拘束系と半拘束系
すべる棒が壁を離れるときの問題に「壁を離れない」拘束を付加して比較してみた。

ヒットペットの力学『Phun』 でヒットペットでも半拘束系を拘束系としてあつかう危険について少し触れた。ヒットペットゲームの力学を解析しようとしたとき,ペットボトルの底がテーブルから離れずに常にすべり状態にあるものとして問題を簡略化した。この簡略化はある程度役に立つが,ペットボトルがはじかれる初期条件によっては,ボトルの底はほとんど空中にあり役に立たない。

『Phun』でリアルなヒットペットより…はじかれたボトルの底はほとんど空中にある

すべる棒が壁を離れるときの問題でも,うっかりすると棒が壁を離れるということ自体忘れてしまうことがある。拘束系として扱ってしまえば,ラグランジアンが簡単に書けて解析はずいぶん楽になる。

床と壁の交点を原点とし,水平右方向にx軸,鉛直上方にy軸をとる。棒の長さをlとおくと,壁との角度\thetaのとき重心の位置および速度は,

x = \frac{1}{2}l\sin\theta \qquad y = \frac{1}{2}l\cos\theta

\dot{x} = \frac{1}{2}l\dot{\theta}\cos\theta \qquad \dot{y} = -\frac{1}{2}l\dot{\theta}\sin\theta

ラグランジアンは,

L = \frac{1}{2}m({\dot{x}}^2+{\dot{y}}^2) + \frac{1}{2}I{\dot{\theta}}^2 - \frac{1}{2}mgl\cos\theta

  = \frac{1}{6}ml^2{\dot{\theta}}^2 - \frac{1}{2}mgl\cos\theta

となる。ただし,棒の重心周りの慣性モーメントは,

I = \frac{1}{12}ml^2

である。ラグランジアンを微分して運動方程式を導くと,

\ddot{\theta} = \frac{3g}{2l}\sin\theta …(i)

を得る。下図はPOLYMATHによる水平速度成分の積分結果である。Algodooシーンの設定に合わせて,l = 100{\rm [m]}, \theta_0 = \pi/6としている。3.2sec.のあたりで速度成分は最大に達しその後減少に転ずるから,壁から受ける拘束力はこの時点以降張力にならなければならない。


壁を離れるときの\thetaは,エネルギー保存を連立させることで得られる。
加速度のx成分は,

\ddot{x} = \frac{1}{2}l\ddot{\theta}\cos\theta - \frac{1}{2}l{\dot{\theta}}^2\sin\theta

これがゼロになることから,

\ddot{\theta} = {\dot{\theta}}^2\tan\theta} …(ii)

一方,エネルギー保存により

\frac{1}{2}mgl\cos\theta_0 = \frac{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2) + \frac{1}{2}I\dot{\theta}^2 + \frac{1}{2}mgl\cos\theta

上の\dot{x},\dot{y}を代入して整理すると,

\dot{\theta}^2 = \frac{3g}{l}(\cos\theta_0 - \cos\theta) …(iii)

(i)(ii)(iii)より

\cos\theta = \frac{2}{3}\cos\theta_0

を得る。壁に接した端点または重心が,初めの高さから2/3の高さになるまですべり落ちた時点で,棒は壁を離れ始める。Algodooシミュレーションで離れる瞬間は,重心速度の水平成分が一定に移行することから判定できる。

もとのすべる棒が壁を離れるときのAlgodooシーンに壁から離れない拘束系を加えてみた。シミュレーションの設定は,l=100{\rm [m]},\theta_0=\pi/6である。

左:壁による半拘束  右:スライダーによる拘束



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最終更新:2011年11月14日 10:46