EGO-IZUMU ◆zmHe3wMKNg
片桐和夫を退けてから、随分走った。
足もとがふらつく。視界が霞んで前がよく見えない。何度も樹にぶつかった。
じりじりと回線が焼ける音がする。ファンが効いてないのか滞熱してあちこちから
煙が吹き出ている。石に躓き、こけた。立ち上がろうにも足が動かない。
「……畜生……死にたく……ねぇなぁ……。」
もしやと思っていたが、追原弾は確信した。
自分は完全に故障している。先ほどの戦闘での打ち所が悪かったのだろう。
このままでは機能停止まであと数分もかからないだろう。
とはいえ修理できる環境など用意されてる筈もない。完全に「詰み」だった。
元より作られた命。元よりプロジェクトが終われば破棄されてたかもしれない存在。
だが、そんな自分にもこの世に未練が無いわけではない。
「……キューブ……シティー……会いた、かったな……。」
携帯電話のSNSサイトで知り合いになった二人が気がかりだった。
レプリカントである自分でも対等に喋れることができたネットで特に仲がよかったキューブと、
つい最近新しく友達になった自称ネットゲーマーのシティー。
何度か話してみたところ、この二人は自分のクラスの誰かだったらしい。
共通する話題があまりにも多く、その事にいつの間にか気づいていた。
何度か特定しようと試みたが、できなかった。確実に関係が壊れるから。
でも、最後くらいは、リアルのキューブの顔を知りたかった。
ジリジリ回線が焼ける音がする。
でも、これで良かったのかもしれない。
もし、二人とリアルで再会できたとして「リン」がレプリカントだと言うことを
知ったら失望するに違いない。自分は人間だと言い張ってもそれが事実でないことくらい
理解していた。真実は分からないままの方が二人にとってもいいのだ。
(でもなぁ……畜生……俺がマジで人間だったらなぁ……。)
「よぉ、元気ぃ~?
おっと、聞くだけ無駄だったかな?
どう見ても調子悪そうだもんな~。はははっ。」
気が付くと、誰かがへたり込んでいる弾の前にいた。
そいつは転がっている弾のディバックを漁っている。
「おぉ!結構いい武器持ってるじゃん。その様子じゃもう持っててもしょうがねぇだろ。
悪いけど戴いていくぜ。安心しろって、ちゃんと有効活用してやるからさ、な。」
―人間?
―…そうだ、いいこと思いついた。
―はは、こいつは凄ぇぞ。やっべ、俺、超優秀じゃん。
「……なぁ、良く見えなくて誰だか分らんが、その中身やるからさ、俺の頼みを聞いてくれねぇか?」
「あぁ?おぅ、いいぜ。死にぞこないの遺言くらい聞いといてやるよ。なぁ、追原弾。」
「……追原……弾、か。……くくく、違げぇよ。」
「は?いや、何が?」
「…………『俺』の名前は、『リン』だ。」
そう言い終わると、弾は耳たぶの裏に隠されているスイッチを押しながら、プログラム内でロックを解除した。
すると、まるでCDの取り出し口のように額から中に入っている何かが解放された。
「うぉ!?何やってんの弾!?……て、いうか、お前ロボットだったのか?」
「ああ、知らなかったのか?まぁいいや。」
その中に手を入れ、チップの様なものを取り出した。
「これは、俺の記録カード。USB端子が付いてるその辺のパソコンでも中身が見れる筈。
で、お願いなんだが、『キューブ』と、『シティー』って奴を、捜してくれねぇかな?
SNSで…そのハンドルネームを使っているのが…このクラスの誰か、なんだ。」
そして、チップを目の前の男に差し出した。
「頼む、今日からアンタが、『リン』になってくれ。」
男は、やや沈黙し、しばらくして口を開く。
「なぁ、そいつらってさぁ、女?」
「実は会話中にこっそり裏は取ってある。ほぼ間違いなく。女性。」
「へーえ。そりゃ断る理由なんかねーな。俺に任せろ、弾!喜んで引き受けるぜ。」
「……そっか……サンキュー……太田。」
「え?判ってたのか?」
「……ヤマ勘だよ……見事的中。」
「はっはっはっ!すっげーじゃん、追原!ちょっと見なおしたぜ!」
「…はは…そう、ですか…。」
――これでいい。『俺』は死なない。『リン』は死なない。
――待ってて、キューブ。待ってて、シティー。
――すぐ人間になった『俺』が、『リン』が、君たちを見つけ出します、から。
――まタ、一緒二、楽シ・・・
太田太郎丸忠信の予想通り、追原弾は自分が手を下すまでもなく機能を停止した。
強力な武器を特に労することなくゲットし、弾の節約もできた。ラッキー。
「…さて、どうすっかねー?遺言通りこいつの代わりに捜してあげましょーか?
でも、もう二人とも死んでたりして、はははっ。」
弾の記録が入っているというチップをくるくる回しながら太田は今後の行動方針を考える。
力ずくで女を抑えるのもいいが、銃を持っているかもしれないので危険だろう。
そういう意味で、確実に信頼を得られそうなこの情報は結構有利に働く。
それに、今の自分がやりたいことを実現するには駒が必要だった。
自分のグループの仲間。
愛餓夫、壱里塚徳人、吉良邑子、―――。
…辺りなら直ぐに駒に出来るだろうが…少し物足りない。
入手した銃に弾を込めながら、教室に連れてこられた時、ラトが喋っていたことを思い出す。
『若狭先生、テトさんと二階堂さんと卜部さんはどうしたんですか?』
『元から僕を殺すつもりだったのでしょう? いいでしょう。それが彼女の意思なら僕は止めません。
彼女自身の結末がどうなろうとね』
くくくっと喉を鳴らす。なぜ今まで気付かなかったのか。
この殺し合いを誰が仕切っているのか。それに心当たりがあることを。
「報復のつもりかぁ~?テトのお譲ちゃんよぉー?
へへへっ、そう簡単に事は進みませんぜ?
どうやらきつーいお仕置きが必要みたいだな~?」
別にゲームに乗っても問題ない。このクラスの連中など全員死んでも何の感情も湧かない…筈。
だがそれだけでは面白くない。必ず、テトを引き引き摺り出して調教し直してやろう。
ふと、動かない追原弾を見る。それに銃口を向け――
「…………ま、弾がもったいねーかな。」
銃をポケットにしまい、開いたままの弾の瞼を閉じてやった。
【男子五番:追原弾 死亡】
【残り33人】
【B-3 森/一日目・早朝】
【男子六番:太田太郎丸忠信(おおた-たろうまる-ただのぶ)】
【1:俺(達) 2:あんた(達) 3:○○さん(達)】
[状態]:左肩に裂傷(応急処置済)、脇腹に打撲
[装備]:イサカM37(4/4)
[道具]:支給品一式×3、簡易レーダー、12ゲージショットシェル(7/12)
S&W M500(5/5)、エクスキューショナーソード(刀身に刃毀れアリ)
500S&Wマグナム弾 、追原弾のメモリーチップ
[思考・状況]
基本思考:ゲームを潰す。最悪自分だけでも生き延びる。テトを引っ張り出して調教し直す。
0:男は皆殺し。女は犯してから奴隷にする
1:「リン」を名乗って「キューブ」と「シティー」に接触し、自分の奴隷にする
2;グループの仲間(愛餓夫、壱里塚徳人、吉良邑子)を捜す。
3:女を引き連れてる“勘違い野郎”は苦しめて殺す(同行している女にトラウマを植え付ける意味合いも込めて)
4:間由佳、エルフィ、ノーチラス、シルヴィアを警戒(近くにいるだろうシルヴィアを特に警戒)
[備考欄]
※「シティー」=苗村都月、「キューブ」=古賀葉子です。
※太田のグループの仲間は三人の他にも居るかもしれませんし、いないかもしれません。
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最終更新:2009年03月24日 07:31