間に不安と焦燥が全身に広がる。
いけない……恐怖に呑まれてはならない。
自分の心を落ち着かせるために、深呼吸をしてみる。
風景から察するに秋の涼しい風と思いきや、どことなく生温く、そして懐かしい空気が肺の中に入り込んだ。
【光一】(夢なのか?)
本来ならば最初に考えるべき推論だが。
ここが夢……。
そうかもしれない。
理由を説明するのは容易い。
なにもかもが現実離れしているから。
鳥のさえずりも、虫の鳴き声も聞こえない。
天を仰いでも、ぼんやりとしていて実態がつかめない。
だが現実を忘れてしまった光一に、目の前にある光景が現実でないと規定することができるか。
少なくとも、自分だけでは答えることのできない問いかけだった。
※場面転換:(一瞬暗くしてまた同じ背景を出す)
しばらく辺りを眺めていると、光一は遠くに人の影を見つけた。
心臓の鼓動がわずかに速まる。
遭難者が救助隊を見つけた時の気持ちに近い。
安心と懸念が混じった視線の先には、巫女姿の女の子が一人。
こちらの存在には気づいていないのか、ただ座っているだけだ。
【光一】(あの子も迷ったのかな?)
それともこの周辺に住んでいる子なのだろうか。
見るからに幼そうな女の子であるが。
もし光一と同じ境遇にあるのなら、恐怖は自分より遥かに大きいはずだ。
倫理的に考えて、ここは助けるべきだ。
自分だってこの場所のことを何も知らないけれど、二人でいるほうがなにかと心強いものだ。
とにかく、歩き出さなければ話は進まない。
光一は少女への接触を決心した。
※場面転換:(上記と同じ)
少女に近づいていくうちに、光一は奇妙な感覚に囚われた。
【光一】(なんだろう、あの子……)
少女は大樹によりかかるように座っていた。
前方を眺めているようだが、何かを探しているという気配はない。
その姿は自然と少女が見事に調和していて、さながら一枚の絵画を見せ付けられているような。
光一は少女の側面から接近していることになる。
同じ迷い人ならばもう少し挙動不審な態度を見せてもいいはずだが。
慌てている様子は全く感じられなかった。
その点から、おそらくこの土地の者だろうと思った。
巫女装束から考えると、この近くに神社の類があるのだろうか。
そもそもここはどこだ?
俺は……誰だ?
あれこれ思索にふけっている間に、少女との距離はあと数メートルというところになる。
立ち止まる。
少女はこちらに気づいているのかいないのか、何の反応も示さない。
近くで見ると、少女は生物特有の温かみがないような、それこそ幻想が生み出したような、おぼろげな姿であった。
【光一】「君……」
黙っていても埒があかないので、一先ず声を掛けてみることにする。
少女はカラクリ人形のように、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
生気が乏しい印象を受ける。
【???】「…………」
無視されているわけでもないが、意思疎通ができているとも思えない。
【光一】「僕の名前は光一っていうんだ。君の名前は?」
言葉にしてみて、初めて自分の名が『光一』だということを認識した。
全てを忘れてしまったわけではないようだ。
【???】「……あたしの名前は浮月だよ」
少女の名を聞いて、まず光一は安堵した。
見知らぬ人物とでも会話さえできれば、これから親しくなることもできる。
希望の道が開けたと言っても過言ではない。
一歩前進といったところだ。
【光一】「浮月ちゃんか……。ここってどこだか判るかな?」
年齢差を考慮した上での口調。
【浮月】「お・や・ま」
にっこりと笑って答えてくれた。
先程の表情からは想像し難い変化だ。
【光一】「いや、それは判るんだけどさ……えーと、何て言えばいいのかな……」
言いたいことが上手く纏まっていないまま話しかけたことを後悔する。
【浮月】「どうしたの?」
【光一】「浮月ちゃんは、今何してるんだい?」
【浮月】「あたしは遊ぼうと思ってたの。……そうだっ! お兄ちゃん、あたしと一緒に遊ぼうよ!」
名案が浮かんだとばかりに大きな声を出す。
遊びか……。
(シナリオ分岐はない選択肢)A
1:承諾する
2:もう少し質問をする


2の選択肢。

【光一】「その前にちょっといいかな? 浮月ちゃんはどこから来たの?」
【浮月】「あっちの方からだよ」
そう言って『あっちの方』を指した先に見えるのは……色づいた木々であった。
木に住んでいるのか?
もっと向こう側に家ないし神社があるのなら納得できる。
というか、そう言っているはずだ。
光一は自分の勘違いを心の中で笑い飛ばした。
それならば、大して心配するようなことでもないのかも知れない。
光一はこの時点で楽観的だった。
大方散歩に出て、転んで頭でも打って一時的な記憶喪失に見舞われているだけだろう……きっと。
【浮月】「ねえ、そんなことよりあたしと遊んでよ?」
体を動かしている間に記憶が回復することも充分あり得る。
※これ以降は1の選択肢に繋げる。


1の選択肢。

……なぜだろう、少女の笑みはどろどろとした不安を一気に取り除いてくれる。
人の心を安らげる能力を持っていたり……なんて。
深刻に考えても答えはでないだろう。
【光一】「いいよ。一緒に遊ぼうか」
【浮月】「やった! 鬼ごっこしようよ鬼ごっこ!」
今にもぴょんぴょん跳ねそうなほど喜んでいる。
反対する理由もないので、光一は浮月と鬼ごっこをすることにした。
…………。
じゃんけんの結果、鬼は光一になった。
【浮月】「ちゃんと百秒数えてね?」
【光一】「あぁ、わかったよ」

背景:真っ暗。
光一は言われたとおり、なるべく丁寧に数え始めた。
当然両目を両手で覆い隠して。
浮月が一目散に駆け出したことは、落ち葉を踏む音で判った。
あまり遠くに行っても困るんだが。
【光一】「にじゅう、にじゅいち、にじゅに、…………」
数を唱えている時も光一の頭は、どこかでこの世界について熟考していた。
鬼ごっことは二人以上の遊びだ。
つまり浮月は以前に誰かと鬼ごっこをしたことがある……。
誰と?
当然ながらその解を光一が導き出すことは不可能だ。
仮に誰かと遊んだとしても、別段不思議なことでもない。
問題はその相手が光一のような迷い人だった時……。
浮月はここの住人で、光一は違う世界の住人。
光一という人間はここにいるべきではない。
帰らなければ……帰りたいから。
【光一】「ごじゅう、ごじゅいち、ごじゅうに」
【光一】(一体何をしているんだ僕は……)
不意に自分の行動がどうしようもなく愚かなことだと悟り、光一は百までの数えをすぐに中断した。
【光一】(あの子と一緒にいなくちゃいけないだろ!)
自分自身に叱咤をかましたところで、時間が戻ってくるはずもない。
一刻も早く少女との再会を果たさなければ、自分の身が危ない。
光一は本能的に察した。
だが眼前に広がる光景は……。
背景:冬の森か山
【光一】「なっ!?」
――冬景色。
…………。
…………唖然。
ありえない。
この世界はおかしい……いや、それは最初から判りきっていたことだ。
判りきっていた筈。
判りきっていたはずなのにッ。
光一は何に対して怒りの矛先を向けていいかさえ、判断できなくなり始めていた。
ついさっきまで、風流心のない光一でも感動するほどの彩色を兼ね備えていた葉は……全て枯れてしまっていた。
目の前にある大樹とて例外ではない。
裸身の状態である。
つまり光一が目をつむっている間に秋から冬に変わってしまったらしい。
【光一】「とにかく、落ち着こう」
そうだ、それでいい。
まるで自分の心と対話をするかのように。
頭の中で今までの事象を整理する……。
論理的考察がどこまで通用するか、でも光一はそれにすがる他なかった。
まず、目が覚めたら紅葉中と思われる山に一人立っていた。
それから大樹によりかかる少女を発見、名前は浮月。
浮月は鬼ごっこをしたいと提案。
そして浮月とじゃんけんをして……。
【光一】「じゃんけん……」
うっかり見落とすところだったが、光一はじゃんけんに不審な点を感じた。
覚えているのは自分が負けたということのみ。
だが自分の出した手がグー、チョキ、パーのどれだかは記憶にない。
どんなに頭を集中させても、全く思い出せず。
【光一】(僕が本当に忘れているだけなのか?)
そこに謎を解く鍵が眠っているのか。
実は何も関係がない可能性の方が高いことなど知らず。
しかし光一は頭の片隅に置いておくことにした。
そんなことよりも考えなければないらないことがあるからだ。
ここからが本題。
目を閉じている間に……より正確に言えば五十数秒の間に、季節が移った。
今もそうだが気温の変化は感じ取れない。
だからこそ目を開けるまで気がつかなかった。
秋から冬へ移り変わることはむしろ自然の成り行きなのに。
速度が光一の常識ではあまりにも異常だ。
原因を考えてもそれはあまり意味を伴わないだろう。
それでも考えずにはいられない、人間の性。
実に様々な原因候補が浮かび上がる。
実現性を無視すると、大まかに二つのグループに分けることができる。
一、自分に原因がある。
夢、なんらかの精神疾患、あまりにも遅く数えていたため、本当に秋から冬になってしまった等。
二、周りに原因がある。
ここは極短時間で季節が変わる世界、知らぬ間にタイムスリップ、背景は精巧に作り上げられた騙し絵のようなもの、最初から冬だった等。
【光一】「わけがわからん……」
本音がそのまま言葉として出た。
摂理を構築している歯車がずれているような気持ち悪さが、一層光一の心を蝕んでいく。
いっそのこと狂ってしまえたら。
狂ってしまえたら晴れてこの山の住人になれる。
楽になれる。
危険な考えが光一を支配し始める……だが止めてくれる者はいない。
その悲しき事実が、光一に逆に冷静さを取り戻させる。
【光一】「浮月ちゃんを捜さなくちゃ」
半ば自分に課せられた使命と感じていた。
見回してみるけれど浮月はおろか人っ子一人見当たらない。
場合によっては浮月はまだ鬼ごっこの最中だと思っているかも知れないのだ。
【光一】(鬼ごっこというよりはかくれんぼだな)
光一は苦笑した。
さて、どこから捜せばいいのやら。
光一はいきなり悩み始める。
先が思いやられるとはまさにこのこと。
立ち止まっていても、何も変わらないのは承知の上で、光一はしばし黙考する。
……時間がたつにつれて、光一の脳内には一人で下山する選択も生まれ始めていた。
あてはない。
とにかく下へ向かうルートを独断で選び、ひたすら歩くという素人考えも甚だしい案だ。
けれど光一には成功する確信めいたものを予感していた。
理由などない。
なんとなくだ。
……光一はすでに相当の疲労を背負っていた。
主に精神面においてだが。
それでも帰りたいという思いは強い。
どこに? と言われれば黙るしかないのだが。
語弊があると言うと救いがなくなってしまうような不安に見舞われるが、ここから抜け出したいと表した方がいいのだろう。
【光一】(どうする?)
(シナリオ分岐がある選択肢)B

1:下山を試みる
2:浮月を捜す


1の選択肢。

【光一】(帰ろう。こんなところはもうたくさんだ)
本来の性格ならば探究心が勝る場面であっても、流石に疲弊や命の危険の前では足が竦む。
臆病だと笑われてもかまわない。
身の安全は譲れるわけがないからだ。
そうと決まれば話は早い。
光一は帰路への道筋をこれだと信じ込み、全力で走り出した。
大事なのは、強く、強く、願うことなのだ。
【???】『もう帰ってしまうのね……』
突如透き通るような声が辺り一帯に響き渡るが、足を止めるわけにはいかない。
【光一】(そうさ、悪いけど帰らせてもらう!)
――それから随分と永く走り続けて――
体力の限界などとうに超え、もう諦めてその場に倒れこもうとしたその時。
唐突に視界が暗転した。
背景:真っ暗
そして目が覚めた。
今度は見覚えのある、自分の部屋。
光一はベッドに寝ていながらも、ぜえぜえと息を切らせていた。
山の中を無我夢中で走り続けていた実感はまだ消えない。
次に訪れたのは……強烈な安心感。
【光一】(良かった……)
助かったと思った。
多少心残りがあることは事実だが、所詮は夢だったんだ。
光一は今回の一件に終止符を打った。
記憶もきちんと甦っていたので、もう心配することは何もない。
これからまた日常が始まる……。
それもループしているようなものだ。
そう思うと、光一は夢も現実も大して変わらないと気づく。
でもそれでいいんだ。
無駄なことを繰り返して生きていくのが人間だから。
【浮月】『夢じゃないよ』
【光一】「えっ?」
End


2の選択肢。

【光一】(いや……僕は彼女を捜さなくちゃいけない)
まただ……、得体のしれない使命感が光一をこの世界へと留まらせる。
なにか不可思議な力が働いているとしか思えない。
それを運命と呼ぼうが、神様の力と呼ぼうが、人の勝手であるけれど、光一はそれらとは方向性が若干異なるモノに正体の目星をつけていた。
そのモノは壊れたカセットテープの如く、無機質な声で光一に語りかけてくるのだ。
――モウ戻レナイ、と。
心の奥底に微弱だが確かに恐怖感を募らせていく。
恐怖の念が表層に現れるまでには、まだ幾らかの猶予があると感じていた。
そして許容量を超えるまでが、自分が光一でいられるタイムリミットなのだろうと解釈した。
そうとなっては善は急げ。
光一はここにある巨木を目印として、少しずつ動ける範囲を拡大することに決める。
【光一】「時空超越鬼ごっこ開始」
まだ冗談を言えるほどの余裕はあった。
場面転換。
…………。
【光一】「はあ……、はあ……」
……半日は経っただろうか。
……自分の怠惰な性格を最大限に考えて差し引いても、少なくともその位は歩き続けているはずだ。
なのに浮月の姿は未だに見つからない。
人を捜すという行為はこうまで辛いものなのか。
この山には元々誰もいないのではないか、そんな弱音を吐くのも無理はない。
殺風景の似たような場所を、目を凝らしながら歩くのは想像以上にきつい。
光一は嫌というほど体感していた。
意識せずとも……自然に足が止まる。
限界だ。
ついに意思が折れてしまい、光一はその場に座り込む。
偶然か必然か、光一の背中側にはあの大樹があった。
振り返って、じっと見つめる。
…………。
葉が全て枯れ落ちたと言っても、次の春に備える力は計り知れない。
圧倒的な大自然の象徴に見える。
光一は躍動感溢れる生命の力を感じた。
ただそこにいるだけで、見る者に感動を与える。
こころなしか、自分の気力も回復しているようだ。
五分ほど休まっていると、新たな活力が湧き出す。
でも、もう少しだけ……癒しの力に身を委ねていたい。
光一の体はいまにも船を漕ぎ始めそうだ。
【光一】(おっと、いけないいけない)
強く自制して、すっくと立ち上がる。
【光一】(寝たら危ない……)
寒さこそ感じないものの、冬に外で寝てしまうのは抵抗があった。
それは光一が人間様式の生活を手放したくないという気持ちの現われか。
しかし夜が訪れたら一体どうするか。
光一はそれについて何も考えていない。
……自分の体に鞭を打ってまで立ち上がる訳はもう一つある。


※この下の文はAの選択肢で『もう少し質問をする』を選んだ場合のみです。
【光一】(『あっちの方』に行けば、何かあるかもしれない)
光一はこの大樹を見失わないように、円を描くように散策していたが、今度は浮月の言っていた『あっちの方』に真っ直ぐ進むという案だ。
そこに住んでいるのならば、最終的にはそこに帰るしかない。
※ ここまで。

※ここからはAの選択肢で『承諾する』を選んだ場合です。
【光一】(浮月ちゃんの足音がした方向に行けば、何かあるかもしれない)
光一はこの大樹を見失わないように、円を描くように散策していたが、今度は浮月が鬼ごっこの際に進んだと思われる方向に行くという案だ。
※ここまで。後は共通。


すぐにでも歩き出したいところだが、なかなか始めの一歩が踏み出せない。
それはこの選択が正真正銘、最後の希望だからだ。
これが徒労に終わろうものなら――
その時は、光一は覚悟を決めねばならない。
……もう大樹を視界に留めておく必要もなくなる。
【光一】「……怖いんだろうな」
わざわざ声に出したのは、寂しさを紛らわすためだ。
死ぬ瞬間よりも、死を待つ期間に絶望を感じるのと同じである。
生か死を確かめるための行動は、安々とできるわけがない。
自分は耐えられるだろうか……一人だけの世界を。
改めて他者の存在の大切さを知った。
一人だけなら法も体裁も思いやりも関係がなくなってしまう。
それは果たして理想の世界なのか?
他人に認められるために生きている人間は生きる意義をも消えてしまう。
生きる意味を見出せなくなれば……人は勝手に死ぬ。
恐ろしいことが淡々と進行してしまう。
しかし今のことはあくまで自我を保ち続けた人間の終末である。
もし心が壊れてしまったら、もっと想像もつかない恐ろしい事態に陥ってしまうかもしれない……。
永遠に。
恐怖の順位をつければそちらの方が圧倒的に嫌だった。
……人間は現在の自分が全てだと思い込む癖がある。
最期まで自分自身でいたいと思うのは自然なこと。
残された時間も決して多くない。
よって光一は歩き出す。
足取りは非常に重い。
いつの間にやら自分が正しいと思わなければ動くこと
もできなくなっていた。
短時間でこれほど光一の心を侵食している。
【光一】(僕の心の強さも試されているな……)
心の強度は経験、性格、環境によって培われていくものだ。
経験をなくしている光一は、あとの二つが文字通り命綱である。
環境の点は恵まれている。
山に一人で登山してきたと思えば、雀の涙程度だが心は落ち着く。
ここがもし、一色の世界だとしたらどうか。
黒でも白でもいい。
どれにせよ光一はとっくに人捜しなど諦め、胎児のよ
うに身を丸くして叫び続けているだろう。
これも永遠に。
光一は見慣れた景色であることに感謝の念を覚えた。
足取りは少し軽くなった。
一連の思考の流れは光一の防衛本能の命令かもしれない。
悪いことではないけれど、後々一時的なものでしかないことを光一は嘆くはめになる。
【光一】(僕は決めたんだ……浮月ちゃんを探し出す)
【光一】「捜す、捜す、捜す、絶対に捜しだす、僕は」
呪詛のように呟く姿は端から見たら不気味かもしれないが、光一にとって目的を確認することは命を繋げる行為と等しい。
己を見失っては元も子もないのだ。
【???】『とても滑稽ね』
【光一】「――ッ!! 誰だっ!?」
突然辺りに響き渡った精練された声は、光一の頭の中に躊躇いなく侵入してくる。
立ち止まったりはしない。
そして人に巡りあえたことに対する喜びの情も起きない、起こさせない。
なぜなら光一はこの声を幻聴だと思っていること、そしてこの声は敵意を持っているように感じるからだ。
思わす声を荒げてしまったことは矛盾しているようだが、仕方がない。
【???】『誰って? 私が誰だか知ることで貴方は救われるのかしら?』
若い女の声に聞こえる。
【光一】「なんなんだお前は……」
幻聴だと決めつけても、光一は喋ってしまう。
【???】『私は貴方に興味を持ったの。ここの居心地はどうかしら?』
そいつの言動は明らかに上から見た調子だ。
嘲笑されているような。
【光一】「最低だ。悪夢ならさっさと終わってほしいさ」
【???】『へえ。貴方は望んでここに来たというのにね』
【光一】「なんだって?」
【???】『貴方の安息の地はどこにあるのかしら……』
【光一】「僕が何をしたっていうんだよ……」
語気が次第に弱くなっていく。
【???】『手を取ったのは貴方なのに面白い人』
【光一】「答えろ」
脅迫まがいの口調だが……。
【???】『ふふふ……虚勢しか張れないのかしら? いつまでその調子でいられるのかしら? ふふっ……』
粘りつくような笑いをこちらに向ける……通用しない。
それどころか、的確に光一の弱味につけこんでくるではないか。
悪魔。
【???】『貴方は前に進んでいると錯覚しているようだけれど、本当は逃げているのよ』
悪魔の囁き。
【???】『現実から目を背け、束縛から自由になりたくて……ここにいる』
【???】『いやそんな綺麗なことじゃない。もっと澱んでいて怠ける心そのもの』
悪魔の囁きは止まらない。
【???】『ここの摂理は貴方が住んでいた世界とは全く異なる』
【???】『自分を客観的に見ている自分が、像を結び、形作ることもある』
【???】『貴方は弱いの。それが罪』
【???】『それだけじゃない。弱いのに立ち向かう気を起こさない』
容赦なく。
【???】『貴方は救われるべきじゃない』
こいつは。
【???】『そうよ、生きているだけで罪。そんなゴミみたいな人間なら――』
僕を。
【???】『死んじゃえば?』
殺す気なのか?
【光一】「うわあああああああああああああああっ!!」
光一は走る。
がむしゃらに。
悪魔の手から逃れるように。
しかし頭の中に聞こえる高笑いは消えない。
【光一】「ああっ……ああぁあぁぁあああぁあああぁああああああ!!!!」
言葉にならない叫びをひたすら、ただ、ひたすらと。
まるで獣の咆哮のように。
違う。
違うんだ。
何が違うのか光一に知る由もない。
木の根に足を引っ掛けた。
派手に転ぶ。
ごろごろと惨めに転がり、相当な衝撃が光一の身体を襲う。
意識はそこで途絶えた。

背景:曇り空
……。
…………。
……………………。
光一は仰向けに倒れていた。
空は光一の心と同じように、憂鬱さをうかがわせる曇り。
【光一】「…………」
憔悴しきっていた。
もう何も考えたくない。
じゃあ死にたいのか?
死体は何も語らない……。
悪魔の声は止んでいる、今のは自問だ。
【光一】「さぁ……知らないよ、そんなこと」
そう言って自嘲した。
そもそも自分が生きているのかも判らないのに。
もしやここは死後の世界で、俗にいう地獄ではないかと妄想に駆られる。
いや、妄想に過ぎないことでも馬鹿にできないところがこの世界の恐さであり、特色なのだ。
【光一】(なぜ……こんなことに?)
虚ろな瞳で空に問いかける。
そう都合よく空が口を開くわけない。
それを見て、光一はやっと受け入れた。
――あぁ、僕は独りで、これからも孤独なんだ。
初めて涙を流した。
※場面転換(上記と同じ)
【光一】「…………」
沈黙が周囲の静寂と無音の世界を奏でていた。
木々は光一を温かく見守るわけでも冷たく突き放すわけでもなく、そこに在り続けた。
どうやら自分は眠っていたようだ。
目覚めたという自覚がないくらい、ゆるやかに目を開けた。
やはり睡眠の効果は大きいらしく、光一は大分落ち着きを取り戻していた。
さっきまでの錯乱状態が嘘のようである。
身体はどこも痛まない……転倒による外傷はないらしい。
光一は意を決して身を起こす。

背景:冬の森、山
【光一】「ふぅ……」
ため息に似た空気を漏らす。
景色は相変わらずといったところ。
秋から冬、そこからの変化はまだない。
順調(?)に推移すれば次の季節は春になるが、二度と冬から抜け出せないような予感があった。
だとすると、自分は永遠にここにいるはめになってしまう。
そこしれない不安と恐怖が脳裏をよぎる。
今更だがどうしてここにいるんだろう。
【光一】「…………あっ」
……思うに、この世界は始まりと終わりが欠如しているのではないか。
光一がいたとされる現実を過去、現在、未来の三点を結ぶ時間軸を一本の線とするならば、ここは一つの円になるのではと思わせた。
もちろん一つの推論であるから、証明することはできない。
……その世界に不運にも投げ出された者は、現実世界の人間が一本の線を歩み進むように、一つの円をいつまでもぐるぐると廻ってしまう。
任意の点から進み始めた者は、未来を辿った気にさせるも気がつけば任意の点に自分がいる。
それはその世界の時間軸が円であるだからだ。
つまり未来だと思って進んだ方向が気がつかぬまま一周して、再びスタート地点に戻ってしまう。
本当はスタート地点など存在しないがここは便宜上こう表すことにする。
そうなれば、堂々巡りである。
言い換えればループ現象でもいい。
実際にそのようなことにまだ直面はしていない。
だがそう考えれば辻褄が合うこともある。
例えば、僕の記憶喪失だ。
人は常に未来の結果を見据えて行動している。
極端に言えば過去に目を向けていない。
要するにこの山に過去は存在しないのではないか。
バッサリと切り捨てられているので、いくら思い起こそうとしても何も浮上しない。
いささか強引な解釈だが、光一は充分に納得できた。
謎を解明することによって、安堵を得ていた。
所詮気休めかもしれないが、今の光一にとって重要な意味を持つ。
【光一】「待てよ……」
つまり元の世界に戻るためには……。
その瞬間、光一は突破口を見つけたような気がした。
【光一】「流れがきた」
思わずにやりと笑う。
……人生には波がある、と思う。
失意のどん底に堕ちた後も大抵は昇っていける道があるものだ。
光一は今、その道を見つけたと言ってもいい。
これ以上ないというくらい重大な発見をした。

背景:日本家屋みたいなの
【光一】「家だっ!!」
歓喜の声が挙がった。
今までの疲れや悩みなど一瞬にして吹き飛ぶ事態の好転を目の当たりにする。
無我夢中に走り続けている間に目的地へ着いたのだ。
人工物を見ることがこうも嬉しいとは。
そう、家とは人が建て人が住むもの。
考えなくとも光一以外に人間がいることを示唆している。
表札はないが、十中八九浮月の家だと光一は思った。

背景:玄関
導かれるように家に入り込む。
不法侵入だと糾弾されてもかまうものか。
光一の呼吸は乱れ、ある種の興奮状態に陥っていた。
【光一】「誰かっ、誰かいませんか!?」
切迫した声で呼びかけてみるも、返事はない。
嫌な予感がする……。
光一は靴を脱ぎ、家の中を探索し始めた。
※場面転換
一通り家の中を歩き回った。
……頭のどこかで予期していたことが現実となってしまった。
――誰もいない。
ただタイミングが悪いだけで、ここの住人はどこかに出かけているだけかもしれない。
しかし光一は奇妙な点に気づいていた。
なんというか、生活臭が感じられないのだ。
建物の外観からして、新築というわけではないだろう。
人が生活する上でどうしても出てしまう雰囲気、残り香などが全く無かった。
【光一】(気のせいだ……じきに誰か来るはず)
……それは普通に事が転じた場合だ。
この世界に普通などむしろ異常であることを痛感しているが、どうしても目を背けてしまう。
結果、自らを更に苦しめる……。
光一に成長はなかった。
【光一】(それにしても疲れたな……)
先程までとは質の異なる、長旅から解放された時のような疲れが押し寄せてくる。
身体は睡眠を渇望していた。
光一はある一室へと向かった。

背景:和室
ここには布団が敷いてあった……。
誰かが寝ていたという痕跡はない。
まるで光一のために用意された物であるかのようだ。
【光一】(家の人には悪いけど、少し寝かせてもらおう)
光一は床に伏した。
自分でも驚くほど疲労が溜まっていたのか、あっという間に眠りに落ちそうだ。
光一はなぜか目を開け続けようと努めていた。
【光一】(……馬鹿らしい)
さっさと抵抗はやめにして、寝ることにした。

背景:真っ暗闇
……あれ、もう目が覚めている?
僕はまぶたを閉じていながらも、そう思った。
視界は黒一色だが確かに覚醒している。
【光一】(胡蝶の夢……か)
そろそろ起きよう、この家の人が帰ってきているかもしれない。
目を開ける……。

背景:和室
夜はいつ訪れるのだろう。
障子に映る白い陽光は、何の変哲もない。
この世界には夜という概念が存在しないのではないか、僕は思った。
ああ、そんなことより家の人はいないのか。
気だるげに障子を開けた。
背景:春の景色
【光一】「あ……」
声こそ出てしまったものの、以前より驚愕の度合いは少ない。
【光一】「季節が変わっている……」
例によって肌には季節の移ろいを感じ取ることはできない。
僕の目に入る光景は、春。
幻影から生じた幻覚が柔らかな薫風を生み出している。
降り注ぐ陽光に暖かみは伴わないが、春を認識させるには充分である。
【光一】「進んだってことか?」
名前は判らないが、絢爛と咲く花が示してくれている。
自分を出迎えてくれたかのようだ。
そう、ルールはある、だから正気を保ち続けられた。
僕は折り返し地点へ来たのかもしれない。
なんのために?
俺は未だに覚えていない現実へ戻りたいのか。
それこそが現実逃避になってしまいそうだ。
……いや、とりあえず解決に向かっているような虚偽の実感を味わいたいからか。
それとも僕はもう、この世界の一部となっただけなのか。
判らない……自分が。
【光一】「自分のことなのに」
世界とは対照的に、僕は衰退している。
そう思うと、美しい景色も急におぞましくなる。
物事が見地に左右されて全く別物になっていしまう。
心構え一つで変わってしまうのだ。
楽しいと悲しいに境界線がないように。
人間であるから、どうしても世界は欺瞞に満ちているように思われてしまう。
結局、他人と判りあえることはないんだ。
それぞれが異なった視点を持ってしまうから。
【???】『どうしたんだい?』
【光一】「考え事をしていたんです」
【???】『そうかい。それはどんな事かな?』
【光一】「この世界について、とか」
【???】『随分と頑張っているようだね』
【光一】「僕は何を捜しているんでしょうか?」
【???】『あの少女だろう』
【光一】「いえ、きっと違う。あの娘は最初からいなかった。僕は今まで妄想を追いかけていた」
【???】『気持ちは判るよ……だが君は進める力を持っている』
【光一】「励まさなくていいです……」
うんざりしていた。
僕と会話をしている幻は、前に出た悪魔ではない。
しかし自分の狂言を認めているみたいで気分のいいものでもない。
【???】『僕も君と同じだ』
【光一】「えっ?」
【???】『同じように迷い、苦しみ、そして消えた』
【光一】「貴方は……」
【???】『名前なんてとうに忘れてしまったが、元は人間だったよ』
【光一】「…………」
【???】『僕は君のように強くない。だからすぐに少女を諦めてしまったんだ』
【???】『この世界と同化してしまったんだよ……』
その声には哀愁の念がこもっていた。
【光一】「あぁ……」
僕は理解した。
この人と同様に、冬の時に喋りかけてきた悪魔ではなく人間だったのだ。
かつてここで迷った……いや今も迷い続けている女性。
そして僕を見て、妬んで攻撃した。
【???】『と言っても僕は後悔なんかしていない。これは望んだことだからね』
【光一】「望んだ?」
【???】『その通りの意味さ。僕も現実世界への帰還を諦めた。よってこの世界への永住に至ったわけだ』
【光一】「帰りたいと思わないんですか?」
【???】『今となっては思わない。君からはどう見えているのか知らないが、この姿になってから少女の居場所も判ったんだ』
【光一】「どっ、どこに……」
それは訊いてはいけないような気がした。
だから僕は敢えて問わなかった。
【???】『君の気持ちは判るよ……』
【光一】「すいません……」
自分の都合だけを優先するのはよくない。
【???】『謝るようなことじゃないさ。僕もこうなって救われた部分もあると信じている』
【???】『君は、君ならどうする? あるかどうか判らない過去を捜し求めるか現状を受け入れる心を持つか……』
【光一】「僕は……」
【???】『少し私情がこもった問いかけだったね。自分が信じた道を進むべきだ』
【光一】(僕は……俺は……光一は……)
【???】『おそらく最後の選択だ。僕達が出会ったのも運命であり必然だったのかもしれないな』
【光一】「俺は」
(エンディング分岐がある選択)C 
1:さがす
2:やめる


2の選択肢

これは逃げだろうか。
そうは思いたくない、別の道を選ぶだけだ。
あの少女は僕とは関係がない……そのことに気づくのが遅すぎた。
【光一】「僕は……止めます、あの少女の影を追うのは」
【???】『後悔するのは容易い。だがそれを断ち切るのは君自身だ。……頑張ってくれ』
【光一】「はい。いろいろありがとうございました」
正しい間違いではくくれない選択。
それが今なんだ……僕は思った。

※場面展開(一端暗闇でまた同じ景色)
僕は感じている……自然との一体感を。
なにもかもから解放されている、理想の世界を。
悪くない、悪くはないんだ……。
だけど時折もう一人の自分が問いかけてくる
「これで本当に良かったのか?」
僕はこの言葉に永遠と付き合わされるのだろうか。
後悔しても始まらないことは判っている。
焦ることなんてなのもない。
時間はたっぷりあるんだから……。
――ここに光一という人間は、終わりを告げた。
END


1の選択肢

穏やかな陽気とは裏腹に、俺の決意は固かった。
息を吸う――
【光一】「それでも僕は……捜し続けます」
【???】「―――――」
意識は……現世へと……

場面:和室
【光一】「夢……?」
光一はまだ布団の中にいた。
【光一】(いや、夢だとしても関係ない)
現実の境界線など知ることのできない光一にとって、些細な問題だ。
信じれば彼は存在するし、信じなければそれまでの話。
光一は前者を選ぶ……これも当然だ。
もはや家の者が帰ってくるなどとは考えなかった。
【光一】「行かなきゃ……」
光一はある意味で吹っ切れていた。

場面:冬の森
終着点はまだ先。
光一はもう迷わない。
少女を捜す大義はないが、意義ならある。
そして自分は捜すものを勘違いしていたようだ……。
【光一】(そうさ、僕は自分自身を探している)
こんな簡単なことにも気づけなかったとは。
自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。
【光一】「でも、もう大丈夫」
光一はある場所に向かった。
※場面転換。
そう、あの大樹だ。
一際異彩を放っていて神々しいと言ってもいい。
光一自身が見つけたとっておきの場所。
もたれかかる。
【光一】「やっぱり、ここが一番落ちつくな」
自分探しに足は必要ない、心と時間があればいい。
その瞬間、今までの光一は死んだ。
そして……場に溶け始めた……。
新たな旅立ちには、過去など不要。
【光一】(俺もあの人と同じ、か)
これで終わりなのだろうか……?
それは自分の願い次第であろう。
だから、僕は願い続けようじゃないか。
この物語が終わりますように……。

場面:真っ暗
…………。
……ここは、どこだ?
――――秋。
場面:最初の秋の森。
秋じゃないか。
僕の探し続けていた季節がここにあるじゃないか。
あの娘は……どこに?
【浮月】『やぁっと見つけてくれたね』
――あぁ、遅くなってごめんね。
【浮月】『待ちくたびれたよー』
訊きたいことが沢山あるんだけど。
【浮月】『どうぞどうぞ』
君は、大樹そのものだったのかい?
【浮月】『そうだよ。あたしねー、このお山の神様なんだ。ずっとお兄ちゃんのこと見てたよ』
神様……か。ここは現実なのか?
【浮月】『ちがうよ』
ならば夢?
【浮月】『それもちがうんだなー。あえて言えば……夢と現実がごっちゃになったような感じかな』
なんじゃそりゃ……。
【浮月】『あははは! お兄ちゃんがそう思うのも無理はないか。でもそう言うしかないんだよ』
俺はどうしてここに来たのか判らない。
【浮月】『あたしもしーらない。理由なんて考えても無駄だよ? お兄ちゃんのいた世界とは別物ですから』
元の世界に帰る方法は?
【浮月】『ええっとねー、それも知らないんだ……ごめんね』
神様なのに知らないことだらけじゃないか。
【浮月】『お兄ちゃんは帰りたいの?』
…………。
【浮月】『もしかしたらすごく苦しい場所かもしれないんだよ?』
……どうだろうね。
【浮月】『でもね、ここは平気。自然と一体化した人を攻撃するモノが存在しないんだもの』
そうかもね。……ここで休んでいればいいわけだ。
【浮月】『そうだよ! 流れるままにいればいいだけなんだから』
永遠にか?
【浮月】『えっ……?』
何も始まらなければ何かを達成することもできない……ここはそんなところだ。
人間は目的を持たなきゃ動くことすらできない。
君を見つけた以上、僕は次を目指さなければならない。
僕は……こんなところに留まるわけにはいかないんだ。
【浮月】『そんな……どうして? どうしてそんなに寂しいことを言うの?』
寂しくなんかないさ。ただ、僕はそうしなくちゃいけない気がするだけで……それこそ理由はないね。
【浮月】『もし地獄のような現実だったら?』
後悔するんだろうね、僕は。だけどその時は自分を責めるようなことはしない。
あの人の言うとおり、僕は何かから逃げてきたんだと思っている。
だから帰る方法を見つけ出して……戦う。
【浮月】『あたしを捨てないでよ!』
……捨てる?
【浮月】『あっ…………いや…』
やっぱり君はまだ隠し事をしているようだ。
【浮月】『ないよ。そんなの、ない』
嘘はよくない。君にだってなんらかの願いはあるんだろう?
【浮月】『ない……よ』
言ってごらんよ。力になれるかもしれない。
【浮月】『…………』
僕だって無理に言わせるつもりはない。
【浮月】『…………』
……僕はそろそろ行くよ。
【浮月】『待って!!』
……なんだい?
【浮月】『あたしを……あたしを本当にしてほしい。確定された存在にしてほしいの』
ということは僕の世界に行きたいってこと?
【浮月】『……うん』
来るかい? 今度の旅はもっと長くなるだろうけど。
【浮月】『うん!』
最後に一つだけ訊かせてくれ……どうして?
【浮月】『ここでいろんな人を見ているうちに……ね』
そっか。じゃあ行こう。
【浮月】『次は鬼ごっこだね!』
ははっ。見つかるといいな、鬼。
【浮月】『大丈夫だよ! あたしがついてるからっ!』
頼りにしてるぜ、浮月ちゃん。
【浮月】『手をつなごっ!』
うん、いいよ。
【浮月】『……で、どこ行こうか?』
おいおい……。
【浮月】『うぅ……じゃあ、あっちの方!』
ちょ、走らなくていいからっ!
【浮月】『いいのいいの』
【光一】「もげる! 手がぁぁぁぁぁ!!」

これは、夢と現の狭間にある不思議なお話……。

GOODEND。



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