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『シュールな交錯 甘い告白』



「男は……好きか? 愛しているか?」
 俺のベッドに寝転びながら、女は呟いた。
「うーん」
 唐突に聞かれても困る質問だっただけに、正直言葉に詰まった。
 単純に考えて、嫌いか? と言われれば答えは“いいえ”だ。
 だが好きか? と言われれば微妙な所なのも事実だった。
 女の奇行は慣れるまで恐怖の対象だったし、今でも何を仕出かすか
予想出来ないでいる。
 以心伝心だの、意思疎通だの、長い間一緒に入れば言葉さえ不要になるなどと、
何処の誰が言い出したのだろう。
 少なくとも、女の思考回路が解明される事はないと思う。
 円周率を延々計算するようなものである。

「……嫌いか? 存在そのものが不愉快か?」
 俺の枕に顎を乗せながら、女は呟いた。
「うーん」
 高校生活を始めて幾らか経つが、未だに俺の家の敷居を跨いだ異性は
女のみ。
 学校生活などもっと酷い。女と共に行動している所以か、最近では
男友達さえ減少傾向にある気がしてならない。
 俺の青春終わったな。

 ここは友好的に答えた方が得策かもしれない。
 もう失うものなど何もない――という訳ではないが、少なくとも
ここで「嫌いです。傍にいるだけで背筋が冷たくなります。ガチで」などと
言い放って、女にまで距離を取られては俺の高校生活は始まる前に幕が
下ろされかねない。ガチで。

「好きだよ。一応ね」
 実際これは賭けだった。
 これで女の奇想天外極まる発想の矛先が俺に収束すれば、学校生活どころか
生命活動的な意味で終わる可能性も十分に考えられた。
 だが俺は好きだと答えた。
 だって男の子だもの。

「そう……か。好きか。うん、好きだ。うんうん」
 女は何故か誇らしげな表情を作り、息を荒げた。
 両足をバタつかせている辺り、とりあえずは当たりを引いたようだった。
「男、好きなのは分かった。物凄く嬉しい。いつ頃から好きだったんだ?」
 目の輝きが眩しい。
 あれか、女も思春期に入ったと言う事でこれは良いのだろうか。
 夢見る乙女が盲目なのは、目が輝き過ぎて何も見えないという事だったんだな。
「どうだろう……余りよく覚えてないけど」
「いや、全然構わないぞ。正直かなりショックだが全然大丈夫だ。
まぁ皆そんなものなんだよ。知らず知らずの内に忘れられなくなるものだ」


 拳を握り締めて力説する。
 いや、そんなもんとか言われても困る。
 何故に熟練者の口振りなのか。

「惜しいなぁ、凄く惜しい。しかし男も好きだったのか。うん。
だがもう少し早く聞いていれば間に合ったんだがなぁ……」
 頭を掻きながら眉を顰(ひそ)める。
 バレンタインデーか?
 いや、夢のようなイベントだが、秋の終わりに言われても。

「まぁ大丈夫だ。最終的には間に合う。もう少し遅れれば危なかった」
 ……? クリスマスだろうか。
 どちらにせよ、俺はこれからの事を考えなければならない。
 女の事だから明日になれば奇麗さっぱり忘れて――という事態も
不自然ではないが、今日の反応を見る限りで、それは考えづらい。

「うーん、ふふふ、そうかそうか、んー。まさか男も私と同じだった
とはなぁ」
 ベッドの上でごろごろと転がり、丁度顔が俺の方を向いた位置で
ぴたりと回転を止める。
「なんか、嬉しいな。今まで誰も分かってくれなかったから」
「お、おう。まぁ色々あったし、これからもそうだろうけど、宜しく頼む」
「ああ、任せておけ。いやぁ、それにしても、まさか」
 女は満面の笑みと共に言った。

「男も“米”を愛していたとは、驚きだ」


   「惜しいなぁ、凄く惜しい。しかし男も好きだったのか。うん。
    だがもう少し早く聞いていれば間に合ったんだがなぁ……」←田植え

   「まぁ大丈夫だ。最終的には間に合う。もう少し遅れれば危なかった」←収穫




   ( ゚д゚ )
  ( ∪ ∪
  と__)__)


.

「うわああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああ?!」
 俺は天地が引っ繰り返ったかの如き衝撃に襲われ、頭を抱えて絶叫した。
「ああああァ! ああァァあああああああああああ――」
 幾度となく床に頭を叩き付け、世界の混乱と逆転を噛み締める。

「そんなに喜ぶな男。だが気持ちは痛い程に分かる。分かるぞ。初めてに
してはなかなか良いテンションだ。収穫の時はそれくらいの勢いで稲を
刈り取る」
 隣でゆったりと寝転ぶ女を余所に、俺の頭の中のアナザーワールドでは
世にも恐ろしい光景が早送りで積み上げられていく。
 頂点からの失墜が精神的絶望を引き起こし、さらに恐怖へと連鎖していく
様は悲惨としか形容の仕方がなかった。

「ちょちょちょちょっとまま待て、違う! 違うんだ! 俺はお前が
好きだと言ったから俺も好きだと言ったんだ! 違う、違うから! 全然
なんだ! 俺は違うんだ!」
 首をあらん限り振りながら否定する。
 手も振ってたし、なんかもう触れるもの全て左右に振ってた様な
気もする。
「じょじょじょ、冗談! そう、軽い軽い軽いジョークなんだよ!
ほら、な? お前がずっと俺のベッド占領してるから! ちょっと
からかっただけなんだ! だからだから違うんだ、断じて違う! えーと、
違うんだァ!」
 遅かった。

 女は満面の笑顔のままベッドからのっそりと起き上がり、手を伸ばして
俺の肩にぽんと置く。
「誰だって最初は緊張する、大切なのは米を信じる気持ちだ。
最初は枯らしたって良い、水加減を間違えて腐らせたって良い、
失敗を重ねる事で人は成長する。より良い米を未来へと繋ぐための、
言わば必要犠牲なんだよ」
 床を這うように女は身を寄せ、さらにもう片方の手を俺の空いている
肩へ乗せる。
「信じれば、必ず米は答えてくれる」
 俺は女の背後に菩薩を見た。
 輝く黄金は全てを包容し、受け入れてくれる気さえした。

「共に歩もう、男」
「お断り……します!」

 俺と女は固く抱き合い、窓から差し込む夕日を浴びながら、
いつまでもいつまでも、お互いの体温を感じ合っていた。

 思えば、この日から女と話が合うようになっていったのだと思う。
 




END