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「ねぇー、パチュリー」
 ……珍しいこともあるものだ。
 私のこもっているこの図書館には、レミィか魔理沙くらいしか来ないものだとばかり思っていたのに。
「どうしたの、チルノが来るなんて珍しいじゃない」
「パチュリーに、お願いがあって来たのよ」
 私に紅茶を、チルノにジュースを運んできた小悪魔も、テーブルの横で立ち止まった。話を聞きたいらしい。
「何かしら」
「あたいに、勉強教えて!」
 ……なん……ですって……?
「チルノ? 今なんて、いや、どうして?」
 外に出なくても、チルノがおバカさんだという話は噂に聞く。天狗の新聞の記事のように、ガマに食われることだってあるらしい。そんな子が、どうして?
 私は少し動揺していた。
「あのね……」
 チルノは、ゆっくり話しだした。

   *

 あのね。
 あたいって、バカなのよね。それはわかってるの。自分でもわかってるのよ。
 いつも、みんなにバカバカって言われるの。
 大ちゃんは言わないし、レティも言わないよ。リグルんだって、ルーミアだって言ってこないけど。魔理沙はあたいのししょーだから、言っても平気だけど。
 でも、みんな言うのよ。あたいのこと、バカだって。
 あたいが違うって言うと、難しい問題とか出してくるのよ。それがわからないと、またバカって言うの。
 あたい、もう誰にもバカって言われたくないよ。
 ねぇ、パチュリー。パチュリーなら、あたいに色々教えてくれるんでしょ? アリスが言ってたよ。パチュリーの苗字って、色々なことを知ってるって意味なんでしょ?
 お願い、パチュリー。あたいを、バカじゃなくして。

   *

 ……驚いた。チルノの思いもあるし、アリスに言われたこととかも覚えているなんて。
 普段の私なら相手にしなかったかも知れないけど、チルノにこんなに頼まれてしまうと、断れない。
「いいわよ」
「本当?」
「ええ。何から知りたい? 何でも教えてあげるわ。その代わり、覚えなさいよ」
「うん!」

   ***

 とまぁ、そんなことがあったらしい。
「なぁ慧音。今日も紅魔館にいくのか?」
「ああ。チルノが頑張っているんだ。教師としてこんなに喜ばしいことはないだろう」
「チルノって、あの氷の妖精だろ? ちゃんと理解とかしてるのか?」
「何を言うんだ妹紅! あの子の吸収力はすごいぞ。あの数学の魔術師と呼ばれる八雲藍に協力して貰った算数ドリルを、昨日は4頁まで解いたんだ!」
「……それって、すごいの?」
「すごいぞ! ああ、時間になる。とにかく私は行ってくるから」
「ああ。気をつけてなー」
 慧音の出て行く姿を眺めながら、ふと考えてみた。
 あの妖精、同じ間違いってしたことあったかな……?

   ***

「少し遅れてしまったな。……どうしたんだ?」
 私が図書館に入ると、普段と雰囲気が違うのを感じた。
 昨日と同じように、チルノが机に向かっている。パチュリーと小悪魔は、その隣で……何を見ているんだ?
「パチュリー」
「け、慧音」
「どうしたんだ。チルノが、何か間違えたか?」
「ち、違うの……その逆なのよ」
「うん?」
「一問も、間違えていないのよ」
「……いいことじゃないか。何がそんなに」
「八雲藍が作った算数の問題集、一冊まるごと間違えてないのよ、あのチルノが」
 一冊、まるごと?
 いくら相手がチルノだからとはいえ、手を抜かずに作ったと言っていた、八雲藍の問題集一冊を?
 それ以前に……。
「もう、終わらせたのか……? 一冊、全部……?」
 私はチルノを見た。今、彼女は、普段パチュリーが読んでいるような厚い本を読んでいた。
「な、何を読ませてるんだ!?」
「私の魔道書よ」
「読めるのか」
「基本の言葉は日本語も英語も、こういう魔法言語も同じよ。基本となる言葉を教えれば、あれくらいのものなら簡単に……」
「パチュリー! ちょっとこっちに!」
「え、な、なに、むきゅっ……」

   *

 チルノからの死角になる位置に、慧音は私を引っ張ってきた。
「何よ、急に……」
「いいか、パチュリー。チルノの吸収力はすごいんだ。だから、あの問題集もすぐに解いてしまえたんだ。基本がパーフェクトになれば、応用だってすぐだ。それはきみも理解できるだろう」
「ええ。でも、それは喜ばしい事だって……」
「だが、チルノの知識の進化は異常だ。きっと、頭脳がすごい速度で回転しているんだろう」
「でも、もうチルノはバカにされなくてすむのよ?」
「だが、このままだと──」

 ゴッ、と大きな音がした。
 何事かと思うと、チルノが手のひらから巨大な氷の塊を出現させている。

「ひぁー。あたい、ビックリ。あ、ねーねーパチュリー、慧音せんせー。あたいすごいー?」
「す、すごいすごい」
「やったー。えへへ」

「……このままだと、どちらかが崩壊するぞ」
「どちらかって?」
「チルノか、幻想郷のどっちかだ」

   *

 無邪気に氷の塊で遊んでいるチルノを見ながら、私と慧音は思った。
 持って生まれたあの冷気を操る力。
 それを増幅させるような魔法を使ったのだろう。
 もし、私に並ぶくらいの知識を得たら?
 それも、あの理解力を発揮して……。

 きっと、幻想郷で最強になるのだろう。
 彼女が望んだとおり。
 誰にもバカにされず。
 高らかに言うのだろう。

「あたい、さいきょー!!」

 私は、慧音には悪いけれど、それを見たくなった。
 私を頼ってきたんだ。チルノは、私の、弟子も同然だ。
 魔法を、覚えさせよう。
 知識を、覚えさせよう。
 全てを、チルノに与えよう。

 百年以上生きてきて、こんなに楽しくなったことは無かったかも知れない。

 ノーレッジの名を持つ者が、増えるかも知れないのだ。
 こんなに、愉快なことは無い。