第1話
16歳の誕生日の夜、僕は生まれて初めてバザールに行った。
僕が住む砂漠の王国では男は、16歳になるとバザールで遊ぶ。
それがそのまま成人式だ。酒と煙草が初めて許される。
だから僕も水ギセルと蒸留酒とコーヒーで頭をくらくらさせた。
酒場から通りに出ると満月がのぼり始めていた。夜風で頭を冷やしてると、
「おーい」
と声がした。低くて、よく通る女性の声だ。


第2話
すぐ近くから聞こえたのに、姿は見えない。周りを見回していると、
「上よ。こっち」
見上げると、酒場の二階、ベランダから女の子が身を乗りだしていた。
黒髪をポニーに結い上げてて、肌の見えてるところは褐色だ。
見えてる部分というのは顔と喉と腕だ。肩の出た紫の上着を着てる。
彼女は立ち上がると、ベランダの手すりに手をかけ、足を置く。
ふっくらした白布のズボンとルビーの飾りのついたサンダルが見えた。
そのまま彼女は一息に柵を越え、僕の目の前に飛び降りてきた。


女の子は地面に難なく着地すると、僕を見た。青い目だ。
「お前、名前はなんて言う?」女の子が訊く。僕と同い年くらいか。
僕は名前を言った。
女の子は「ア…発音が難しいな。でも、うん、いい名前だ」と笑った。
彼女の歯は真っ白だ。
「わたしの名前はヴェガ。ついてきてくれ」
「どこへ?」
「いいから、黙ってついてこい。シャムシールはこっちで揃える」
ヴェガは僕の腕をつかんでずんずん歩きだす。僕より頭一つ背が低い。
腰まである彼女の髪は、歩く度に腰の上で勢いよく揺れる。
近くからだとヴェガは、薔薇とジャスミンとお香のまざった匂いがした。


第3話
ヴェガは通りを熟知しているみたいだ。喫茶店の角を曲がり、
天井付きの市場の区画を突っ切り、路地裏に入ったかと思うと、
薄暗い階段を上り下りして、道はやがて礼拝堂前広場に出た。
「こっちだ」彼女はそのお堂の中に僕を引っ張っていく。
内陣はタイルとガラスが張られ、お香が焚かれていて煙たい。
お堂の奥の祭壇に金銀宝石で縁取った棺桶があって、蓋は開いている。
ヴェガは一直線にその棺桶へと歩いていく。棺桶の前に立つと、
彼女は真顔で僕に振り向き「わたしと一緒にこの棺に入ってほしい」


僕は、素性のわからないこの少女に街で呼び止められ、引っ張り回され、
連れてこられた礼拝堂で、強制的に心中させられる事になった。
誕生日にしては重いな。いや、これは何か成人式の余興か?
アレかな、棺の中に女の子と入ることで男として生まれ変わりを……
そりゃこの子はかわいいし、いい匂いがするし、密着したら……
「何を青くなったり、にやついてるんだ」
「え、いや、君の――」
「1個持ってくれ。中は暗いから、二人分あると助かる」
「ランプ?」
「棺の中、花束の下を見てくれ。階段があるだろ。もうすぐだから」


第4話
階段を下りていくと、横に通路が広がっていた。
ヴェガはランプをかざして、階段から右手の方に進んでいく。
僕もランプをかざすと、目の前に空洞の眼窩と剥き出しで笑う歯があった。
……。僕が悲鳴を上げなかったのは女の子がそばにいたから……
じゃない。驚いて声も出なかっただけだ。
そこは地下墳墓だった。髑髏やミイラがたくさん安置されている。
どれも豪華な衣装を着ている。一体だけ、ごく普通の服装の遺体があった。
ヴェガが肩と体を密着してきた。震えているし、呼吸がはやい。
そんな彼女の肩に僕はおずおずと手を回す。抱き寄せて、手を握る。
ヴェガは僕の肩にもたれて「ここは何度来ても慣れない」と言った。
廊下の突き当たりに梯子があり、見上げると針の穴みたいな点が見える。
梯子を二人で登っていく。
登るうちに、針の穴がどんどん広がって、円に見えてきた。
円の中に視界が開いてきて、真っ白な満月と尖塔が見え始めた。
噴水の音が聞こえて、気づいたら僕は巨大な宮殿の庭園に立っていた。
「ようこそ」ヴェガが言った。


「今日この庭で、王家の剣の催しがある。わたしとペアで出場してほしい。
男女ペア、王族の女性は出場が義務でな」
僕たちは庭園の芝生の上、秘密通路の井戸のそばに座って話をしていた。
彼女によると、この祭典で一番見事な剣舞を披露したペアの女性は、
後宮の最上位に君臨して、女帝として不自由のない生活ができるとか。
「わたしは、現王家の第三王女なんだ。最上位まで間近の階位にいる。」
「それで優勝を狙って、僕と」
「逆だ。優勝したくない。後宮に閉じ込められるのはまっぴらだ。わたしは、
そんなに剣舞が上手いわけじゃないが、少なくとも姉上や妹たちの中では
一番だ。父も教師も順当に必勝の太鼓判を押した。それは困る」


第5話
「そこで、町でそういう事にうとそうな男の子に声をかけたんだ」
彼女の言い分のあちこちに僕は憮然として、逆に問い正す。
「棄権すれば?」
「個人的にプライドが許さん。何より家族も臣も納得しない」
「わざと下手に演じて、負けるのは良いの?」
「下手を演出できるほど上手くない。しかし、王家の剣舞を知らないお前が
ペアならば、総合点で落ちるだろう」
「それでも、もし勝ったら?」
ヴェガは肩をすくめ、「その時は仕方ない。父と姉妹たちのために、後宮で
政務に専念しよう」とため息をついて「……確かに不自由はないが、自由も
ない。今日のようにこっそり町で成人式を楽しんでる男の子を見学するとか、
面白い事はなくなるだろうな」


朝の太陽の下、褐色の肢体が躍動している。
両手にシャムシールを持ったヴェガが、庭園の中央でスピンし、跳躍し、
空中で3回転の後、地面に難なく着地すると、速攻でステップを踏む。
あれから彼女は一睡もしてないのに、どうしてあんなに動けるんだろう。
僕も一睡もしていない。その僕は彼女の隣で踊っている。
バック転とか、宙に投げて回転するシャムシールの刃をキャッチとかは
絶対無理だけど。それでも、彼女と僕はこの日の最高のペアで、
ヴェガは吹っ切れたように楽しく舞い続けた。

採点結果?
彼女は権力を手にして、その分自由じゃなくなった。そのかわり、
自分のための法律を一つだけ作って、一年に一回町に出る自由は手に入れた。
その自由で僕とヴェガは今も会い続けている。
おしまい。



エピローグ(僕とヴェガが一睡してないわけ)
夜の庭園で僕は言った。「僕ばっかり、不公平だ。交換条件で、どう?」
「何だ?」ヴェガは眉を吊り上げる。
「今日は僕の成人式だ」
「分かってるぞ」
「だから、あー、ソ、そっちの方の……を、君と……」
ヴェガは「ああ、交合のことか」腕を組むと「いいぞ。お前となら」
「え」
「わたしも興味はある。それに、意に染まぬ許婚とするくらいなら、
お前の方が良い。今夜は一緒にいて楽しかったし」
だが、彼女の本心は多分別だ。猫のように光る目がこう言っていた。
(口にしたところで、そんな度胸はお前にはあるまい)「ふふん」
最後のは僕の妄想じゃない。絶対、今、鼻で笑った。

それで僕はカッとなった。「じゃあ」僕はヴェガの頬に触れる。
ヴェガはちょっと驚いたみたいだが、興が湧いた表情になった。
そっと口づけをする。彼女の香水の薔薇の香りが濃くなった。
ゆっくりと手を下していき、服の上から胸を触る。「……ん」
服の結び目を外し、彼女のズボンの紐も解いて、脱がせる。
ヴェガの裸は、剣舞で鍛えてるせいで、すごくしなやかだ。
褐色の肢体。小ぶりで形のいい乳房。ピンク色の乳首。締まった腰。
こんな女の子を抱いてもいいんだろうか? 第三王女とか言ってたし……。
ぼーっと見ていると、彼女は顔を赤くして、胸と股を手でおおうと、
「わたしばっかり、不公平だぞ。これでも恥ずかしいんだ。
大体、お前も脱がなければ始まらんだろうが」


それで僕も服を脱ぐ。彼女も手伝ってくれた。
僕の股のものはすごく膨らんでて痛いくらいで、何だかぬるぬるした。
そこをヴェガが不思議そうな顔で見てる。
彼女の肩を抱いて、芝生の上に押し倒す。艶のある黒髪が草地に広がる。
また口づけをする。乳房を鷲掴み、揉み上げて夢中でしゃぶりつく。
彼女が喘ぎながら囁く。「アル」僕の名前の最初の音。
「うん」
「アル、好きだぞ。宮殿の誰よりも…お前が好きだ。お前が欲しい」
「僕も。君が欲しい」

それで僕はヴェガに言う。「挿れるよ」彼女がこっくりうなずく。
ヴェガの中は濡れて、きつい。挿れていくたびに、彼女は痛そうに呻く。
ああ、僕と同じで、彼女も初めてなんだ。
僕はゆっくり彼女の中を進む。ヴェガが抱きついてくる。汗がすごい。
「痛くない?」
「……うん、わたしは。動いて。大丈夫だ」
僕は腰を引き、また彼女の中に入る。ヴェガは体をひねり、喘いだ。
月明かりで、汗でぬめった褐色の肌が光る。目の前で乳房が揺れる。
めまいがする。彼女は首をふり、嬌声を上げて僕にしがみついた。
この子のこんな声を聞いているのは僕だけなんだ。
この勝気なお姫様をもっとこんな風にしたい、いじめたい。
そう思って興奮した僕の中を、精が一気に噴き出した。悲鳴とともに
ヴェガは僕を締めつけた。彼女の中はすごく熱くて、べっとりしてる。
その彼女に包まれてる僕はすぐ硬くなり、動き始める。ヴェガが笑う。
「元気だなぁ」
「うん」
それで僕たちは一晩中ずっとそういう風に過ごした。
僕たちのことで話したかったことは、多分これで全部だ。

劇終

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最終更新:2010年01月28日 18:57