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ガヤガヤと人の話す声が店内を飛び交う。
興味の無い会話が私の右から左へと通り過ぎる。
オレンジジュースを飲み、時間が過ぎるのをひたすらに待つだけの状況。

「それじゃ二次会行こうぜ二次会!」

私を合コンに誘った同僚が皆を先導し会計へと向かう。
言われたまま会費を払い、二次会へ向かう他の面々を見送った。

「付き合いもラクじゃないな……」

始めに頼んだ一杯のビールだけでもう頭はフラフラだ。
壁に背を付け、そのまま身体を預け座り込む。携帯電話のアラームをセットし、目をつぶり少し休むとする。
十分にセットしておいたアラームが鳴り響き、目をつぶったままアラームを解除する。
なんとか動けるようにはなっただろうか。まだ眠気を持った頭を覚ますために大きく欠伸をする。
その俺の口に、棒状の物が突きこまれた。

思わず反射的に口を閉じるとその棒状の物は簡単に二つに割れ、口の中に甘い香りが漂った。
これは……バナナ?
目を開けると、合コンに参加していた女性の一人がバナナを手に立っていた。
ご丁寧にフサ付きでまだ五本はあるだろうか。
この女性は合コンの時は端でおとなしく座っていて、特に誰とも会話をしていなかった。
おそらく俺と同じで数合わせで呼ばれたのだろう。

「十八円」

彼女は抑揚の無い声で言った。
俺は急いでバナナを咀嚼して飲み込んだ。

「十八円って、このバナナ?」
「まだ半分しか食べてないから、九円でもいい」

九円か、安いな。いやそういう問題じゃないだろう。
彼女は身長が高く、タイトなスカートにワイシャツという姿は成熟した女性を感じさせる。
しかし下がり気味の眉が幼さを出し、彼女の持つ不思議な雰囲気をより一層強くしている。

「初対面の人の口にバナナを突き入れるのはおかしくないですか?」
「いや、初めてじゃない。さっき店の中で初対面は果たした」

話は通じる。けれど何か日本語がおかしい。

「それに、傷ついた人は助けないと」
「ただ酔っ払っただけですよ。それにバナナを食べさせても治りません」

治らない、その俺の言葉に女性はハッキリと驚いた顔をした。

「バナナは万能薬……病気の時はバナナで治る……それは嘘?」
「栄養はあるけれど、それで治るわけじゃ」
「折角買ってきたのに。コンビニファックユー」

この人とんでもない事を口走ってないか?
早々に退散したほうが良さそうだ。

「それじゃ、俺はもう治ったみたいだから帰ります。お疲れ様でした」
「バナナ効果?」
「もしかしたらそうかもしれませんが、恐らく違います」

彼女は何度か頷くとバナナのフサから二本ちぎり取り、俺へと差し出した。

「栄養は取る事。磨いてから食べる事。それと、何かあったら相談する事」

それだけ言うと彼女は残った三本のバナナを胸ポケットに射し込み駅方面へと歩いて行った。
まるで当然だと言わんばかりの堂々とした姿。

「変な人もいるもんだ」



家に帰り、バナナを剥くとそこにはメールアドレスが書いた紙が入っていた。
どうやって入れたのかは全く判らない。やはり謎な人だ。
この前はありがとうございました、とメールを打つ。
数分してメールが返ってきた。

「五十四円。次は一緒に座りましょう」

END