「じゃ、人妻寝取りに行ってくっから!」

「……ロア様」
びしっ、と『いってきます』のポーズを決めた男に、老人は渋い顔で苦情を洩らした。
「先日申し上げましたよう、かの御仁は亡きフェリウスに手酷い虐待を受けていたとのこと。
城内の旧臣達の心象を良くする意味でも、ここはしばらくそっとしておいた方が……」
「馬ッ鹿お前、だからこそお近づきになりに行くんだろ!?」
複雑な表情で老人は主を嗜めるが、当の主は『分かってないな』とばかりに拳を固める。

「傷心の未亡人! 明るい話題で優しく近づく俺! やがて次第に深まる二人の仲!
『キャー、あんな暴力夫なんかと比べて全然カッコいいわ! ステキ! 抱いてッ!』」
「………」
気持ち悪い裏声を出す主君に対して、老人は達観したかのような目で嘆息する。
角灯の光に照らされて、元は紅かったであろう白髪と顎鬚、
そうして深い皺の刻まれた顔の、隻眼の老偉丈夫が浮かび上がった。
「…心に傷を負った女を抱くのは一苦労ですぞ? 最中に突然泣き喚きだしたり…。
好い女を抱きたいというのでしたら、こちらで八方尽くしてでも手配しますに」
「いや、だってさお前? 占領だよ占領? 征服、侵略、簒奪!」
まるで孫と祖父のように見える二人だが、実際は主君と臣下の関係なのは聞いての通り。
老人は男のお目付け役であり旧教育係――俗にいう『じい』な存在だった。

「いざそれやらかしてみた以上はさあ、やっぱり敵国の美姫とか亡国の女王とか、
きっちり自分の物にしとかないとダメだと思うんだよね、男に生まれた以上」
「…ロア様がおっしゃると、何でも俗っぽく聞こえてくるから不思議でございますな」
「いや~、それほどで 「褒めておりません」
夢見る少年の貌で熱く語る主君に対し、流されずピシャリと厳言を叩きつけた。

分かっているのだ、一朝一夕の付き合いでも無し。
女子(おなご)さえ圧される口達者、こうやって押し引き引き押し相手の調子を狂わせて、
自分の気勢に持ち込んでしまうのが目の前の若造の手管だと。
初対面の人間には『馬鹿者』『うつけ』と評を下されがちな彼の主君だが、
それが全く的を得ぬのは、少なくとも古付き合いの者達は知っている。
…目の前の若造は、しかし虎狼のようにはしこい小僧だ。

「てかここ俺の城でしょ? 『俺の城のものは俺の城のもの』ってやつじゃん?」
燃える硫黄のような瞳を見れば、誰もが同じ感想を抱くだろう。
不遜が服を着ているような男だと。

「…ロア様一人で落としたわけでもございますまい、今回の遠征の総大将はイナ様、
包囲戦の司令官はラクロ様でした。攻め滅ぼした国の財産の帰属先的に考えますに、
イナ様、ラクロ様、あとは現盟主であるクウナ様の物と考えるのが……」
「でもこの城貰ったの俺だもんねー。この城で一番偉いのも今日から俺だしさー」
「………」
それでいて子供のようにえっへんと胸を張る姿が、演技かと言えばまた違う。
……演技じゃないからこそむしろ厄介なのだが。

本当に、誰が信じるだろうかと思う。
「ってかさー、すっごい美人なんだぜ!? しかも俺とほとんど同じ歳!
これはさー、据え膳食わねば何とやら、だろ!」
…『こんなの』が今回の追討戦の一番の戦術的功労者、
三月前の野戦においては、手勢1000の重騎兵隊でもって敵陣左翼を食い破り背襲、
フェリウス本隊を挟撃からの敗走に至らしめた猛将であり、
十日前もまた脱出を図ったフェリウスを追跡、敗死に追い込んだ驍将だと。

実際に目耳に味わわなければまず信じられまい。
虎がごとく敵陣の急所に食い付き、狼がごとく浮き足立ち逃げ惑う兵を食い散らす。
蹂躙し、蹴散らし、何何百の命が千切れ飛ぶ中、今と変わらぬこの笑顔、
…『悪魔』『化け物』呼ばわりも頷けよう。
本当に(今日付けで)城主で、本当に(任領こそ小さいが)領主、
『ゼズ城および周辺三郡五街二砦の経営監督権』ならびに『千人長から小将師への昇進』、
……この行賞が過大にならない、それだけの輝かしい大功だった。

――それだけに、溜め息が出る。
「…わかりました。ロア様が一度言い出したら聞かないのは承知しておりますからな。
ただ一つだけじいの頼みを聞いてくれるならば、他に関してはとやかく言いますまい」
「お。今日は随分話が分かるなじい? で、なんだその頼みって」
頬杖を突き、にこにこしながら聞いてくる主君。
「……もう少し『王弟殿下』らしくしていただけませんかな?」

――王弟殿下。

ブッとその単語に噴き出したのは、もちろん会話相手である殿下その人だった。
「で、殿下ぁ!?」
一体何がツボに入ったのか、腹まで抱えて大笑いする。
「お、王弟殿下ってお前、そんな柄 「至って真面目な話です。冗談ではなく」
しかし老爺はそんな主に対し、真剣な表情で語り始めた。

 そもそも国というのは、神や聖霊の承認によって生まれるものではない。
 英傑が現れ、その周囲に人が集まり、それが次第に大きくなる、
 そうした上でその集団が国を自称し、周囲がそれを無視できぬほどに力が強まったならば、
 初めて自他共に認める国となるのだ。

 大陸統一以来の数百年間、大陸は帝国を中心とする一強皆弱にあり、
 特に『蛮族』のレッテルを貼られた北夷と南夷は
 国としてどころか同じ人間の同胞としてすら認められず長らく迫害の下にあった。
 その中で国を自称した北夷南夷の部族も居たが、
 当然帝国からは認知されず、やがて歴史の荒波へと消されていった。

 だが! 長年の宿願だった山岳オルブ諸部族の連合が達成されて早40年、
 帝国大包囲網と一斉侵攻の開始に伴い、国家を名乗っても良いのではないか!?

「…というわけで、名乗ったようです。ちなみに名前はオルバス連合王国だそうで」
長々とした語りを締めくくった老爺に、男はパチクリと目を瞬かせる。
「…え。…いや、ちょっと待て、全然聞いてないぞそれ? てか連合王国ってお前、
親父もクウナ兄も盟主であって王じゃないだろ。んなことほざいたらガルデガの爺共が――」
「いや、それに関しても大丈夫です」
馬鹿だが利発な彼の主君、流石に事の重大を理解したらしく動揺の声を上げるのだが、
老爺は落ち着き払った声でそれを制した。

「実は我々遠征軍が出発した後、向こうでもちょっとした政変があったようでして。
ガルデガの古老連が隠居を表明し、代わりにかのファデラ様が新しく族長となられました。
臣下としての恭順の意も示されたらしく、これで名実共に山オルブ統一も果たされたかと」
「………」
唖然とする男。
よくもまぁあっさりと言ってくれたが、しかしこれ、相当とんでもないことである。

 帝国側が一括りに『南蛮』『赤鬼』と呼ぶ彼らオルブだが、実際には複数の部族の集合、
 とりわけ蛮土東方山岳地帯の『山の民』と、西方砂漠地帯の『砂の民』では、
 同じなのは外見だけ、気質・生活様式・文化風習、内実は全然別物というのが実際だ。
 ガルデガはそんな山の民の中でも二番目の大部族。
 対帝国同盟の盟主にして、山岳オルブ最大の部族であるゼティスの対抗馬で、
 盟主に過ぎない彼らが強権を手にしないよう、
 同盟結成後も水面下での政争や対立を繰り返し続けてきた長年の政敵達だった。

 その長老連が権力の座から一掃され、代わりに男もよく知る融和派の女傑が長に就く。
 …事実上の無血政変とは言え、裏で相当血生臭いことがあったのは疑いない。
 「…何やってるんだよクウナ兄は」と、思わず男も呟いた。

 先盟主ゼリドの次男であり七年前に現在の盟主の座についたクウナは、御歳39歳。
 (男一人から固着しそうなオルブ全体のイメージの払拭のために弁明すると)
 大層な優男で物腰も穏やか、父ゼリドとは正反対に武よりも文を好む温和な盟主で、
 その内政手腕、何よりも稀代の文化人・教養人としての振る舞いが周囲の名望を集めている。
 (でも身内である男に言わせれば、政争からロアら脳筋妹弟を守ってくれる反面、
 『微笑みながら政敵の首を真綿で絞め殺す』、お腹真っ黒の性格ドS、策謀家だ)

「この政変を受け、帝国に対する宣戦布告も国家、王の名において出されたとか。
例によって帝国は無視の一点張りですが、逆に隣の砂オルブ、東の東洋諸島都市連合、
北のクラート、シシス、洋を挟んだ西大陸の三国には一様に受諾されました」
「……それ、今回の切り取りに参加してる連中全部じゃね?」
そうなのである。
「良かったですな。多数決の原理で、見事ロア様も今日から王弟殿下」
「…え。…えー? いや、つーか、タチ悪い冗だ 「だから冗談ではございません」
なのにもっと喜んでもいいはずの快挙を、まるで迷惑そうに聞くこの王弟。

「…てか、本当に寝耳に水だぞ? もっと前フリっていうか、幾ら何でも急すぎっつか」
「それはそうでしょう。何しろ私も今日の昼間に聞かされたばかりですから」
まあでも本当に、この主君にとってはそんな話、その程度のことでしかないのだった。

「今回の追討戦にガルデガの兵が数多く含まれていた関係上、
兵の動揺を防ぐために緘口令が敷かれていたというのが実際なようですな。
イナ様、ラクロ様は攻城開始の時点で既に知っていたようですが」
「ちょ、イナ姉もラクロ兄も知っててなんで俺だけ教えられてないんだよ!?
俺そんな口軽くないよ!? そんな信用ないの!?」
『大功を立てた重将なのに軽んじられた』的に憤るというよりは、
『兄貴も姉貴もなんで俺のこと仲間外れにしたの?』的にガーン!な末っ子。

「…いや、普通に『馬鹿だし教えても教えなくても大差ないだろ』とか思われたんでは?」
「ひどっ!? ひっど、酷いぞそれ! 馬鹿なのは認めるけど酷い!」
…もう少し野心、もう少し権力欲があって体面に拘る男だったならともかく、
『馬鹿なのは認めるけど酷い』とか自分で言い切っちゃう辺り、
そうやって『あー、あいつは後でいいや』的に兄姉から末弟扱いされるのだとは気がつかない。

「…あー。じゃあいいよもう。うん。…何? 王位継承権? 要らないからそれ。放棄する」
ホラこういうこと言い出すし。
「何言っとるんです、どこの世界に獲得して五分で王位継承権放棄する馬鹿がいますか」
「ココ。だって馬鹿だし。…どーせ俺は馬鹿ですよーだ」
あまつイジケてふて腐れだす。
…成人してもう三年と半にもなろうというのに、いつまで子供のつもりなのか嘆かわしい。

「…大体あれだろ? 暗殺とか毒殺とか、王族って権謀術数渦巻く蛇の巣なんだろ?
面倒なだけじゃん、どう考えても要らないだろ。むしろなんで皆王位とか欲しがんの?」
「必ずしもそうとは限りません。…というか立志伝や英雄伝記の読みすぎです」
「でもさぁ、『貴方は実は王子だったのです』とかですらなく『お前今日から王子ね』って何?
この際だから建前抜きの本音で語り合いたいんだけど、」
うんざりしたように、胸を張る。

「俺のどこをどーいう風に見れば、王弟殿下なんかに見えるんだよ!!」
「どこからどう見ても王弟殿下に見えませんが、これからは見えて頂けないと困るのです!!」

……下野し降籍し出家したところで、統治者の血の者であることに変わりはない。
継承権は捨てられても、貴血という事実は捨てられないのだ。
体面、礼節、地位というものは、政(まつりごと)を行う上で絶対に無視できぬ要素。
まるでどこぞの山賊の若頭、傭兵隊長にしか見えなくとも、今後は変わってくれないと困る。

「げー」
……本当に、嘆かわしい。
「…つかさ、ほんとに要らないじゃん。俺兄妹の中でも末っ子だよ? 上に22人もいるんだよ?
これ全員退けて王位掴むとか、普通に考えてありえねーし、やれたとしてもやんねーよ」
何故これだけの利発さを持ちつつ、権力への渇望は抱かない。
何故これだけの軍才を持ちながら、献身を厭わずして情愛に生きる。
「レダ兄とか、ラクロ兄とか、俺なんかよりもずっと相応しいのはたくさんいるし……、
そもそもクウナ兄からしてとっくに妻子持ちだし……、大体」
何故戦場ではあれほど敵を踏み躙れるのに、降りれば親を立て、兄を立て、義を立てる。
何故礼節の前の礼を知り、体面の前の体を知り、天地を弁え、人心を解し――

「――そういう王族とかの飾りなんかなくたって、俺は俺だし、親父の子だよ」
迷いなく言い切られた何気ない語に、老爺はハッとして目頭を抑えた。

……前言での謗りは、撤回せねばなるまい、
見る者が見さえするのなら、どう見ても山賊や傭兵には見えないのだから。
隠し切れぬ貴血の生まれ……という言い方をするのは語弊がある。
敢えて言うなら、乱世の雄の相か。

冠も、笏も、珠も帯びぬが、窓辺に腰掛け懊悩する姿は、下衆にはありえぬ品格を持つ。
誰もが振り返るような美丈夫でもなく、女と見紛うような優男でもない、
大人になりきれぬ悪戯坊主、形作る骨肉だけをなぞるなら、確かに山賊傭兵の評は真だ。
……だが虎が虎として唯在るように、鷹が鷹として唯在るように、
言の葉の霊、野にあって粗なれど唯在るをもって貴きを為し、
その立ち振る舞い、野にあって蛮なれど唯在るをもって衆人を魅する。
畏れ敬われることはないが、誰をも惹きつけ愛されよう。
飾らぬ言葉は学無き民草にも希望を見せ、通す道理は勝利を通して正義を見せる。

重なるのは、男の祖父の姿だ。
目を閉じれば老雄の瞼にありありと浮かぶ、在りし日の旧主のその威容。
現在の包囲網の先駆けであり、山岳オルブ諸族を力で束ね上げた初代の盟主。
病にて夭折していなければ、あのフェリウスにここまで煮え湯は飲まされなかったはずだ。
そしてその転生がごとき生き写しが今、老雄の目の前に座している。
……口惜しくてたまらない。
何故このような男が、一番最後の子と生まれたのか。
何故このほどの大器が、近衛の女兵士との間に成ったのか。
火神の末たる灼煉眼、燃え盛る硫黄の金眼を、
「ですが王弟殿下という肩書きがあれば、間違いなく女子にはモテますが」
「……う」
……どうして『こんなの』が持っている。

「…………どうすりゃいいの? 具体的には」
ああ、釣れた、釣れちゃったよ。

「…問題だらけで何処から手をつけて良いのやら途方に暮れるほどですが、
さしあたっては振る舞いや言葉遣いを改めるのからでしょうか」
「ことばづかい?」
「……人前で鼻をほじらない」
「………」
「ズボンで拭わない!!」

 今でこそ堕落した帝国も、それでも200年前、300年前は興盛の限りを尽くしていた。
 権勢は領土の果てにまで及び、『蛮族』のレッテルを貼られた彼ら敗者は、
 奴隷として狩られて帝国の諸都市に連行、過酷な肉体労働に使い潰されたという。
 言葉は奪われ、信教は奪われ、文化風俗を奪われた。
 でもそれ自体はもういい、既に遠い過去の話だし、代わりに向こうから得た物もある。
 …帝国の為した功罪の一つが、実質大陸における言語の統一だ。

「まぁ確かに俺らもクラート(=北夷)も普通に帝国語話すけどさ」

 …とは言え、しかしそれらの言語が均一かつ画一的に野に浸透しているわけではない。
 方言、訛りとでも呼べばいいのか、例えば彼らオルブの話す帝国語は、
 帝都民が嗤う所の帝国南部の『田舎言葉』を、もっと粗野にした感じである。
 広大な領土の北で頻出の口語が、南では聞いたこともないなんてのはよくある話だ。
 東である意味を指す語句が、西では全く逆の意味で使われることもある。

 ……しかし百歩譲ってそれだけならまだいい。
 それでも人は普段から心がけて、持ちうる語彙の中から使う言葉を『選ぶ』ことができる。
 心優しい人間は柔らかい言葉を、粗野な人間は乱雑な言葉を。
 激昂したり、進退窮まった時に飛び出す罵倒で、育ちの貴賎が分かるのはこの為で、

「…つまり『ちんこ』とか『まんこ』とか、『キチガイ』とか『ビッチ』とか言うなってこと?」
「………」

……もう手遅れかもしれないなと、心中で匙をぶらつかせた。
どこで育て方を間違ったのだろう。
教育係として悔やんでも悔やみきれず先々代に申し訳が立たない。

…いや、散々きついこと言ってるが、本当は何処に責任があるのは分かっている。
親族親兄弟から臣下に至るまで全員が全員、
『どうせ一番権力争いからは遠い、歳の離れた末っ子だし』ということで礼を失し、
(少々手荒く)可愛がりに可愛がった、目くじら立てなかったのが悪いのだ。

下々の者らと泥んこになって転げ回り、ガキ大将やってた時点で止めるべきだったか。
怪我した虎の仔を何処からか拾って来て、飼いたいと言い出した時点で窘めれば良かった。
12歳にして初陣を迎え、その戦勝祝いですっかり部下達と意気投合、
未成年なのに酒を飲まされ、いい飲みっぷりを披露してた時点でやな予感はしてた。
成人の儀式の祝詞の最中、目を開けながら寝てるのを見た時点でもう諦めた。
夜街に出ては酒場で食事を奢り、部下を連れて娼館に入る。
『ヤバそうな安宿には近づいてないよ!』? ……そういう問題じゃねえ。

 

――もっとも男に言わせれば、何も特別なことはしてないつもりなのだ。

「だ、か、ら、要らねーっつってんだろがこんバカッ!」
「だ、か、ら、要らないでは済まされんと何度申し上げれば分かりますかこの洟垂がッ!」

出来るからする、面白いからやる、有利有効だからやる、道義に沿ってるからする。
出来ないからしない、つまらないからしない、無益無駄だからしない、道義に反するからしない。

「何処の世界に女とヤってる最中も傍で部下待機させとく上司が居んだよ!?」
「だから皇帝や王侯貴族ではそれが普通なんだと何度言わせれば!」
馬鹿じゃないの?とフツーに思う。
シてる最中にまで部屋内に近衛兵と侍女置けとか、頭悪いの?とかフツーに思う。
「だって普通に変態プレイだろ! 見られて感じるとかそういう趣味ねーよ!」
むしろ気が散るし、勃たない勃たない。
そもそも二人っきりでエロムードだからこそ、色々恥ずかしい事とかも言えんのであって、
それを冷静に第三者に全部観察されてるとか、普通に嫌だ、すっごい悶絶。

「ですが閨房が古来より暗殺率No.1、男が最も無防備になる瞬間だというのは
若だって重々ご承知でしょうが! ただでさえ相手は自分が討った将の妻ですに!」
ああほら、興奮して『若』とか言い出した。
「バーカ、そんなん首の骨へし折って窓からぶん投げ決定だろ。
伊達に虎素手で殴り殺してねーよ、そもそも廊下とか城門の警備優先しろっつの」
散々『成人してもう何年~』『いい加減大人に~』と言っておいてのこの言い草、
じいだって人の事言えないだろとも思う。

「…女は魔物と言いますぞ? 間諜よりもむしろこちらが厄介かと思いますがな。
酒、毒、火…刃と腕力だけが威力にあらず、幾人の王が房中に死したとお思いか」
「…んな気概がありゃ、とっくにフェリウスの爺も死んでるはずだけどな」
「いいえ、女は分かりません」
「………」
立志伝や英雄伝記の読みすぎはそっちもだろうが、とも、言えるなら言ってやりたい。

――何が『御身は玉体』だ、『上辺は諦めようとも内実は礼に則していただきますぞ』だ。
着替え係? 香油塗り係? 日を改めて文を贈り、花を贈って香炉を焚け?
女子供じゃあるまいし、服くらい自分で選んで着れる。
あまつ花なんて飾って香なんぞ炊いたら、それこそ娼館と変わらない。
…本当に、ちょっと幼い寡婦に夜這い仕掛けるだけだってのに、なんでこんな七面倒臭い。
死んだ部下とか上司の妻とか、身内の義姉相手なら不義密通だろうが、
幸い相手は攻め滅ぼして占領した敵国の女なのだ、世間的に何の問題があろう!(?)

「…ああ、わーった、わーったよ! 譲歩する!」
とうとう男は両手を上げて、素直に降参のポーズを取る。
「ご理解いただけま……」
「要はヤらなきゃ問題ないんだろ!? 会いに行くだけ、それならいいよな!?」
「……は」
一瞬綻びかけた老雄の顔が、皺が緩んだまま固まった。

「会いに行くだけって……どこの世界に夜女の部屋へ会いに行くだけの間男がいます」
何を馬鹿なこと言ってるんだという風に言ってやったのだが、
「いや、最初に『虐待受けてたっぽいから無体なことすんな』って言ったのお前じゃんか」
逆にお前こそ何馬鹿なこと言ってるんだという表情で返された。
「それに嫌がる女を無理矢理ってお前、普通に男も痛いだろ、絶対濡れてる方がいいだろ。
折角の歳が近い美女で、一期一会でなく時間も余ってんだ、『急がば廻れ』って知ってる?」
「…それはまあ……そうですが……」

久々に正論。
手っ取り早くて金も暇もない時に便利だけど、失敗のリスクも高いのが強姦なんだよな。
相手がドMだとか、実は両思いだったとか、そういう場合は後からの関係修復も可能だけど、
基本的には一回限りの使い捨て、高確率で心も関係も大破全壊するから困る。
(よっぽどテクに自信あるならともかく)素人にはオススメできない。

「だからまずは『お友達』からに決まってるじゃねーか。馬鹿なの? 常識的に考えようよ?」
「………」
でもなんだろう、この納得のいかなさは。

「……思いっきり抵抗されたらどうするんです。物投げられたりとか」
「そりゃお前、机の影に隠れたり、部屋の隅から優しく語りかけたりとか、臨機応変に」
「………」
猛獣か何かと勘違いしてるんじゃないかと思う。非常識なのはどっちなんだか。
「床は絨毯敷いてあるんだし、外での野宿よりは寝やすいだろ。
まずは男は怖くないってことから判って貰おうと思ってる、当面の目標は添い寝かな」
布団に入れてもらえない覚悟まで決めてるとは実に見上げた根性だ。
もう侵略した側のプライドないね。

「……『陵辱』、ナメてませんか?」
「『陵辱』って、文贈って花贈った後香炊きながら他人に見られてやるもんだったんだな」
「………」
「………」
――なんというグダグダ。
成り上がりの野蛮人風情が、お貴族様の真似事しようとするからこうなる。
誰の目にも分かる、この二人は間違いなく聞き伝えの見様見真似。

沈黙。
やがて老従の方が諦めたように、盛大に肩を落として溜め息をついた。
「…まぁ、しかし確かにそうでしょうな。ロア様に強姦陵辱なんて出来るはずもなし」
そうして急に臣下らしくない胡乱な片目で、仕えるべき主を横目に見る。
「素人になんて無理矢理どころか、濡らしてでも挿れられないくらいですから。
そう思えば歳の程が変わらぬ美貌の『未亡人』に、ご執心なさる気持ちも判る」
「……なんだよ」
実に引っかかる言い方に、僅かに男の目つきが険しくなり、
「ですがそんな奥手で悠長だから、許婚を兄上様に寝取――」
「おい!」
初めて表情に余裕の無い、目に見て取れる怒気を表した。

どんなに余裕めいた蛮勇にも、一つくらい突かれると痛い弱みはある。
ましてやそれが、男の尊厳に関わることともなれば尚更だ。
――『過ぎたるは尚及ばざるが如し』。

「しかし、事実は事実でしょう。
…竜雄にありて、短小にして種薄きは国傾き、長大にして種濃きは国栄えると言えども、
万事物事には限度があります。…挿れられぬのなら、まだ入る分短小の方がマシかと」
言葉の上辺こそ高尚難解だが、言っている内容は下品の極み。
「うるせーよ馬鹿。不敬罪で首ちょんぎるぞ?」
流石に本気で首を撥ねられることはないと、分かった上での暴言だったが、
それでも目に見えて不機嫌になった主上に対して、老爺や慇懃無礼に頭を下げた。
「これは失礼をば、いささか臣下の礼を失したようですな」
そうして、急に口調を一変させる。

「ではお詫びと言ってはなんですが、兵に命じて速やかに奥離れを人払いさせましょう」
「……あ?」
耳の穴かっぽじってそっぽを向いていた男が、予期せぬ言葉に振り返った。

「姫君と密会したいのでしょう? こんな時に権力濫用しなくていつ濫用しますか」
「…え、いや、権力濫用って……おお?」
突然180度反転したお目付け役の態度に、きょとんとして要領得ないらしい主君。
老従はおもむろに頭を上げると、今度は真顔でそんな主を見た。

「…というか、どうなさるつもりだったんです。平時ならともかく今占領中ですぞ?
奥離れに軟禁と言っても、かの御仁の傍には侍女や監視の兵が粛々と控えています。
本気で単身忍び込めるとでも? 二人っきりとか常識的に考えて無理ですが」

さっき『馬鹿なの? 常識的に考えようよ?』とか言われたのがよっぽど癪に障ったらしい。
『常識的に』のところをやたらと強調しつつ、主君の考え無しを指摘した。
……この主君にしてこの臣下、この教育役にしてこの殿下。

対して男は、『えー』とか言いながらポリポリと頭を掻きながら、
「…え、いや。…昼間上がれそうなとこ目星つけといたから、バルコニー伝って窓か――」
「どこの泥棒猫ですかあんたは!」
『んー』とか言いつつのこの言い草、流石に老爺も大声を上げる。
「それにさっき言いましたよう、そもそも向こうは部屋付きの侍女が侍っとります。
どう追い払う気でしたか、向かって来られたら窓から投げ飛ばすんですか!」
ただでさえ落城直後の占領下、する側もされた側もピリピリなのだ。

「それはまぁ、こいつで適当に脅して追い払っ――」
「大騒ぎですよ! 間違いなく確実に大騒ぎですよ!!」
「……じょ、ジョーダンだって、はは」
笑顔で腰の蛮刀を掲げて見せる主君に、頭痛が込み上げるのを抑え切れない。
というか、やってただろうという確信がある。
……本当に忍び込むまではいかないだろうが、警戒網の限界点まで接近した後、
無理だと舌打ちして引き上げるぐらいまではやってただろう。

今でこそ栄えある重騎兵隊の将師だが、
仕官後最初の三年間は、誰もが平等に通る下積みとして帝国南端の山林部に座し、
帝国の商隊や輸送隊の襲撃、野盗化した脱走帝国兵の討伐を務めていた。
(と書くと聞こえはいいが、要は国を挙げての帝国軍狙いの山賊行為だ)
家庭教師こと軍師として付き従い、将来敗走した際の生存技術の教授も兼ねて、
シビアな遊撃戦術のイロハを叩き込んだのは他でもない老雄。
可愛いからこそ実戦戦術の全て、罠の仕掛け方や痕跡の消し方、『獲物』の狩り方、
待伏・伏兵の辛さ苦しさと、それに反比例する奇襲成功時の快感等、
およそ王弟殿下が知る必要ない、山賊的な諸々を教え込んだのは彼自身だ。

「…お貸しください」
「お?」
その罪滅ぼしというわけでもないが。
「…確かにお預かりしました」
「ん」
主君の蛮刀を両手に預かる。
…剣を預け預かるという関係が、一般的な王家で何を意味するかはさて置くとして。

「夜はまだ早い。半刻ほどお待ちいただければ、お望み通りの場を仕立てましょう」
「……おー」
剣を手にうやうやしく礼した老僕は、見事にこの場を取り繕って見せた。

……ただ、少なくとも老雄自身はそう思ったのだが、
「もう何も申しますまい。ロア様に何を言っても無駄なのは、臣とてとっくの――」
「ははーん、分かった分かった」
そう思っていたのは老雄だけだったらしい、水魚の交わりは相互いを知る。

「じい、お前てっきり俺が『強姦』しに行くと思って、必死で止めようとしてたわけか」
「……!!」
馴れ馴れしく肩に手を置かれニヤニヤ笑われれば、ギシリと隻眼を固まらせもする。
「やっさしっいなー、なんだかんだ言ってお前も女子供には甘いもんなぁ」
「べ、別にそういうわけで言っていたのではありません!」
無骨で気難しい老人なだけに、反応は素直なものではなかったが、
しかし真意を見抜いてもらえ、師として臣として嬉しい部分もありで――
「ただ私は、ロア様には君子として道に外れぬ行動をして欲しいと、ひとえにそう……」
「はいはい分かった分かった、外れない外れない」
――ツンデレ! ツンデレ!
「…ッ、とにかくです!」
ゴホンと咳払いし、面目を保つと、格調を引き締める。

「…ロア様はここしばらく昼夜問わずして働き詰めでしたからな、ご褒美です。
明日の早朝訓練と午前中の政務は出席しなくていいですぞ」
「……って、ええ!? じいどうしたよ? 何か悪いもんでも食ったのか!?」
別に悪い物を食べたわけではないが、とりあえずこれは当然の休暇だ。
入城より連続してのここ十日程の激務に次ぐ激務、
周囲に呆れ叱られながらも、真面目に戦後処理に挑み、それを一段落つけたのだ。
「件の御仁の取り巻きの侍女達は、明昼まで臣が何とか抑え込みましょう。
お二人で朝の林を散歩するなり、城の中を案内してもらうなり、
しっかり二人っきりしてくださいませ、どうせ手紙も詩歌も楽器もダメなのですから」
「至り尽くせりじゃねーか、どういう気の変わりようだよ?」
若くて体力が有り余ってるのはあっても、初三日のほぼ徹夜などキツかったろう。
戦陣にあっての部下の手前、遠征開始以来酒も女も弁えて久しい。
…多少の破目の外しや女遊びくらい、許して然るべき休憩だ。

「ただし城外に出るのは無しですぞ。繰り返すようですが『強引に』も絶対……」
「分かってる、だから分かってるけどさ!」
だというのにこの主君と来たら、子供のように目を輝かせて興奮し、
「メチャクチャ甘やかしてない珍しく俺のこと? 本当に仕事サボってもいいの?」
…なんてのたまうんだから、少々哀れにも思えてくる。
人の上に立つ者として、雑兵よりも尚人一倍働くのは当然とは言え、
流石に「馬鹿だ」「未熟だ」「甘えなさるな」と、少々尻を叩き過ぎたかとも思うのだ。
…否、そもそもこういう風に思ってしまう時点で、自分は主に甘いのだろうか?
「何を言いますか、これとて立派な仕事です」
――老人にはよく分からない。

「…真面目な話、侵略する側とされる側の両頭が融和合力するに損はなしです。
城内における旧臣も、フェリウスには恐れ慄く一方かの方には同情の念が強いようですし、
これを擁護して丁重に扱い、将でなく個として友誼を深めるは緊張緩和と吸収の一手。
同時に我々が道義を持つを内外に示し、捕縛した敵諸将を下らせる一助にもなりましょう」
「うっわ前言撤回、やっぱりじいはじいだったわ。何その打算の雨霰」
「兵は詭道ですからな」
ともあれ主君の休暇と娯楽が、また仕事にも繋がるのならこれ以上幸いなこともなし。

 なにせ今回の戦争は、民族やら主義やら宗教の絡んだ凄惨な殲滅戦争ではなく、
 実に蛮族らしい征服戦争、自国を広げ富ますための戦争だからだ。
 略奪や強姦を軍規で厳しく禁じつつ、『平民』『農民』を積極的に宣撫保護する一方、
 腐敗した『貴族』や『官吏』を一掃したのは、別に勧善懲悪のためではない。

 未だ帝国の領土は広大で、総合的な国力では此方が圧倒的に負けている。
 真っ先に最脅威である南領の要ヴェンチサを、全戦力集中して速攻で落としたのは、
 帝国の混乱を狙うのもあるが、山越え後の橋頭堡を築くためでもあった。
 要塞化の予定上、戦争で痩せ衰えた畑を耕し直す必要があるし、
 城砦を建設するための労働力も欲しい、その為には何よりもまず民心が要る。
 故にこそ全身全霊で民草に媚び入り、糧食を分け与えてまで融和を図ってるのだ。

 でないと安心して兵配置できる、前線基地領が手に入らない。
 更には今後30年の帝国分割を考えた際の、安定した兵站、後方領が手に入らない。
 どっかの隊が馬鹿やって略奪なんてのこそが、最も阻止するべき最悪の事態だ。

そうして、他にも問題がある。
「また、ロア様も今や一躍時の人、綺羅星の大戦果も挙げてしまいましたからな。
ここだけの話、もう一月もすれば本国、下手すると包囲網参加の諸勢力からさえ、
逆求婚や縁談の申し込みが殺到する恐れがございます」
「……もう来てるよ包囲の内から。…今まで無視ってた癖にムカつくよなー」
一躍有名になった英雄特有の、よくある問題の発生というか。
『少年と言っても差し支えない若さであのフェリウスを敗死に追い込んだ』とか、
『民と同じ目線に立って戦う先代盟主の末子』なんて噂が本人の意思無視で勝手に暴走、
ちょっとしたカリスマっぽいことになってきちゃったのだ。
――これが身一つで乱世に覇を立てんとする稀代の野心家だったなら、
ここでニヤリとほくそ笑んだのだろうが、生憎と男はそうでない。

「ご自分でも分かってらっしゃるよう、ロア様は母方の後ろ盾がございません。
…そういうのに組み込まれたら一環の終わり、間違いなく権力争いの駒に使われます。
兄姉様方に泣く泣く斬られたくなくば、妙な縁故は作らぬに越したことはない」
「…頼むからそういう話は昼だけにしてくれよ。俺だって頭痛いんだよ」
――どうやって二心がないことを証明しよう。
珍しく情けない声を上げる横顔は、しかし間違いなく『愛されて育った末っ子』のそれだ。
乱世の英雄の相こそ備えど、奸雄タイプというよりは忠臣タイプ、
家族へ信仰にも近い忠誠を捧げ、出自と国土を愛せるからこそ、男は強く、無欲でもある。
民に裏切られても、兵に裏切られても、
それより尚強い『血の絆』の存在を信じれるからこそ、それを拠り所に立ち上がれる。

『俺は一生中立だよ~、兄貴姉貴達一筋だよ~、叛意を持つとかとんでもないよ~』
『ホントすんません! 調子乗ってないッス! マジ兄より優れた弟なんていないッス!』
――という自分の魂の叫びを、ビシッと表明するにはどうしたらいいか。
そんな悩みと共に男は忠臣の顔を仰ぎ……

「いえ、その点これは本当に……よく考えてみれば本当の本当に、悪い話ではない。
『墜とした敵国の領主の寡婦に熱を上げた』、『討将の若妻との不器用な恋』。
英雄色を好む、あのフェリウスの妻を寝取ったともなれば古老共の手前面目も立ちましょうし、
何より民や兵が若いなとニヤつきそうな色話、それでいて女側の後ろ盾も実質皆無ッ!」
「うあぉっ!?」
だが直後猛然と肩を掴まれ、男は思わず勢いに息を詰まらせた。
……鬼気迫る老僕の真顔が怖い。

「…一月、いえ三月かかっても構いませぬ。…その代わり絶対に篭絡せしめなされ!」
「ちょ」
ガクガクと肩を揺さぶられ、さしもの男も悲鳴を上げる。
「あわよくば御子も! このままでは初子もないまま20の大台に突入してしまいます!」
出たよ必殺、じいやの『早く御子の顔を見せてくだされ』モード。
「先代も先々代も16の夏には初子を設けていたというに、若と来たら…!!」
「は、話を膨らますなよ! 俺はもっと気楽に――」
「だから許婚を破瓜どころか膣断裂で大事に至らせた上寝取られたのは何処の誰かと!」
「――!!」
のうりに よみがえる ひどい とらうま。
「『処女』を選択肢に加えられないせいで、臣らがどれだけ本妻選びに苦労しているか!
出戻りは大抵しがらみか曰く付きだし、たまにまともなのがあってももう30近くだしで……」
「うるせえええええええッ!!」

 『大艦巨砲主義』は漢のロマンだが、現実には『機動運用主義』に敗北した。
 『万単位の大軍』もまた漢のロマンだが、これも同様に『千単位の精鋭』によく負ける。
 見目の威容は無知な雑兵を圧倒し、為政者の見栄と体面こそ満たされるにせよ、
 人の身に使いこなせぬなら意味がなく、身の程に余るのなら非効率の極みだ。
 居ないわけではなかろうも、万軍を御せる大将器など、そうそうそこらには溢れない。
 現実を知らない統治者が、ロマンに夢馳せるのは勝手だが――
 ――それで悲惨を極めるのは、大抵それに付き合わされる現場の現実だ。

「叫んでも無駄です。現実と戦いなさいま――」
「そりゃ俺だってな! 誰の物にもなってない新品娘を自分の色に染め上げたいよ!」
愉しむどころか満足に事に及べる相手さえ、なかなか見つからないのは辛い話だ。
事に持ち込むまで手間隙を労し、でもいざ脱いでみたら『ごめん入らない』なのは悲しい事だ。
「たまには俺の方が主導権握りたい、経験不足な女弄んでみたいよ!
清楚で可憐で健気な同年代と、しっぽりイチャイチャ逢引しながらも語らいたいよ!」
生まれついての大王であるならば、民からの搾取にも悦を見出せようが、
生憎と男は生来が卑しい、激痛に泣き叫ぶ女を前に、剛直を維持できる程の酷薄でもない。
「でも無理なんだよ! 誰だよ『大きい事は良い事だって』一番最初に言った奴!!」

だから一刻後に自分の望みが叶うとは知らず、顔を真っ赤にして憤った。
…王族の座以上に魅力と映る愛玩動物が掌中に収まるのは、まさにその夜の話なのだが。


<終>

 

 

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最終更新:2008年12月27日 06:11