思い人 ◆H7btjH/WDc


目を覚ますと、朽樹良子(女子十二番)は、草むらの中で眠り姫のように横たわっていた。

「何なんだろう……なんで私がこんなところに……」


昨日の夜は、何事もなかった。ちゃんと9時に床に就き、明日の修学旅行に望んだはず。
だが、蓋を開けてみればビックリだ。

ラトは死んだ。そして自分も死ぬかもしれない。このゲームは常軌を逸している。

彼女は、ムクリと起き上がり、スカートに付いた土を掃う。
ラトは、決して親しい仲ではなかったが、一度だけ彼に相談に乗ってもらったことがある。
倦怠感が続く頭で思い出すのは億劫であるが、思い出さなければいけない。
いや、倦怠感とか、そういうのじゃなく、純粋にこのゲームを思い出したくないだけだ。




「いや、できるよ朽樹さんなら」


朽樹良子は、放課後に夕日を受け、緋色に煌く誰もいない教室の中に、ラトとともにいた。
不安をラトに打ち明けていたのだ。生徒会選挙のことについて。

「でも……私に出来るかどうか不安で……」
「いざ出てみると……こんなにもプレッシャーが掛かるだなんて思ってなくて……」

切っ掛けは担任教師の依頼からだった。
担任は非常に怠惰な性格なうえに放任主義で、成績が3年生中でトップであるという理由だけで良子を生徒会長に推薦した。
無論彼女は断ったが、彼女の意思とは関係なく、「既に決めたこと」とだけ言って良子を跳ね除けた。

「それでね……ラト君に折り入って相談があるのよ」

「候補は変わらないよ。僕はそんな柄じゃない」

ラトは、良子の言葉を跳ね除けた。
できることならばそうしたい。だが、担任は面倒だと言って何もしてくれないだろう。
だとしたら何の相談をしにきたんだ?私は…………


「何故だか分かるかい?さっきも言ったように僕は君ならできると思ってる」

「でも……私なんかじゃ……」

「キミはただ不安なだけなんだ」

良子の不安を纏った言葉も、敢えてラトは再び跳ね除ける。良子はショックを覚えることはない。
そんなことよりも、その言葉に少しだけ、耳を傾けたい気分になる。
何よりもラトが纏う心地のよいオーラがそうさせる。何でだろう。気持ちがだんだん楽になってゆく。今まで思いつめていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくるくらいに、心は解れた。

「僕は応援してるよ。朽樹さん」

良子は理解した。誰かに優しい言葉をかけて欲しかっただけであることを。


「…………あり……がとう。ラト君」

ラトに深く頭を下げ、良子は足早と教室を後にした。


一段落したところで、ラトはほっと一息ついたが、良子はすぐに戻ってきてラトに一言この言葉を投げかける。

「ゴメン!教室の鍵、職員室のキーロッカーに戻しといて!」
「OKー」

ラトはそう、爽やかに言い放った。
良子は、その3日後に行われた生徒会選挙で、生徒会会長に就任することに成功する。
応援演説を務めたのはラトだった。


―――――そのラトが死んでしまった。

彼は最期にサーシャに……自分の思いを全て曝け出し、逝った。
また、明日会えるというような爽やかな表情であったが、その中にはどこか寂しさも孕んでいた。


良子は、獣人であろうと抵抗なく接してきた。ラトもまた、例外ではない。例外ではないはずだが、何故かいつも彼とは距離を感じていた。あの時のラトの表情は、いつもと変わりなくも見えた。
そうなると、より一層何故ラトが死ななければいけないのか、疑問に思えてくる。
少し待てば、彼がひょっこり帰ってきそうな気もしてくる。
それらの思いは、いつしか涙へと変わり、ポツリポツリと零れ落ちる。
最期に思い人を思う気持ちは、良子には痛いほど分かるからだ。

何故なら彼女も―――――

「……良子?泣いてるの?」

後ろからの声に振り向くと、そこには、鬼崎喜佳(女子七番)がいた。その手に握られていたのは、拳銃。

良子は、とっさに危険を察知し、身構える。だが、彼女の支給品である両口スパナでは、どうしても届かない。仮に投げたとしても、当てる自信はないし、彼女が持っている銃の発砲のほうが早いだろう。

彼女に出来ることといえば、急所である胸や首を腕で覆い隠すこと――――

「何やってんの?」

「…………へっ?え?襲ってこないの?」

「あのねぇ……仮にも友達なんだからアンタを後から撃つなんて真似するわけないでしょうが。ちっとは私を信用しなさいよ」

良子は、その一言を聞くと拍子抜けしたのか、その場に膝を着いた

「な……なによ!?ビックリするじゃないの!!」

「いや、そっちこそなによ!こっちが親切心で構ってやろうと思ったのにッ……でも」

「……悪かったわ。良子」

「ええ。こちらこそごめんなさい」

喜佳は、銃をデイパックに仕舞うと、膝を着いている良子に手を差し伸べる。
良子が立ち上がり、二人が向き合った瞬間、彼女たちは頭を下げ、互いに謝意の念を示した。
それから、ほんの少しだけ、彼女たちの間に沈黙が佇んだが、そいつはすぐに姿を消した。

「ラトのことは残念だったと思うわ」

喜佳のその言葉によって、空気は再び沈黙に突入した。


―――――


「私は…………絶対にこの殺し合いに乗ったりしないわ!」

その空気も、結果としてすぐに打破されるのだった。
空気を打ち破ったのは、良子の突然の言葉。
彼女の瞳には、強い意志が宿っているのは明確だった。

「これ以上誰にも死んでほしくはないし……それに――――」

「あーっあーっ皆まで言うな皆まで言うな。どうせ私たちだけじゃ何にも出来ないでしょ?」

「まずは協力者を探さないとね~聡右のバカ辺りは殺しても死なないだろうし……」

「まあ深く考えるのはよそう!とりあえず行くよ!良子ー!」

喜佳はデイパックからわざわざ銃を取り出し、キザで大袈裟なポーズをとりながら歩き出す。

「不安だわ…………」

良子の内心はこうであった。




対して鬼崎喜佳の内心はこうである。


「上手く潜り込めた…………」


鬼崎喜佳は、人付き合いが上手で、クラス内に友人も多い。
彼女と良子は、親友と言うほどの仲ではないが、一緒にカラオケに行くなど、クラスメイトの中では割りと仲のいいほうである
最も、クラスに数人いる取っ付き難く変態チックなクラスメイト以外とは、男女問わず友人関係にある。

中でも、一番親しいのは内木聡右(男子二十二番)。
両親、クラス公認のカップルとして有名だが、彼女はその仲にまで達成したとは思っていない。
彼は父親が引き取っている。
同居しているが、肉体関係を持っているわけでもないし、キスもしたことはない。

聡右が殺しても死なないようなタフな男であることは、彼女がよく知っている。
だが、それは確定事項ではない。この状況下では、彼も死にかねないのだ。
だからこそ、今は彼のことがより一層恋しい。


喜佳は、願わくば引金を引かぬことを望むが、彼のためなら鬼にでも悪魔にでもなれる覚悟はあった。


【C-7 草原/一日目・深夜】
【12:朽樹 良子(くちき-りょうこ)】
【1:私(達) 2:貴方(達) 3:あの人(達)、○○さん、くん(名字さん、君付け)】
[状態]:健康、不安
[装備]:両口スパナ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本思考:仲間を集めて島を脱出したい。
0:この先が少し不安
1:鬼崎さん……放っておけないわね。いざとなったら彼女を守らなきゃ

【7:鬼崎 喜佳(きざき-よしか)】
【1:私(たち) 2:あなた(たち) 3:あの人、あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメント(7/7)
[道具]:支給品一式、予備弾(21/21)
[思考・状況]
基本思考:聡右と合流したい。仲間を探すことを口実に、彼を探す予定
0:ゲームに乗る気はない。だが生徒の数が減ってくれると嬉しい
1:いつも通りの親しみやすい鬼崎喜佳を演じ、戦いを極力避ける
2:良子たち他生徒には基本的に気を許す気はない。何か変なまねをしたら誰だろうが容赦なく殺す
3:襲ってくる者は殺す(躊躇はしない)
[備考欄]
※聡右がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(自分では確実に殺してしまうという恐怖がある)
※彼女が銃を扱える事実は聡右以外は知りません



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GAME START 朽樹良子 遠く流されて~EXILE~
GAME START 鬼崎喜佳 遠く流されて~EXILE~




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最終更新:2009年01月03日 12:14