第一部:熱化学
第一章:反応熱の捉え方
第二章:熱化学方程式
§1.基本的な考え方
x2+y2=x3+y3+Qについて考えます。
このとき当然ながら
(x2-x1)+(y2-y1)=(x3-x1)+(y3-y1)+Q
が成り立ちます。
この結果から、x2やy2の絶対値が分からずとも、基準(この場合はx1+y1)からの相対値(あるいは変化)が分かればQが求まることが理解できると思います。
これと熱化学方程式の関係を考えてみましょう。
CO(気)+(1/2)O2(気)=CO2(気)+QkJ
CO(気)とCO2(気)の生成熱がそれぞれ、akJ/mol、bkJ/molであるとき、Qを求めなさい。
ある物質の生成熱というのは、その物質1molを単体からつくったときに「発生する」熱エネルギーをあらわします。換言すると、ある物質は単体を基準にすると、生成熱の分だけエネルギーが低いことになります。
CO(気)+(1/2)O2(気)=CO2(気)+QkJ
の各物質について原料単体を基準としたエネルギーの相対値を考えると
CO(気)は-akJ
O2(気)は単体ですから0kJ
CO2(気)は-bkJ
となります。
ここで、当たり前なのですが単体を基準にとると、必ず基準が左辺と右辺で等しくなることを確認しておきましょう。
左辺の基準=C+(1/2)O2+(1/2)O2、右辺の基準=C+O2
以上より先の議論と同様に
-a+0=-b+Q
が成立するので、Q=-a+b(kJ)ということになります。
熱化学方程式の問題の急所
- 基準からの相対エネルギーを考える。基準は、単体(生成熱)、原子(結合エネルギー)、完全燃焼物(燃焼熱)などが代表的。
- 基準は1つで解けるが、2つ組み合わせると早く解けることもある。
§2.実践問題
練習問題1:
表1と表2を利用して以下の問いに答えなさい。
(1)黒鉛1molをすべて個々の原子の状態に分解するために要するエネルギーは何kcalか。
(2)黒鉛1molを完全燃焼させたときに生じる発熱量は何kcalか。
表1
分子中(気体)の結合をすべて切断して、個々の原子に分解するために要するエネルギー(kcal/mol)
CO 257
CO2 384
N2 226
NH3 280
H2O 222
表2
C(黒鉛)+(1/2)O2(気)=CO(気)+26kcal
N2(気)+3H2(気)=2NH3(気)+22kcal
H2(気)+(1/2)O2(気)=H2O(気)+58kcal
(東京大改)
【解答案1(基準として単体・原子2つを利用する場合)】
(1)
求めるものがC(黒鉛)の結合エネルギーに相当することに注意し、これをxkcal/molとおく。
C(黒鉛)と、生成熱と結合エネルギーがともに分かっている物質のみ、すなわち、CO(気)、NH3(気)、H2O(気)、N2(気)とで新たな熱化学方程式を作ると
3C(黒鉛)+N2(気)+3H2O(気)=3CO(気)+2NH3(気)+Qkcal
単体を基準に考えると
-3*58=-3*26-22+Q …①
原子を基準に考えると
-3x-226-3*222=-3*257-2*280+Q …②
①②より
x=171 ∴171kcal
(2)
求めるものはC(黒鉛)の燃焼熱に相当するが、CO2(気)の生成熱とC(黒鉛)の燃焼熱が等しいことに注意して、これをykcal/molとおく。
CO2(気)と、生成熱と結合エネルギーがともに分かっている物質のみ、すなわち、C(黒鉛)、CO(気)とで新たな熱化学方程式を作ると
C(黒鉛)+CO2(気)=2CO(気)+Qkcal
原子を基準に考えると
-171-384=-2*257+Q …③
単体を基準に考えると
-y=-2*26+Q …④
③④より
y=93 ∴93kcal
【解答案2(基準として原子のみを利用する場合)】
(1)
求めるものがC(黒鉛)の結合エネルギーに相当することに注意して、これをxkcal/molとおく。さらに、O2(気)、H2(気)の結合エネルギーをそれぞれakcal/mol、bkcal/molとする。
表2の熱化学方程式について原子を基準に考えると
-x-(1/2)a=-257+26
-226-3b=-2*280+22
-b-(1/2)a=-222+58
これらを解いて、x=171、a=120、b=104を得る。 ∴171kcal
(2)
求めるものがC(黒鉛)の燃焼熱に相当することに注意して、これをykcal/molとおく。
すると熱化学方程式
C(黒鉛)+O2(気)=CO2(気)+ykcal
が成り立ち、これについて原子を基準に考えると
-171-120=-384+y
よってy=93を得る。 ∴93kcal
最終更新:2008年04月05日 17:30