ナスコ



「クリスマスの思い出」で原稿依頼がきた。

なぜ私にこんな依頼が、と思いつつ少し目の離れた社内報委員の
HSE(先月の社内報でノロケ話をつらつらと書き、旦那との恥ずかしい
写真を2枚も載せていた女。)を見ると、初級SEのS田とこちらを見て笑っている。

「奴等は俺に恥ずかしい話を書けと言っている。」

直感的にそう感じたが、まあしょうがない。
先月号のHの記事よりは恥ずかしくない程度に、私の12月の過ごし方を紹介することにする。




12月初旬

気がつくともう12月。
この時期の、独り身は少々辛い。
周りを見回すと最近彼女にふられたばかりの前田が、遠くの空を見上げ

  「夏子、なつこ、ナツコ」

とつぶやいている。

それを聞いた渡辺は

  「いいじゃん、夏子ぶすだし。」

と冷静かつ適切な慰めをしている。

何とかしなければ。嘘でも24日は残業しないで帰ろう。強く心に誓った。




12月中旬

やっぱりまずい。
今年もお家で「明石やサンタ」を見ながら過ごすクリスマスになってしまう。
どんな手段でこの状況を打開したらいいんだ。
合コンかナンパしか手は無いんだろうが、前田はまだ使い物にならない。
あまりのショックに前歯が欠けてしまったのだ。

  「なすこ、ナスコ」

空気が抜けている。
今年も諦めるしかないだろう。



12月20頃

忘年会の後、落合SEとナンパを試みると結構可愛い女の子2人組がひっかかった。
一緒にいた先輩方を何とか振り切り、4人の飲み会が始まった。

  「落合SEはロリコンだから俺の趣味とかぶらないだろう」

という深い読みもあり、その場でクリスマスの予約を取りつけた。ついに来た幸せのクリスマス。



12/24

会社を早めに切り上げ待ち合わせ場所へダッシュ。
面白くもない話をしながら表参道を歩いていると、気がつかない間に
プレゼントを買わされていた。
俺もCDを1枚買ってもらい、喜んでいた。
幻想的な光と、煩悩がそうさせたのだろう。

これだったら、いつも通り飲み屋で

  「ばかやろう、何がクリスマスだ」

と過ごしていたほうが、金もかからず楽しかったのではないかと強く感じながら、
次の日も仕事なので何事もなく帰った。



12/31

彼女から連絡がない。

  「奴もクリスマスで焦っていたのだ。」

と言うことに気づき、絶望した。

傷ついた心を癒し新年の願い事をする為、初詣に出かけ

   「来年のクリスマスは楽しく過ごせますように」

と祈った。気のせいだろうか、近くでは

   「なすこ、ナスコ」

と聞こえてきた。






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最終更新:2008年01月11日 12:52