狂相◆6CPRxrNuR


彼がその少年とまともに会話したのは、夏休みを目前に控えた放課後のことだった。

「ねえ、壱里塚くん。僕と少し話をしないかい?」

そう、にこやかに声をかけてきた獣人の少年に、彼は少し不快に思いながらも承諾の言葉を返す。
なぜなら、彼は学校で問題を起こすのは本意ではなかったし、唐突に話をしようと誘ってきた彼にも興味があったからだ。
そして、人の居なくなった教室で二人は本当に他愛もない話をした。
家族の事、学校の事、趣味の事、好きな人の事……と言っても、主に少年が喋っていただけだったが。
やがて、話の種も尽きたかと思われる頃。

「……君が、僕達にどんな感情を抱いているのか。ある程度は理解してるつもりだよ」

少年が囁くような声でポツリと呟いた。
驚きに目を見張る彼を意に介さず、少年は言葉を続ける。

「僕には君がどういう半生を送ってきて、どういう経験からそんな感情を抱くに至ったかなんてわからない。
 そして、その事に僕がとやかく言う権利もないと思う。だから、僕は君ともっと話をしたいんだ」

そう言って、少年は気恥ずかしそうに微笑んだ。


結局、あの放課後以降、少年と言葉を交わす機会は訪れる事はなく。
もっと話をしたいと微笑んだ獣人の少年は、彼の目の前で死んだ。
あるいは、あの時少年が好きだと言っていた、獣人の少女の目の前で。

天上の月の光を受けて、きらめきを反射する水面。
それをぼんやりと眺めながら壱里塚徳人(男子二番)は先程の光景を思い返していた。

電子音、告白、爆発、死、絶望。

あっけなく獣人が一人死に、教室中が悲鳴に満たされた。
そしてそんな混乱の中、彼は彼女から目を離せずにいた。
サーシャ(女子十六番)。
彼のクラスで委員長を勤める少女。
猫族の血が入った、獣人の少女。
あの少年が好きだと言い、そして少年に告白された少女。
目の前で少年が死に、絶望の色を顔に貼り付けていた少女。

少年の死の瞬間を、彼女の絶望の表情を思い出すたび、徳人の感情は激しく刺激されていた。

――背筋を走る、おこりの様な感覚に。

何という事だと徳人は激しく歓喜に震える。
これまでの半生で、彼は何度も獣達のあんな表情を想像していた。
例えば自宅や学校で飼育している獣達にもし知性があったなら……
飼料を管理され、檻に押し込められ、苛め抜かれた彼等はそんな表情を返してくれるのか。
そんな妄想に興奮し、夜も眠れない時すらあった。

ああ、けれども、だけれども。
それが現実になるだけで、何故こんなにも気持ちがいいのだろう。
彼女の浮かべた絶望の表情、それを思い返すだけで徳人はこんなにも至福の気分になれるのだ。

(だけど、まだたりない)

そうだ、彼女の絶望をもっと見ていたい。
いや、サーシャだけじゃない。
うちのクラスにはあんなにも獣共がいるのだ。
きっと、彼等の絶望も、彼を至福の境地に連れて行ってくれるだろう。


「さあ、狩りの時間だ……僕を楽しませろよ、獣共!」
黒い鞄と散弾銃を手に徳人は歩き出す。
彼の表情はいびつに歪んでいた。


(そういえばラト、お前の絶望した顔が見られなかったのは凄く残念だよ
 けど、代わりにお前の好きだった女で楽しませてもらうから、安心して眠ってくれよ……)

【B-2 湖畔/一日目・深夜】
【2:壱里塚 徳人(いちりづか-とくひと)】
【1:僕(達) 2:お前(ら) 3:あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】
 [状態]:興奮状態
 [装備]:レミントンM870(6/6)、予備弾(18/18)
 [道具]:支給品一式
 [思考・状況]
  基本思考:獣人の絶望した表情がみたい
  0:待ってろよ、獣共!
  1:獣人を狩り、絶望の表情をみる
  2:サーシャの絶望した顔を堪能する
 [備考欄]
  ※獣人以外への対処は不明です

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GAME START 壱里塚徳人 壱里塚と久世の異常な愛情




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最終更新:2009年01月03日 12:09