ノーチラス… ◆EGv2prCtI.
ノーチラスは現状の重大さを十分に理解していた。
そう、あまりにもそれは重過ぎる。
何でこうなったのか、何が悪かったかも理解している。
それでもその現状の問題の解決策を導き出すことは出来ない。
不確定要素が多過ぎた。
今目の前に居る女の様な、中性的とも取れるような顔付きの、しかしその表情は怒りで固まった男――ウィリアム・ナカヤマ・スペンサーが自分をどうするのかも分からなかったし、けれでもその殺意は様子を見ているだけでもはや簡単に把握出来てしまう。
(自分は心理学者でもなければ心を読める超能力者でもないのに、だ)
その脇のベッドでは、苗村都月が上半身をありのままに曝け出して静かに寝息を立てている。
そして、それが全ての原因なのだ。
ノーチラスが欲望に忠実になった結果がこれだ。
全ての責任は自分にある。
つまり、自分でこの状況を打破しなければならないと言うことだ。
汗が滲み出しつつあるノーチラスの手には金属バット。
部屋の奥の机には青光りする銃――スミスアンドウエスンM56オート。
ウィリアムはまだ何も持っていないが、あれを取られたらただでは済まない事態になることは直ぐに予測出来た。
その時が来て、緊迫が解けた。
ノーチラスが机に向かって転がり込むと同時に、ウィリアムはノーチラスの動きをほんの僅か目で追った後、続けて手を出した。
右手を伸ばしてウィリアムより先に銃を手に取った、と思いきやウィリアムがそのノーチラスの右手を掴んだ。
何故か空気が、そこに吸い込まれていく気がした。
「な――」
瞬間、唐突にそこから炎が巻き上がった。
毛皮を通り抜けて熱さ――いや、もはや強烈な冷気に似た感覚がノーチラスを襲った。
焦げた臭いまで届いて来る。
あまりの突然の出来事にノーチラスは銃を放してしまい、そのまま右手を引いてしまった。
それがまずかった。
ノーチラスがすぐに右手を左腕の脇に挟み込んで消火しようとする中、ウィリアムは冷静に銃を持ち、そしてノーチラスにその銃口を向けていた。
「貴様、こいつに何をしたんだ!」
ウィリアムが血相を変えて叫んだ。
逆にノーチラスの頭からは血の気が引いていく。
そのまま答える間もなく、銃から火雷が走った。
「――!?」
しかし、ノーチラスの足を狙ったその一発は床の木片を弾けさせるだけに終わった。
右手の火はまだくすぶっていたが、しかしノーチラスは素早く机の横に身を隠したのだ。
そしてその机を右手で持ち上げてウィリアムの方向に押し出すと、ウィリアムが怯んだ隙にノーチラスは先に左手に持っていた金属バットを一気に振りかぶった。
急いで右手も添えて振り下ろした。
バットの先がウィリアムの左腕の肘の下にに命中すると、ぼ、と鈍い音が響いて、ノーチラスの腕にひどく嫌な感覚が伝わる。
「ああああああああああ!!」
ウィリアムが悲鳴を上げると、M56を床に落としてその場に崩れ落ちた。
左腕を押さえて悶え苦しんでいる。
あの感覚――からして、骨を持って行ったのは確かなようだ。
ノーチラスはしばらくは茫然と、床を転がっているウィリアムを見ていたのだけれど、それからようやく戦闘の興奮から落ち着いて来た。
とどめを刺す気にはなれなかったが、だからと言ってこのままにしておく理由も無い。
ノーチラスはウィリアムの背中を無理矢理引っ張り上げ、そして引っ張ったまま玄関に直行した。
痛みによるショックのあまりかほとんど失神しかかっているウィリアムが抵抗しようとしてくる気配など無く、もうノーチラスの動きにされるがままだった。
開けっ放しの扉の前まで辿り着き、ノーチラスはいつものように念じた。
今度は都月の時のような暴発ではない。
ウィリアムの服が全て跡形も無く消し飛ぶ。
驚きからかウィリアムの足がすくんだ。
そのまま、ノーチラスは生まれたままの姿となったウィリアムを外に投げ出し、玄関を閉めた。
そして鍵をかけた。
ウィリアムとの和解は無理だ。
だいたいあんな重傷を負わせておいて許してくれと言う方に無理がある。
じきにウィリアムが扉を破って自分を殺しに入って来てしまうだろう。
だからその前に――
ノーチラスはM56を拾い上げてゆっくりと都月のベッドに近付いた。
M56をベッドの脇に置くと、もう一度都月の身体を観察する。
丸みを帯びて、重力に逆らって突き出した二つの胸。
呼吸に合わせてそれが上下している。
す、と薄く甘い匂いがノーチラスの鼻を通っていく。
いつだったかこっそり見た仲販遥やテトのそれに比べれば物足りない気もしたが、それでもノーチラスにとっては十分だった。
ああ――もう我慢出来ない。
今、ウィリアムから逃げるかどうか、と言うよりもこのせっかくの機会を見逃してしまうことの方が問題だった。
玄関はまだ静まり返っている。
腕が駄目なのなら玄関に体当たりすることも何もほとんど出来ないはずだ。
時間なら十分にあった。
ノーチラスの中には異性の体を見て非常に大きい衝動が生まれていた。
抑制が効かない何かが自分を突き動かそうとしている。
ノーチラスはまだ腫れるような痛みがする右手ではなく、左手で都月の胸元に手を乗せた。
すべらかな肌に指をゆっくりと下に這わせ、曲線を描いたものを通り過ぎる。
そのまま線の最後まで着くと、ノーチラスは胸を鷲掴みにしてその感触をよく味わった。
弾力がある。しかし、柔らかくもある。
そんな触感にノーチラスはずっと前から魅了されてきた。
何度も何度もそれぞれの指を動かし、そして胸の反動を楽しむ。
本当は気絶しているのかどうか分からないが、都月は目を覚まさなかった。
反応を見れないのは残念だが、起きられたら起きられたでまた面倒なことになるかも知れないのでこれでいいかも知れない。
次に都月の尻を楽しむべくノーチラスは都月のスカートとベッドの間に左手を侵入させる。
そうすると都月の下半身の着物履物全てがバラバラに分解される。
――おっと!
またうっかりやってしまったようだ。
次の瞬間、ノーチラスは身体中に違和感を覚えた。
服で押し付けられていた毛が、急に解放されたのだ。
自分の身体に顔を向けるとノーチラスの纏っていた全てのものがいつの間にか消え去っていた。
今や身体を覆っているものは自らの茶色の毛皮しか無い。
――連続で三回も能力を発動した弊害だろう。
いや、まあ、いい、か。
尻の重力とベッドに挟まれつつも、ノーチラスは都月の尻をじっくり蹂躙した。
やはり尻も悪くはない。
胸とはまた違う魅力を持っている。
この固さも捨て難いものがあるし、何より手の平全体を反発するような感覚が良い。
そう思いながら尻を何度も撫で回す。
ヒップホップ・ヒップ。
ああ――次はどうしようか?
また胸を攻めるか?
このまま尻を続けるか?
右手の負傷が無ければ同時に攻めるのに。
それとも――
――それ以上、のこと、を。
ノーチラスは自分でも気付かない内に、牙が見えるぐらい笑みを浮かべていた。
完全にノーチラスは昂ぶっていた。
頭の中がぴりぴりとショートしかかっている。
想像以上に、一種の魔性のようなものを女性の裸体は持っていた。
それが本当の異性に対する反応だったのだろうか?
例えそれが異種族のものであろうと。
多分、それは越えてはいけない一線だったに違いない。
禁忌のようなものだ。
人として侵してはいけない領域。
しかしもうとっくに理性の限界はぶち壊れている。
それに、今までしたくても出来なかったことだ。
都月は、まだ起きない。
やるしか今しか無い。
ノーチラスは身体を乗り出すと顔を近付け――
その時、突然かなりの強風がログハウスを通り過ぎたかと思うと、玄関の扉が大きな音を立てて壊れた。
ウィリアムが入ってきたのだ。
再びノーチラスの思考に冷静さが戻って来た。
このままではまずい!
ノーチラスは立ち上がると、急いでM56を握った。
そのまま確実に銃口をウィリアムに突き付ける。
――筈だった。
「あ……」
――銃を持った右手が、まるで巨大な磁石に近付けられたかのように、自分の胸元に勝手に動き始めた。
そのまま胸の中心に銃が触れて、にも関わらずまだ手が強い力でぐいぐいと押し込まれていく。
ウィリアムがその場から動くこと無くこちらを睨み付けていた。
まさか――
そしてノーチラスが一体何が起こっているのか理解する前に、更に強烈な波動のようなものが右腕を吹き飛ばす勢いで襲い掛かって来た。
「がっ――」
激痛が走った。
自然と右手は銃のグリップから離れて、ノーチラスの目前で止まっている。
――銃が杭の部分から引き金まで埋まるまで胸にめり込んでいた。
いや、まさしく突き刺さったと言って差し支え無かった。
ウィリアムの念動で押し付けられた銃に、ノーチラスの身体が耐え切れなかったのだ。
ウィリアムの姿、後ろの風景が視界の下に沈んでいく。
ノーチラスは仰向けに倒れた。
続けて、向こうからどさりと音が聞こえた。
多分、それはウィリアムのものだった。
ここまで強い能力か何かを使ったのなら、力を使い果たすか暴走して何が起きても不思議ではない――ノーチラスのように。
銃と毛皮の隙間からは血がこぼれなかったが、その時の衝撃で完全に骨を割って内側に入っているのが分かった。
どう考えても、もう助かるような傷ではなかった。
――でも。
悔いはない、筈だ。
最後に胸や尻を堪能出来たのだし、これ以上何を望めるのだろうか?
満足している。
――ろくでもない。
そんな無理にでも正当化しようとしている自分がろくでもない。
どうしようもない馬鹿だ、俺は。
先程だって都月にとんでもないようなことをしようとしていたのに。
生徒会で活動している時、朽樹良子やサーシャの前ではほとんど真面目な顔を見せていた。
普段のクラスメートの間でも。
しかしそれも、学校の中では穏便を保つ為だ。
本当は陰劣な痴漢が癖になった、どうしようもない馬鹿だ。
そんな自分でも悪くないとは思っていた。
いや、思わないようにしていただけ……
そんな自分の、始まり。
ずっと遠い昔。
もう思い出せないほど遠い昔のこと。
小学生の頃にはもう女性を”それ”の対象として見ていた。
そして小学五年生の時にヘマを犯した。
その時のあの女性。
自分を助けてくれた(と思う)あの女性に、まだきちんと礼も言えていない。
他にも色々、父にも迷惑をかけてしまった。
あんな父でも男手一人で自分をここまで育ててくれたのだ。
結局何もしてやれなかった。
自分が幼い頃に死んでしまった母。
もうすぐ自分もその母の元に行ってしまう。
物凄く怒鳴られる。多分。
エルフィ。
一緒に居たのは僅かな時間とは言え、エルフィにとってこの状況で殺し合いを始めていない生徒にまともに会ったのは自分だけだろう。
いくらなんでも、自分が死んだことに気付いたら絶対に困惑する。
苗村都月。
すまない、本当はそんなつもりじゃなかったんだ。
最後の最後まで、自分は人に迷惑をかけっぱなしだった。
もう、何も出来ない。
目の前は暗く、胸の痛みももはや静止している。
手も足も既に自分のものではないように動かない。
残された脳の他の部分も数秒もしない内に死ぬだろう。
悔いはあった。
たくさんあった。
胸や尻を揉むより重要なことが。
成さねばならないことを今更ながらにいくつも見つけてしまった。
しかし、もう――
「チッ……なんてこった……」
それが最期だった。
瞼を閉じると、ノーチラスの身体は静かに活動を停止した。
ノーチラスの意識は、急速に闇に捕われていった。
【G-5 ログハウス/一日目・黎明】
【男子三番:ウィリアム・ナカヤマ・スペンサー】
【1:僕(達) (本来(激怒時)は俺(ら)) 2:きみ(たち) (本来はお前(ら)) 3:彼、彼女(ら)、○○(名字さん付け) (本来は○○(呼び捨て))】
[状態]:全裸、気絶、左腕骨折、右足に裂傷(応急処置済み)、能力を行使したことによる疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、シアン化カリウム
[思考・状況]
基本思考:気絶中につき、なし
[備考欄]
※銀鏖院水晶同様、超能力の行使は心臓に負担を掛け、体力を消耗させます
※シアン化カリウムについて、彼は薬のパッケージをよく見ていないためよく理解していません
※バトルロワイアルと言う環境下は、ウィリアムにとって通常よりもストレスとなっています
【女子二十番:苗村都月】
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(達)】
[状態]:全裸、極度の怯え、被害妄想による狂気、ウィリアムに対し恐怖、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本思考:気絶中につき、なし
[備考欄]
※ログハウスの中にあったベッドで、静かに眠っています
【男子二十三番:ノーチラス 死亡】
【残り37人】
※ノーチラスの死体の近くに金属バットが転がっています
※ノーチラスの死体にS&W M56オート(5/15)が突き刺さっています
※M56オートのマガジン(3) がログハウスの床に置きっ放しになっています。
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最終更新:2009年03月24日 07:28