文化祭の前日のようです~琴浦・穂積編~ ◆ADV7qahRJE


紅色に染まりつつある空に、鳴り響くチャイム音と学校から出ていく生徒が更にそれを早めるかの様に見える。
そもそもそんなの俺の主観でしか無い訳なのだが、まぁ別にそれは置いておくとしてだ。
俺の名は穂積宗一。何処にでも居る様な名前の何処にでも居る様な一般の高校生だ。
決して百足(むかで)とか紅露(こうろ)とか般若とか、そんなトンデモ名前では無い訳だからな。
まぁ強いて違うとこを挙げるならば若干人を見極めるくらいだが、正直今の世の中には不必要な物だと俺は思う。
こういう事を思うたび、戦争の策略家(挙げるんなら毛利、尼子、クロカン、竹中、鍋島らへんなのか?)にでも生まれていたら少しはこれを使えたかもしれないと思い、たまに落ち込んでしまうが、今更後悔しても遅いだろう。タイムスリップ出来る訳じゃあるまいし。
ところで話を元に戻すが、今現在この三年生の教室に居るのは俺一人だ。
まぁだからといって何か様がある訳でも無くただ単に明日ある文化祭の準備に追われてた訳だ。俺は雑務だったが、うちの生徒は何故か某男塾の面子と戦っても違和感ねぇ奴しか居ない訳だし、その為に何か組み立てたりする奴とかは全部そいつらに任したがね。


ガララララ…

「ん」

そんな中、突如として聞こえたドアの開く音に若干驚きつつもすぐにその感情をどっかにやる。
しかしまぁ…大体こういうのは予想はつくのだが。

「そっういっちくーんー!帰りましょー!」

教室内に響き渡る俺に対する誘いに「だが断る」と俺は後ろ側の開いたドアに向かって言い放つ。

「…出来るなコイツ」
「出てこい琴浦。テメェって事は分かってんだぞ?」
「ちぇー。分かったから待っとけよ」

そう言いながら渋々ドアの出入口から出て来たのは俺の数少ない友、琴浦周斗である。
最近ボクシングのプロになる事が決まった比較的まともな部類の一般人以上、超人未満で、そのボクシングで鍛え上げられた体に比例し、顔には所々にある小さい切り傷にでかいバンソーコーが貼っており、間違いなく一般人が見たらビビるであろう奴である。

「あのなぁ琴浦…お前今日部活の練習はしなくていいのかよ。近々初試合があんだろ?なら練習した方が…」
「おっとそれは心配ご無用だぜ我が同志よ!」

ピシッと俺に指を指し、白鳥の湖の様なポーズを取る周斗にあえて俺は突っ込まず、本題を続ける。

「何故だよ」
「ふふふ、この琴浦周斗、将来性を見込まれ12時近くまで使える様になったんだぜ!」
「…つーかそれ、テメェが遅くまで残って練習してるからだろうが」

明らかにこれは突っ込まれずにおられずについ突っ込むが、コイツはこんなんながらも結構出来る子だ。プロになる事も決まってるし、十二時まで練習してるのは事実だし、多分コイツは二十四時間スパーリングしても大丈夫なんじゃなかろうかと思うくらいだしな。

「ところで話は変わるんだが宗一、少し良いか?」
「んだよ。どうでも良いなら帰るぞ」
「まぁ待てよ宗一。珍しく真剣な話なんだ」
「…じゃあ、話せよ」

持ち上げていた学生カバンを机に置き直し、椅子に足を組んで座り、琴浦の方を見直す。
立ちっぱなしの琴浦は誰かのか分からない机に座ると、ややトーンを下げ口を開く。

「実はさ、明日の文化祭の朝会、サボろうと思うんだけ「すまん。今すぐ帰るわ」

俺はまた学生カバンを持ち、出入口の方へと急ぐ。
琴浦は俺の肩を掴むと俺の方を向かせ、超至近距離で訴え続ける。

「ま、待てよ宗一!俺とお前の仲だろ!?匿ってくれないのか」
「嫌だね。そんなリスク背負いたくはねぇ」
「いや、でもお前雑務だろ?少しくらい、手伝うって名目でさ!?」
「…はぁ」

おもわず俺は溜め息と呆れ声が混じった声を出す。
大体コイツはこうなったら頑も譲らない。迷惑野郎としか言い様が無いが、面倒くさいし仕方ないか。

「分かったよ。少しくらいなら居ても良い」
「マジで!?」
「マジだが」
「…宗一ぃ!愛してるぞっ!」
「近寄んな気色悪い…てか誤解されるからそういうのはやめい」

…『明日コイツが死ねば良いのに』にと思ったのは今日で三十六回目だ。
自重しろよ冗談抜きで。

◇◆◇◆◇◆

「じゃ、俺こっちから今日帰るわ」

学校から出て暫く琴浦と帰っていた時にふと琴浦が三つに分かれた道の右方向に体を若干カーブさせながら俺に言った。
基本的にコイツと道が別れるのはもう少し先の交差点な訳なので、何か理由でもあるのか?とふと思い俺は琴浦に尋ねる。

「琴浦、今日何か用事でもあんのか?」

琴浦は「む」と言ってそっちの道の方へと進ませる寸前で両足を止めさせると、何も迷う事も無く一言言った。

「買い物、だよ」

何故買い物で一回言葉を区切ったかは分からんが、俺はとりあえず「ん、そうか」と返すと、琴浦とは逆方向の自宅の方へと歩みを進め始める。

「宗一!」

いきなり響いた琴浦の声に俺は対向線の若干遠めに居る琴浦の方向を振り向きながら、なるべく大きな声で返事する。

「手短に話せ琴浦。急いでんだろ」

少ししか見えない琴浦が頭を掻きながらも大きく息を吸うのが分かると、琴浦は叫んだ。

「明日、最高の文化祭にしような!一生忘れられない、最後の文化祭なんだからな!」

…ベタな事を言う阿呆だ。
でもまぁ、シカトはしないのが最低限の礼儀だと俺は思い、また自分の行く方向へと視界を写しながら、一言聞こえる様に言った。

「あぁ、また明日な」

そして俺は後少しで沈むであろう太陽が照らす光による影を引き連れながら俺はまた帰路についた。

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最終更新:2009年09月27日 23:49