誤算 ◆zmHe3wMKNg


―――某所。

「テトー?テトちゃーん?どこいったのー?」

二階堂とのビデオ鑑賞会を終えた卜部悠は誰も居ない廊下を歩く。
先ほどからテトの姿が見当たらないのだ。
思えば二階堂の知り合いだっただけで彼女とは
仲間になってからそれほど親しく接したことがそれほどない。
やはり彼女とも親交を深めておくべきだったかとちょっと後悔。
…でもあの娘の力って強力だけど癖があって扱いにくいのよね…
クラスのみんなを島に移転した時もテトが大変な事になって結局半分くらい船使ったし。
む。そろそろ勘のいい人は私達がどこに居るか気付いてるかもしれないわね。
まぁ、だからってどうしようもないでしょうけど。海を渡ったら首パーンだし。
…首パーンなのよね?永遠?結局あの首輪にどういう機能がついてるか詳しく教えてくれなかったけど。

一人でブツブツ言いながら廊下を歩いていた、その時だった。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「んぇ!?」

曲がり角に隠れていた若狭吉雄が死に物狂いで卜部悠に目掛けて非常用の斧を振りかぶったのは。


◆ ◆ ◆

結局、内木聡右はエルフィを追うことはしなかった。
自分が一番優先しなければならないのは喜佳を捜すこと。
単独行動は危ないが疑心暗鬼に陥ったグループはもっと危ないだろう。
結果的にエルフィの危険より自己の保身を重視することになったことを後悔する日は来るのだろうか?

「ちっ、なんなんだ?なんでこんなこと!?」

いつもそうだ。
自分の力ではどうしようもない圧倒的な暴力にいつも振り回されてきた。
この殺し合いゲームにも裏でどういう利害関係が働いているのか考えるだけでも
虫唾が走るが自分がそれを知る術はない。自分はただの駒。

…利害関係?
そう、一人になってようやく考える余裕が生まれてきた。
果たしてこれだけの人間を殺してメリットがある奴なんているのだろうか?

クラスメイトの何人かは殺される理由は腐るほど思いつく。
しかしそれらを同時にやってしまうと話は変わる。
いくらなんでも無茶苦茶過ぎる。


そこまで考えた時、カサリと草群を踏む音を聞こえ、
そこに人が立っているのが見えた。

「「動くな!!」」

慌てて銃を構えた内木と向き合っていたのは、
同じようなポーズで消火器のホースを構えた楠森昭哉だった。

「…なんだそりゃ?」
「おっと、消火器を馬鹿にしてはいけませんよ。液が目に入ればしばらく行動不可能でしょうからね。」
「でも、殺せないよな?」
「頭をガツンとやれば一発で昇天しますよ?」
「…そうか。」

内木は銃をポケットに仕舞い、両手を挙げた。

「悪い。まいった。そいつを下してくれ。」
「内木さん?」
「あー、とりあえず殺し合いには乗ってないんだろ?楠森。」
「…まぁ、そうですけどね…。」

そう言って楠森は消火器を下した。良く見ると走っていたのか、かなり疲労しているようにみえる。

「何かあったのか?」
「映画館で…ほのかさんが間さんに襲われてたんですよ。で、勇気を振り絞って助けようとしたのです。
 ところが二人とも建物を飛び出してしまったので僕も勢い余って追撃したのですが…。」
「…悪い、倉沢にも間にも遭ってないや。」
「えぇ、そうですよ!道に迷ったんですよ!倉沢さんを見失ったんですよ!
 間さんが見つからなかったんですよ!滑稽ですよね!笑っていいですよ!」
「笑わねーよ。でもいいやつだったんだな、本ばっか読んでていい印象なかったけど見なおしたよ、楠森。」
「…すみませんね。実は僕もあなたを警戒していましたよ。内木さん。」
「…まぁしゃーないだろうけどな。で、どうする?手伝おうか?二人を捜すの?」
「そう言っていただけるのは嬉しいのですが…すみません、今どの位置に居るか判りますか?」
「あーそうだな…さっきまでいたのがG-5の山道だったから今はF-5かF-4の森かな?」
「…………ならば優先すべきは…………。」
「ん?」

楠森は、ポケットの中からF-4と書かれたカードキーを取り出した。

「これが僕の支給品。内木さん、ここで遭ったのも何かの縁です。
 この辺りに何か怪しいものがないか探していただけませんか?」


◆ ◆ ◆


それはコンマ0.5秒にも満たない一瞬の出来事だった。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

常識的に考えられない速度で卜部の元へ走ってきた二階堂永遠が、
若狭の腕を斧ごと捥ぎ取って粉々に破壊したのは。
辺り一面に血飛沫が舞い、苦しみに耐えかね蹲る若狭を二人は見下ろす。

「悠……怪我はない?」
「あーあー。ねぇ、少し位手加減したらぁ?いくら痛みを感じないからってさ。」

死体でできた二階堂の体は筋力の限界を解除し人間とかけ離れた腕力を発揮することもできるらしいが、
同時に肉体も耐えきれずに粉砕される。若狭の腕を破壊した二階堂の右腕はぐしゃぐしゃに潰れ、
あちこちから骨が飛び出ていた。

「……右腕はスペアがいっぱいあるから……別に問題ない。」
「ふーん。ま、やっぱアンタは裏で作業してる方があってるてことじゃない?」
「この…化け物め…。」
「とても的確な表現ね。」

普段通りの機械的な声でそう言い放った。
うなだれる若狭は憎悪に満ちた目で二人を睨む。

「お前……ら……こんなことして……ただ……で……済むと思ってるのか……?」
「おやおや、随分な口のきき方ねぇ。」

卜部悠は、両手を広げ、倒れる男を見下す。

「私がアナタ達のプログラムを引き継いであげたんだから、
 感謝くらいしなさいよね。――――――――――――”担当教官”さん。」

絶望的な表情で、しかし少しだけ若狭はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

(……伝わってると……いいのだがね……楠森昭哉……くくくっ。)


◆ ◆ ◆

「おい、見つかったぞ。」

内木の元に駆けつけた楠森が見たのはマンホール状の扉だった。
真夜中では暗くて見つからなかっただろう。

「……中に、なにがあると思う?」
「さぁ?ただ、このままゲームを続けるよりはマシなことが起こるといいのですがね。」

意を決し、二人は扉をこじ開けた。


【F-4 森/一日目・午前】
【男子二十二番:内木聡右】
【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:あの人、奴(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:健康、心が揺れている
[装備]:コルト・パイソン(6/6)
[道具]:支給品一式、予備弾(18/18)
[思考・状況]
基本思考:喜佳と合流したい。仲間を集めてゲームを潰す
0:楠森と共にF-4の地下室を調べる
1:戦いを極力避ける、ゲームに乗る気はない。
2:助けを求める生徒は見捨てない(だからと言って油断もしない)
3:襲ってくる者は退ける(殺しはしない)
4:内心では吉良が改心してくれて、生き残ることを望んでいる
5;由佳、英人、吉良を警戒
[備考欄]
※喜佳がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(死ぬことはないだろうとは思っていますが、それでも心配です)
※喜佳が銃を扱える事実は聡右以外は知りません
※玉堤英人は吉良邑子、間由佳を利用し、人を殺させていると思い込んでいます
※エルフィがパニックを起こした責任が自分にあると思って、追うのを躊躇ってしまいました

【男子十一番:楠森昭哉】
【1:俺(達) 2:あなた(達) 3:彼(彼女)(達)、名字(さん)】
[状態]:怒り、激しい憎悪、裏切られた悲しみ
[装備]:消化器
[道具]:カードキー、本(BR)、工具箱(ハンマー、ドライバー、スパナ、釘)、
    木の枝、支給品一式
[思考・状況]
 基本思考: 若狭吉雄を許さない(具体的にどうするかは決めていない)
0: F-4の地下室を調べる
1:倉沢ほのかは保留
2:内木聡右を少し警戒
3:海野裕也が少し心配
[備考欄]
※今回のイベントが本の内容をなぞったものだと考えています
※自分では冷静なつもりですが、その実かなり危ない状態です
※卜部悠、テトが主催者側に居ると確信しました
※内木聡右を以前よりは信用しています


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traffic 内木聡右 楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する
Panic Theater 楠森昭哉 楠森昭哉は苦悩する/内木聡右は疑心する/そしてケトルは盲進する

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最終更新:2009年05月26日 19:46