Brokeback Mountain ◆hhzYiwxC1.


鬼崎喜佳と朽樹良子は、C-7及びB-7の草原を通って、近くにあった診療所に足を踏み入れた。
着いて早々喜佳は、負傷痕が生々しい右腕に消毒液と包帯を施し、そのあと消毒液がもたらした苦痛に耐えながらも、良子に言われた通りに診療所内に唯一あったベッドで眠ることにする。

暖かいベッドは、喜佳が思っていたよりも早く、彼女を眠らせた。








どれくらい眠ったか分からない。
目を覚ますと痛みはほとんど消えていて、カーテンの隙間から明るい日差しが少しだけ漏れてきていた。
「………私…寝ちゃったのか……」
そう呟き、ベッドから立ち上がる。
ふと後ろを見ると、すぐ近くの壁に凭れかかって静かに寝息を立てている良子の姿が目に入った。

「…ずっといてくれたのかな……良子」

安らかな寝息を立てる良子に、まだ僅かに自分の体温が残っている毛布を被せ、しばらく彼女の寝顔を見ていた。
そして彼女は、ふと気付く。
何故か知らないが、彼女からシャンプーとも石鹸ともとれるような匂いが漂ってきたのだ。

それを不思議に思った彼女は、彼女の艶やかな髪を手で掬う。濡れてはいなかったが、やはりシャンプーのような匂いがしていた。

「…………」

喜佳は、何も言わずに掬った髪の毛を手放すと、彼女の首筋で右手の五指を這わせた。

奇怪な叫び声とともに、良子が立ち上がり、しばらくはリチャード・ギアもびっくりするくらいの奇妙なダンスを踊っていた。


「相変わらずソコ弱いね。良子は」
「鬼崎さん………あなたって人は…」


やや慌てながら良子は、喜佳と距離を少しだけ取り、縺れる舌で言った。

「ところでアンタ…お風呂入った? 何かシャンプーの匂いするわよ?」
「あ…うん。診療所の中に居住スペースがあったから…そこにお風呂とかあったから…」
「そこでシャワーをちょっとね」

「あんたねえ…シルヴィアみたいなのもいるんだし不用意なことはあんまりしないでよ?」
「うぅ……だった汗かいてたし…」

良子は、少しだけ顔を赤くして、俯いた。

「あー……いちいち可愛いなあアンタは本当に…」
「許すわよ。そして私も寝汗かいたからシャワー浴びてくる」

そう言うと、喜佳は立ち上がり、良子に風呂場への案内を求めた。


「ちゃんと見張っといてね。あと覗くんじゃないわよ?」

「の…覗かないわよ!!」

ガラス戸一枚を隔てて、至ってクールな喜佳と未だに少しだけ顔を赤らめている良子が背中合わせに対峙した。
一糸纏わぬ姿となった喜佳は、シャワーの蛇口を捻り、シャワーから溢れ出るやや温めの湯で全身の汗を洗い流した。

「ねえ……………鬼崎さん」

ガラス戸の外からの良子の声。

「え? 何?」
当然その声はシャワーによってかき消され、喜佳はシャワーを止めて、それを再び聞き返した。


「いや…何でもないの……」
「何でもないって」
喜佳は焦らすような口調で言う。
良子は、少しだけ声を詰まらせた。だが、すぐに、やや戸惑いながら声を発する。

「鬼崎さんは………好きな人っている?」


「え?」
喜佳は、思わず呆気に取られる。

「やっぱり内木君のことが好きなの?」
良子はさっきとはまた別のテンション、やや悲しげな口調で言い放つ。
顔は見えないが、たぶんそうだろう。

「ち……違うわよ。クラスのみんながそんな風に騒いでるだけ…」

これは嘘だ。
喜佳は聡右のことが好きだ。
思わず否定してしまったが、この場では愛が露呈する羞恥心よりも、愛が潰える恐怖心の方が勝る。
アイツはバカだけど、一番近くで、私を支え続けてくれた。“あんなこと”があった後も。

「……そうなんだ」


良子は、先ほどと同じような口調で言う。
一方で喜佳は、彼女に対し不信感を抱いていた。
良子も聡右の事が好きなんじゃないのか?

そう思うと、彼女に対して言い知れぬ怒りが湧いてきた。
彼女とは付き合いが長い。聡右が居候していることは知らないが、それでも彼自身とも付き合いが長い方だ。

良子は自分を騙していたかもしれない。そうかもしれないと思うと、自然と怒りが湧いてくるのだ。
殺意にも似た怒りが。
だが、銃を持っていない今、喜佳は何もできない。
今は堪えるしかない。だが、ただ堪えるのはバカのすることだ。
ついでに詳しく聞き出そう……そう喜佳は結論付けた。

「私はいる。好きな人が」
「………へ…へえ……誰?」


「…………言えない」

「……そりゃないでしょ。そこまで言ったんなら…」

「…でも……とても苦しいの。その人のことを思うと」

良子の、さきほどにも増して哀しげな言葉に、喜佳はストレスを募らせた。
「もしかして………アンタそ…………」

「私とその人は、絶対に結ばれないって分かってる。自覚があるの。これはいけないことだって」

「ちょ……ちょっと良子?」
「それでも…………それでも……その人の事が………あなたの事が…」


「あなたの事が……好きなの」


喜佳が纏っていた怒りやその他もろもろは、即座に拭い去られた。
彼女はすぐにガラス戸を開けた。

そこには、顔をくしゃくしゃにして涙を流している良子の姿があった。



「こんな形の恋なんて……変よね」
「でも、これ以上抱え込むなんて無理なの。どうしようもなく…苦しいの」

「………」
喜佳は、泣きじゃくる良子を前にしても、黙るしかなかった。掛ける言葉が見当たらない。

「私の事嫌いになった?」


「……………」
喜佳は、何も言わずに良子に駆け寄り、何も言わずにそっと抱き締めた。
「嫌いになんてならないわ」


喜佳が掛けたその言葉に、良子は僅かに嬉しそうな顔を浮かべ、喜佳を抱きしめ返した。


【B-6 診療所/一日目・早朝】
【女子十二番:朽樹 良子(くちき-りょうこ)】
【1:私(達) 2:貴方(達) 3:あの人(達)、○○さん、くん(名字さん、君付け)】
[状態]:脚にかすり傷(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、両口スパナ
[思考・状況]
基本思考:仲間を集めて島を脱出したい。
0:まともな生徒がまだ居ると希望を持っていたい
1:喜佳を信じ続けたい
[備考欄]
※シルヴィアが殺し合いに乗ったと認識しました。
 平田三四郎に関しては不明です
※朽樹良子の思い人は『鬼崎喜佳』です

【女子七番:鬼崎 喜佳(きざき-よしか)】
【1:私(たち) 2:あなた(たち) 3:あの人、あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:右腕負傷(治療済み)、全裸
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、予備弾(21/21)、コルトガバメント(6/7)
[思考・状況]
基本思考:聡右と合流したい。仲間を探すことを口実に、彼を探す予定
0:……え?
1:ゲームに乗る気はない。だが生徒の数が減ってくれると嬉しい
2:いつも通りの親しみやすい鬼崎喜佳を演じ、戦いを極力避ける
3:良子たち他生徒には基本的に気を許す気はない。何か変なまねをしたら誰だろうが容赦なく殺す
4:襲ってくる者は殺す(躊躇はしない)
5:次にシルヴィアに会ったら確実に仕留める
[備考欄]
※聡右がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(自分では確実に殺してしまうという恐怖がある)
※彼女が銃を扱える事実は聡右以外は知りません
※シルヴィアが殺し合いに乗ったと認識しました。
 平田三四郎に関しては不明です
※朽樹良子の突然のカミングアウトにショックを受けていますが、今彼女を殺すのは不味いとも考えています。


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遠く流されて~EXILE~ 朽樹良子 高校生デストロイヤー
遠く流されて~EXILE~ 鬼崎喜佳 高校生デストロイヤー

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最終更新:2009年04月10日 20:27