記念祭三日目。
セシリアは、エルドに会うため、早々に王宮入りを果たしていた。
一晩あれこれと悩んだ結果、彼に全てを打ち明けることが最適のように思えたのだ。
何しろ、エルドはこちらの厄介な婚約の事情について知っている。
ついでに、わからなかった言葉の意味も質問してみよう、とセシリアは考えていた。

侍従長から、第三王子が厩舎に居ることをさりげなく聞きつけると、
セシリアは、勇み足で目的地に向かった。
中庭を横切ろうとしたときだった。
突然、彼女の視界の端に桃色の物体が飛び込んできた。

――鞠だ。

セシリアは、反射的に手を伸ばし、それを受け止めた。
一人の少年が、息を切らしながら、駆け寄ってくる。
「セシリア!」
「あら、ロビン」
それは、ユーリ陛下の末息子にして第四王子のロビンだった。
彼の後ろから、二人の従者も走ってくる。

「ありがとう」
ロビンはそう言って、両手を差し出した。
「これは……」
この鞠は、かつては私の物だったのよ、と言おうとして、セシリアは止めた。
今は、ロビンの物なのだろう、と思い当たったのだ。
無言で、桃色の鞠をロビンに渡した。

「ずいぶん背が高くなったのね」
セシリアは実の弟を見守る感慨で、栗色の頭を撫でた。
色はエルドによく似ているが、髪質はもっと硬かった。

「そんなに伸びてないよ」  ロビンは、首を振る。
「セシリアがちっとも後宮に来てくれないから、わからないだけだよ。前はよく来てくれたのに」
無邪気な声には、ほんの少しの非難が混じる。
そういえば、成人してから後宮に行く機会はめっきりと減っていた。

「あら、ごめんなさい。それでは、近い内にあなたがたに会いに後宮へ伺うわ」
「うん、きっとだよ」
ロビンは嬉しそうにぴょんと跳ねた。
それから、何かを思いついたようにセシリアを見上げた。

「ねえ、セシリア。もう一つお願いがあるんだ」
「何かしら?」
「エルドも一緒に連れて来てくれる?」
「エルドですって?」
どうして、誰もかれもエルドのことを話題に出すのだろう。

「うん。セシリアからエルドを誘ってみてよ」
「まあ。どうして、私が誘わなくてはならないの?」
「だって、セシリアだったら、エルドに何でも好き放題、無理難題を言い放つことができるじゃないか」
「そ、そうかしら」
屈託のないロビンの答えに、セシリアは、がくりと肩を落とした。
幼い彼の目には、自分たちは、どんな風に映っているのだろう、と考えてみるが、
理想的な関係に見えていないことは確実のようだ。

「私たちは、あなたにとっていいお手本ではなかったわね」
言い争いに終始していた過去を振り返り、セシリアは仕方ないわ、とため息をつく。
すると、幼い少年は満面の笑みを作った。
「僕は、エルドとセシリアの口喧嘩を子守唄がわりにして寝ていたんだって。ばあやが言っていたよ」
ロビンの顔は、まるで大切な宝物を守っているように幸せそうだった。
「まあ、そんなのばあやの冗談よ」
セシリアは頬を膨らました。
「だいたい、エルドに来てもらいたいなら、あなたから誘えばいいのよ。
 一緒に遊びたい、なんて無理なお願いでも何でもないわ」

「……僕は、別にエルドと遊びたいわけじゃないよ」
その途端、ロビンは気まずそうに目を伏せた。
セシリアは「どういう意味かしら?」と首をかしげる。
ちらりと従者たちに目を遣ると、つんと澄ましていた彼らの一人が、おもむろに切り出した。

「ロビン様は、お兄様に告げたいことがあるのです」
「告げたいこと?」
もう一人の従者も、熱心に言い募る。
「そうです。昨日の武芸競技大会にエルド様は参加していたでしょう? その件につきまして少し―――」
そこで、従者は思わせぶりに言葉を切ったので、セシリアの興味はいたずらに煽られる。
「彼が大会に参加したのは、やはり何か意味があってのことなの?」

従者の一人は、こほんと咳払いをすると、いそいそと話し出した。
「あれは、つまりエルド殿下が、軍部入りを希望しているということですよ」
「軍部入り?」
セシリアは、かすれた声で呟いた。
「それじゃあ、エルドは軍官になるの?」

「ほぼ間違いないでしょうね。だいたいエルド様の出自を考えたなら―――」
「黙れ!」
突如として、幼い声が遮った。
「セシリアは関係ないんだから。それ以上、お前たちは変な話を吹き込むな」

振り返ると、ロビンは、鞠を抱きしめ、口を堅く結んでいた。
どうしてなのか、その様子はとても痛ましく見えた。
「ロビン」
深く考えもせずに、セシリアは、第四王子の手を取り、従者たちから引き離した。
「少しあちらの庭を散歩しましょうよ」
わざとらしいくらい朗らかに誘いかけると、
不思議そうに目をきょろきょろさせたあとで、ロビンは大きく頷いた。

薔薇が咲き乱れる庭園を、セシリアとロビンは歩いた。
木々は鮮やかな緑の衣を纏い、道沿いは、スミレやプリムラの絨毯で覆われている。
暖かな木漏れ日と爽やかなそよ風は心地よい。
しかし、後ろから一定の距離をあけて付いてくる従者たちが気になってならなかった。

もちろん、先日の不審者が侵入した事件のことを考えると、宮中といえども、安全だとは言い切れず、
幼い王子が一人で出歩くものではないとわかっている。
それでも時代は変わったものだ、とセシリアは懐古にふけった。
自分が幼いときは、お目付け役なんて持たずに、城の庭という庭を駆け回っていたというのに。

「ねえ、ロビン」
イチイの木のアーチを潜り抜けたとき、セシリアは、ロビンに囁いた。
「エルドが軍部に入りたいって本当なの?」
確かに、武芸競技大会は、軍部に入隊することを希望する若者たちにとっては、
軍の幹部に自分の活躍を披露できる、いわば登竜門という側面も持っている。
だが、セシリアはエルドが軍官になるなんて到底、信じられなかった。

「そんなこと、わからないよ。僕はエルドのことを何にも知らないんだから」
そう言って、ロビンは、鞠を真上に放り投げた。
もうその話はしたくないという合図のように見えて、上下する鞠を目で追いながら、セシリアは次の質問を探した。

「あなたは、エルドに何か告げたいことがあるの?」
「――というよりも、訊きたいことがあるんだ」
丸い鞠は、宙に舞い、そして、ロビンの手元に落ちていく。
「でも、エルドはきっと俺なんかに会いたくないよね」
そう言って、幼い少年は何でもないことのように笑った。
子供らしくない笑顔だった。この年齢にして、周囲に気を遣い、全てを諦めているような。

「あなたの従者たちが、そんな益体もないことを吹き込んだの?」
セシリアは、ちらりと背後を確認する。少なくともあの者たちは、エルドのことを快く思っていないようだった。
問われても、ロビンは否定せずに苦笑するばかりで、鞠を再び投げた。
自分で投げ、自分で受け止める。
そうやって、ずっと一人で遊ぶことに慣れているのだろうか。

「あなたは、自分のお兄さんのことを誤解しているのよ」
「誤解?」
「そうよ。エルドは、確かに無愛想な奴だけど、弟のあなたのことを大切に思っているわ」
「……そんな慰めいらないよ」
ロビンは、無表情のまま鞠を投げ続ける。
「慰めなんかじゃないわ」
セシリアは一歩も譲らなかった。

エルドのことを何も知らないのは、セシリアだって一緒だ。
ランスロット=ベイリアルが守りたいと言ったエルドも、
コートニーが一瞬にして心を奪われたエルドも、セシリアにはよくわからない。
けれども、自分にだってわかることがあるのだ。

「あなたが生まれたのは夏だったわ。よく覚えている」
そう。新しい王子の誕生に、宮中は大騒ぎだったのだ。
「あなたが生まれてすぐのとき、エルドと二人で、あなたの顔を見に行ったことがあるのよ」

どんな経緯で、エルドと同行することになったのかは忘れてしまったが、それは事実だった。
ロビンの部屋の大きな扉の前で、幼い日のセシリアとエルドは顔を見合わせた。

『エルド。ねえノックして』
『何で俺が、リアがしろよ』

すっかり日常になった言い争いが始まる。
その声を聞きつけたのか、扉がそっと開かれ、乳母が顔を出した。

『今、ちょうどお休みになられたところですよ。お静かに』
口元に人差し指を当てながら、彼女は言った。
『ばあや。赤ちゃんを見てもいいでしょう? 静かにしているから』
セシリアが懇願すると、乳母は扉を大きく開き、二人を中に入れてくれた。

ミルクの匂いが漂う室内の中央には、ヴェールが垂れ下がり、その下に、籐の揺りかごが置かれていた。
わくわくしながら、その中を覗き込むと、幼い王子が、すやすやと寝息を立てていた。
なんと愛らしいのだろう、とセシリアは感動する。まるで全ての幸福の象徴のように思えた。

『あなたの弟よ』
一人っ子のセシリアはうらやましくて、隣にいる少年に囁いた。
すでに兄も姉も、妹までいるのに、エルドは弟まで持つことができるのだ。
『……そうか』
エルドは赤ん坊をじっと見つめた。
そして、おっかなびっくりといった感じで、壊れそうなくらい小さい指を触った。


「―――あのときのエルドはとても嬉しそうだったわ」
セシリアは心を込めて言った。ありふれた陳腐な言葉に聞こえないように、と願いながら。
「あなたの誕生を、エルドは心の底から喜んでいたの。慰めなんかじゃないわ」

その瞬間、ロビンはセシリアの正面に向き直った。
受け取り損ねた鞠は、地面の上を跳ねて、茂みの中に消えていく。
「……それは本当?」
少年は、瞬きを繰り返した。その目の奥がきらりと光る。

セシリアは肯定するかわりに、ロビンの指をぎゅっと握った。
あの頃に比べたら、ずいぶん大きくなった手のひらだった。
それでも、彼はまだ八歳で、ほんの子供で、もっともっと遊ぶことが必要なのだ。

「待っていてちょうだい。
 記念祭が終わって、落ち着いたら、エルドを連れて来てあげるから」

 

厩舎にて、第三王子エルドは、愛馬のレディ・シャルロッテにブラシをかけ、
昨日行われた武芸競技大会の健闘を労っていた。
何しろ、初出場の大会で善戦できたのも、彼女に寄るところが大きかったのだ。

「お前は最高の名馬だよ」
エルドはシャルロッテに優しく囁きかけた。
「あの大会の中で、お前はどの馬よりも美しくて、しなやかだったぞ」
褒められて、彼女は満足そうに、大きな顔をエルドの身体に擦りつけた。

そのとき、厩舎の戸が開く音と足音が響いた。
「リア」
エルドはすぐさま相手の名前を呼んだ。振り向きもしなかった。
「あら、よくわかったわね」
残念そうで、少し拍子抜けしたような少女の声が返ってくる。
「ここから見れば、誰が厩舎に来るかわかるんだよ」
そう言って、エルドは前方にある小窓を示した。そこからは、窪地にあるここまで続く道が見渡せるので、
エルドは馬の世話をしつつ、身辺に気を配っていたというわけだ。

「ふうん」
金色の頭が、エルドの隣に並び、丸い小窓を覗きこんだ。
その横顔や胸のふくらみに、ついつい目を遣りながら、何となくエルドはセシリアから一歩離れた。
彼女に会うのは、一日ぶり、自分の寝室で慌ただしく別れたきりだった。

「リア、あのさ……」
そう言いかけて、エルドは口ごもる。彼女に訊きたいことは山ほどあったのだ。
それなのに、こうして目の前に本人が現れると、本当に伝えたい言葉はどこかに消えてしまう。

「わざわざ、こんなところまで何しに来たんだよ」
冷淡なエルドに、セシリアはどこ吹く風だ。
「あら、いいじゃない。シャルロッテに会いに来たのよ」
そう言って、彼女は、エルドの愛馬に手を伸ばし、そのたてがみを撫でようとする。
しかし、シャルロッテは乱暴に身震いし、セシリアの手をはねのけた。

「きゃっ!」
バランスを失ったセシリアはよろけて、干草の山に倒れこんだ。
「珍しいな。シャルロッテは人見知りしないのに」
「……私は嫌われているのかしら」
セシリアは、ショックを受けたようで、しょんぼりする。
いい気味だ、とエルドは思わずにいられなかった。

「リア。お前は、好意には好意が返ってくると信じているんだろう」
「え?」
セシリアは虚をつかれたように、エルドを眺める。
その、ぽかんと開かれた唇に、角砂糖を押し込んだ。

「……甘いわ」
驚いたように目をしばたかせ、セシリアは唇をなめた。
シャルロッテのための角砂糖だよ、と告げると、さっきまで落ち込んでいた顔は、嬉しそうにほころぶ。
単純な奴だ。
一方で、愛馬に同じものをやろうとすると、
こんな娘と同等の扱いを受けるなんて我慢できないと言いたげに、鼻を鳴らして無視された。

また持ってくるから、と愛馬を宥めていると、背中に強い視線を感じた。
振り返ると、公爵令嬢は、干草の上から熱心にこちらを観察していた。

「どうしたんだ?」
「あなたを見ているのよ」
「―――どうして?」
「だって私はあなたのことを何も知らないんですもの」
セシリアは秘密めいた笑みを浮かべる。
エルドは、やれやれと思いながら、彼女に再び近づいた。
本当は思い出したくなかったのに、脳裏に、二晩前のことがよぎる。

『―――私はいつも自分のことばかりで、あなたのことをちっとも見ていなかったわ』
あのとき、泣きそうな表情の彼女を笑い飛ばすくらいすればよかったのに、どうして慰めてしまったのだろう。

「それで俺のことはわかったのか?」
エルドは、壁に手をつき、セシリアを見下ろした。
彼女は上目遣いにこちらを覗き込む。アーモンドのような瞳に吸い込まれそうだった。

ねえ、と形のいい唇が動いた。
「これは賭けてもいいけど、あなただって私のことをきちんと見たことがないはずよ」
「……何だよ。それ」
ずるい言い方だ。彼女の言う通りに肯定するのは癪だし、
かといって否定すれば、「セシリアのことをきちんと見ている」という意味になってしまう。

返答するかわりに、エルドは、親指でセシリアの唇を撫でて、試すように鼻先を近づけた。
ほんの少しでもいいから、彼女をたじろがせることを期待して。

でも次の瞬間には、もうセシリアの方から顔を近づけていた。
エルドの唇に柔らかい吐息がかかる。
そっと舌を入れると、セシリアの中は甘い砂糖の味がした。
そして何も考えられなくなってしまうのだ。
しばらくのあいだ、二人は、動物が互いの匂いを嗅ぐように、顔を寄せ合った。

唇が離れると、セシリアはエルドの首筋にすがりつき、ほらね、と囁いた。
「私のこと見ているよりも、キスしている時間の方が長いじゃない」
「仕方ないよ」
エルドは、セシリアの頬に手を添え、こちらを向かせた。
「お前のうるさい口を黙らすのに、これほどいい方法はないんだから」
そして、また唇を重ねるために、彼女に後頭部に手を回そうとした。

けれども、そのとき、白い頭がにゅっと二人のあいだに割り込んできた。
「きゃっ!」
セシリアが驚いたように飛びのいた。
「シャルロッテ!」
エルドも驚いて立ち上がると、
愛馬は、ふてくされたようにカラス麦の飼い葉桶に顔を隠した。

「どうしたのかしら?」
彼女は不思議そうにシャルロッテを眺めた。
小窓から差し込む一筋の光が、王冠のようにセシリアの額を照らしていた。
エルドは、決まり悪くなって、無言で床に放り出していたブラシを拾い上げた。

「―――それで、結局お前は何しに来たんだ?」
シャルロッテの体を梳きながら、再びその疑問を口にすると、
「ええと」という呟きが聞こえてきた。

「実は、質問したいことがあったのよ。
 あなたは私に何でも教えてくれるって約束してくれたでしょう」
「……そんな厄介な約束した覚えは一切ないんだけど」
「でもあなたに関することなのだから知っているに決まっているわ」
「俺に関すること?」
「ええ。『童貞』の意味を教えて欲しいの」
エルドは危うくブラシを落としかけそうになった。

「エルド? どうしたの?」
「お前、どこからそんな言葉……」
「マリアンヌが言っていたのよ。あなたが童貞に違いないって」
「お前たちは、一体、どういう会話をしているんだよ!」
思わず声を荒げると、セシリアは目を丸くした。
「そんなに変な言葉なの?」

「……変というかさ」
変なのはお前だよ、という呟きはかろうじて飲み込んだ。
どこから突っ込んでいいのか迷いつつ、エルドはとりあえずセシリアの誤解を解くことする。
「マリアンヌは間違っている。俺は童貞じゃないよ」
「まぁ、そうなの?」
「というか、そのことをリアが一番よく知っていると思ったんだけど」
「あら、どうして私が?」
セシリアは本当に不思議そうに首をかしげる。
わざとではないとわかっていても、エルドは面白くなかった。

「だってお前が―――」
心のどこかで、やめとけと叫ぶ声が聞こえたが、すでに勢いは止まらなかった。
「リアが、俺の童貞を奪ったんだから」
「え?」
鳩が豆鉄砲をくらったように、セシリアはぽかんとするので、
エルドはもっとわかりやすい言葉を探した。
「つまり童貞というのは、男性に使う処女という意味だよ」

そのときのセシリアの表情は見物だった。
エルドの顔をじっと見つめ、何度も何度も瞬きを繰り返す。
けれども、最近身をもって処女を失うことを体験した彼女は、何かに思い当ったらしい。
「つまり、童貞とは――」
出題された問題を解くように、セシリアは慎重に言った。
「性交渉したことが一度もない男性ということ、なの?」
「よくできました」
白けた気分でエルドが言うと、セシリアの顔は、さっと青ざめた。
「じゃあ、マリアンヌの言ったことは、当たっているじゃない!
 私が、あなたに強要しなかったら、あなたは今でも童貞だったに違いないわ」

どうして、そんなにきっぱりと言い切るのだろう、と複雑に思いながらも、エルドは「かもな」と頷いた。
「でも、そんなことどうでもいいだろ。
どうせ、マリアンヌだって、軽口を叩いたに過ぎないんだから」

「いいえ。マリアンヌは大いに気にするわ!!」
居ても立ってもいられないというように、勢いよくセシリアは立ち上がった。
「よりによって、私が、彼女の計画を台無しにしてしまうなんて!」
「計画? 何のことだ?」
エルドは鋭く追及する。
しかし、セシリアは小窓の方向に視線を遣ると、そのまま動きを止めた。

「リア。聞いているのか?」
尚も問い詰めようとすると、彼女は、ようやく搾り出すように声を発した。
「……マリアンヌが」
エルドが小窓から外を確認すると、
姉のマリアンヌとその友人が道を辿って、こちらにやって来るのが見えた。
「―――どうして、あいつがこんなところに?」
セシリアが訪れるのも珍しいことだったが、姉が厩舎を訪れるなんて、天変地異の前触れのような気がした。

公爵令嬢は、エルドの服の裾を引っ張った。
「エルド。隠れなきゃ」
「隠れる?」
「私があなたと一緒にいるところを見られたら、マリアンヌはどう思うか……」
「喧嘩していると思うんじゃないか」
昔から、二人が言い争いをしていると、彼女は仲裁役に回ったものだ。
といっても、マリアンヌの仲裁は火に油を注ぐようなもので、喧嘩はますます悪化していくのが常であったのだが。

「わかってないわ」
セシリアは呆れたように首を振り、先ほどまで自分がいた干草の山をかきわけ始めた。
「リア? 何しているんだ?」
エルドが驚いたことに、セシリアは、その中に身体を埋めようとしていた。

「おい、そんなことすると臭いが移るぞ」
「構わないわ」
セシリアは干草の束を自分の身体にかぶせながら言った。
「臭いがついたら、落とせばいいだけじゃない。
 でも、マリアンヌの信頼を失ったら、永遠に取り戻すことは不可能よ」

ともかく、エルドは、干草の束をかぶせ、彼女が隠れるのを手伝った。
「ときどき、お前の頭の中を覗いてみたくなるよ」
そう独りごちてから、
いや、何も知らない方が精神を良好に保っていられるのかもしれないな、と考え直した。

そして、また厩舎の戸が開いた。
「ごきげんよう、エルド。お久しぶりね」
第四王女マリアンヌは、弟に向かって、微笑んだ。
その背後では、彼女の腰巾着であるエリオット=ベイリアルが、へらへらと笑っている。
まるで人をたばかる二匹の狐のようだ、とエルドは思った。

「何の用事だ」
「まあ、挨拶もなしなの? 嘆かわしいわ。我が弟君は、最低限の礼儀も知らないのだから」
マリアンヌがわざとらしくため息を漏らした。
「前置きはいいから。さっさと用件を言ってくれ」

エルドは、辟易しながら言った。
すでに嫁いだ、他の三人の姉からも、何かと要らぬ干渉を受けてきたが、この四番目の姉ほど厄介な存在はなかった。
きらきらと輝く琥珀色の瞳は、いつでも好奇心を満たせるものがないか探し求めているし、
つんと上がった薔薇色の口元は、自分がその場を支配できると確信している傲慢さに満ち溢れている。
彼女にとって年齢の近い弟は、単なる暇つぶしの玩具に過ぎないのだ。

「実はね、君に夜会の招待状を持ってきたんだよ」
エリオットがエルドの前に進み出て、ラベンダー色の封筒を差し出した。
「夜会?」
エルドは眉をひそめる。
記念祭の期間中、宮中では毎晩何かしらの夜会が開かれているが、
騒がしいことが苦手なエルドにとっては、王族として出席義務があるもの以外は、参加する気になれなかった。

「ええ、昨夜から考えていたの。
 記念祭の期間中、若い人たちだけの気軽な集まりの場所があれば、楽しいんじゃないかしらって。
 それで、少々急なのだけれど、明日の晩に開くことになったのよ」
「ふうん。いいんじゃないか? でも俺は興味ないよ」
招待状をつき返そうとするが、マリアンヌの態度は強行だった。

「エルド。あなたに断る権利があると思っているの?」
「だって出席する義務なんてないだろう」
「いいえ。あなたの参加は義務よ。これ以上、私の顔に泥を塗るのは許されないわよ」
「いったい全体、いつ俺が、マリアンヌの顔に泥を塗ったんだよ!」

身に全く覚えがないエルドが叫ぶと、すかさずエリオットが耳打ちした。
「つまりさ、武芸競技大会での君の雄姿を見逃してしまったことを指しているんだよ。
 出席することを、君に秘密にされて、マリアンヌ様は、拗ねているというわけなのさ」

「エリオット。私は別に、拗ねてなんかいないわよ」
マリアンヌは扇子を横暴に振り回して、エリオットを小突き、
彼は、ほらね、とエルドに片目を瞑ってみせた。
武芸競技大会のことを持ち出されるとは予想していなかったので、エルドは戸惑った。
優勝したなら、まだしもトーナメントの一つに参加しただけなのだ。どうして騒ぎ立てるのだろう。

「あれは、故意に秘密にしていたわけではなくて、飛び入り参加だっただけだ」
「参加が決まった時点で、どうして報告しないのよ!
 記念祭行事の中でいちばんの話題を見逃してしまった私の立場を考えてみてちょうだい」
「マリアンヌの立場なんて、俺には関係ないだろ!」
エルドは慌てて、自己弁護に回った。
このままではマリアンヌに言い負かされ、まるで自分に非があるように仕立て上げられてしまう。

「まあ、そうかもしれないけれど」
マリアンヌは悪びれずに笑い声を立てた。
「でも、この夜会に出席してくれたって、罰は当たらないでしょう?
 うら若き令嬢もたくさん集まるから、紹介してあげるわ」
「俺がそんな言葉に乗ると思っているのか。マリアンヌ」

マリアンヌは面白くなさそうに鼻を鳴らしたが、
エルドの反応を予測していたようで、すかさず畳み掛けた。
「じゃあ、軍部の若き騎士たちを紹介してあげるというのはどうかしら?
 彼らも大勢招待しているのよ」
その言葉に、エルドはぴくりと反応し、マリアンヌは意味ありげに笑った。

「あなたは軍部に入りたいのでしょう?」
「―――それが?」
自然に、エルドの声は険しくなる。
「わかっているくせに。軍部に入ったら、縦社会よ。協調性が必要になってくるわ。
 いくら王子だろうとも、あなたお得意の個人主義なんて気取っていられなくなるわよ」
マリアンヌはくどくどと、夜会に出席することの有益性を説明する。
それにね、と彼女は最後に付け加えた
「エルドが軍官になることをお父様に口添えしてあげてもいいのよ」

それが決め手だった。
エルドは、エリオットの手から招待状を乱暴にひったくった。
結局、マリアンヌはいつだって思い通りに事を運ばせてしまうのだ。

「じゃあ、後は任せたわ。エリオット」
思う存分話したいことを話したあと、 マリアンヌはすっきりした顔で厩舎を後にした。
残されたエルドとエリオットは、互いに見つめ合う。

「―――何でお前が残るんだ?」
憮然としてベイリアル家の次男坊をねめつけると、
彼は待っていましたとばかりに、にんまりと笑った。
「いやね、マリアンヌ様に言いつかって、僕はエルド様に色々と教えに来たんだよ」
「何を?」
「そうだね。まあ、主に女性の扱い方かな」
「………不敬罪で訴えてやろうか」

その時、エルドの視界の端で、干し草の山が微かに動いたような気がした。
そうだ、セシリアがいることを忘れていた。
ブラシを釘にかけ、飼い葉桶を持ち上げると、エルドは入口の方へ向かった。

「とにかくここを出よう。その話は、歩きながら聞くから」
エリオットは驚いたように、第三王子の後を付いて来た。
「いいか。ここから出て行くからな!」
出る瞬間、エルドは、後ろに向かって、大声で叫んだ。

「エルド様、そんなに大きな声を出さないでも聞こえているんですけど……」
「さっさっと出ろ!」
エリオットの訴えを無視しながら、エルドは彼の肩を押した。

「―――で、お前とマリアンヌは何を企んでいるんだ?」
自室に向かう道を歩きながら、エルドはエリオットに尋ねた。

「企むって、そんな身も蓋もないなぁ。 ただマリアンヌ様は、君が年頃なのに、
 あまりにも艶事に興味を示さないのを心配しているだけだよ」
「なるほどね」
エルドの頭に、先ほどのセシリアの露骨な質問が浮かんだ。

「そういうのを余計なお世話だというんだよ。
 だいたいマリアンヌは俺のことを心配しているんではなくて、面白がっているんだろう」
「そんなこと言わないでさ。少しは、僕に協力してくれたっていいじゃないか。
 マリアンヌ様は、僕と君の二人が、めくるめく女性の魅力について語り合うことを所望しておられるんだから」
「あいにく俺は、そんな話題に、全く興味ないんだが」
全身で拒絶の色を示すエルドを意に介さないで、エリオットは「まさか」と笑った。
それが、いやに癇に障る。

「とにかく、僕たちみたいに身分が高いとさ、女遊びも一種の勉強というか義務みたいなものなんだよ」
「俺は……」
「気をつけた方がいいよ。君みたいに潔癖で、『女に現を抜かすなんて愚か』だと
 鼻で笑っているような奴ほど、女に人生を狂わされるんだから」
「俺はそんなことしないよ」
「そう。誰もが、自信たっぷりに、自分だけは違うと思っているんだ。
 それなのに、一度快楽の味を知ってしまうと、自分を制御できなくなり、深みに嵌って―――」
そこでエリオットは言葉を切り、愛想笑いをする。
「そんなに恐い顔しないでよ。エルド様。ただの一般論じゃないか」

エルドは浮かない表情のまま、にらみつけた。
「これ以上、くだらない話を続ける気はない。
 マリアンヌには、適当にごまかしておけばいいだろう」
「わかったよ。マリアンヌ様には、エルド様は女性に全く興味を示さなかったと説明するよ。
 しかも君が軍部に入りたがっているのは、
 麗しい令嬢よりも、むさくるしい男共の集団の中にいたいから、だと伝えておこう。
 あはは。何だか、逆に、彼女の関心を煽ってしまいそうだな」

エリオットが一人で悦に入っているあいだに、エルドはさっさとその場を退散した。

自室に足を踏み入れると、いつもと何かが違う気がして、エルドは身をこわばらせた。

「警備の数が少なすぎですよ。エルド様」
「アーク!」
祖父の忠実なる僕は、堂々と長椅子に座り、サイドボード上の調度品を鑑賞していた。
まったく今日は千客万来だ、とエルドは嘆息した。
セシリアに、マリアンヌに、エリオット。そして極めつけがアーク。
エルドの精神力を消耗させようと、そろいもそろって襲いかかってくる。

「お前は、俺からも何か盗むつもりなのか」
「まさか」
アークは上品に口の端だけ上げて、すくっと立ち上がった。
「御前の命により参りました。昨日の競技大会の件につきまして」
「もう祖父さんの耳に入ったのか」
エルドは目を丸くする。もちろん、いずれは祖父の知ることになるだろうと予測していたが、昨日の今日だ。

「ご冗談を。街中、その話題で持ちきりですよ。あなたは自分の影響力というものをわかっていない」
「わかっているよ」
イースキン=ラルフの孫息子でいることの影響力は、痛いほど実感しているつもりだった。

「それで、お前は、わざわざ皮肉を言いに来たというわけか。ご苦労なことだな」
「わたしは、エルド様のご意向を確認するために参ったのです。―――まさか、あなたは軍部に入るおつもりなのですか?」
「その通り。俺は軍官になるよ」
そう宣言し、アークの反応を伺うが、彼は一切の感情を隠していた。

「―――それでは、それは御前と交わした約束と喰い違うのでは」
「アーク。俺は王位継承権は放棄しないとだけ約束したんだけだよ」
「もったいないことを」
アークは呆れたように首を振った。
「今の平和ボケしたこの国では、軍部の権力は日増しに弱くなっているというのに」
「構わない。俺は出世や名誉を望んでいるわけではないんだから」
「では何を望んでいる、と?」
アークはじっと見据えてくる。エルドは肩をすくめた。

自分は何が欲しいのだろう。
昔から望んだものは、全てあっという間に手に入った。
でも、本当に心の底から何かを望んだことはあったのだろうか。

「ただ望みさえすれば、権力の杖は簡単にあなたの手の中だ」
刺々しい口調にもかかわらず、アークは相変わらず、穏やかな表情のままだった。
「それを手に入れたいとは思わないのですか?」

エルドは苦笑した。
アークの尋ね方はひどく形式的で、その台詞を言うように指示した祖父の顔が透けて見えてくる。
「だって俺には、最初からその杖を授かる資格はないんだ」

エルドはアークの脇を通り抜け、隣の部屋の扉を開けた。
「祖父さんに伝えてくれ。俺は、王太子になるつもりはない、と」
敷居を跨ぐとき、次兄の顔が浮かんだ。彼は自分の決心を聞いたら何と言うだろう。

「―――伝えておきましょう」
背後から、アークの低い声がした。
「それでも、あの方を止めることはできませんよ」

わかっているよ、とエルドは心の中で答え、扉を閉めた。
最愛の娘を亡くしたときから、もうずっと、イースキン=ラルフに残された野望は、唯一つなのだから。
それでも、エルドは祖父の操り人形でいる気はなかった。

 

セシリアは、小舟の端に寄りかかり、川の流れを眺めていた。
水面には、つまらなさそうな女の子の顔が映っては、すぐに歪んで消えていく。
遠くに見える陸地では、色とりどりの旗で飾られた屋台の数々で賑わい、
その隙間を人々の群れが舞うように行き交っている。

外側を虹色に輝く貝殻で飾られた舟は、マリアンヌ王女の自慢の種だった。
一度に乗れるのは、船頭を除いて、約五名で、
川遊びを楽しむためというよりは、話し合いに耽りたいときのために、度々利用されていた。

あるときは、気ままなお喋りの場に、またあるときは悩める者の告白と述懐の場になった。
いずれにしても、寡黙な船頭は何も聞こえない体を装い、ただ忠実に棹を漕ぐ。
そして、今回は、参謀会議の場となったのである。

「まあ、本当? マリアンヌ」
「ええ、ちゃんとエルドを誘ったわ。必ず来るように」
マリアンヌは、紫色のクッションが置かれたいつもの特等席に座り、ご満悦だった。
そして、その隣では、コートニーが熱っぽく対応する。
その席は、本来だったらセシリアの定位置だった。
しかし、セシリアは向かい側で、そんな二人の様子を芝居の観客席にいるように、ただ傍観していた。

「さあ、これでお膳立てはそろったわね」
マリアンヌは得意満面で、手元の招待状を開いてみせる。
明日の晩、急遽開催が決まった夜会。
しかし、元々華やかなことを好む第四王女が企画しただけに、不審に思う者は誰もいなかった。

「夜会が始まってしばらくしたら、エルドにあなたを紹介するわ」
「ああ、ありがとう。マリアンヌ」
コートニーは両手を前で組み、マリアンヌを拝まんばかりだ。
「あなたがいなかったら、ただエルド様の面影を思い返すことしかできなかったわ」
「別にいいのよ」
感謝されることはマリアンヌの最大の養分だ。
こんなこと何でもないのよ、と彼女は胸を張り、それから少し顔を曇らした。

「でも、いくらあなたが可愛い人でも、あいつを籠絡させることは難しいかもしれないわ。
 知り合いに探らせたのだけど、やっぱり堅物というか偏屈というか、全く女性慣れしていないのだから」
それにちょっと嫌な噂も聞いてしまったし、とマリアンヌは言葉を濁した。

「まあ、そうなの」
そう反応する声は、半分残念そうで、半分嬉しそうだった。
「わかるわ。エルド様はどこか禁欲的な雰囲気があるんですもの」
うっとりするコートニーを眺めながら、やはり彼女の趣味はどこかおかしいわ、とセシリアは実感した。

マリアンヌは更に言葉を継いだ。
「これがもう少し先の話だったら、もっと綿密に計画を立てられたのだけどね。
 でも、夜会は明日に迫っているのだから強硬手段に出るしかないわ」
「どうするの?」
張り詰めた表情でコートニーが尋ねると、マリアンヌは生き生きと説明を始めた。

「エルドを思いっきり酔わせてしまいましょう。
 薄暗い照明。語りかけるような音楽。柔らかい長椅子。美味しいチーズ。そして、とびきり強いお酒」
「まあ、それではエルド様はうたた寝してしまうのでは?」
「そうよ。眠らせてしまうの。そして目覚めたときは――」
「目覚めたときは―――」
コートニーが復唱する。
「一糸まとわぬ姿で、あなた同じ寝台の上にいるのよ」
その途端に、二人の王女は興奮して、船頭が振り返るほどの歓声を上げた。

「でも、それって、何も起きてないということじゃないの?」
一人だけ、展開についていけないセシリアは、 とうとう二人の会話に口を挟んだ。
「そう。何も起きてないのよ」
そこが重要だと言いたげに、マリアンヌは強調する。
「でも、前後不覚になるほど酔ってしまえば、エルドは自分の素行に自信が持てっこないわ。
 考えただけで、爽快じゃなくって?」
セシリアは条件反射で頷いたが、楽しいことのようには思えなかった。
明日の晩、エルドとコートニーに同じ寝台で眠りにつくのか、とぼんやり考える。

「うまくいくのかしら」
コートニーは頼りなげにぽつりと言った。
彼女のうなじにかかったおくれ毛は風に揺れ、細い肩はかすかに震えた。
まるで計算されたような仕草だった。
その瞬間、セシリアの身体の中を、暗い気持ちがさっと駆け巡った。

結局、彼女は、「大丈夫、うまくいくわよ」と言ってもらいたいだけなのだ。
昨日、相談を持ちかけたときから、コートニーは 自分の無力さを主張することで、
実に見事に、マリアンヌの自尊心をくすぐり、彼女を操っている。

いいや、それはただの焼餅だ、と必死で自分に言い聞かせる。
現実と夢の区別がついてない少女を操っているのは、マリアンヌの方かもしれないのに。

割り切れない感情を捨て去るために、
セシリアはにこりと笑って、二人が喜ぶような言葉を紡いだ。
「大丈夫。マリアンヌがいるんだから、うまくいくに決まっているわ」
「その通りよ」
マリアンヌが自信たっぷりに目配せし、コートニーは嬉しそうに頷く。

八年前に、コートニーと友達になっていたら、こんな気持ちを抱かなかったかもしれない、とふと思った。
どうして、あの夏、フォレストに行けなかったのだろう?
湖でボートに乗りたかった。森へピクニックに行きたかった。
マリアンヌとコートニーと、たくさん笑って、たくさん遊びたかった。

それなのに、今、彼女たちは、美しい川の流れなんて目もくれずに、くだらない話に夢中で、
セシリアは、ただ醜いとしか形容できない気持ちを抱えながらも、楽しそうな振りをしているのだ。

手を伸ばせば届く距離にいるのに、向かい側の二人は限りなく遠かった。


続く

 

 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年12月27日 05:52