大広間での晩餐会。何度目かの乾杯の後に続く室内楽の演奏。
ビシッとした正装に決めている大臣や盛装に着飾った婦人達。
小国だけどやるときはやるぜ…と豪勢に並べられた
香草を添えた直火焼きの獣肉に川魚の塩焼き、こんがり焼き上がったパンに
カリカリに焼いたベーコンと山菜のパエリア。さらには瑞々しいサラダに甘いスィーツ。
そして葡萄酒に発泡酒。まだまだ数え切れないくらいのごちそうがあった。
立食の形をとっているので大臣、高官達が歓談したり、帝国の王に挨拶したりしている。
でもボクは――――――
「……………」
貼り付けたような笑いを浮かべて、できるだけ皇子から遠ざかっていた。
皇子の名前はリュティス。
中性的な顔立ちなのだが、時折見せるキリッとした表情に仕草は
まぎれもなく男の顔だ。大陸でも特に珍しい紅い瞳が印象的だった。
立ち振る舞い、笑顔に、礼儀等々……さすが帝国の王家の血筋、申し分ない。
それはいい…いい、そう……とってもいいんだけど――――――
(川で裸見たからっていう理由でお金取った相手にどうやって接すればいい?)
『初めまして、ようこそヴァルズガイストへ。第一王女のスティアです♪』
なんて笑顔で言えるわけがない…今さら上品なお姫様を演じたところで何になるのだろう。
気まずい、気まずい、非常に気まずい。極度の緊張に楽しみにしていた料理も美味しくない。
味がしない、まるで鉛を食っているみたいだ。適当に理由をつけてさっさと奥に下がろう。
そう思った矢先に――――――
「スティア、お前もこちらに来て皇子に改めて挨拶せんか」
くっそ、マジで空気を読めよ!呼ぶな、招くな、笑うな、クソ親父!
しかもボクに喋るなとか言っていたよな、ええ?
「リュイナッツ様、リュティス殿下、こちらが第一王女のスティアです」
親父が上機嫌な顔で言った。酒臭い……クッソ、こいつ酔ってやがる。
「リュイナッ…ツさ…ま、リュティス…様…第一王女のスティアでしゅ――痛ッ」
ああ…噛みすぎて唇噛んじまった。やばい。
「こちらこそ。スティア姫、突然お邪魔してしまって申し訳ありません」
「初めまして。お会いすることができて光栄です、スティア姫。帝国第一皇子リュティス=ザ=ゼオンです」
あーあー…こんばんは、こんばんは。演技はばっちり決まっているよ。皇子様。
ボクは居たたまれなくなって、適当な理由をつけてテラスに逃げた。

「はぁ〜………」
テラスには誰もいなかった。まだ晩餐が始まって間もない頃だ。こんな時間にテラスに出てくる人はいない。
夜風に吹かれて少し気持ちが晴れた。あーあ…落ち着いたらお腹が減ってきたよ……
何か摘んで持ってくればよかった。
「よっと…」
ボクは煉瓦でできた太い手すりに腰を掛け、城下の明かりを眺めた。
いつもはぽつぽつとしかない明かりが今日はいつになく多い。
あ、そういえば今日は収穫祭の日だっけ…すっかり忘れていた。
いつもならお忍びで―――というか皆、顔見知りだけど―――祭りに出て、
なんやかんやと喋り、酒場で腕相撲したり、踊ったりして楽しく飲み食いしている頃だ。
「あーあー…もう、つまんないなぁ」
「そんな所に腰掛けていると危ないですよ」
ふいに後ろから声を掛けられた。声からして侍女のミーナかな?
幼馴染みのミーナとは同じ年齢で気が合う。二人の時は女友達みたいに話したりしていた。
「いいの。ボクは酔ってないし、落ちるようなヘマはしないもん。しかも落ちても平気だし」
手すりの下は森で様々な木々が生えている。余程酔っていない限り、木の枝に掴まる自信はある。
伊達に『武道』の名前を冠しているワケではない。体術を中心に剣、槍、弓、そして銃器の扱い。
余談だけど、銃は1発撃ってから次の弾込めに時間が掛かるのであまり好きじゃない。
「コレ、持ってきたけど…食べます?」
後ろから差し出された取り皿には晩餐での料理が小分けされていた。
「さっすがミーナ、ちょうどお腹が減っていたんだ。ありがと」
そう言って鳥のモモ肉を手で取ってはむっと食べるボク。
「はぐはぐ…ああ、美味しい…さすがは国内産の地鶏の蒸し焼き…
一年に数回しか食べることができない最高の味だ〜ほっぺが落ちそう♪」
「美味しそうだね。僕も持ってきた甲斐があったよ」
「もう、ミーナ…ボクの口調まで真似しな――――――」
「葡萄酒もどうですか?スティア姫」
料理が盛られた小皿を持って来たのは旧帝国の皇子様だった。
「…え、あーん、ゴホン……リュティス殿下には、ご、御機嫌麗しゅ…」
ドレスの裾を持ち上げて、微笑みかけるがうまくいかない。
「ははは、いいよ、いいよ、挨拶は抜きで。一緒に食べよう」
テラスに設けられているテーブルの上に料理を置いて、向かい合うように座ったボク達。
「あ……あの先日は…えっと…ごめんなさい。知らなくて…」
「ああ、そのこと…僕も申し訳なかったし…いいよ。でもお金を取られたのはびっくりしたけど」
「えーと…あ、あの…お返します。今すぐ、取ってきますから」
席を立とうとするボクを手で制して皇子は言った。
「それより僕はスティア姫と話がしたいんだ」
「ボ…あ、い、いや…そのわ、ワタクシ…と?」
噛み噛みの返答。
ああ…普段、使い慣れていない言葉遣いでのお話はかなり疲れるんですが
その意図を汲み取ったのか皇子は言った。
「僕も堅苦しい挨拶とか外用の言葉って疲れるし、普段の君と話をしたいな」

「はむはむ……そう言えばさ、ティスはどうしてウチに寄ったの?」
ボクは干し葡萄を摘みながら、皇子…いや、ティスに向かっていった。
ティスとは皇子の愛称らしい。素のボクを見てティスは満足そうだ。襟元を弛めて皇子様は答える。
「本当は予定になかったんだけど…父上が寄ってみたいって理由が大半
僕も興味が湧いた…っていう理由が残りの分、ヴァルズガイストには迷惑な話だったかな」
確かに7日間の粗食はもう勘弁して欲しい。晩餐会の御馳走は美味しいけどね。
「ううん、そんなことないよ。この国に来るお客さんはほとんどいないし、他の国には何かの外交でまわっていたの?」
「えー…あ、ああ…そう。色々な用事があってね…」
ティスの声が暗い。他の国で嫌な事があったんだろう。
「ね、ね…聞いてみたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ん、何?」
「ティス皇子ってさ、今まで何人くらい女の人としたの?」
単刀直入に聞いてみた。すると王子はこめかみに手をあてて
「………え、ええっとね、君は僕に何が言いたいのかな?」
苦笑しながらティスが言った。
ボクは自分がイメージしていた王子のプライベートについて言ってみることにした。
「皇子様って仕事中の侍女を後ろから襲って『ここがいいの?するするって入っていくはずだよ』
とか言って無理矢理したり、正妻は地位が釣り合う年上の女の人にしておいて
毎晩、毎晩、側室としたり、気に入った貴族の若い娘とか街娘に夜這いして種をつけるのが皇子の仕事なんでしょ?」
「……あ、あのね…何の本を読んだか知らないケド…君はすごく誤解しているよ。
そんなふしだらなことしたら皇位剥奪されて幽閉されるし、最悪の場合は死刑にされちゃうよ。
それにね、他の国は知らないけど、帝国では側室制度は廃止されているの」
「……へぇ…そうなんだ…」
あれぇ…あの本にはノン・フィクションって書いてあったのに。あれはウソか、畜生め。
「そうなの。それに僕はまだ誰とも結婚してないし、もちろんしていません」
その言葉を聞いてボクは身を乗り出し、眼を輝かせて言った。
「あのね、あのね、あのね!30歳まで1度もエッチしないと魔法使い――――――」
「そういう話題はやめてね」
ばっさりと話題を切られてボクはしゅんと意気消沈した。
「………スティア姫、君はこの国をどう思っている?」
ふいに皇子が真面目な顔をして言った。

「え…どうって……」
「ヴァルズガイスト国は好き?」
「この国?それはもちろん好きだよ。小さくても、何の特産品もない国だけど好き」
これは偽りのない本音だった。だけど皇子はなんだか冷たい眼をして言った。
「この国は山が多い、そのせいで耕作に適した土地が少ないなら山を切り崩せばいい。
山を削れば鉱石や水晶が出てくるかもしれないのになぜしないの?」
なっ……何を言い出すのかと思ったら――――――ボクは毅然として言った。
「山には動物が住んでいるし、時には獲物になる。皇子の言う通り山を切り崩したら
鉱石や水晶なんかが出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない。どっちに転んでも
確実に動物の住む場所は無くなる。たとえ動物でも住む場所を追い出すのはよくないことだよ」
「だったら、民の税を上げればいい。そうすれば毎日、美味しい食事が食べられるし、
外交費も工面できるし、耕作技術者も呼べる。それに自然が多い国だし川も湖もある。
綺麗な真水は貴重だし、その利権を使えばそれこそ都市の1つや2つは丸ごと買い上げることができる。
湖や川のおかげで夏場でも涼しいだろうから湖畔の土地を別荘地にして貴族を誘致したり、
湖を開発して夏の行楽地にして、武術大会なんかも開けばこの国はもっと豊かになるよ。」
確かに皇子の言っていることは合理的だ。今の税率を上げれば、
国民の暮らしは一時的に廃れるだろうけどお城では粗食から解放される。
真水の利権を使って他の都市を買い上げれば国民の食事も満たされるし、土地も増えるだろう。
潤った財力で湖や川、夏には最適な避暑地として他国に宣伝し、別荘地にして、
湖を開発して行楽地にすればこの国はもっと豊かになる。残念だけど、戦争に使う武術は太平の世には不要な存在なのだ。
それはわかっている。わかっているけど……でもボクは我慢できずにいった。

「本気でそう思っているの?」
「逆に聞くけど君はそう思わないの?貧しい暮らしから解放されるのは君も含めてこの国の人達もだよ?」
「でもそれは動物や買い上げた都市の人達を犠牲にして得た暮らしでしょ?」
「君は自国の民と他国の民、どちらが大事なの?」
「そ…それは…ど、どっちも大事だよ。人と人とを天秤に掛けられるワケないじゃない!
それが帝国の皇子の考え――――――」
ボクは熱くなって声を荒げようとした時

「それが王たる者の使命だ」

皇子の紅い瞳がボクを捕らえた。背中が凍り付くような感覚だ。
蛇に睨まれた蛙のように動けないっていうのはこういった感じなのかもしれない。
「――――――って、これお祖父様の言葉なんだけどね」
ティスは笑っているけど、眼だけはボクを見据えたままだ。
ボクはその気を何とか払って、震える声で言った。
「そ、それは間違っている!そ、その考えは間違っているよ!」
「どうして?」
「そんなの決まっているよ。民があっての国じゃないか!みんなを蔑ろにして自分達だけ良い思いして!
他人を犠牲にして成り立つ幸福なんてボクは絶対にいやだ。そんな王は人の上に立つべきじゃない。
ボクはそんな王を絶対に認めない!それにこの国を避暑地?湖を開発?
冗談じゃない、自分の豊かな生活の為に誰かを、動物達を綺麗な湖を犠牲にするくらいなら!
今の生活の方がずっといい!100倍マシだ!」
ボクは声を荒げて言い切った。ここはテラスだ、
晩餐会の音楽にかき消されてどうせ誰にも聞こえやしない。
「ふふ…」
すると皇子は思ったかくすくすと静かに笑った。
「今、笑った?こっちは真面目な話をしているのに!」
「いや、ごめん、ごめん……僕も君の意見には大賛成だ。やっぱり僕の眼に狂いはなかった」
そう言って皇子はボクの手を掴み、眼を輝かせて言った。
「スティア姫、素晴らしい考えだよ」
「あ…え?……い、いや…」
ボクは拍子抜けした。これがさっきまで議論していた皇子なのか?まるで別人のようだ。
「スティア=ヴァルズガイスト第一王女、僕は君のことすっかり気に入っちゃった」
ま、真面目な顔でそう言われると、背中がむず痒くなる。
「ああ、そりゃ……どーも……アリガト…」
「あとは言葉遣いだけだよね。ま、そんなのどうとでもなるし…」
うんうんと何かに納得しながら皇子はボクを見た。
「何をブツブツ言っているの、はっきり言えばいいだろ」
腕を組んで思案に耽っていた皇子は視線をこちらに向けて言った。
「いや、僕さ……君をお嫁さんにもらいたいなって思って」
「はぁ?お嫁さん?」
ボクは思わず声を上げてしまった。この皇子様、何を言っているんだ?
「ボクを嫁にもらいたい?それって結婚したいってこと?冗談でしょ?」
「冗談?スティア、君は一国一城の主のお姫様だし年齢的にはクリアしているから問題ないよ」
「問題大アリだよ。かつての帝国の皇子とボクが釣り合うはずないじゃない。もっと大国の姫様と
結婚するのが当然でしょ?」

「僕は――――――」
皇子がボクの腕を取った。
「え、な、何を…ちょっとんッんん!?」
柔らかい唇がボクの唇に重なる。こ、これってき、キス!?
……何がど、どうなって!?
「んんぅ!ふッふはッ!ちょっ…皇子!ボ、ボク―――んうううッ!」
逃れようとして、一瞬唇が外れた……けど、すぐに掴まって今度は深いキス。
「――――――本気だよ」
あ、ああ……やばい、何か力が抜ける。な、なんで――――――
クラクラする思考を何とかしようとしているウチに皇子の唇が離れた。
「い、いきなり……何するのよ……」
「僕は本気さ…スティア……僕と結婚して欲しい」
「で、でも…そんな事、急に言われても…」
ボクは自分でも恥ずかしくなるほど乙女な声で俯いた。
「誰が何と言おうとも『否』とは言わせない。それが父上だろうとも母上だろうとも絶対に言わせないさ
もっとも――――――君が『否』だったら話は別だけど?」
あ、ああ…そんな顔して言われると…ヤ、ヤバイ…皇子はそう言ってもう一度キスしてこようとした
ボクはその唇に手をあてて言った。
「だ、ダメ……こ、これ以上…こ、ここテラスだし…誰かが来たら――――――」
「それは『肯定』って事でいいのかな?」
「う、ううう………だからここは、場所が、場所だし!」
「大丈夫。秘書官のティータに『魅了』の魔法使ってもらっているし、ちょっとした魔法なら僕にも使える
……この晩餐会で僕と君、このテラスの存在を希薄にさせる魔法をね」
ちょっとしたって……そ、それってものすごく複雑な高等魔法じゃないの?聞いたことないってそんな魔法。
童貞で30歳にならなくても、正真正銘の魔法使いだったんだ!

ああ…今、ボクはドレスの裾を捲り上げて、テラスの壁に背中を預けている。
立ったままでボクの足元にいる皇子から愛撫を受けている格好だ。
「下着……いいかな?」
「………あ…で、でも」
今日に限って紐パンだ。皇子がスルスルと紐をほどくとハラリと下着が落ちた。は、恥ずかしい…
両脚を開くとうっすらと茂ったアソコが丸見えだ。立ったまま晒すなんて…激しく恥辱。
皇子はボクのお尻に両手を回し、指を食い込ませた。ぐむにゅっと弾む弾力。
「は…あっ…あふっ」
顔から火が出る程恥ずかしいのに自分でも驚くほど変な声がでる。
鼻に掛かったようなイヤらしい声だ。
「んっ…ちゅ」
「あっ…んんぅ!」
皇子の舌がボクのアソコと突起をペロリと舐めた。
「綺麗だね……」
「な、舐めないで…き、汚いよ」
「川で洗っていたのに?とっても綺麗だよ、でもあまり生えてな――――――」
「そんな恥ずかしいこと言うなっ!」
ボクは皇子の頭部をガシッと押さえつけた。
「ハハハ、ごめん、ごめん……でも本当に綺麗だ」
皇子は片方の手で股間を股探りはじめ、一番敏感な突起を指で愛撫した。
「こ、こんな…いや…や、やめ……んんんッ!」
ひとしきりボクのアソコを堪能すると両肩を掴み、立ち上がった
「はっ……ん…ティス…?」
「初めてはココじゃイヤだよね。続きは君の部屋の方がいいと思う」
………う、うう……ここまでしておいて……もう!

続く

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最終更新:2011年12月24日 09:24