……。

……………………………。

──────生まれてきて、ごめんなさい。


僕は強烈な自己嫌悪の中にいた。
メイリンは、僕の腕をするりと抜けて、何か拭くもの……と、取りに行っている。
なんなんだこの状況。捕虜になって、奴隷に落とされたかと思えば、かつての敵軍の『偉い人』
の家に連れてこられて、その娘でありかつ敵将であった女の子に、いいように弄ばれて。
あまつさえ……、その、出してしまったとは。
ひとつも、故郷の人たちに申し開きできません。桂花の民の誇りも何もあったもんじゃない。
虫ケラ以下です。もう死んだほうがいい。

確かにこれも、誇りを傷つけるのにはいい方法かもしれないけど……ってああああああ。
「駄目ッッ!!!! そんなばっちいもん舐めちゃ駄目──────────────ッッッ!!!!!!!」
僕は寝台を離れたメイリンのところへ飛んでいってその手をはたいた。
あろうことかメイリンは、赤い舌をちろりと出して、その手のひらについた僕の白濁液を舐めようと
していた。
メイリンは、なにを言われているのか分からない、といった風情で僕に聞く。
「男というのは、女にこれを飲ませたりして喜ぶものではないのか?」
「なにそれっ?! そんな変なこと、どこで聞いたのっ?!」
やっぱりシン国の上流階級はぶっ飛んでる。
「……閨房学の本で読んだ。」
メイリンは当然のように答えた。
さすが長い歴史を持つ文字文化の国。ありとあらゆる書物があるとは聞いてたけど、そっち系の
本もあるのか。
僕はこの中華の国の文化の層の厚さと奥深さを垣間見たような気がして、眩暈がした。
「そんなにひどい味でもなかったな。思ったより薄味で。でも生臭くて、しょっぱいな。」
味の感想とかいいから。もうやめて。何の拷問。
「そういう変なこと喜ぶ人達のことはもういいから。汚いから拭いてっ!!」
僕はメイリンの持っていた手拭いを取り上げてその手を拭き出した。手枷は、指までは拘束して
いないから、正面にあるものなら掴める。でもやっぱり、細かい作業は無理で、全部は拭いて
しまえないからまたメイリンに返す。

「じゃあ、これも脱いで」
「え?」
「汚れたから、拭かないと。」
「ちょっ……」
そっちも拭いてあげる、と、半分以上脱がされていた下衣と腰巻をすっかり取り去られてしまう。
僕の恥ずかしい部分は一度精を放ったにも関わらず上を向いたままなのだが、メイリンはそれには
あまり注意を払わず、やっぱり濡らしたほうがいいかな、などと細かい。
結局、寝室の隅にある手洗い鉢で濡らした布を持ってきて拭いてくれる。
「すっごいお姫様なのに、よく動くんだね」
僕は素直に褒めた。シン国の貴族といえば、箸の上げ下げまで他人任せにしてふんぞり返っている
ものだとばかり思っていた。
「ふむ。先だっては従軍もしたからな。あれは自分のことを自分でやる良い機会だった。
それに父上から、この白いべたっとしたものを体内に入れてはならんと言われておる。」
あ、そうか避妊か。何という具体的な指導。どういう父親。

そこでメイリンはふと思いついたように、寝台の枕元に置いてある折った紙をこちらに寄越した。
「父上から、おまえに。」
桂花の民もシン国と同じように漢字を採り入れているから、口頭より書面のほうが、はるかに
意味を取るのは楽だ。
かさり、とそれを開いて絶句した。
『うちの娘に、中出ししたら首を刎ねるからね。』
……というような意味のことが、書いてあった。
「なんか、首を刎ねる、とか書いてありますけど。」
「ああ、父上は、そういった御冗談がお好きなのだ。」
メイリンは全く本気にしていないようだった。
でも、このメイリンが娘で、父親が可愛がっていないはずがない。可愛い娘に手を出す男に対する
警告が、単なる誇張表現なはずがないじゃないか。
どうしてこの手紙を最初に見せてくれないのか。見ていたら、もっと用心したのに。色々と。
っていうか、さっきの流れが既に危なくなかった?! 命の危機じゃなかった?!

「よぉし終わったっ。続きをしよう、ユゥ。」
メイリンは手拭いの始末が終わったらしく、後ろからとん、と抱き付いてきた。手枷の所為で上衣は
羽織ったままなのが口惜しい。肌と肌の触れ合う感触が、気が遠くなるほどに心地良いのだ。
胸のふたつの膨らみも、控えめながらしっかりとその柔らかい存在感を主張している。

「続き、って……」
僕はちょっと苦笑した。そういうことを強制するにしては、メイリンはあまりにまっすぐで屈託がない。
「きみは、したこと、あるの。」
「無い。そう、言わなかったか?」
なのになんだろう、この暴力的なまでの人を惹きつける魅力は。
ただ綺麗なだけでも、ただ可愛いだけでもない、もっと生き生きとしたなにか。
生命力に溢れていて、まっすぐで、輝いているのに、どこか危なっかしくて、目を離せない。
なんかもう、この子には何かの仙術か妖術でもかかっているんじゃないだろうか。
頭ではまだ敵方の人間だと思っているのに、何かしてあげたくて堪らないなんて。

「僕で、いいの」
「おまえが、気に入った。もう何度も言っている。」
ああもう、この手枷が邪魔。本当に邪魔。これさえなければ、こんな可愛い子に抱きつかれて
おきながらじっとしているなんて、勿体ないことしないのに。

「あのさ」
僕は背中にくっついているメイリンに話しかけた。
「こういうのって、男の体の準備はすぐに整うけど、女の子の方は、なかなか準備できない
もんなんじゃないの?」
「ふむ、おまえの言うとおりだな。最終的には、これだ。」
メイリンは、潔く頷くと、ぱっと手を離して寝台の脇の小卓に置いてある陶製の小瓶を取り上げた。
「香油。これで、滑りを良くする。」
そんな方法もあるのか。さすが悠久の歴史を持つ中華の国、あまりの奥深さに吃驚だよ。
「経験無い女の子でも、それで痛くなくなるの」
「それは知らぬ。何しろまだ試したことは無いから。」
メイリンは素直に知らないことは知らないと認めた。
なんだろうこの危なっかしさ。罠か、策略か。いや罠に決まってる。

「普通は、男のほうが色々してあげるんだろうけど」
桂花の民の中では、女は十四、男は十五で成人の儀式を行い、それが終われば大人として扱われる。
僕ももう大人として、そのときの行為についてはかなりあからさまな話まで聞いていた。僕はもう
十七で、普通ならとっくに嫁取りしていてもおかしくない歳なのだけど、何しろ故郷は、大国シン国に
戦を仕掛けねばならないほどに、窮乏していたのだ。
「僕は『これ』がついてるし、今夜は外してもらえないそうだし」
僕はちょっと手枷を上げて見せた。こんなの付いてたら色々と無理だし、外してはいけないと厳命
されたってことは、やっぱりやめておけって意味だと思うんだ。

「────だから、舐めていい?」

…………。
何を言ってるんだ僕は。
目の前の女の子がとんでもなく綺麗で可愛いお姫様で、なんだか危なっかしくて魅力的で、
触りまくりたくてしょうがないからってどうかしてる。っていうか僕の頭の中もかなり前からおかしい。

「…ふむ。……許す。」
メイリンはぽぅっと目元を朱に染めて少し目を伏せた。
可愛い。凶悪なまでに可愛い。
僕は少しかがんで、俯いたメイリンの唇にそっとくちづけた。
柔らかい、信じられないほどに柔らかい唇。その形の良い唇を、そっと舌を出して舐めてみる。
「…っ…」
何か言いたげに、その唇がひくりと震えた。

断言します。もしこれが罠なら、かからずにいられる男なんていません。
だからもう、仕方ないんです。

メイリンはよろけて、後ろの寝台にすとんと腰をついた。僕は木製の手枷が彼女の体を傷つけない
ように、その足元に跪いて太腿のあたりから唇を這わせ始めた。
陶器のような肌は、触れてみると柔らかくて暖かくて、少し吸い立てると破れてしまいそうだった。
「…あっ…、ああ……んっ」
メイリンはすぐに甘い声を上げ始めた。頭の芯を痺れさせるような、魔力を孕んだ不思議な声。

「どうして、そんな声を出すの」
僕はメイリンの顔を見上げた。その表情はとろんと蕩け、瞳は色っぽく潤んでいる。
「それも、本に書いてあった? 男をその気にさせるには、そうやって喘ぎなさいって」
メイリンはゆっくりと黒く長い睫をしばたかせた。もうどんな些細な仕草も、僕を煽る為にやっている
としか思えない。
「わかんない…。なんか、出てくる…。」
「へえ? 例えばこういうことで?」
「やっ、ああっ……」
僕が目の前の白い肌を思い切り吸うと、途端にまた高い声が上がる。
腿の外側より内側、より柔らかな部分へと進むたびに、声は少しずつ高くなっていく。
僕は彼女の中心部に早急に到達するのを避けて、脚の付け根を通ってもっと上の方へと移動した。
なだらかにくびれた腰、その真ん中にちょんと座っている小さな臍。
脇腹も、背中も、そのほかのどんな部分も、刺激するとどういう声を上げるのかくまなく調べた。
──そして、胸。

メイリンの胸は、まだ薄い肉付きだったけれど、吃驚するほど綺麗な曲線を描いていた。
その曲線の上に、そうっと顔を預けてみる。
こんな風にする日がが来るのを待っていたけど、まさかこんな綺麗な女の子相手に、こんな状況で
こうするとは思わなかった。
手が使えないので、頬擦りするように愛撫する。メイリンの体のどこでもがすべすべして触り心地が
良かったけど、やっぱりここは別格だ。頬擦りするたびにころんと硬くなってくる先端が、
「わたしを食べて」と待っている赤い果実のようで、誘われるままに口に含んで舌の上で転がす。
「あぁっ…、やっ、だめっ……」
嫌、も駄目、も、気持ちがいいって意味だ。さっきから何度も聞いて、分かってきた。
「はあっ、ああ、ユゥっ、ユゥっ!」
順にもう片方も口に含んであげると、メイリンは切なげに僕の名を呼んだ。
「気持ちイイんだ……可愛い」
可愛い、可愛い、可愛い。

今のメイリンは、花というより甘い果実のようだ。
ほんのりと赤く色づいて、齧られるたびに甘い声を上げる仙界の桃。
甘い芳香を纏って、甘露の蜜を滴らせて。
老いにも若きにも精力を漲らせ、ひとくちで桃源郷の夢を見せるという。
もっと、食べたい。
ぜんぶ、食べてしまいたい。
僕は夢中で彼女の体中を貪った。

でも、どれだけ食べても──足りない。
体の中の熱が、発散していかないのだ。
むしろ、どんどん熱くなってきて、そうか、と思った。
こういう風に『する』んだ──たしかにそれは、まるで世界の深いところに隠してある謎に
触れたような感覚だった。

「ねえ、きみの方は、『準備』できた?」
「ん……んー?」
メイリンは、とろんとした目で僕を見つめる。
罠だ。こんなに可愛い仕草をするのは、罠に決まってる。
僕はますます深く罠に捕われていくのを感じた。でもどうしようもない。蟻地獄に嵌った
虫みたいなものだ。

「触ってみても、いい?」
手枷がついているとは言え、手指が自由なので、触れないことはない。ただし、ぴったりと
閉じた脚の隙間に滑り込ませるなんてことは出来ないから、メイリンにもそれなりに『協力』
して貰わなければならなかったけれど。
「『それ』は結構不便だな……」
手首の周りの板が思ったよりも引っかかって、割と大胆な姿勢を余儀なくされたメイリンは、
恥ずかしげに呟いた。
僕はといえば、手枷が邪魔で、初めて目にするはずの女の子の秘密の部分が良く見えないのが
残念だった。まあ、そこまで冷静に観察する余裕も、ありはしなかったけれど。
手探りで最初に触れたところは存外に渇いていて、まだぜんぜん濡れてないのかと思ったけど、
合わせ目のところをなぞるように指を這わすと、あるところで突然、熟れ過ぎた果実がぱちんと
弾けるように何かが弾けて、中からとろりとした蜜が潤沢に溢れてきた。
「ああっ! 駄目っ、だめっ!!」
メイリンがぎゅっとそこを押さえるようにして甘ったるい声で叫んだ。切羽詰っていても、
彼女の可愛さには容赦がない。
その奥はとろとろの蜜壺のようだった。どこまでが蜜でどこまでが壁なのか分からないくらいに蜜が溢れていた。
「潤滑油って、これでもまだ必要かな?」
僕はその蜜口の狭さを試すように指を動かした。ここに、僕の股間でいきり立っているものを
入れて動かしたら、どんな感じだろうと想像しながら。指を動かすたびに、メイリンは短く
悲鳴を上げながら、腰を揺らした。
「凄いね…奥からどんどん溢れてくる」
たっぷりとした蜜に指を絡めながら、中に入れるのを一本から二本、そして慣らしながら
三本に増やしていった。その度に、痛みを堪える短い声が上がる。
「痛い?」
僕は少し手を止めてメイリンに聞いた。彼女はこくりと頷く。
「痛いなら、ここでやめてもいいよ。もうそれなりに、頑張ったと思うし」
誰が承服しても僕の股間だけは承服しそうになかったが、一応格好つけてそう言ってみる。

メイリンは少し僕を睨んで、こう言った。
「…い、いじわる…っ」
どうしよう。この可愛い子を今すぐ抱きしめられないこの手の不自由が恨めしい。
「耐えられぬほどでは、ない。今夜中に最後までやると、…何度言わすのだ」
それから、柔らかそうな頬をぷっと膨らませて言う。
「女のわたしに、こんなこと、何度も言わすな。」 

どちらかというと、意地悪なのは僕よりもメイリンのほうだと思うんだ。
訳も分からないままにこんなところへ連れてきて、いきなり『夜伽』だなんて。
お姫様で、とんでもなく可愛くて綺麗で、見てるだけでうっとりしちゃう女の子なら、
どんなことでも思い通りになるとでも言うんだろうか。
それでも、僕もすっかり言うなりになってる訳だけど。

「じゃあ、挿れていい?」
メイリンは少し目を見開いて頬を染め、それから俯いて小さく頷いた。
僕は横たわったメイリンを、さっきと同じように手枷と腕の間に入れてあげた。木製の枷に
頭が当たって痛くないように、寝台にある布団の端を噛んで引っ張ってきて、間に挟んでやる。
こうしているとひどく近くて、ぎゅっと抱きしめあってるみたいだ。
なんか、勘違いしそうになる。
僕とメイリンは恋人同士で、メイリンは僕のことがとても好きで、たったいま僕に純潔を捧げて
くれるような、そんな幻想を抱きそうになる。

「ほら、自分でちゃんと、脚を開いて。僕が不自由な分、…きみがしてくれるんでしょう?」
おずおずと開く膝のあいだに強引に割って入り、ぬるついた彼女の秘所に、怒張しきった僕の
分身を押し当てる。
「僕のこれも、きみの手で導いて。このままじゃ入らないよ。
さあ、脚はもっと開いて?」
メイリンは真っ赤になって僕のそこに手を添えた。
ああ、すっごく可愛い。どうしたらいいんだろう。どうしてくれよう。

少しのあいだ躊躇うように、彼女の細い指が僕のそれの先端を撫でていたが、意を決したように
きゅっとつかんで、ぬるりとした秘所の最奥へと連れて行った。
「これで、いい?」
辿り着いたそこは少し窪んで、押すと少しづつ奥へと埋まっていくような感触だった。
「いいみたい……ほら、入る…」
腰を落とすと、先端だけはわりあい簡単に入った。メイリンは、浅い呼吸を繰り返しながら痛みに
耐えている。
「こんなに濡れるのに、本当に初めてなんだね」
ゆっくり、ゆっくりと、僕はメイリンの奥へ分け入ってゆく。
どうしてあげるのが一番いいのかは分からないけど、僕に出来る限りの力で、優しくしてあげたかった。

「ひ…っ……」
びくんと、僕の下にある細い体が跳ねる。
反射的に痛みから逃げようとする身体を、上腕だけで押さえ込んだ。
「もう少しだから。逃げないで」
「あっ……、あっ……、あぁ……」
身体を震わせるメイリンを抱きしめながら、僕は僕の分身を最後まで彼女の中に埋め込んだ。
「分かる? メイリン」
僕はうんと優しく彼女の耳許に囁いた。
「僕ときみが、最後まで繋がってる。これでもう、きみは処女じゃないね」
メイリンがその気になって誘えば大抵の男は喜んで誘いに乗るだろう。どうしてそんな彼女が僕を
選んだのかはまだよく分からないけど、確かに僕が彼女の最初の男になったのだという事実は、
ある種の充足感をもたらした。

「…いたいのは、これで、おしまい?」
メイリンが、瞳を潤ませて訊く。
「さあ…どうなのかな? 僕だって、別に慣れてる訳じゃないし」
ゆっくりと腰を引いた。そしてまた、元の位置まで押し込む。
「あぁっ! …あっ、あっ……」
「まだ痛い? メイリン」
「やっ、いたいっ、動いちゃだめっ。」
「僕は気持ちいい」
ひくり、とメイリンが息を飲むのが分かる。
「きみの中、熱くてきつくて、最高に気持ちいい」
「ほん…と? わたし……きもち、いい? あっ駄目っ! 動いちゃ駄目っ!!」
「ごめん、止まらないみたい」
理性だけで動きを止めるには、初めての女の子の身体は気持ち良過ぎたし、メイリンは
可愛過ぎた。

「だめっ! …なんか、へんなのっ!! からだが、へんっ…! …落ちちゃう!!」
「落ちないよ」
「やあっ、あぁ──っ!! どこかに、落ちちゃうっ!!!」
メイリンはやわらかく身体をのけぞらせて、甘く切なげに叫んだ。
「つかまってなよ、僕に」
そう言うと、彼女は素直にぎゅっと縋り付いて来る。全く、どこまで可愛くすれば
気が済むんだ、このお姫様は。
「それから、痛いんだったら、そんなに可愛い声出しちゃだめ。僕が興奮しすぎて、
優しくしてあげられなくなる。」
「だって、ユゥが…、やぁっ、…あぁっ!!」
「痛いだけじゃないんだろう? さっきから、動かすたびに滑りが良くなって…っ。
ほら、もうぐちゅぐちゅ音がしてる。聞こえる?!」
僕はわざと水音が響くように腰を動かした。メイリンの頬が羞恥に赤く染まる。
「メイリンは、外側は綺麗なお姫様なのに、内側は、いやらしい女の子なんだね。
……いやらしくて、最高だ。」
僕は心の底から、最高、ともう一度口に出した。本当にメイリンは、なにもかもが良すぎる。

「最高すぎて、僕のほうも、もう保たなそうだ。ねえ、終わっていい?」
メイリンは僕に縋りついたまま首を縦に振った。
身体の奥に燻った快感を解き放つように、最後に大きく腰を振った。メイリンの声が、
ひときわ大きく上がる。
「あぁ────…っ、あっ、あぁあぁ────……」
高く甘く響くその声に包まれながら、僕は自分の分身を引き抜き、欲望の塊を彼女の
なめらかな肌の上に放った。

   *     *     

───ユゥ、起きなさい。もう日が昇ってしまうわ。お父様達はもうお出かけになったわよ。

母さんの手が僕を揺り起こす。

───もう、そんなか。
   母さん、今日はなぜだかひどく体が重いんだ。
   もう少しだけ、寝かせてくれないかな、この懐かしい寝床で。

あれ、変だな? 自分の家なのに、懐かしく感じるなんて。
毎日ここに居て、他のところへ行ったことなんてないのに。
そんなはずは、ないのに。    


「ユゥ? ユゥ!! 起きて。」
気がつくと、鈴を鳴らすような声が僕を呼んでいた。
もうすぐ日が昇るどころではない。すっかり昇りきった陽光が寝台に射し込んで、あたりを
きらきらと輝かせている。
その中でも、ひときわ輝いているのは……。
そうだ、メイリンだ。この綺麗な女の子の名は、メイリン。

だんだん意識が現実に戻ってきた。
そうか、僕は故郷を離れ、シン国の王都に連れてこられて…。
突然、昨夜のことを思い出して赤くなった。
そういえばあのあと、ほぼそのまま寝てしまったのだった。
途中でメイリンが、甘えるように擦り寄ってきて、抱きつかれると身動きが取れないんだけど、
どうしようと思ったとこまでは憶えている。なんのことはない、そのあとすぐに寝入ってしまったらしい。
連日の緊張や、ここへ連れてこられるまでの旅程の疲れも相まって、泥のように眠ってしまった。

メイリンは昨夜とは違ってきっちりと髪を編み上げ、編んだ髪の一房ずつを両脇に垂らしていた。
花の形の飾りのついた簪が、纏め髪を飾っている。
そして落ち着いた色の襦裙を纏って、海老茶色と萌黄色の帯を重ねてきっちりと締めていた。
「わたしはもうすぐ出かけねばならぬから、その前に、朝食を持ってきた。
お腹すいた? 食べられる? ユゥ。」
「ものすごく、すいてる……」
問われて初めて、自分がひどく空腹なのに気づいた。素直にそれを告げると、メイリンは嬉しそうに
顔を綻ばせた。
「よかった。じゃあ食べよう」
手を引かれるままに寝台を出ようとして、はたと気づく。
きちんと装いを整えたメイリンと違って、僕は昨日のままだった。
手枷がついているので辛うじて上衣は体に残っているけど、着乱れてよれよれ。
あれ、手枷がついてたら、着替えとかどうするんだろう。

メイリンは固まった僕に気づいて言った。
「あ…そうか。昨日の服はもう洗濯に持っていってもらったし…そうだ!」
彼女はその辺に掛けてあった上着をしゅっと取ると、僕の腰にぐるぐると巻きつけ、何かの帯で留めた。
「これで、よしっ!!」
上着は紅と金色の花の文様が規則的に並んでいる上質な生地のもので、きっとメイリンのだ。
それを腰に巻きつけた姿というのは、冷静に考えればそれなりに恥ずかしかったが、メイリンが
すごく良い思いつきをしたみたいに得意満面の笑みを浮かべているので、黙って従うことにする。
まあ、ここにはいま二人しか居ないし、メイリンがいいなら良いか。
「朝食を取ったら、あとでおまえの世話をする下男が来る。着替えもそのときに出来る。
旅の疲れもあるであろう、それが終わったら今日のところはゆっくりしておくといい。
わたしたちが帰ったら今後のことを話す。これから、忙しくなるぞ。」
メイリンはそんな風に今日の予定を語った。相変わらず状況がつかめないが、何かを後で
説明してくれるらしい。

手を引かれて小卓の脇の椅子に座る。小卓には、盆に載ったお粥と香の物があり、お粥は白い
湯気を上げていた。
「ひとり分……きみのは?」
「わたしはもう、兄上様たちと共に頂いた。
これはおまえ用に、温めて貰った。冷めないうちに食べよう。」
とても美味しそうだし、お腹も減っていたけれど、匙を取ろうとすると手枷が盆に引っかかってしまう。
「不便だな、それは。じゃあ…はい。」
メイリンは僕の代わりに匙を取ってお粥を掬うと、息を吹きかけて冷まし、唇の端につけて
熱さを確かめてから、僕に差し出した。
メイリンはすっごいお姫様なのに、こういうところは実に細やかだ。

女の子に食べさせてもらうのもどうかと思ったが、本当に泣きそうなくらい空腹だったので、
目の前の匙を口に含む。
粥は、鶏粥だった。鶏で取った旨みのある出汁に、生姜と葱が効いていて、肌寒い朝なのに、
ひとくちで体の隅々にまで滋養が染み渡って、温まる。あまつさえ、上には薄く切った蒸し鶏も
載っていて、朝からこんな贅沢なものを食べるのは久しぶりだと思った。
「…美味しい。」
「そうであろ? 我が家の料理人は、腕が良いのだ。」
メイリンは、まるで自分自身が褒められたかのように嬉しそうにする。
「急がずに、粥でも良く噛んで食べるのだぞ。空腹なときは特に。」
「……分かってるよ。」
本当に変わってるところは物凄く変わってるのに、こんなところはやけに地に足が着いた感じだ。
もう一度、メイリンの差し出した匙から食べる。美味しい。
メイリンがそんな僕をじっと見てるのが、なんだかくすぐったい。

ああ、なんだろうこの状況。
支配者に決して屈するまいと思っていたのに、一夜にしてすっかり馴れ合っている。
シン国に桂花のクニを滅ぼされ、長年住み続けた土地を追われた、故郷の人たちにどう考えても
申し訳が立たない。

ごめんなさい。いつかあの桂花山へ再び戻る日が来て、皆の前に立つことがあれば、何度でも
謝ります。どんな風にでも懺悔します。

だからいまは、もう少し、このままで。




     ──続く──

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最終更新:2011年12月24日 08:04