「そなたらが泣いて頼むから娶ったのだぞ。それを今更あれこれ口を挟むな」
 うんざりした顔でユージーンは口を開いた。
「確かに。あちらの姫君を娶ること、進言いたしましたのは我ら。ですが、陛下。もうじきに二年が経つというのに未だに懐妊の兆しが見えぬばかりか、聞くところによりますと寝所に渡られても小一時間で自室へ戻られるそうではありませぬか」
「余は嫌いではないのだが、妃が好まぬのだから仕方がなかろう。話をするだけで嬉しいと言われてはな、それでもよいかと思ってしまう。余も妃も若いのだからそう急がずとも良かろう」
 玉座の肘掛けに肘をついて頬を当て、ユージーンはうんざりとして臣下を見た。まだまだ食いついてきそうな剣幕で鼻息荒いユージーンを見ている。
「それとも何か、ベンジャミン。そなたは余に嫌がる妃を無理矢理褥に押し倒せと申すか。そのような野蛮な行為を余に行えと?」
 切れ長の瞳に怒りがこもる。ユージーンが本気で苛立ち始めていることに気付いたベンジャミンは押し黙る。
 しかし、国の繁栄のためにもユージーンに暢気に構えていてもらっては困るのだとベンジャミンは意を決して口を開いた。
「そうは申しておりません。レティシア様が陛下の閨に侍ること拒まれるのであれば……陛下の寵を得たいと望む姫はそれこそ星の数ほど」
 乾いた音を立てグラスが割れる。ユージーンの傍らにあったグラスがベンジャミンの傍らをすり抜けるようにして壁にぶつかったのだ。
「妃は一人だ。寵姫も要らぬ」
 主の逆鱗に触れたことはわかっていたが、それでもベンジャミンは諦めなかった。
「では、陛下。せめて子を成す努力はしていただけませぬか?」
「くどいぞ、ベンジャミン。妃に無理強いはせぬ」
「無理にとは申しません。レティシア様が嫌がるから閨を共にせぬと陛下は仰いましたね。それならばベンジャミンにお任せ下さいませ」
 胡散臭いものでも見るようにユージーンは臣下を見た。不敵な笑みを浮かべたベンジャミンはがさごそと懐を探り、もったいぶって何かを握った拳をユージーンの前に差し出した。
「レティシア様がその気にさえなれば良いのです。そのために、このベンジャミン、苦心いたしましたぞ、陛下」
 ベンジャミンの拳の中には中指ほどの長さの小瓶が握られていた。
 これで万事上手くいくのだと自信たっぷりに語り出すベンジャミンの口上に耳を傾けながら、ユージーンは受け取った小瓶を日に透かしてみる。
「ふむ」
 透明な小瓶に入った薄紫の液体はとろみを帯びており、蓋を開けると仄かに甘い香りがした。
「……して、ベンジャミンよ。そなたの言いたいことはわかったが、この薬は何なのだ」
 素朴な疑問を口にするユージーンに向かい、ベンジャミンはにんまりと笑ってみせる。その笑顔の裏に薄気味悪いものを感じ、ユージーンは溜め息混じりに瓶の蓋を閉じた。


* * * *


 妃の膝に頭を預け、ユージーンは寝台に転がっていた。
 焚きしめられた香は控えめな中に嫌みのない甘さを持ち、おっとりとしたレティシアによく合っているとユージーンは思う。この香りを好んでいるようで、レティシアからこれ以外の香りがする日はあまりない。
 葡萄の皮を剥き、レティシアがユージーンの口元へ運ぶ。素直にそれを口にして、ユージーンは下からレティシアを眺めた。
 肌は雪の白さを持ち、瞳は氷の蒼、髪は月明かりの銀。レティシアの姿はまるで妖精のようだ。
ここより北の国にはレティシアのような容姿の娘が多いと聞くが、それでもレティシアの美しさは飛び抜けているはずだとユージーンは思っている。もっともユージーンより幾らか年が下な分、レティシアは美しいというよりは愛らしいのだが。
「あなたのお口に合うかしら? 昼間にジネットと散歩をした時に分けていただいたのです」
 城の中を歩き回り、兵や侍女達に声をかけて回るのをレティシアは好む。初めは面食らっていた侍女達も今はレティシアと会話を交わせるほどに慣れてしまった。果実や菓子を分けてもらったと嬉しそうに語られたのは今日が初めてのことではない。
「甘い。だが、こちらの方がいい」
 指についた汁を拭おうとしていたレティシアの手を取り、ユージーンはそっと口に含む。汁のついた指をねっとりと舐り、体を起こしながら汁の伝った手のひらへ舌を這わせる。
「あ……ユージーン、さま……んっ」
 見る間に肌を朱に染めるレティシアを片目にとらえながら、ユージーンは執拗にレティシアの手に舌を這わせていく。指の一本一本を丹念に愛撫する。
「だめ、いけませんっ」
 か細い声でなき、レティシアが小さく頭を振る。ユージーンはレティシアの手を離し、背に手を回して抱き寄せる。
 震えるレティシアを宥めるために背を撫でつつ、艶やかな髪に頬を寄せる。
「そなたの指が汚れてしまってはいけないと思ったのだが」
「布で、拭いますから」
「甘い果汁が勿体無い」
 拗ねた顔で見上げてくる妃の唇に啄む口づけを落とす。
「ユージーンさまの意地悪」
 ぷいっとそっぽを向く様が愛らしく、ユージーンはくつくつと笑う。
「今宵はここで休もうか」
 腕の中の小さな体が跳ねる。
「嫌か?」
 あたふたし始めたレティシアが逃げられないようやんわりととらえ、ユージーンは肩に額を当てる。
「レティシア」
 顔を横に向けると真っ赤になった首筋が目に入る。項に舌を這わせた途端にレティシアが間抜けな声を上げて仰け反った。
「今日はいけません」
 ユージーンの胸をぐいぐい押し返しながらレティシアは言う。
「なぜ?」
「朝から今夜はそうなさると伝えて下さらなければ心の準備ができません」
「朝はその気でなくとも夜になって急にその気になることもある」
「で、でも、朝にお伝え下さる約束です」
 今にも泣き出しそうなレティシアの頬に口づけ、ユージーンは妃を抱く手を緩める。
「わかっている。そなたの困った顔が見たかっただけだ。許せ」
 あからさまに安堵した顔でレティシアはユージーンを見上げた。
 レティシアの嫌がることはしたくないが本当はもう少し抱ける日を増やしたいとユージーンは思っていた。十日に一度、下手をすれば月に一度程しかレティシアを抱けないのはやはり寂しい。今夜はどうかと朝に打診しても必ず承諾が得られるわけでないのだ。
 しかし、初めの頃に抱くときはレティシアの許可を得てからにすると約束したからには仕方がない。約束は約束だ。守らねばならない。
「ユージーンさまが嫌いなわけではないのです」
 寂しく思う気持ちが顔に出ていたのか、レティシアがユージーンの胸に頭を預けて呟いた。
「好きです。とても好き。でも」
 言いにくそうにレティシアが言葉をつかえる。ユージーンはそっと髪を撫でてやりながら言葉を繋いだ。
「抱かれるのは嫌?」
 少しだけ迷い、レティシアは首を振った。
「嫌ではないの。嫌ではないのです。ただ、怖くて」
 何度も聞かされた言葉だ。ユージーンは苦笑してレティシアを抱き締める。
「よい。そう沈むな。怖くなくなるまで待つと余は申した。それを忘れてはおらぬな」
「はい」
「ならばよい。唐突に言い出した余が悪いのだ。そなたが気に病むことではない」
 頬に手を添え、そっと唇を重ねる。拒むことなく受け入れ、レティシアは稚拙ながらもユージーンの舌に自らの舌を絡めて口づけを深めた。
 深い口づけを堪能し、ユージーンが唇を離す。二人の間に銀の橋が架かり、すぐに落ちた。
 濡れた唇を指で拭ってやりながら、ユージーンはふと思い起こして懐に手を入れた。
 ベンジャミンから受け取った小瓶を取り出すとレティシアが興味をひかれたようでまじまじとそれを見た。
「それは何ですの」
 素直に答えかけ、ユージーンはすぐに口を閉じた。これは絶好の機会かもしれない。
「薬だ」
「薬? 不思議な色をしていますのね」
 レティシアに瓶を渡してやると彼女はそれを興味深そうに回し見る。
「何の薬ですか」
 だがしかし、ここで嘘をついてレティシアを丸め込めば後々嫌われてしまうかもしれない。
 ユージーンは迷った。目先の快楽をとるか、今後の愛情をとるか。答えはすぐに出た。
 残念に思う気持ちがないわけではない。ユージーンは力なく肩を竦め、小さく息を吐く。
「ベンジャミンが手に入れてきた。男を知らぬうぶな娘も娼婦の如く振る舞うという」
 はたり、と音がするのではないかというほどゆっくり確かにレティシアは目を瞬いた。
「有り体に言うと媚薬だ」
 それでもよくわからないようでレティシアは首を傾げた。
「びやく……?」
 男女のことに疎い娘だとわかってはいたが、レティシアが媚薬も知らないことに驚き、ユージーンは頬を指で掻く。
「その、なんだろう。……それを飲むと男に抱かれたくてたまらなくなると言えばわかるか」
 なんとなく理解したようでレティシアは頬を染めて頷いた。
「そのような薬があるのですね。何のために必要なのでしょう」
 不思議そうにレティシアは言う。
「それは……世の中には欲した娘を手に入れる為には手段を選ばぬ男もいるということだ」
 ユージーンの言葉にレティシアは眉を顰めた。
「まあ。恐ろしいものなのですね」
「もっと刺激的な夜を過ごしたいと望む夫婦や恋人も使うのだから一概に悪いものとは言えない」
 やはり見せるのではなかったと後悔を始めたユージーンであったが、レティシアは瓶を返そうとせず、思い詰めたようにそれを眺めていた。
「媚薬……」
 おそるおそるといった様子でレティシアが瓶の蓋を開ける。ユージーンはぎょっとしてその手を掴んだ。
「レティシア?」
 縋るようにユージーンを見上げ、レティシアは瓶を自分に引き寄せる。
「これは私に飲ませるために手に入れたのでしょう」
「いや、それは……」
「違うのですか?」
 答えに窮し、ユージーンはうろたえる。そうだと言えばレティシアは自分を嫌ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
「違う。そなたに飲ませたいわけで、は……レティシア!」
 違うと言った途端にレティシアは薬を呷ろうとし、ユージーンは慌てて瓶を払い落とす。レティシアの夜着に液がこぼれ、布を紫に染めた。
「何をしている? そなたに飲ませたいわけではないと」
 ぼろぼろとレティシアの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。わけがわからずユージーンは眉を寄せた。
「あなたには欲する娘があるのですか」
「何の話だ?」
「どちらの姫君か存じません。でも、欲しいと願う姫があるのでしょう? こんな薬を使ってまで手にしたい姫が」
 拭っても拭ってもこぼれる涙を止められず、ユージーンはレティシアを膝に抱き上げて頭を自分の胸に押しつける。
 レティシアの言っていることがユージーンにはさっぱりわからなかった。何をどうすればそんな結論にたどり着くのか全く理解できない。
「あなたが仰ったのです。どんな手段を使ってでも手に入れたい娘がいる時に使う薬だと」
「いや、確かにそうだが」
「私に使う気がないのなら、他の使い道はそれしかありません」
 失敗した。いよいよユージーンは落ち込む。媚薬なんぞを使ってみようと考えたから罰が当たったのだ。
 ぽかぽか胸を拳で叩き始めたレティシアの腕を掴もうとしながら、ユージーンは自身の浅はかさを呪った。
「すまぬ」
 両手首を掴み、顔をのぞき込もうとするが、レティシアが無理に顔を背けるせいでなかなか目が合わない。
「謝って欲しいわけではありません」
「だが、余はそなたに謝ることしかできない」
「謝らないで……そのような、私が惨めな気持ちになります」
「なぜだ? 惨めな気持ちになっているのは余の方だ」
 ようやく目を合わせるとレティシアが勢いよく唇を重ねてきた。勢いづいたおかげで歯がぶつかり、けれどそれでもレティシアは唇を押しつけてくる。
「れ、レティシ……っは、待て……落ち着け」
 がむしゃらに唇を押しつけて舌を絡めようとするレティシアを無理矢理引き剥がしてユージーンは深く息を吐く。
「嫌です」
 肩を掴んで体を引き離されたレティシアが泣きながら呟く。
「ユージーンさまが好きです。あ、愛してます。好きなの」
 困惑しながらも妃からの愛の告白は素直に嬉しい。わけがわからないなりにユージーンはレティシアに応えた。
「余もそなたを愛している。そなたより余の方が愛情は深いと自負しているが、そんなことは知っているだろう?」
 レティシアが首を横に振る。
「愛していても、あなたは私以外の姫を求めています」
「レティシア。それは誤解だ」
「あなたに寵姫が出来ても黙認しなければならない立場なのはわかっています。でも、嫌です。ユージーンさま……私の、私だけのユージーンさま」
 どこにこんな力があったのかというほどの力で押され、ユージーンは寝台に倒される。その上に馬乗りになり、レティシアは夜着を脱ぎ始めた。
 思わぬ展開に呆気に取られていたユージーンだったが、レティシアの夜着を染める紫が目に入り低く呻いた。
「そなた、あれを飲んだのか」
 ほとんどこぼれてしまったはずだが、唇をつけていたのだから少し飲んでしまったのかもしれない。
「ほんの、少しだけ」
 夜着の前をはだけたレティシアはユージーンの夜着に手をかける。身を屈めるとはだけた夜着の間からたわわな乳房が見える。
「そうか、飲んだのか」
 ユージーンは手を伸ばし、夜着の間から乳房に触れる。
「きゃ、っ……あっ、んんッ」
 すくい上げるように手を添えただけでレティシアは敏感に反応を示す。
「ふむ。ほんの少しでこれか」
 すべて飲んでしまえば相当淫らに振る舞ったのだろうとユージーンは媚薬の効き目に感心する。ベンジャミンが苦心したと言うだけはある。
 親指で乳首を撫でるとレティシアが甘い声でなく。
「や、あっ……ン、はぁっ」
 くたりと力なくユージーンの胸に倒れ込んできたレティシアの背に手を当てて撫でる。それだけでも感じるらしく、レティシアはびくびくと体を震わせている。
「ユージーンさまぁ」
 すがりつくレティシアの額に口づけ、ユージーンは体を起こそうとする。けれど、それを阻もうとレティシアが肩を押さえつけた。
「こ、今宵は、私がします」
 露わになったユージーンの鎖骨を撫で、胸を伝って臍まで一直線に指を這わせる。
「いつも、あなたが、して下さること、今宵は……私がします」
 整わぬ呼吸の合間にレティシアが宣言し、拒絶は聞かぬとばかりに再び唇を寄せた。先ほどよりは落ち着いているのか、今度は歯もぶつからず上手に舌を差し込んでくる。
 そうしながらレティシアはユージーンの胸に手を這わせ、乳首を指で弾く。ころころと指で転がされ、ユージーンは快感よりもくすぐったさを覚えた。
 しかし、妃がこのように積極的に求めてくることなど初めてでどんなに稚拙であろうともレティシアの愛撫はユージーンの感覚を高めた。愛おしいと思う気持ちが彼の男を奮い立たせていた。
「きもち、いいですか?」
 唇を離し、レティシアが問う。妃を喜ばせたい一心でユージーンは気持ちいいと呟いた。
 ユージーンを悦ばせていることが嬉しいらしく、レティシアは今度は唇を胸に押しつけた。ぴちゃぴちゃと音を立ててユージーンの肌を舐め、時折啄むように軽く吸う。
 すっかり堅く盛り上がりを見せているユージーンの腰回りにレティシアは無意識にだろうが腰を押しつけてくる。胸への愛撫よりもそちらの方が気持ちいいのだが、ユージーンはそうとは口にしないで黙ってレティシアの腰を導いた。
 濡れた部分が当たるように誘導するとレティシアが艶めいた吐息をこぼす。
「だめです……私が、ひゃっ、あん……あっ、ああッ」
 布越しにもレティシアがひどく濡れていることがわかる。谷間に沿わせるようにしてユージーンはレティシアの腰を揺らした。
 口では駄目だと言いながらレティシアはユージーンの行為をやめさせようとはしない。ユージーンへの愛撫も忘れ、恍惚として胸に頬をすり寄せる。
「いけないひと」
 吐息混じりにレティシアが囁いた。
「わたくしが、ン……だめっ、いけないひとね、ユージーン。わたくしがしますから、あなたは、大人しくなさっていて」
 ぴしゃりとユージーンの腕を打ち、レティシアがのろのろ体を起こした。
 ゆっくりと夜着を脱ぎ捨て、レティシアは白い肌を露わにする。焦らすつもりはないのだろうがレティシアの動きが鈍いものだからユージーンはもどかしさを覚えた。さっさと剥ぎ取って押し倒してしまいたくなる。
 けれど、妃がどういう風に責めてくれるのかと期待する気持ちも強く、ユージーンはレティシアがすべてを脱ぎ去るのを辛抱強く待った。
「あなたも……」
 肌を覆うものすべてを取り去ったレティシアがユージーンの夜着も剥ぎ取りにかかる。それも同じようにゆっくりとした動きではあったがユージーンは耐えた。
「まあ」
 現れた屹立をまじまじと眺め、レティシアは目を見張った。
 明かりをつけたまま交わるのは初めてであるし、ユージーンはそれを触らせたこともなければ見せたこともない。初めて見るものに興味を引かれたレティシアはおそるおそる指を這わせた。
「これが、そうなのですね」
 既に先端から透明な液を漏らし始めているそれをレティシアは指で弾いたり握ったりと思うままに遊んでいる。
 ユージーンは眉間に皺を寄せながら、生殺しのようなレティシアの行為に耐えた。
「レティシア」
 しかし、最後に肌を重ねたのは十日以上も前のこと。妃の温かな内部へ包まれたいと切望する気持ちがユージーンに切ない声を出させる。
「これ以上は余も自信がない」
「自信?」
「早くそなたの内へ迎え入れてもらわねば、余はそなたの希望に添えぬかもしれない」
 我慢できずに押し倒してしまいそうなのだとユージーンは遠回しに伝える。はっきり言えば逃げられてしまいかねないと思ったからだ。
 ユージーンは体を起こし、レティシアに向かって手を広げる。
「おいで」
 レティシアは素直にユージーンに従い、彼の太股を跨いで膝を突く。
 腰を落とせば天を向いた屹立が触れるようにしながらもレティシアは腰を落としはしない。彼の肩に手を置き、苦しげな顔をじっと見ている。
「レティシア。余はもう限界だ」
 たまらずに呻いたユージーンの頬にレティシアは手を添える。
「約束してくださいますか」
「余にできることなら。そなたの為なら余は何でもする」
「私以外の方と、このようなことはなさらないで」
 今にも泣き出しそうな顔でレティシアは言う。まだ誤解しているのかと半ば呆れつつ、ユージーンは微笑んでみせる。
「余が愛する妻はそなた一人だ、レティシア。それは、そなたを娶った日から今まで、そしてこれから先も変わらない。なぜ余がそなたを泣かせるような真似をする? 余はこんなにもそなたを愛しているのに」
 レティシアがぎゅっと首に腕を回してしがみつく。それを愛おしく思いながら受け止め、ユージーンは露わな耳朶に唇を寄せた。
「愛しているから、余はそなたが欲しくてたまらぬのだ」

 悪いと思わないではなかったが、欲望に負けたユージーンはレティシアの腰を掴み、狙いを定めて落とさせた。
「あ、ああああっ!」
 いきなり挿入された衝撃でレティシアは体を仰け反らせた。きゅうっと襞が収縮してユージーンを締め付ける。
「そなた、受け入れただけで達したのか」
 愉しげにユージーンが笑う。
 肩で息をしながらレティシアはユージーンの胸に額をぶつける。
「薬、まだ効いているのだな」
 円やかな尻を掴んでレティシアを揺らしながらユージーンは下から腰を突き上げる。
「あ、ひゃ……んんッ、や、あっ、あっ、ああっ」
 突き上げられる度にレティシアは途切れ途切れにないた。
 常よりも潤った内部はきつく締め付けてくるのに滑りがよく、まるで意志を持つかのように蠢いてユージーンを悦ばせる。
「ああ……いいぞ、レティシア」
 表情をうかがえばレティシアは恍惚としており、いつの間にか自ら腰を揺らし始めている。ユージーンは舌なめずりをしてレティシアの乳房を少し強めに揉んだ。
「あっ! やぁっ、そこ、ん、い……ああっ」
「ここがいいのか。こんなに堅くして。赤く腫れているようだな」
 乳首を摘むとレティシアは頭を振って喘ぐ。
「感じているのか。そなた、締め付けが一段ときつくなっていくぞ」
 首を傾け、ユージーンは乳房に舌を這わせ、赤く熟れた乳首に吸いついた。
 二人の結合部からは卑猥な水音が立ち、レティシアはひっきりなしに嬌声をあげる。
「少し早いが……出すぞ」
 力強く突き入れながら、ユージーンは上擦った声を上げた。久しぶりな上、未だかつてないほどに淫らな姿を見せつけられては我慢などできるものではなかった。
「あ、ユージーン……あッ、くださっ、なかに……ああっ! あ、あぁああッ」
 深々と奥まで突き込まれ、レティシアが体を震わせる。ユージーンの体が一瞬強張り、中で何度も脈打つのをレティシアは感じていた。
 すべてを注ぎ込まんとするようにユージーンはレティシアの腰を押さえて射精が終わるまで離さなかった。
「まだ、そなたは満足しておらぬな」
 刺激を求めて揺れだしたレティシアの腰を撫で、自身のものが未だ萎えていないことを確認したユージーンはレティシアの膝裏に手を添えて仰向けに倒す。
「よい機会だ。抱かれるのが怖いなど二度と思わぬよう、そなたの体に快楽を教え込んでやる」
 抜けてしまったものをもう一度レティシアの中へ押し進め、ユージーンはゆっくり腰を動かし始めた。
「愛しいレティシア。今宵は思う存分なくがいい」
 一度欲望を吐き出したおかげで余裕の出来たユージーンは普段めったに見ることのできないレティシアの喘ぐ様を堪能しながら欲望のままに妃の体を貪ることに決めた。


* * * *


「お呼びですか、陛下」
 ユージーンの機嫌が朝から良いようだと感じていたベンジャミンは、執務の合間に彼から呼び出しを受け、喜色満面な国王の前に跪いた。
 媚薬など邪道だと言わんばかりだった昨日の態度は何だったのかと思うベンジャミンは複雑な気持ちを顔に出さないよう努力する。
「そなたの見つけた薬師はよほど腕がいいと見える」
「左様でございますか。お気に召されたようで何よりです」
「うむ。褒美を取らせたい。そなたにも何かやろう。何がいい?」
 新妻を迎えたばかりのユージーンもこうして機嫌良くベンジャミンに褒美云々と言い出したものだ。そう遠くない昔のことを思い出し、ベンジャミンは懐かしさを覚えた。
「そうですね。私が望むものはただ一つにございます」
 今なら何でも叶えてやるぞと顔いっぱいに書いたユージーンはベンジャミンの言葉を玉座にもたれて待った。
「一日も早くお世継ぎを。ベンジャミンが願うのはそれだけにございます」
 ユージーンは一瞬目を見開き、すぐに呆れたように笑う。
「そなたはそればかりだ。たまには余が驚くほど欲深い願いを口にしてみよ」
「お世継ぎをと進言するだけでも十分恐れ多いことにございますれば」
 畏まって恭しく頭を下げるベンジャミンを眺め、ユージーンは鼻を鳴らす。
「まあいい。そこで一つ相談があるのだが」
 ユージーンはにやりと愉しげに口元を歪める。
 そうくるだろうと思ってはいましたがねと顔には出さないながら内心肩を竦める思いでベンジャミンはユージーンの相談に耳を傾ける。
 薬師に出す謝礼の額を増やさねばならないなと下げた頭の片隅で思い、ベンジャミンはユージーンにはわからぬほど僅かに口の端を上げた。


おわり

 

 

 

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最終更新:2008年12月27日 05:31