スカーフェイスと摩利支天 ◆hhzYiwxC1.
時刻は間もなく朝方
「……いかんいかん」
眠ってしまっていた。
まだ誰も訪れてはいないようだが、警戒を緩め過ぎだろう。
「誰が来てもいいように備えないとな…………」
「――ねえ」
日向有人は驚いた。
ボウガンを構えるがその声はすぐ近く。背後から聞こえる。
明らかに手おくれ。対応が遅すぎた。
声から判断して女生徒であるだろうが、数時間前にここから去って行った長谷川沙羅と倉沢ほのかではない事は確かだ。
「………アンタ」
「ああ起きたのね。日向君」
そこにはテトが立っていた。
まだ少し暗いがそれでも僅かな木漏れ日が彼女を照らし、認識を可能とさせる。
だが、それと同時にあることも、日向は確認できていた。
「………テトさん。アンタ」
「アンタどうして首輪をしていない?」
薄ら明かりでも視認は辛うじてできた。
自分の命運を握る、この拘束具を、彼女は首に取りつけてない。
「アンタには恩がある。だが教えてもらうぞ。何で首輪をしていない」
だから、日向はボウガンを下げなかった。
友人の身辺調査を行ってくれた彼女に向けて。
「日向君。大体の予想は当たってるよ。私はこのゲームの発案者の一人」
「だからあの場にいなかったのか? ラトが殺されたあの場に……」
「うん」
テトは、顔色一つ変えずに頷く。
「…………でもいいの。ラトは死んだけど“新しいラト”は二階堂さんが創ってくれるし」
「二階堂………?」
「あ・ヤバ………ちょっと喋り過ぎたわね。悪いけど…………」
刹那。
テトの猟奇的な笑みが眼に焼き付けられた瞬間、日向有人は集会所から消失していた。
「…まあどこに飛ぶかは運次第だけどね。それにここに居座り続けられても困るし。私それで来たようなもんだから………っと…そろそろ私にも来るわね。学校の近くに飛んだら一応“回収”しとこうかしら」
日向の消失したテトも、そう呟いて数秒後に、跡形も残さず集会所から姿を消していた。
―――
「ぅあああああああああああああああ」
日向有人は、宙を舞っていた。
ここがどこかも分からない。
ただ、これだけは理解していた。自分は落下している。それもかなりの高さから。
落ちたとしたらまず大怪我は必至だろう。運が良くても無傷でその場に立つことは不可能。
つまり少なからずの怪我は不可避。
だからと言ってバトル漫画のように能力を使って衝撃を軽減する事も、急所だけでも庇う余裕も、今の日向にはない。
眼下には、森林が広がっていた。
「…………くそったれ…」
そう呟いた瞬間日向の全身をドラムリズムのような痛みが襲った。
そして最後に訪れたのは、地面にたたきつけられた激痛。
【C-6 森林/一日目・朝方】
【男子二十五番:日向 有人(ひゅうが-ありひと) 気絶】
――――――――
【C-6 森林/一日目・午前】
【男子二十五番:日向 有人(ひゅうが-ありひと) 覚醒】
気が付くと、自分の制服のあちこちに木の枝が刺さっていた。
それに顔にヒリヒリとした痛みを感じる。
触れてみると、やはりさらなる痛みが到来。
予想通り傷を負っている。
「早いとこ鏡のある民家にいかねえとな」
落ちていたボウガンと、デイパックを早々に回収し、再び立ち上がろうとする。
「?!」
立ち上がろうとする。のだが痛みで思うように身体が動かない。
打撲もしている。致命傷は負っていないようだが、どうにも傷は多いらしい。
「この間、誰もこの場を通らなかったのは……ハァ…奇跡に近いな……」
心底安堵としていた。
そうして日向は木々に凭れかかりながら立ち上がり、そのままフラフラと歩き出した。
地図と方位磁石を駆使し、自分の現在地を確認する。
自分はどうやらC-6に飛ばされたようだ。
「………本当にここがC-6なら…診療所が近いな」
少なくとも顔の怪我くらいは治しておきたい。
日向が向かう先などとっくに決まっている。
移動を続けて、いくうちに、日向は二体の死体に遭遇した。
どちらも原形をあまりとどめていなかったが、辛うじて加賀智通とシルヴィアである事が分かる。
死体は少しだけ離れて位置していたことから、二人が争って痛み分けたという線は薄そうだ。
まあなんにせよ傷口を死肉を穿る蝿が鬱陶しい羽音を立てながら飛び交う。
特に言葉はなかった。
彼らとは特に親しくはなかったし、何の感慨も湧かないとまで行かないまでも、彼らの死を悲しむ気分にはならない。
日向は、異臭に鼻を塞ぎながら、そそくさとその場をあとにする。
さらに移動を続けると見えてきた。目的地の診療所。
――
中に入って見てさらに驚き。
あちらこちらに割れた窓ガラスや散らばっていて、中が荒れていた。
「オイオイ。さっきの奴さんまだ近くにいるんじゃねえだろうな?」
日向の言う奴さんは、残念ながらこの場にはもう既にいない。
変わりに、死体が二体。
朽樹良子と……顔のない仏さん。
待合室なども調べてみると、そこにも死体が。
森屋英太と…
「ハァ? 何でこいつがここでおっ死んでやがんだ」
銀鏖院水晶。
首輪が爆破され、無残な姿で横たわっているが、あちこちに散らばる銀髪と年相応にも満たない未成熟な身体。
間違いなくあのグレッグを殺害した銀鏖院水晶。
「あの野郎生きてやがったか」
森屋英太は銀鏖院水晶に殺された確率が高い。
ひょっとしたら朽樹やあの死体も銀鏖院がやったのかも。
「確実に仕留めるべきだったな」
結果、銀鏖院水晶は死んだわけだが、シルヴィアや加賀、朽樹たちも頭数に入れるとすれば、最高で彼女は6人殺している事となる。
「はぁあ……」
支給品の回収もする。
ある程度のものは誰かに抜き取られていたようだが(この事実から抜き取った奴がこいつらを殺したという可能性もあり得る)
だが、顔のない死体のデイパックはほとんど手が付けられていない。
中には基本的な支給品の他、まだ使えそうなアイスピックと――
「何だこれ?」
バングルのようだ。
半分が欠けており、首に掛けられるようなチェーンが取り付けられ、首飾りのような感じになっている。
「乗りかかった船だ。とりあえず貰おう」
日向は、ためらうことなくそれを首に掛けた。
日向は溜め息をつきながら死体を眺めるのもほどほどに、診療所の中を漁りはじめる。
「ガーゼと消毒液……あとできればテープも欲しいな」
見つけた消毒液で、まずは顔の傷を消毒する。
さっき鏡で見てみたが、あちこちが切れていた。もう少しずれていたら失明などもあり得ただろう。
その点では自分は非常に運がいい。
日向は心の底からそう思う。
「痛ぅッ!」
消毒が終わり、すぐにガーゼで傷口を被う。
それからすぐにテープで固定し、これで治療は完了だ。
「被えない場所も多いが………まあこの程度の傷じゃあ死にやしねえだろう」
死にはしない。
死体がすぐ近くに転がっている建物の中で、それを言うのはどうかとも思う。
時刻は間もなく昼。
非常に雑な応急処置を終えた日向は、“漸く”動き出す。
「若狭です。みんな元気かー?」
そして日向が外に出た直後。
放送が再び始まった。
【B-6 診療所/一日目・昼】
【男子二十五番:日向 有人(ひゅうが-ありひと)】
【1:俺(達) 2:あんた(達) 3:あいつ(ら)、○○(呼び捨て)】
[状態]:制服がぼろぼろ、顔面に目立つ切り傷多数(応急処置済み)、全身打撲
[装備]:ボウガン(装填済み)、アイスピック、バングルの片割れ
[道具]:支給品一式×2、ボウガンの矢(18/20)、サバイバルナイフ、毒薬(3瓶)、予備のガーゼ
[思考・状況]
基本思考:殺し合いに乗る気は無い
0:マーダーを殺す
1:テトにもう一度会って問い詰める
[備考欄]
※テト達三人が黒幕だと疑っています
※倉沢ほのかの存在が、あの集団にとってマイナスになると思っています
※第一回放送を聞いていません
玉堤英人は…今しがた第二回放送を耳にし、ただただ凍ったように静止していた。
いつの間にか、彼は全てを失っていたのだ。
ケトルに託したはずのフラウも、血眼になっていた間由佳も。
「………………不味いな。これじゃあますます吉良に遭うわけにはいかなくなる」
英人はいたって冷静だった。
友人たちの死を前にしても、考えているのは自分の安全。
そして同時に彼はある程度理解している。
狂気に駆られた吉良が、目的を失うことでどのような行為に走ろうとするかは容易に想像できる。
「お前は……腕だけじゃなく心も機械なんだ……だからきっと悲しくねえんだよ!!」
森屋英太の言葉だ。
彼の言った言葉は、的中していたかもしれない。
森屋のように悲しみによって気が動転する事も、冷静さを欠く事も、彼には見られない。
彼が何を思うかは現時点では誰にも知る由はない。
【B-6 道路/一日目・昼】
【男子十九番:玉堤英人】
【1:僕(たち) 2:君(たち) 3:あの人、あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:健康、右頬に裂傷、右頬に痣、静かな悲しみ
[装備]:FIM-92スティンガー(1/1)、アウトドアナイフ
[道具]:支給品一式、USBメモリ、大鎌、小型ミサイル×2、赤い液体の入った注射器×3(麻薬)、両口スパナ、首輪の残骸
[思考・状況]
基本思考:主催側がどうなっているか知りたい。
0:由佳やフラウが死んだだと? 馬鹿な……
1:吉良を警戒
2:二階堂に勝てそうな奴を捜してUSBメモリを渡すor共に行動する。
3:ゲームに乗っている生徒で戦って勝てそうにない生徒の場合は逃げる
[備考欄]
※USBメモリに玉堤英人の推測を書いたデータが入っています。
※愛餓夫の言葉を疑っています。
※A-6とB-6の境界地点にいます
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最終更新:2009年09月10日 13:43