限界なら黙って動かなきゃいいのに、それが出来ないのがこの男だ。
「ぜんぶ挿入っちゃったな」
明朗快活と言えば聞こえはいいが、単純にじっとしてられないだけでもある。
「なあどんな気分? こんな凄いカッコになっちゃって?」
予想以上の女の蜜壷の奥深さに、受け入れてもらえる喜びを隠せない。
勝気で強気な女戦士達や、海千山千な娼婦達と比べると、
青く若い男にとって、目の前の少女は非常に素晴らしいものと映ったようだ。
「俺みたいな蛮族なんかに犯されちゃって、どんな気分?」
だから欲しいし、だから犯す。
だから優しくする男は、しかし間違いなくサディストだ。

「ふあぁっ、あッ!」
「…ッ?!」

膣内を限界まで占拠した肉柱が、更に大きく肥大したかと思ったら、
ジュッ…と何か水流のようなものが、膣奥を穿つのを感じる女。
(……ふ?)
ジュッ、ジュッ、と更に体奥に何か暖かい湯が噴き滲む感触に、
引き伸ばされた膣壁に感じる、剛直のビクン、ビクンという強い脈動。
(…? …???)
覆い被さった男の腰の震えと、緊張し何かに耐えるような身の強張りを感じても、
少女にはそれが何なのか、刹那では思い至ることができなかった。
(………はう)
むしろ膣内に広がるぼんやりとした熱さに、気持ちが良かったくらいだ。
温かなぬくもりと痙攣に、どうしてか心の奥底で恍惚とする。

だが広がる熱さが結合部から溢れた時、恍惚の中にもようやく小さな疑念が浮かんだ。
何しろ隙間らしい隙間がないので、すぐさまビュッとかブシュッなんて音を立てて、
押し出される愛液の飛沫を腹や股座に感じていると、それもなんだか気持ち良く……
…………。
強張りが一転して弛緩、体重を預けてきた男の身体の重みも心地良かったので。
顔は見えずとも、真横に埋められた男の頭が安堵し恍惚とした息を吐くのが聞こえたので。
抱きしめられるのが、回した脚に感じる腰の熱さ、野太い剛直の脈動が快かったので。
だから彼女の理性は、それらを受け止め満喫したい欲望に屈した。
疑問は浮かんだけれど、愛欲と快楽の前には勝てなかった。

なので完全に止むまで10秒近くにも及んだ射精が終わっても、
「?」とは思うのだろうがパズルのピースが合わないらしく、まだ忘我としていた。
そうして汗だくで息を整え合いながら絡み合い、
もう10秒ほどそうしていたところで、ようやく頭の中でカチリと何かが嵌り込む。
感じた熱い飛沫と迸り。男の緊張と震え。股に感じるぬるぬる。
――貴賎人畜を問わぬ、この行為の本当の目的。

「…………や」
「……?」
「やあああああああああああああっ!!」
叫ぶもやむなし。

「え、ど、どうした?」
慌てて身を起こしかけた男の胸を、女の腕がぐいぐいと押しやる。
「ど、どいて……どいてください! 抜いて!」
「うわっ、ちょ、無理無理無理無理!」
頼まれてやりたい気持ちもあったが、流石にそれは無理があった。
ただでさえ乱暴な動きが出来ないのに、お互い深々と繋がったこの状況、
どっちかが相手を無視して動けば、両方『いててて!』なのは明白だ。
「何? 何? ひょっとしてどっか痛くした?」
「ちが……そうじゃなくって!」
押してもビクともしないからって、ポカポカドカドカ男の胸を叩き出す女に、
男が(うっわ鼻血出そう…)と、痛がるどころかむしろ興奮してるのはさて置いて。
「…こっ、子供……赤ちゃんが……」

馬鹿じゃなかろうかと思われても仕方ないのは認める。
でも少女的には本気で忘れていたのだ、この行為の本義がどこにあるのかを。
亡夫相手に、その、様々な変態プレイや加虐の数々に晒される中、
小手先に走って本道を見失っていたというか。
これは男の欲望を吐き出す行為で、女の体を使ったストレス発散の遊戯か何か、
神聖なんてのは建前の、背徳的何かだと思い込んでしまっていたのだ。
だから今更実家で説かれた『貴家の女は血を継ぎ子を産むための道具』という教えを、
言葉ではなく身体で体感、魂で思い出したとて、もう遅い。

「…え? あれ、ひょっとして膣内で出したらまずかったの?」
「…! …!!!」
この期に及んで緊張感の欠片もない男に、唇をキッと引き結んでぶんぶん頷く女。
当たり前だ、何しろ『赤鬼(セキキ)』の子を産むということは……

「…や、ごめん。なんか最初に『亡将の妻の宿命は分かってるから犯したいんならさっさと
犯しなさいよこのケダモノ!』的なこと言ってたから、てっきり覚悟完了なのかなって」
「……!! …う、わ……」
でもこれは泣く。
「…つか言ってくれればちゃんと避妊したのに。避妊薬持って来てからやったよ?」
「…わっ、わあああああああん!!」
泣く。流石に泣く。

やたらと軽い、だが軽いだけに男の言葉に嘘偽りがないのははっきりと分かった。
ただでさえボロボロになってた貴上の矜持が、ここで完全に崩壊する。
――『余計な意地と見栄なんか張らないで、さっさと素直に服従してればよかった』
そんな想いで胸が一杯になる気弱な少女19歳。
もう最初にツンと澄ましてた、それでも体面を保ててた貴婦人の姿はどこにもない。

「やだ……やだああぁぁ……」
無駄と分かっていても、無益と分かっていても、男の上半身を押しやらずにはいられない。
少女とて女。
「…てか、もう諦めよ?」
しかしあまりにも違いすぎる身長差、体重差、体格差、
こそりとも動かない男が傍目にも気の毒そうな、それでいて冷静な表情で告げる。

「フツーに手遅れじゃね? 抜いて、掻き出して、…全部掻き出せんの?」
「……!!!」

時が止まったかの如く女の身体が硬直し、やがてぱたむと腕がシーツに倒れ伏した。
男の腰に回されていた脚も、ずるりと脱力して滑り落ちる。
「………うあ」
困ったようにこっちを見下ろす男の目が、少女にもよく判らない混沌に彼女の心を落とす。

「…いや俺、さっきも言ったんだけど、ここ一ヶ月ロクに女抱いてなかったからさ」
『蛮夷の女、性奔放にして、男は好色強精』なんて、よくある下馬評を思い出すも手遅れ。
「特にここ十日だなんて、熱出そうなくれー忙しくて自分で処理する暇もなくて」
視線の先、男の褐色の腹に散った返り精が、白黒の対比にやけに生々しく現実を映す。
「…その、自分で言うのも何なんだけど、俺自身びっくりするくらい出たっつか」
会陰を何か、ぬるぬるしたものが垂れる感触。
「…お前には悪いんだけど、これもう絶対、胎ん中飛び散っちゃった、と、思う」
「………」

分かっている。少女とて寝所での作法と共に、男女の理を知識としては教わった。
あまり露骨な言い方をするのは好きではないが、
それでも薄いよりは濃いが、少ないよりも多く、浅くでよりも深くで、
そうして老いよりも若いの方が危険だと知っている。
その意味で言えば、今し方の男の放精はまさに女にとって致命的だった。

「…てかさ、あれか? やっぱりヤバい時期だったりすんの? 月の巡り的に?」
それでも女の側もまた万全の状態、然るべき時節に精を受けねば子は出来ないのだが。
「……わから……ない、です」
「? どゆこと?」
辛うじて声を絞り出した姿を問われ、少女はポツポツと説明しだした。

――明らかに過度のストレスが原因なのだが――少女は月巡りが安定しない性質だった。
正確に来る時もあれば、一月半、酷い時には二ヶ月近く来ないこともある。
『月の物の始まる14~18日前が危険』というそれなりに信憑性の高い汎説から鑑みるに、
もしも正確に来てくれているのなら開始予定は数日後、これなら安全性は高いだろう。
…でももし、今回が『一月半』の予定で来ている回だったのなら。

「あー…、なるほどな」
得心がいったらしく、困ったような表情でバリバリと赤髪を掻き掻き身を起こす男に、
女はすんすんと鼻を鳴らした。
自分なんかの話を聞いて理解を示して貰えたのは嬉しいが、でも現実はどうしようもない。
…嬉しいんだか悲しいんだか、非常に複雑な心境だ。
『出しされちゃったもんは仕方ないじゃん』と聞く者が聞けば思うかもしれないが、
しかしいかんせん「命に関わる問題」である。

死産どころか母子共に命を落とすケースや、産後の肥立ちが悪くての死も多く、
仮に無事生まれても確実に『一人産めば一年寿命が縮む』、そういう世界、そういう時代。
…許婚だとか婚約者だとかで、予め覚悟が出来ているならいざ知らず、
いきなり「産んでね」と言われて「うんいいよ」となど、答えられる女がいるはずもない。

……はずもないのだが。

「…よっし、じゃあ分かった、責任取る」
「………う?」
複雑な心境で渦巻いていた心が、更に複雑奇怪な四次元状態で凍結した。
「だから責任取るって言ったんだって。それなら問題ないんだろ?」
「……え」
別に難聴を患ってるわけじゃない。――でも軽いのだ。
軽い。超軽い。重い言葉のはずなのにやたらと軽い。しかも展開が速い。
というか初めて顔を合わせ言葉を交わしてから一刻(=2時間)も経ってない男に、
『責任取るよ』とか言われる事態になったら、普通の女は混乱する。

「いや、だってガキ出来ちまったから面倒臭くてポイとか、フツーに男としてサイテーじゃん?」
「………」
当たり前だろ、とでも言いたげに相手は言うが、
しかし当たり前のことを当たり前にできる人間ばかりだったら、今の世の中乱世じゃないのだ。
ましてや相手は侵略者である蛮族で、前夫を死に追いやった張本人。
…そう考えてみれば確かに現状、彼女は男に犯されているとしか言い様のない構図なのだが、
でも今まで感じたこともない善意を施して貰ってるし、…間違いなく愛しても貰えている。
混乱は深まるばかりで、幸なのか不幸なのかもう少女にも分からず、

「俺こう見えても今日付けで……格は一番下だけど、それでも将軍だから!
女子供の一人や二人、楽勝で養えるだけの俸禄あるから!」
「………」

…ただ、そうやってえっへん!と自信満々に胸を叩く男の姿に、安らぐのは事実だった。
青臭いとか子供っぽいを通り越して、いっそ小気味よく、そして眩しい。
…またトクトクと、自分の心臓が高鳴りだす音を聞く。
出されてしまったという自覚はあるのに。妊娠してしまうことへの恐怖はあるのに。

「…てか、そんなに俺の子供産むの嫌?」
「……っ」
そうして不意に顔を近づけて為された問いに、動揺激しく狼狽した。
同時にずるりと、埋め込まれていた剛直を動かされる。
「悪魔の子なんて産みたくない? 蛮族に孕まされるなんて死んだ方がマシ?」
「…く、あ」
ずっ、ずっ、と二度三度、纏わり付いた精液を膣壁を使って扱き取るかのような動きに、
生まれる粟立ちに声を隠せず、たまらず解いた脚で男の腰を挟む。
この猫科の肉食獣めいた笑いで囁かれるのは、顔が熱くて苦手だった。
「汚い? 汚れる? 穢れる? 耐えられない?」
「ち、ちがっ………う、けど………でもっ」
――そう言えばどうして精を放った硬いままなのだろう。
今更のように片隅でそんな疑問を抱きつつ、少女は再び抱きついてきた男を見やった。
赤い髪。褐色の肌。黄土の目。
「……赤ちゃん……が……」

 それが結局、一番の理由だ。
 それが結局400年前、祖帝を中心に今の帝国民が何処よりも団結して戦えた理由であり、
 それが結局400年以上、黒や褐色の北夷南夷が虐げられて来た理由でもある。
 それ故に彼らは悪魔とされ、交われば堕ちると、穢されて堕落すると布教されても来た。
 父親が帝国人の場合ならばまだいい。
 自分の種ではないと父親が言い張ればそれで通るし、それで終わる。
 …悲惨なのは母親の方が帝国人の時だ。
 腹を痛めて産み落とした以上、言い逃れは出来ないし知らぬ存ぜぬも押し通せない。
 白眼視と迫害。村八分。追放。集団リンチ。

「……赤鬼の子供…産んだら…、…もう普通に暮らせない……んです」
――我が身に収まる不幸だけならばいい。
ただ彼女だけの不幸なら、それでもどんな過ちにもまだ耐えられた。
「私だけじゃない…生まれてきた子も……幸せになれな……」
――だが親の堕落と暴走に、生まれて来る子供まで巻き込むのは耐えられなかった。
かつて母子の姦通で生まれた彼女が、生来より罪を引き継いだように。

それが普通の反応だった。
帝国で生まれて帝国で育ち、貴族教育を受けてきた女の怯えだった。
生まれ育った環境による影響や、幼少期よりの教育は、そう簡単には覆らない。
4年間、亡夫に施されて来た苦痛と恐怖による足枷や、
既に散々痛めつけられて、ボロボロだった貴種としての矜持は壊れても、
19年間、無意識に培ってきたそれは『まだ』壊れない。

「……でも、もうここ帝国じゃないぞ?」

でも、それにもとうとう罅が入る。

「俺らの土地だよ? 俺らの国」
「……あ」
当たり前のこと、分かっていたはずのことだったのだが、
実際こうやって口に出して告げられれば、また遥かに受けるダメージが違った。
「お前だって、もう貴族でも侯爵夫人でもないぞ? ただの女」
「……う…あ…」
忌々しい枷。だが確かに自分の価値を表す唯一の標でもある評。
嘆けばいいのか、喜べばいいのか、分からない。
…ただボロボロと、何か重たく重大だったものが剥落していく錯覚を覚えるだけ。

そんな衝撃を知ってか知らずか彼女に覆い被さったまま、
まるで猫が伸びをするように「んー」と大きく伸びをして、胸元に頬擦りしながら男が言う。
「…てかさ、いい機会だし復讐してやろうよ? フェリウスの爺に」
「……ふく、しゅ……?」
のろのろと反応する女に大きい動物が如く擦り付いて、…パチリとその獣の目を開けた。
「なんかお前が石女ってことになってるみたいだけど――」
「…んぅっ!?」
ずちゅりと一寸、引かれた腰に埋め込まれた杭が引き抜かれ、
「――四人も妻交換して一人も子供いないんだぞ? 普通に種無しなの爺の方だろ?」
「ふくっ!」
ずぱんと湿った音を立てて、それがもう一度押し込まれる。

ぐち、ぐち、ぐち、ぐち。

「なのになんで女のせいになってるわけ? 普通におかしいとか思んなかった?」
「…っ、は、あ」
上半身で覆い被さり抱きつきながら、腰だけを器用に使って小刻みに打ち込む。
実際に生じる快感よりも、その動きの淫猥さをもって、相手の心を攻めるのが肝要だ。
だからわざと大きな音も立てる。

「まさか愛してたとか、そんなのないよな? んなもん見てりゃすぐ分かるし」
「……あう、…う」
背けようとする顔の顎を掴む。目を逸らすのは許さない。
男はバカだが知っている。――人間、後ろ暗いものがあり、心にやましいものがある時は、
相手の顔を直視することが出来ない、目を見てまっすぐに話すことが出来ない。
…そんな中で目を直視しての会話を強要されることが、どれだけ相手の心を苛むかも。

「怖かっただけだろ? ホントは大嫌いだったんだろ?」
「……っ、…ぁ」
現に縫い止めた先の蒼い瞳の内に、みるみる虚ろが、黒い剥落が広がるのを見て、
上がる戦果に、男は愉悦に唇の端を吊り上げた。
もちろん、腰の動きがどうでもいいわけでもないので、しっかり卑猥さで攻め煽る。
意地と強硬を保てず、弱りきった相手の心を、道義と情理で攻めるのは兵法でも理だ。
嫌がる女を押さえつけ、ちりちりと乳首に取り付けられた迫害の証を指で弄る。
「……だからさ、復讐してやろ?」
「んんあ! …は、はぁっ」

 男は別に漁女家ではない。
 教養はないし、語学にも芸事にも、作法にも通じない。算術も理学もからっきしだ。
 ……だけど戦なら、用兵の妙なら分かる。
 兵法と軍略、古の戦人の盛衰と故事だけは、将星の最低限として流石に学んだ。

 殺さなくてもいいのだ。捕え縛する必要さえない。
 ただ戦う意思と気力を失わせて逃げ散らせ、群体行動を取れなくするだけで戦は足りる。
 集団戦が語られる際、何よりも「士気」「士気」とそれが語られるのもそれが為、
 そして味方の昂揚と怒涛の強勢でもって、敵方を怯え竦ませるのだけが士気の妙でもない。
 …戦うのが馬鹿らしいと、自軍の将に愛想を尽かさせやる気を無くさせるのもいい。
 …こちらに好感と信頼を持たせて、投降と恭順を促してもいい。
 …飢え、病み、痛みという、切実な苦しみに敵が喘ぐなら、施して恩を成すのは劇的に効く。

 忠義愛国の志旺盛で、抵抗盛んな敵を虜とするのは、時に殺すよりも難儀だが、
 でも心疲れ果てて意気保てず、国にも主にも絶望した敵を慮とするのは、これは容易だ。
 殺さずに取り込め、それも楽に吸収できるとなれば、これ以上の上策は他にない。
 敵も死なずに味方も耗しないし、敵は救われ味方は力増すのだ、…万々歳ではないか。

 だから男は――少年は笑う。
 戦に情はないと、戦に愛はないと、大義も正義も道理も情理もないと謳う帝国を、
 流血を疎い、暴力を厭い、死を恐れて戦は醜く悲惨なものだと喚き疑わぬ文明国を笑う。
 人は『弱い』、人は『愚か』、それは変わらない、それは事実だろう。
 悪逆非道の限りに十戒を犯しても、本当に一片の呵責も感じぬ『強き』悪など万人に一人、
 騙し、欺き、利用し、裏切って、欠片も後ろめたくない真に『賢き』悪など千人に一人だ。
 だからこそ人は、うそぶき、強がり、虚勢を張って、詭弁で言い訳して開き直る。

 ――弱いじゃないか、実に弱い。
 だから自分如き若輩にも、こうやって付け込み切り崩せる。

「……四年も掛けても孕ませられなかったのがさ、蛮族なんかにソッコーで孕まされちゃったら、
爺のメンツ丸潰れだろ? 家畜が禽獣に孕まされんだ、ある意味最高の意趣返しじゃねえ?」
「っ、ぅ、うあっ、あ、はっ」
優しいのではない、本当に悪魔の囁きなのだ。
ぐちぐち腰を揺すりながら、女の首筋、柔肌に舌を這わせ、乳房を揉み、尻を、腿を擦る。
結果が堕落であり矜持の喪失だろうと、
悪魔らしいやり方を使えば味方の益かつ敵の救いになるなら、男は迷いなくそれを選ぶ。
無論そこには男の欲望も大いに絡むのだが、しかし男とて聖人君子ではない。
自分は得する、敵も助ける、両方狙いに行かずして何が雄か。

「きっと楽しいって! 『爺ザマミロ』、『変態インガオーホー』ってさ」
鎖を粉々にしてやりたかった。あのイカれた恐怖公に施された、この少女への鉄条を。
「だから一緒にやろ? な? な?」
「っ、やっ、だ――」

 だから男もまた弱く愚かだ。

「――だめ…、…子供……そんなことに、使ったら……」
「……お」
 英雄でもないし、ましてや悪魔でもない、ただの一人の人の子に過ぎない。
「生まれてくる赤ちゃん……かわいそう……」
「………」
 成しえず届かないより強きに、美しく正しきに憧れる。

 

それだけは承服できなかった。
命は道具ではない。
新しく生まれ来る命は、祝福されて生まれて来るべきだ。…自分のようにではなくて。

ピタリと腰を止めた相手の瞳孔が、驚いたようにクッと見開かれるのを見て、
一瞬不興を買ったのかと身も竦める。
……でもそうじゃなかった。
「…そっか」
――諫言を受け入れられるのは嬉しいものだ。
――意見が通るというのは、評価されるというのは喜ばしいものだ。
「偉いな、お前」
感銘を得たような男の笑顔が、少女の網膜に焼きついた。

…そのまま顔を重ねられて唇を吸われると、素直にそれに応じる。
舌を差し込まれればそれに絡み、反射的に身体が動いていた。
二本の腕は覆い被さる男の背中に回され、二本の脚は男の腰を挟む。
動いてはいないが、それでも一番奥に確かに男を感じ、ただそれだけで満たされる。
肉体の快楽だけでは満たされないもの。
至高の矜持だけでは潤わないもの。
ぬるぬると膣内を満たす男の精液の感触が、意外と気持ちが良いのにも気がつく。
男の精。体液。自分を汚し、染め上げるもの。

「…お前の気持ちも分かるけど、でもこれやっぱり陵辱だしさ」
唇を離した男の、困ったような、慈しむような眼が目に入った。
シーツに肘を突いた腕が、少女の鳶色の髪を撫でる。
「その気持ち、汲んでやりてートコなんだけど、もう出しちゃったし」
根気強く諭される事実に、もう忌避も恐怖も抱かなかった。
ただぼんやりと、漠然とした安心感に男を見る。

「…もう孕んじゃったかもしんないから」
むしろそんな言葉を共に褐色の掌で下腹を擦られ、ひくっと震えてしまう。
嫌悪ではない。絶望でもない。
母にされそうになった女が誰しも抱く、未来への当然の不安であり恐れであり、
……そして『そういう自分』を想像した時の、じんわりと滲む『何か』だ。
男の顔を見る。自分の下腹を見る。また男の顔を見る。

「だから次からは薬用意して、出来ちゃってたら俺が責任取る。…それでいい?」
――やや沈黙あって、こくりと頷く。
少なくとも現状では最も現実的な打開策、破格の待遇なように少女には思えた。
「堕胎はもっとやだよな? …産んでくれる?」
――睦言のように囁かれて、頷く。
この時代において、堕胎は遠い未来よりも遥かに危険で困難なものだ。
素直に産んでから遺棄した方が、まだ変な障害とかも残らない。
それでも生まれた子供が絶対に幸せになれないのなら、女も堕胎を選んだろうが、
…でも普通の幸せを享受できそうなのなら話は違う。

「うん、分かった。…じゃあもしそうなったら俺が責任持って幸せにするってことで!」
一見軽い口約束が、でも確かな安心感を伴って女の心に染み渡る。
顔を合わせ言葉を交わしてから一刻と満たない男ではあるが、
子供のように破天荒と見せかけ、実は情味に厚いのは、もう肌と魂で理解していた。

「よっし決まり。…それじゃ続けよ?」
「………」
そうしてきょとんとした。
――続き?
「さっきも言った通り、これ『陵辱』だから。俺まだ満足してないから」
発言の意味を理解するより早く、陵辱という単語が少女の脳内にて軋みをあげた。
りょうじょく。

陵辱だろう。犯されてはいるし、男の獣欲性欲は確かに感じる。
…でも陵辱じゃない。陵辱はこんな気持ちのいい、暖かで幸せなものだろうか?
何より。
「…それとももう無理? …頑張れる?」
相手に労わられて、頑張れそうかと尋ねられるこの行為は、――何なのだろう。

分からない。
分からないけれども。
「……はい、頑張れ……ます」
頑張ろうと思ったのだ。

唇を塞がれ、口付けを交わし、同時に今度は腰の方の動きも再開される。
「……ん、むっ」
ぐち、ぐち、ぐち、ぐち、ずぷ、ずぷ、ずぷ、ずぷ。
決して高度でも激しくもない、極めて単調な遅く短い反復でしかないが、
モノがモノだけに激しく動けば辛い以上仕方がなかった。
男の精が更なる潤滑油の代わりにはなったが、それでも滑りが良くなった程度。
「ふ……ふ……」
けれど下手な器具や薬を使うよりは、遥かに心地よくて安らぐのだ。
相手の男の、体温、体重、存在感。
胸板は分厚く、腕は頼もしく、所作の一つ一つは労わりに満ちる。
浅黒く瑞々しい肉体は、前夫とは比べようもなく体温高い。

「ぷはっ、はっ、はっ……はむっ?」
何より犯されている――侵されているという実感が凄かった。
野太い剛直、肉棒というよりも肉柱というべき大質量が膣内を占拠し往復するだけで、
確かに少々苦しく息が詰まるのだが、――でもそれこそが良い。
「ん、ん、う、んっ…」
相手に入って来られている、滅茶苦茶にされていると思うと、耐え難いほどに恍惚とした。
少しくらい苦しくても耐えられるのが、誇りを伴って更なる昂揚を掻き立てる。
自然、汗ばんだ脚は再度男の腰へと絡められ、背に回された腕には力が篭る。

「はふ、は、はむ、ふ…」
幾度も繰り返される口づけは、甘く、優しく、しかし淫らで情熱的だ。
ふーふーと鼻息が洩れ、唾液が零れるのにも関わらず、互いに互いを貪り啜る。
舌を絡められ、唾液を流し込まれ、覆い被さられ、上と下を同時に犯され、
…でもとても幸せで気持ちいい、
今まで生きてきた人生の中で、一番に思えるくらいの幸福だった。
「ふはっ、ふあっ、あっ、あんっ、んむ…っ」
摩擦や刺激で得られる快感よりも、もっと深くて大きいものが心の奥から湧いてくる。
思考と理性はどろどろに溶け、ただ快楽と痴態に耽溺する。

とろりと縦に、白濁した唾液が糸を引いた。
「…ふあ……」
唐突に止んだ快楽の波紋に、
餌を取り上げられた畜獣のような目をする女に対し、男が笑って言う。
「体位変えてみるか」

「ひゃい!?」
両腕も両脚もしがみ付いているのをいいことに、背と尻に回された腕、
ひょいと――本当にひょい、と男に身体を持ち上げられた。
宙ぶらりんからすぐに身体を縦にされ、そのまま胡坐をかいた男の上に座らされる。
「……は」
ずぶりと自重で奥深くまで嵌ってしまい、女の口から少しだけ声が洩れる。
「体面座位、な?」
――ああ、茶臼絡みか。
嫁入り前に入念に教えられたはずの知識を、数年ぶりにおぼろげに思い出す。
そんな彼女の腕を、至近で見詰め合った男の腕が取った。

「…ほら、俺の腕触って?」
「……う?」

汗だくの女の白磁の腕を、汗だくの己の浅黒い腕に触らせる。
「なんかさっきから俺に為されるままっつーか、黙ってじっとしてるだけっつーか、
俺ばっか楽しんでるみたいで悪いからさ」
「……そ、そんなことないです!」
楽しんでないなんてとんでもない、むしろ自分の方が何もしていない、そう言い掛けて。
「じゃあさ、もっと楽しも?」
「……え?」
でもそんな少女の腕を取り、更に自分の腕を触らせる男。
意外な行動に驚く間もなく、その掌に確かな男の肉体、血肉の形が伝わって来た。
…はち切れんばかりの筋肉だとか、その太さと硬さ、刻まれた傷の多さとか。

「筋肉とか嫌い? …やっぱ傷一つない白くて薄い胸板とかの方が興奮する?」
「う、え? えええ??」
ざわめきと興奮を抑えようとしていた少女にとって、その質問は奇襲だった。
「ほら、俺って貴公子サマってタイプじゃないしさ。普通に気品の欠片もない戦人だし。
野蛮人なのは野蛮人だから、…ワイルドなのとか傷だらけなのは好きくない?」
というか奇襲も奇襲だ、毎度のことながら酷い直球ストレートだ。
花も恥らう貴上の(処女でこそないが)乙女に、こういうのを露骨に聞いてはいけない。
「そ、そういうことは、ない、です、けど」

そりゃあ、嫌いではないが。
聡明誠実だが色白耽美、女と見間違うほどに美しい、どこか儚げで優しい貴公子とか、
多少年上でも博識で経験豊富、仕事は出来て話術も巧みな、魅力溢れるナイスダンディとか、
もちろん好き、女である以上彼女も空想して憧れることはあるが、
…でも、こういうのも、その、あんまり、嫌いじゃないっていうか、寧ろ、…凄い、好き、…かも。

「…大抵は胸板分厚いのとか、腹筋八つに割れてるのとか、腕太いのとか喜ばれて、
『逞しいのねステキ☆』って言ってもらえんだけど、…あんまグッと来ない方?」
「…………うあぅ」
言われて、極力意識しないようにしてたものが表層に来てしまい、ビクッとなる。
顔が熱い。赤い赤い。

そんな彼女の反応をもってして、返事の如何を判断したのだろう。
「ほら、こういうのも出来るぞ?」
「あ、やっ…」
少女の脚の下に腕を入れると、掬い上げるようにしてその全身を持ち上げる。
まるで重さなんて無いかみたいに軽々とひょいひょい、
但しぬぷぬぷずぷずぷ、結合部の肉を捲り上がらせたり押し込んだり、液を掻き出しながら。
「ふ、は、あっ」
浮き上がってぐらつく上半身を支えるようにして、自然男の頭を胸に抱きついてしまう。
己の動く余地なく一方的にオモチャにされる肉体に、でも興奮を感じてしまう。

「あ、は」
ちゅうっ、と胸に抱きしめた男の頭に乳首に吸い付かれ、ひくりと上半身を震わせる。
ちゅぱちゅぱと家畜の証が嵌った突起を、舌で吸い舐り転がす男に、
慈しみに似た甘い恍惚、母性から生じる愛しさを覚える。
「くあっ、あ、あ、あぅ、あううっ」
なのに同時に下からはガクガクと揺すられ、男の腕の力強さで突き上げられるのだ。
女の視線が夢境に迷う、半開きの口が荒い息を吐くのも無理は無い。

「…俺、芸事教養関連はゼンメツだけど、腕力と体力だけはあっからさ」
れろりと乳首を舐め上げ終わっての下からの言葉に、でも少しだけ理性を取り戻した。
「そういうのたまんない、大好きだってんなら、もっと乱れて善がり狂ってよ?」
ピタリと止められた腰使い、舐め上げるような上目遣いの視線に、
たちまち少女は羞恥を取り戻し、頬を赤く染め、
「や、で、でも! 私、そんなの、はしたなくないです、…か?」

はしたないだろう、容姿や膂力、美しさ逞しさといった、外的要素で好む男を選ぶなど。
はしたないだろう、若く強く逞しいから好きだなんて、そんな燕漁りの奸婦みたいな。

「――全然?」
「ふえ」
だってのにあっさりと言い切った男に、またしても変な声を上げてしまった。
もうホント、貴人の矜持なんて欠片も残ってない。

「『男は虎狼の如く、女は花楽の如く』だよ。俺らオルブの諺だけど」
「…お、おんなはかがくのごとく?」
従順な生徒のように反復する少女に対し、
「まー分かりやすく言うと、『お前ら女は俺らのこと狼だのケダモノだの言うけど、
お前らだって表れが違うだけで似たようなもんだろ』っていう俺ら側の言い分」
男は笑って、世間話するようにくだけて話した。

「本性丸出しの女は、『程々を超えて狂い咲く花みたいに鬱陶しくて鼻について、
勝手に鳴り出す楽器みたいに図々しくってけたたましい』って意味、な?」
「う……」

それはちょっと、身に覚えがなくもない話だった。
何しろ帝国においての愚女愚妻の定義と、そっくりそのまま合致するからだ。
…そういう風に見られて呆れられるのが嫌だから、彼女だって必死に自分を御してきた、
慎ましやかに控えめに、自己主張も顕示もせず、今日まで貞淑に生きてきたのに。

「…でも、お前はちょっと咲かなすぎの鳴らなすぎ」
「……ぁ」
――この場の絶対者である、陵辱者からの命令。
「我慢しすぎで遠慮しすぎ。…なんか押し殺してるよね? ここで」
「……う、あ」
とん、と胸の谷間、鳩尾に拳の背を置かれる。
濁りも淀みもない瞳で、下方から心を見透かされるが如くに射抜かれる。
「咲いてよ、もっと。…花が咲いちゃうみてーにさ」
「くっ、あっ?」
囁かれながら、腕さえ使われず膝と腰の動きだけで身体を持ち上げられる。
「鳴けよ、もっといい声で。…俺が奏でてやっから」
「うっ、あっ、あっ、あ」
尻に手を添えられて、もう片方の手で腰のくびれをなぞられる。
まるで弦器を爪弾くように、つつ、と背筋を指が這う。
「だってお前、こうやって下から、咲かせようと、鳴かせようとしてる奴がいるんだぞ?」
「やっ、だめ、だめ、だっ、らめっ――」
狂う、狂う、甘きに狂う。
下卑て下品で卑猥だが、でもどんな美辞麗句よりも、女を狂わせる口説き文句。
「…狂ったって、仕方ないって」
「――!!」


 陽が陰に優れるも、陰が陽に勝るもない。

「うあっ、あっ、お、おっぱい、おっぱいもっと吸ってくださいぃっ!」
ガクガクと揺すられながら、狂う。
ちゅうちゅうと赤子のように吸い付かれながら狂う。
「はっ、おっぱい、あっ、か、かわい、かわいい……」
肌の色も髪の色も違う頭を抱きかかえ、涅槃の笑みを浮かべて狂う。
「――かわいい?」
「ひあっ? ひっ、はっ、ね、ねじるのやだ、ねじっちゃやです!?」
だが見当違いな感想を述べた愚者を戒めるかのように、下からの責めが激しさを増す。
母が女に、慈愛が歓喜にたちまち変わる。

「あ、ぐりって、ぐりってやっちゃやだ、ねじるのやぁっ……」
縦の動きより横の動き、前後の往復よりも左右の回転に弱いらしいというのは、
ほんのついさっき見つけられたばかりのこの女の特徴だ。
…やはり押し殺されているよりも、こうやって振れ幅が劇的な方が弱点も見つけやすい。
はぁはぁと息の荒い女をひとしきり愉しむと、さて、男は改めて口を開いた。
「ん。じゃあ言って。俺のどこが好き?」

指で顎をくすぐる、愛玩動物にそうするように。

「つっ、強いのが好きです!」
「うん」
奈落に跳躍するがごとくに思い切った女のお利口に、男はたまらない満足感を覚える。
そうだ自分は強くて偉い。良い女に賞賛されるのは実にいい気分だ。
「強くて、大きくて、重くて、広くて、優しくて……」
「うんうん」
昏い虚ろを湛えていた美しい碧眼が、今は喜色一杯なのもたまらなく嬉しい。
そうだ自分は強くて偉くて頼もしいのだ、だからもっと――

「……でも、可愛いのが好きです……」
「………」

――『まあ、いいか』と、捻りに捻って意地悪してやろうかと思いかけたのを留める。
自分は寛大なのだ、義に厚く嘘を吐かない従順な者、ましてや女に対しては広い心で接する。
可愛いは不問にしよう。…本当に不服なのだが、ここは広い心で不問。

「あつ、熱いんです、温かいんです、熱くて……」
「ん?」
しかしまだ続く、まだ溢れ出て来る女の言葉に、ピクリと耳を傾ける。
「熱いんです、抱きついた身体も、私の、…あそこに入った、…太いのも、…精も」
「そか、…そっか」
――まだちょっと弱い、今は次善だが、その内『おまんこ』とか『ちんこ』とかって単語も
この桜色の唇から言わせてやろうと、そんな決意も頷きつつ固める。
「甘くて、なんか、甘い、甘いんです、甘い、…蕩けちゃうくらい、甘い……」
「うん、うん」
あやふやで漠然とした、要領を得ない言葉だが、…でも言いたいことはまず分かった。
だから嬉しい、気分はいい。

「なぁ、逞しいの、好き?」
「はいっ!」
ああ、いい気分だ。これこれ、こういうのが良いんだ、こういうのが無いと。
「優しいの、好き?」
「はいっ!!」
いい女だなあ、従順だし、控えめだし、実に利発だ、臆病で奥手だけどそこがいい。
首から上はもちろん、尻はたまんないし、胸も十分ある、挿れ具合もいい。
硬くてキツい軍の女とは違って、抱くと柔らかい、良い匂いがする、吸い付くようだ。

「…な? これが男の良さ」
だからもっと良くなって欲しくて、肌をすり寄せる、ずりずりと動かす。
もっと自分から咲き狂って欲しくて、背の高さを合わせると軽く口づけする。
「いいもんだろ? 怖くて硬くて乱暴なだけじゃない、悪くないよな?」
「はいっ、はいっ!」
いい返事だ、すごく可愛い。
「で、これが正しい男女の交わり」
もっと自分達が正しいのを教えるために、今までが間違ってたのを自覚させる。
もっと好きになって欲しいので、理不尽を廃して道理を立てる。
「男が女を歓ばせて、女が男を歓ばせる、持ちつ持たれつ、…な?」
「…っ! …はい、はいいっ!!」
うわぁ可愛い。何こいつ超可愛いんだけど。なんか犬耳の幻覚が見える。

唇を重ねて舌を入れると、今や向こうの方から積極的に舌を絡めて来た。
唾液を絡ませ啄ばみ合いながら、胸板と乳房を押し付けあって身体を擦りつけ合う。
腰の動きは最小限に、まったりゆったり、時間を掛けて愉しむ。
あんまり乱暴に動けない分を、そういうので補う。
これが娼婦や女兵士ではこうはいかず、忙しい分悠長も夜更かしもさせられないが、
でもこの少女相手に限ってはそんなの気にする必要もなかった。

――これは自分のものだ。自分専用。
ただ抱かれるためだけに、子を産まされるためだけに生かされてきた極上の女。
前の持ち主はそこを逆手に取っての殴る蹴るの暴行、
何をしても許されるのをいいことに、散々アブノーマルや猟奇性愛を愉しんでたようだが、
男にすれば実に勿体無い話、まったく飽食に慣れたキチガイの心は解らない。

「ふっ、ふあっ、あっ、や、でっ、出ちゃう、出ちゃうっ!」
「……?」
おとなしくちゅっちゅされてたのが、急に嫌がってバタバタしだしたので唇を解放してみたら、
口の周りを唾液塗れにしながらそんなことを言う。…『出る』? …『ふたなり』?
「お、お小水……」
「……オショースイ?」
男からすれば聞き慣れない単語に、即座には意味が解らず首を傾げると、
通じないと知った少女が顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。

「おし、おしっこ! …おしっこ出ちゃいそうなんですッ!!」
「………」

――ああ、小便か。なるほど、漏らしそうなんだな。
なんだかんだで最初に押し倒してから一刻は経とう、である以上別におかしくはないが、
「な、なんか、さっきから、凄いぶるっ、ぶるって、段々びくびくして来てて、急に…!」
そこまで考えながら女の言葉を聞いていて、ふとある気づきに目を瞬かせた。

「急に凄い、ぞわって、……こ、このままだと、出ちゃう……」
これは、つまり、『そういうこと』ではないか?
これは、つまり、『その徴』ではないか?
「ど、どしたらいいですか? …ど、どう、しよう……」
何より愚直な尋ねに、女の願望を知った。
この日、この時、この瞬間、男と繋がっている瞬間を失いたくなく離れたくないのだろう、
きゅうっとしがみつく脚に力を込める少女が、いじましくも愛らしい。
――馬鹿だなあ、と思う。
こういう時に男に訊いてはいけない、弱みを見せてはいけないのに。

なれば、答えは決まっているではないか。

女の身体を抱きかかえたまま、ぼふりと後方、シーツの上に背中から倒れる。
「あぐっ」
その拍子に杭打ち機に打たれるよう下から奥を突かれたのだろう、
走った鈍痛に少女が僅かに顔を顰め、
けれどそれが散り薄れるに合わせて広がる快感に、じわりと熱っぽく瞳を濁らせた。
そんな少女の頭を撫ぜ、鳶色の髪を指で漉きつつ男が言う。
「……じゃあ出しちゃえ」

 破滅するということは、砕け散るということだ、もう二度と元には戻れない。
 堕落するということは、転がり落ちるということだ、簡単には上へと這い上がれない。

「……へ」
まるで女の側が押し倒したような格好にされ、少女は間の抜けた声を上げた。
「うん、漏らしちまってもいいぞ」
女の全体重を下から受け止めつつ、男がぽんぽんと背と肩を抱く。
それが気持ちいいので、少女も一瞬(はふ…)となりかけたが。
「やっ、で、でも――」
「――俺の兄貴が言ってたんだ」
それでも絞り出した声を、男の発言が遮った。
「女ってさ、あんまり気持ちいいと漏らしちゃうんだって」
相手の言葉が、じんわりと少女の脳に浸透する。
「死ぬほど気持ちよくなっちゃうと、ションベン垂らしながらイッちゃうんだってさ」
漏らす。気持ちいいと。垂らす。

「だから漏らしてもいいぞ。存分にお漏らししちゃって」
「はくっ」
不意打ちにまたどちゅりと、太い先端に膣奥のしこりを叩かれた痛みに息を漏らし、
「……あ、は…」
でも同時に膣奥から走った痺れるような濃い快感に、また瞳を濁らせる。
きゅうっと勝手に締まる膣。意思とは無関係にひくつく肉壁。またぶるっと来る尿意。

「……で、でも……こ、この格好だと、そ、そっち、掛かっ――」
「掛かってもいいよ?」
ぱちりと瞬きして言う男の瞳に、耐え切れずして目を閉じた。
さすさすと背中を擦られる。さすさすとお尻を擦られる。膀胱がますます緊張する。
「まぁ美少女のをして黄金水って言うくらいだし、汚くないよ、むしろ綺麗なんじゃねえ?」
「…おっ、おーごん、すい……??」

意味は分からなかった。
男が『お小水』の意味を分からなかったように、女にも『黄金水』の意味は分からない。
流石にそんなシモ中のシモまでは語彙にない。
でも。

「それに俺だって、お前のこと好きだし」
「――!? …はくぅっ、はっ!?」

愛されてるのは分かった。
ごつ、と奥を突かれた衝撃と、突然の告白とで涎を零しながら、
自重で乳房を男の胸板に潰しつつびくびくする。
「わ、わたひなんかの、どこ――」
「いや、フツーに体と顔?」
身も蓋もない断言に、思わず泣きそうに表情を歪める。
ここで『貴方の吸い込まれんばかりの美しい瞳に魅せられてしまって』とか言ってくれれば、
ちょっとはサマにもなるってのに、
…でもそんな嘘の無さに感じてしまう自分が、どうしようもなくダメな女に思えてくる。

「首から上はもちろん、おっぱいは爆まではいかないにしても普通に巨な乳だし、
尻もでかい、腰のくびれなんかと合わさって超たまんない安産型、
太腿もむっちむち、肌は吸いつく、柔らかいから抱き心地いいし、いい匂いだし…」
「ふっ、ぐあっ、あっ、あうっ」
ずんずんと奥を突かれながら、為す術もなく男の卑猥な言葉を聞かされた。
あれほど呪わしくて堪らなかったただ美しいだけの肉の器な身が、
どうしてか今は喜ばしくてたまらない、――唯一の長所を褒められて嬉しかった。
――ああ、役に立てている。歓んで、愉しんでもらえてる。
…無意識に目下の胸板に舌を這わす。嬉しい。好きだ。愛しい。欲しい。

「ついでに性格も良いって来てる」
「…つっ、『ついで』でっ、済まさないでっ……ください、よう……」
あんまりな言い草に思わず抗議の声を上げると、
またあの猫めいたにーっという笑みと共に、引っ張り上げられるようにしてキスをされた。
意地悪だと感じながらも、ちゅむちゅむという優しい舌遣いに応じてしまう。
…ぷるぷる震える身体の奥で、またぞくぞく、ぶるぶるっと尿意に似た膨らみが増した。

「…それにさ、なんつっても挿れ具合がさ。…すっごい名器だよお前?」
「ひあっ? ああああっ!」
そこで捻られる。
縦運動だけだったところへの不意の横運動、絞られるように雁に引っかかって
横にごりごりと擦られる膣壁に、漏らしそうで背筋がビクンと反る。

「別に『数の子天井』とか『ミミズ千匹』とか、そういうわけでもないと思うんだけどさ。
でもキツくねーし、トロトロが次々溢れてくるから痛くもねーし……、
あ、キツくないっつっても、ガバガバなんじゃなくて柔らかい肉がみちみちっつーか」
「あああっ、あああああっ」
愛の睦言にしてはあまりにも品が無く、美の賞賛にしてはあまりにも卑猥だ。
実際少女も、『カズノコテンジョウ』や『ミミズセンビキ』は流石に何を表すか分からない。
…ただ話の意図だけは、『トロトロ』や『みちみち』からよく分かった。

「柔らかい肉がたっぷり? 入り口もモリマンだし、こういうの肉厚マンコっていうの?
絡みつきこそしねーけど、ぴったり張り付いて吸い付いてくんのが超気持ちいいってか」
「や、は、そ、そういうのっ」
「つーか深マン! こんなちっこい身体のくせして俺のがほとんど入んのが凄い、
奥に当たったーって思ってもさ、まだずぶずぶ入んだよ。…むちむちの底なし沼?」
「そういうの言わないでっ、言わないでくださいぃ…」
腰を掴んで左右に捻っていた手が止まり、そのまま尻をむにむに揉まれる。
止まった動き、柄の間の休息に息を整えながら、しかし快感の後には陶然が来た。
…たっぷりと脂肪のついた臀部を、おっきな手で弄ばれる。
痺れも疼きもないが、乳を吸われて頭を撫でられるように、幸せな気持ちが心に満ちる。

「――でも、何よりも一番気持ちいいのがさ」
そうして止まった攻め手に呼応するかの如く、男が安堵したかのように深く息を吐き、
…その満ち足りた声色に誘われて、少女も無意識にそちらを見た。
「…それでも奥入れてくと段々狭くてキツいんだけど、なんか突き当たり手前だけ
ちょっと空洞っぽくなっててさ。…押し込むとそこにくぽ、って嵌っちゃうんだよ」
相性ってあるんだなー、と、感慨深げに呟く男は本当に幸せそうで、
――だから少女も釣られて嬉しくなった。
目を細めて気持ち良さそう、恍惚陶然としてる男がお腹を撫でられた猫のようで、
――だからたまらなく愛しくなった、可愛い、愛しい、とても可愛い。

「マジで気持ちいいって、こんなん一旦挿れたら抜けねーよ、中にだって出す。
鍵と鍵穴っつーかさ、お前ホント俺に抱かれる為に生まれてきたみたいな女だって」
粗野だ。下品だ。傲慢だ。馬鹿だ。ていうかバカだ。すごいバカだ。
…でもバカだからこそ愛しくて、無垢だからこそ愛らしい。

「俺の女になれって、…な?」
「…………うあ」
だが強い。
「俺専用になろ? これから毎日こーいう風にいちゃいちゃしよ? な?」
「…っ、ん、ふぁ」
ひたすら強い。バカだから強い。強くて眩しくて当てられる。

「大体、お前だって俺のこと好きなんだろ? 俺の身体好きなんだよね?」
肉欲から始まる愛だなんていけないことだ。
出会ってすぐの男に、簡単に心を許してしまうだなんていけないことだ。
「分かってる? 身体勝手に動いてるよ? …乳首俺の胸でぐりぐりするの気持ちいい?」
「…っ! ひっ、い、あ、やぁっ」
だけどやめられない。貪り埋没するのを止められない。

「乳首コリコリさせちゃってさ。俺の腹筋ぽこぽこして気持ちいい? 洗濯板みたいで」
「はっ、はあっ、はああぁっ」
カチカチに硬化した乳首を男の胸板の上で転がし、陰核を針金のような陰毛に擦り付ける。
三点に施された家畜の証の、ザラついた感触が混じるのもあって、
ジンジンとした甘い痺れはたまらない快感、ますます少女の律動を加速させた。

「き、気持ちいい…。気持ちいいのぉ…きもちいいよぅ…」
でこぼこした男の腹筋も、そういう意味では気持ちいい、…より強く男を感じられるので。
動いてくれない男の代わりに、もっと深く男が欲しく、もっと強く相手を感じたい。

「いいの? 漏らしちゃうんじゃなかった? 止めないと漏れちゃうぞ?」
「うあっ、あっ、ああああっ」
おかげで黙っていれば抑えられただろう波濤も、ますます昂ぶって臨界に近づいてしまう。
尿意?は既に限界近く、ビクビクと脚や尿道、膣周りは勝手に痙攣してるのだが、
「…と……止まんない……とまんないぃ……」
涙、鼻水、唾液で顔をぐしょぐしょにしながら、破滅に向かって突き進んでしまう。
――破滅したかった。壊れたかった。堕ちて、もう戻りたくない。

「…お前、ホント家畜とか動物みたいだな」
笑みを含んだ男の意地の悪い囁きに、ビクリと大きく眼が見開かれる。
そうだ、自分はダメな女だ、どうしようもない女なんだ。
「ほら、こうして欲しいだろ? 俺のおっきいのでずんずんされると気持ちいいんだろ?」
「うっ、ぐあっ、がっ、ああああああっ!」
唐突にどちゅっ、どちゅっ、と潤みの止まらない膣奥を突き上げられ、獣じみた咆哮を上げる。
もう痛みさえ無い。皮肉にも野太さが、先端面積の広さがそれを散らした。
こなれ温まってほぐれた膣壁が限界まで伸び、柔らかくも男を根元まで飲み込んでしまう。

「やっ、ああっ!? な、なんか、なんかおっきいの来る! お゙っぎいの来るッ!!」
双丘の先端と股間の陰核、三点から淡く広がるジンジンとした快感が、
膣奥から広がる痺れるような強い快感と混じり、とうとう飽和状態から鎌首をもたげた。
「怖い、怖いぃっ、こわいいぃ」
未知の領域。ようやくそれに少女は気がつき、怯え、恐怖し、男にしがみつく。
「ん。大丈夫、怖くないぞ」
なのにぽむぽむと背中を叩かれ、ぎゅうっと力強く抱きしめられて、
――とうとう恐れることさえ、慄くことさえ許してもらえなかった。

おしとやかさなんて微塵も無い。
歯を食いしばって声を押し殺すだなんて、そんなのが出来る次元じゃない。

「んあああっ、ん゙ああああっ、ん゙あ゙あ゙あ゙あああああっ!!!」

その華奢な肩と細い喉の、どこから出るのかという獣声と共に、哀れ彼女は達してしまった。
余裕なんて一片もない、無慈悲にも全部真っ黒に塗り潰される。
「――ッ、――! ――…」
今夜これまで、そしてそれ以前までに感じてきた『絶頂』が一体なんだったのかと、
そう思ってしまうような、それほどまでに深く、ある種辛くさえある絶頂だった。
「……ガ……あ……」
肺の息を絞り出してしまい、酸欠に喘ぐその姿は、最早誰の目にも貴種には見えない。
かつて暴力と痛苦により奪われた貴上の矜持と尊厳が、
皮肉にも全く逆の手法、逆の情感によって、今度こそ根こそぎ刈り取られる。
「…あ……ああ……ああああ……」

彼女の名誉と尊厳のためにも、今一度だけここに断言しよう。
――まだ腕ずくで強姦されてた方が良かった、心だけは奪わずに済んだ。

「………ひあぅ」
ぷしゃっと何かが弾ける感触と共に、繋がった場所近くにに生暖かいものを感じ、

 

 

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最終更新:2008年12月27日 06:13