「やめて、離して」
細い女の悲鳴が部屋に響いた。
明るい日差しが差し込み、柔らかな栗色の髪が金色に透ける。
「誰か、誰か来て!」
「誰もこねーよ」
「あんなの味方はここにはいないさ」
「そんな…」
「…様はあんたが目障りなんだと」
「そんな……」
力の抜けた身体を男の指がまさぐる。
「見た目よりいい身体してるじゃねーか」
「…が夢中になるだけあるな」
「こんな大人しそうな顔してな」
「いやっ!」
詰られて女が悔しそうに身をよじる。
「時間もないし、楽しもうや」
「そんなこと…うっ!」
男は強引にくちづけると、女の咥内にトロリとした甘い液体が流れ込んだ。
「何を…あ、やめっ!」
別の男が女の身体を包む柔らかな衣をはだけていく。
むきだしにされたまろやかな乳房に手がのび、別の手は脚をなでまわす。
「やめて、やめて……」
力無く女の懇願は続き、やがてそれは啜り泣きへと変わったいった。


~~~~~~~~~
「何をするの!離しなさい!」
「随分威勢がいいなあ」
男は女…というにはまだ早い少女の腕を掴み、半ばあきれて口元を緩めた。
「痛いっ、離しなさい!聞こえないの!」
「…あなたが第二王女のアデライードだろ?」
男は少女を不躾に、頭から爪先まで見ている。
豊かに波打つ黄金の髪。東方から伝わる陶器のように滑らかで透明感のある肌は
怒りのためかばら色に輝いている。同じく怒りに燃える瞳は深いブルーだ。
気の強そうな瞳に反して、唇は優しげにふっくらとしていて頬と同じように赤く色づいていた。
男は思わず、細い腕を引き寄せ腰を抱き唇に吸い付いていた。
「っん、やめ…!」
暴れる身体を押さえ付け唇を味わい歯列をなぞる。
「痛っ!」
男は慌てて唇を離した。噛まれた唇から血の味がした。
「本当に威勢がいいな…」
男は怒りと屈辱に震えている少女…アデライードの身体を抱え上げ、豪奢だが少女らしい色調のベッドに放り投げた。

「敗戦国の物は勝者の物だ。
そして、この城と城の王女は俺が好きにしていいと言う事なんでな」
「な…」
「だから…この部屋は誰もこないぞ?人払いもして鍵もかけた。
もちろん、お前がどうしても嫌と言うなら…」
組み伏せられたまま、アデライードの青い瞳は男をじっと見据えている。
「第一王女の方にするが…」
アデライードの細い身体がピクリと反応する。
青い瞳も微かに光を弱めたように見えた。
(おや…?)
「俺としては、妻に迎えるのに第一でも第二でも関係ないからな。
もちろん美人で身体もいいのに限るが」
「無礼なっ…」
「しかし、国外にお前の噂は流れてくるが、第一王女の噂はとんとない」
「………」
アデライードが瞳を逸らす。
「第一王女は妾妃腹だそうだから、冷遇してるのか?だったら俺の妻にして優しく…」
「やめて!」
「なんだ急に」
「エリザベートはダメよ!」
「…俺はどっちでもかわまん。が、第一王女がダメというならお前が俺の妻だ」
男は再びアデライードに唇を寄せる。
「今度は噛むなよ。抵抗するなら第一王女にする。
お前は…部下たちにくれてやる」


アデライードは唇をぎゅっと噛み締め男を睨みつけたままだ。
しばらくの沈黙が流れる。
返事がないことを肯定と受け止め、男はアデライードの首筋に唇を這わせた。
「…っ!」
嫌悪のためだろう、アデライードの身体が震えた。
男の唇はゆっくりと下降し少女らしく膨らんだ胸元へと進んでいく。
「やっ…」
先程とは異なり、声音は震えていた。
「やめるか?」
もちろんそんな気はさらさらない。
「い、いいえ!」
案の定の答えが返って来て男はほくそ笑む。
「あなたの好きにしたらいいわ。けれど…」
「けれど?」
「エリザベートはダメよ。これだけは守って!」
胸元から顔を上げ、男は少女を見つめる。
涙で滲んだ瞳も紅潮した頬も乱れた髪も震える唇も…すべてが魅力的だった。
一国の将のに過ぎない自分が、由緒正しいこの国の
…想像よりもずっと美しい王女の夫になる…
そう思うと身体が熱くなってくる。
「承知した」
男はかすれた声でそれだけ言うと、少女に二度目のくちづけをした。


先程よりもさらに激しく無遠慮に男の舌はアデライードの咥内を貪り、
骨張った手が華奢な身体をまさぐる。
「ふっ…や…」
男の身体の下で身をよじり、時折苦しげにもれる声も気持ちを高まらせる媚薬だった。
次に否と言われても男は止めるつもりはなかった。
面倒な仕組みのドレスを脱がせる手間を惜しみ、開いた胸元から手を差し入れた。
「や、嫌っ…あっ」
アデライードが思わず小さな悲鳴をあげる。

その時、
「アデラ、アデラ!?」
王女の部屋の扉…男が人払いをしたのとは別の、
王女の私室を繋ぐ扉の向こうから声は聞こえ、小さく扉を叩く音がした。
途端、アデライードの身体が一層強張る。
男は構わずアデライードのドレスの胸元を無理矢理開いた。
「嫌っ、止めて!」
「アデラ!どうしたの?アデラ!」

トントンと扉を叩いていた音が止むと、カチャリと扉が開いた。


「だめっ、エリザ!来ないでっ!」
「アデラ…どこ?アデラ……
あ、あ…いやああああああ」
エリザベートと呼ばれたその少女は、
ベッドの上の二人を見つけると青ざめ震え、細く叫ぶとその場に崩れ落ちた。

「エリザ、エリザ!」
「あれが第一王女?」
アデライードを組み敷いたまま男は尋ねる。
「そうよ。離してっ!エリザ、大丈夫?エリザ!」
あまりの剣幕に男は腕の力を弱めた。
途端、アデライードは腕の中を摺り抜け倒れている姉姫の元へ駆け寄る。
「エリザ、大丈夫?
お前、そこの水差しを取って!」
「あ、ああ…」
男は勢いに気圧され、水差しの水をカップに注ぐとアデライードに手渡した。
「エリザ、飲んで…。お前、手伝いなさい!」
促されるまま、男はエリザベートの身体を起こすのを手伝い
アデライードは慣れた手つきでカップの水を飲ませた。

青ざめたエリザベートがゆっくりと目を開く。と、
ドン!ドン!
男が入ってきた方の扉を叩く音がした。
「エド、エドアルド!開けろ!」
「は、はい!」
男は慌てて立ち上がる。
「何を遊んでいる?仕事はまだあるぞ」
「すみません、王」
扉の向こうから黒い髪黒い瞳の…まだ少年と言っていい風情の若い王が姿を現した。
「………これは…まあ仕方ないか」
寄り添う二人の乙女とエドアルドと呼ばれた男に目をやり、少年は苦笑した。
太陽の光を集めたような第二王女と、2才程年長と聞く割には華奢ではかなげな
淡い栗色の髪と瞳の第一王女は月の光を集めたようだった。


「王…?お前が?」
「無礼な口をきくなよ」
エドアルドがアデライードに向き直る。と、エリザベートと目が合った。
「あ、嫌…」
再びエリザベートが震え、アデライードが慌てて視線を遮るように身体を上げた。
「お前、向こうをむいて!」
「おい、夫になる相手にそれはなんだ。あ、王…」
少年王は躊躇う事なく二人に歩みより、視線を落とした。
黒い瞳はまっすぐに姉王女に注がれていた。

「来い」
エリザベートの細い手首を掴むと引き寄せた。
「ちょっと、何をするの!」
慌てて振りほどこうとするが、少年とはいえアデライードに敵うはずもなく、
エリザベートもたよりなく引き寄せられ、奥の扉へと姿を消した。
「まって、ダメよ!」
追い縋るアデライードをエドアルドは抱き寄せた。
「どうして!エリザには何もしないって…、酷い。離してっ」
エドアルドの腕を振りほどくと、アデライードはその場で泣き崩れた。

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最終更新:2010年01月28日 19:10