ジェットエンジンの逆推力装置
今，物理に関するQ&Aの本の執筆者のひとりとして，いくつかの回答原稿を執筆している。第一次原稿の最後として，引き取り手のなかった質問への回答に挑戦した。ネットで下調べをし原稿を書き上げたものの，挿入予定の図の参考資料がなかなかみつからない。半日ネットをさがしまくってようやくみつけた。出版に際してはこれをもとに新しく図を起こしてもらう予定。あきらめかけていて，ようやくみつけたのがうれしかったので，全文掲載！
673104 ジェット機の逆噴射について
【質問】
どこで質問すればいいのかわからないのでここで尋ねますが、ジェット機が着
陸した際に行う逆噴射は、昔はエンジンを逆に回して、後ろから空気を取り入
れ、前へ吐き出すものだと思っていました。実際には通常通り前から空気を取
り入れ、出口にバイパスを作ってまた前に吐き出す構造のようですが、そこで
わからないのは、前から吸った空気をまた前に吐き出すことによって、推進力
やブレーキの力が果たして生まれるのでしょうか？物理的には前にも後ろにも
行く力が生じないような気がするのですが、ご存知の方教えてください。
【回答】
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ジェットエンジンによる推進力は，燃焼によって生じた高圧のガスとともに
ファンによって吸い込んだ空気を勢いよく噴き出す力の反作用によって生じま
す。このとき，ファンから吸い込まれる空気よりも後方のノズルから噴出する
ガスおよび空気の方が，質量・速さともに勝っており，つまるところジェット
機は排気ガスとともにエンジン前方から取り入れた空気を後ろに放り投げるこ
とで，前方への推進力を得ているわけです。
さて，着陸の際に限られた滑走路内で確実に停止するために，大型旅客機な
どはジェットエンジンの推進力を逆に利用して，着陸直後にわずかな時間「逆
噴射」をして速やかにスピードダウンします。着陸直後，しばしの間エンジン
音が大きくなるのはこのためです。そのしくみを最近の大型旅客機で主流になっ
ている，「高バイパス比ターボファンエンジン」を例に簡単に説明しましょう。
「高バイパス比ターボファンエンジン」では，前方推進時はエンジンの前か
らファンによって吸い込んだ空気のごく一部が圧縮されて燃焼室に送られます
が，大部分はそのままエンジン後方へバイパスされて，燃焼によって生じたガ
スとともに後方へ勢いよく噴出されます。高速で噴き出すガスが空気を巻き込
んで噴出速度を上げているわけです。一方，着陸直後の数秒間は「逆推力装置」
を働かせて大きな制動力を得ます。そのしくみは，前方から吸い込まれて大部
分後方へ送られていたバイパス空気の流れを遮断して，斜め前方へ噴出させる
ようになっています。
さて，疑問の焦点はここにあります。つまり，後方へのガス噴出は継続され
ており，なおかつ前から空気を吸い込むことは前方への推進を助ける働きをし
ているはずです。吸い込んだ空気を斜め前方に吐き出すだけで推進力に勝る逆
推力，すなわち減速させる力が生じるとは思えないということですね？
まず第一に，ターボファンエンジンでは推進力の大部分が後方へバイパスさ
れる空気の排出によって得られていることがポイントです。つまりバイパス空
気が遮断されたことで，排出ガスによる推進力は大幅に減少します。第二に，
前方から吸い込まれた空気は圧縮されて噴出されており，吸い込む時の速さよ
りも噴出時の速さがずっと大きいということです。したがって吸い込むことに
よって生じる前方への推進力よりも，斜め前方への噴出による制動力の方がずっ
と大きくなっているわけです。したがって，減少した前方推進力と新たに生じ
た後方への逆推力を比べると圧倒的に逆推力が勝るというわけです。
かつてジェットエンジンの主流であった，燃焼による排出ガスをそのまま推
進力として使う「ターボジェットエンジン」や，バイパス空気量が少なかった
「低バイパス比ターボファンエンジン」においては，推進力の多くが燃焼によっ
て生じる排出ガスによって得られていたために，逆推力装置はタービン後方へ
の排出ガス流をせきとめて前方へと流出方向を変えるしくみで，まさに逆噴射
といえるものでした。しかし，最近の主流は「高バイパス比ターボファンエン
ジン」になっており，大型旅客機の多くがファンから取り入れたバイパス空気
を圧縮噴出させることにより推進力の大部分を得ており，したがってまた，こ
のバイパス空気の流れを前方に変えるだけで大きな制動力を得る逆推力装置が
使われているようです。
- 分かりやすく、詳細に説明されて納得できました。ありがとうございます。 -- Ryo-kan (2009-07-01 08:47:51)
- Ryo-kanさん，お役に立てて幸いです。 -- Yokkun (2009-07-01 10:12:51)
- 同じ疑問を持ち、答を記して頂いた事に感謝です。こうなると今と昔の映像も見たくなりますね。 -- toshi (2016-03-26 01:33:49)
最終更新：2016年03月26日 01:33
