寝所の戸を引くと、布団の傍らに小袖姿で座る女の姿があった。
誰も見ていないというのに背筋を伸ばし、虚空をじっと見つめている。
その顔が、こちらを向いた。
切れ長の涼やかな目元に、ほっそりとした顎。
黒々とした長い髪が、肩からさらりと流れて落ちる。
隆信はその前にどっかりと腰を下ろした。
「お待たせしましたかな」
「いいえ」
なるべく優しく言ったつもりだったが、女は表情を崩さなかった。
冴姫、という。その名の通り、峻烈な気性と冷ややかな美貌をしている。
「隆信どの。お話がございます」
「何でしょう」
一度目を伏せ、それから真っ直ぐに隆信を見る。射抜かれそうな強い視線だった。
「嫁いだからには、この胎はあなたのもの。あなたの子を産むことは、務めとして
果たします。それは約束しますが、わたしを手に入れたとは思わないで頂きたい」
「どういうことですかな」
「魂までは渡さない、と言っておるのです」
冷たかったその眼に、憎しみの色が浮かんだ。怒りのためか目尻が赤く染まる。
それを見て隆信は苦笑した。
「当然ですな。おれは姫の父を殺したのだから」


戦の世であった。
冴姫の父は小国の大名であった。
隆信はその家臣、といっても雑兵からのし上がった成り上がりだった。
小賢しい知恵と野心のみで腹心にまでなったが、古くからの家臣にはよく思わない
ものも多かった。
高潔ではあったが時代に乗り遅れた男は、成り上がり者の野心に敗れた。
忠臣たちは命を投げ打ってでもその仇を討とうとしていたが、それを止めたのが
冴姫だった。
父の気性を受け継いだ冴姫は、自らの身と引き換えに家臣たちの受け入れを要求したのだ。冴姫は自らの身を持って自らを守ったともいえる。
主の遺児が大人しく投降したとなれば、家臣たちも否やは言えなかった。
さらに、隆信の軍勢は今やかつての主と並びつつある。どのみち、反乱を起こせば死ぬのは目に見えていた。
戦の後の混乱は、驚くほど早く収束した。


「今にもおれの首を斬りたいだろうが、それではせっかく守った家臣の命が無駄に
なりますな。その覚悟で嫁いで来られたのでしょう?」
「もちろんです。あなたの命には従いましょう。これは、ただのわたしの意地です」
「そんなことを言って、おれの機嫌を損ねるとは思わんのですかな」
「あなたこそ、わたしを無碍には扱えぬはず。父の家臣はわたしがいるから大人しく
しておるのですから」
「そのとおり。姫は賢くていらっしゃる」
父親よりも手強いかもしれん、と言いかけてやめた。


「話はそれだけです。後はどうとでもなさいませ」
そう言って目を閉じた。
好きにしろということなのだろうが、新床を迎えた娘にしては堂々とし過ぎている。
ふと、悪戯心が首をもたげた。
「姫。ご自分で脱いでいただけますかな」
はっと目を見開いてこちらを見る。隆信は思わずにやりと笑った。
「こういったことは、殿方がなさるのではないですか」
「さて。先程、おれの命には従うと仰ってましたが」
姫が唇を噛む。成り上がりごときに命令されるのは、内心屈辱なのに違いない。
しかし、姫は立ち上がった。
「わかりました」
しゅ、と衣擦れの音を立てて帯を解く。白い小袖よりなお白い、美しい裸体が現れる。
隆信はそれを眩しげに見る。本来ならば見ることはおろか、近づくこともない存在だ。
それが自分に屈している姿に、言いようもない感覚を覚える。
脱ぎ棄てた小袖を枕元に置き、冴姫がこちらを振りむいた。
「これでよろしいですか」
それには答えず、じっと裸身を見つめる。舐めるような視線に、冴姫もうろたえた。
「何をなさっているのです」
「いや、何でも。さて、今度は脱がせて貰えますかな」
冴姫は眉をひそめたが、隆信の前に膝をつくと前合わせを解き始めた。
指が動くたび、白い乳房が揺れる。
その間に覗く、固く閉じた脚の間の茂みを見るだけで、むしゃぶりつきたい衝動に
襲われたがそれをぐっとこらえる。
下帯を外そうとして脇腹に触れた指が思いのほか冷たく、背筋がぞくりとした。
冴姫はぎこちなく小袖と下帯を脱がし終えると、同じく枕元に畳んで置いた。布団の上に座り、再びこちらを向く。


「これでよろしいですか」
羞恥のためか、姫の白い肌がほんのりと赤く染まっている。
見せたことも、見せられたこともないに違いない。
ようやく血の通い始めたそれに触れたかったが、隆信は再び堪える。
「では、ご自分でご自分に触って見せてくださいますかな」
冴姫の目がかっと見開かれた。
「何ですって」
「ご自分で濡れるところが見てみたいと思いましてな」
「……下劣な」
「なさったことはございませんか」
「当然です」
「ならば教えて差し上げましょう。それ、乳の先を触るのです。両手で」
唇を噛んで、冴姫は言われたまま胸を触る。最初はただ頑なに口を閉じていたのが、
段々感覚が分かってきたのか口元が緩んできた。
声にならない息が時折漏れる。
弄り方も慣れてきたようで、次第にその作業に集中しはじめたのが分かる。
「あ……」
遂に甘い声が漏れた。
同時に姫の理性が引き戻された。かっと頬が朱に染まる。
「次は、そうですな。胸を揉んでいただきましょうか。下から持ち上げるように
……そう」
嫌々というふうに眉根をひそめてはいたが、次第にその動きに取り付かれていく。
案外、この姫は好きものかもしれん、と思う。
「ふ……」
ふと、姫が身じろぎをした。
白くむっちりと張った腿が、耐え切れないように震える。

「これで……よろしいですか」
冴姫のぎりぎりの理性がそう問うたが、声は微かにかすれていた。

隆信にも限界だった。


姫の肩を押し倒す。
冴姫の震えた唇を奪うと、むしゃぶるように吸った。
息をつこうと広げた口内に舌を割りいれる。姫は驚いて顔をそむけようとしたが、
隆信は姫の頭を掴んで逃さなかった。
涎でまみれた細い顎を舐め取ると、姫の身体がぴくりと震える。
そのまま喉、首筋へと舌を這わせる。あれほど白く冷たそうに見えた肌は、今や
上気して熱い位に火照っている。
姫自ら弄んだ乳首は硬く立ち、隆信の情欲を誘った。舌先でそれをつつくと、
過敏になった姫の身体は大きく仰け反った。
「あ、あっ」
舌と指先でこねくるたびに、姫の口から嬌声が漏れた。
あれほど頑なだった娘が、あられもなく身をよじっている。
隆信はそれと知られぬように笑った。
隆信は片方の乳房をまさぐりながら、もう片方の手を下へとずらしていく。
なだらかで柔らかな腹を伝い、茂みの中へと指を差し入れる。
「……っや、あっ!」
そこは既に潤っていた。生娘という割には充分な具合だった。中まで指を入れず、
ぬめりを広げるようにかきまぜると、姫の腿が再び頑なに閉じられようとする。
「姫、あなたは恐ろしい方ですな。生娘だというのにこれほど濡れていらっしゃる。
本当は自分でいたずらしておったんでしょう」
「し……てない……っ……」
反論するが、最初の気丈さはどこかへ行ってしまったように弱々しかった。
腿を撫でさすり、その感触を味わう。食らいつきたいほどの魅力がそこにあった。
「生娘というのもまことかどうか」
姫が息を呑むのが分かった。
「果たして、今後も姫を信用していいものですかな」
我ながら意地悪くそう言うと、姫はただゆるく首を振った。
その表情は真剣で、だが哀惜の色を帯びていた。

「信じて……」
ほとんど泣きそうな声で、姫が呟いた。


その声に、最後の理性も吹き飛んだ。
充分潤ったそこに、既に張りつめていたそれをあてがう。ゆっくりと押し進めるが、
余りのきつさにそれだけで限界がきそうになる。
恐らく苦痛を堪えているのだろう、姫の唇が再び固く閉じられている。
時折聞こえる吐息は嬌声か、痛みのためか、ただ必死だった。
冴姫の爪が辛苦に耐えるように、恨みを込めるように隆信の肌に突きたてられる。

入れてみるまでもない。あの頑なさは生娘のそれと決まっている。
ただ、あの美しく気高い娘を貶めたかっただけだ。
しょせん成り上がりの、薄汚れた裏切り者が、この娘をねじ伏せる理由を
つけたかっただけだ。
きっと一生、この娘にかなうことはないだろう。
この娘への罪の意識も、消すことは出来ぬし、許されない。
だが、手に入れたからには手離すことはない。嫌だと言われても、手離すことも
できない。
ならばいっそ貶めたかったが、こんな淫らな姿でさえ姫は美しかった。
限界はすぐに訪れた。
隆信は遠慮なく、冴姫の奥にそれを放つ。
自分の濁った想いで姫のそこが満たされるのを感じた。

冴姫の目から、涙がひとすじ伝い落ちた。
隆信はそれを見ないふりをした。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月28日 18:47