I Don’t Want to Miss a Thing ◆hhzYiwxC1.



この状況は、森屋英太というスケベな阿呆にとって天国だったかもしれない。仲販遥は、何も言わずにおっぱいを独占することができている。
だが、英太が喜んだのは、なぜだか一時だけだった。遥の顔は、真っ赤だったし、何より少しだけ嫌そうだった。

「な……なあ仲販さん」
「いいの…………さわってて……………」

英太の狂喜乱舞が、思いのほか早く冷めたのは、遥の奇妙な態度にあった。何故だか自分が、彼女を傷つけている気がしてならないのだ。

「あのさ…」
「なに?」

「ひょっとしてさ…俺に気ィ使ってくれてんの? 仲販さん」

英太は、胸を揉む手を休め、遥の目を見て言った。

「ちがうよ…」
「でもだからって胸揉ませにくる女の子がどこにいんだよ! ハッキリ言ってめ……」

? おいおいおいおい待て森屋英太。何を言っているんだお前は。英太は、自分で何を言っているよく分からなくなって、そのまま言葉を詰まらせた。
そして、その瞬間に手を胸から離した。

「いったでしょ…?」
「…?」

「こわいおもいするくらいならこっちのほうがあんしんするって」

遥は、そのまま英太の右手を掴み、再び胸に引き寄せた。

「もまないで。でもかお…ちかづけて」

遥は、英太の右手を自分の胸の中心へと押しつけ、そう言った。そして英太は、興奮するよりも先に、言われた通りに胸に顔を埋めた。そうしてあることに気づいた。

心臓の音が、すごくよく聴こえる。彼女が恐怖しているのか、緊張しているのか、英太はよく分からない。


むにっ


「ひゃあんっ!」

遥は、顔を真っ赤に染めながら、奇妙なアクセントの叫び声を上げた。

「……怖いんだったら…遠慮なく頼ってくれよ」

「…俺ァヘタレで通ってるけど実際は結構やる男なんだぜ」
「うう……じゃあむねもまないでよぉ………」
「だーめ! もうちょっとこれを独占させ…」

一発の銃声と共に、近くにあった木が爆ぜた。

「見つけたぞ…バカップル共が」


シルヴィアの姿がそこにあった。幸い初弾は掠りもせずに遠くの木に被弾した様だ。散弾が一発も当たらなかったのは、奇跡と言っても過言ではないかもしれない。だが、シルヴィアはもう一発の弾丸を、すでに彼らの意識の隙を突いて放っていた。
弾丸は、まっすぐ英太の方へと飛んできた。それに気づいた英太は、一心不乱に遥を弾き飛ばした。

爆ぜた散弾の一部が、英太と遥の体中に命中した。右脚のズボンが全体的に引き裂き、一瞬にして彼の右脚は血だらけになった。
遥も、小さい散弾を数発バラバラの箇所に受け、右肩や腹部の右端から血を流した。

「くそっ痛ェ!」

痛みに耐えながら、散弾を耐え凌いだ英太は、不安定な体勢のまま、あろうことか片手でスティンガーの引き金を引いた。これが正しい判断だったのか。どうか分からない。けれども、不安定な体勢でミサイルを放った。凄まじい爆音ととも飛ぶミサイル。その直後に英太は当然体勢を崩した。それによって衝撃はもろに英太に伝わり、彼はスティンガーを手放して3mほど吹き飛び、地面に全身を擦りつけながら木に体をぶつけてようやく止まった・

だが、そのミサイルは、どこへと飛んでいったのかはよく分からない。シルヴィアの方にも、すぐ近くにも被弾した形跡はない。

「……何だよ…それ」

シルヴィアも、スティンガーの凄まじい発射音にはさすがに驚愕したようで、体勢を低くして耳を塞いでいた。英太がスティンガーを放った近くにいた遥も、耳を塞ぎ爆音に耐えていた。

「はは…大した事ねえじゃんか! まさに宝の持ち腐…」

シルヴィアは、新たな弾丸の装填をすでに完了し、再び銃口を向けた。
だが、決着はそのすぐ後に、簡単に決した。
突然シルヴィアの背中に、倒れた木が圧し掛かってシルヴィアを沈めた。
スティンガーの弾丸は、木に激突し、運よくシルヴィアのいる方向に倒れたのだ。

「…………あえ?」

あまりの簡単さに、英太と遥は拍子抜けしたように間抜けな声を上げた。




「う……ぐぁあくそったれがぁああああああ!」

シルヴィアは、じたばたともがきながら、英太と遥に敵意の目を向ける。
英太は、立ち上がり服に付いた土などを掃い、スティンガーをデイパックに収めると、遥のもとへと駆け寄った。

「シルヴィアさんをきずつけないでよ?」
「分かってるよ仲販」

そして、英太はシルヴィアに近づく。

「オイ……」
「何だよ……もう殺しな…惨めなだけさ」

木の下敷きになり、デイパックを回収する英太に憎まれ口を叩きながら、シルヴィアはそう悪態を呟く。

「あー…そりゃあ無理だな」

銃を英太は、シルヴィアの銃を遠くへ投げ捨てると、突然シルヴィアのほうへと駆け寄った。

「ふんぬぁああぁああぁぁ」
「!? 何やってんだ! 馬鹿!!」

突然英太は、シルヴィアに圧し掛かる木を持ち上げようとし始めた。

「そっちからも……押せぇぇ」

疲弊仕切った今の英太では、少しだけ木を浮かせることがやっとだ。何より木が大きすぎる。その証拠に、シルヴィアに圧し掛かる木は1mmも浮かび上がる気配がない。


「馬鹿だろお前! 私なんか助けて何になるんだ!」
「知るかぁぁ!! そっから抜けたきゃお前も足掻けコラァァッ」

「何で……」

その言葉が、シルヴィアの頭の中でずっとエコーした。
さっきまで全力で殺そうと思っていた英太と遥に対する殺意は、いつの間にか、どんどん薄れてゆく。

「ったよ…」
「あー! 分かったよ! 足掻いてやんよコルァ!!! どうだこれで満足か!? エロ森屋!」

シルヴィアは、英太が1mmも動かせなかった木を、シルヴィアは気力で撥ね退けた。なぜだかこの時のシルヴィアの顔は、英太たちを殺そうとしたあのときよりも心なしか輝いているようにも見えた。


むにっ


思わず、彼女が立ち上がった時に荒ぶるように揺れた胸を、英太は鷲掴みにしていた。本能的に。

「…………うわあああああああ」
「へぶらっ!」

シルヴィアは、異常なまでに顔を赤らめ、英太の右頬をグーで殴った。


「とりあえず……武器は渡せないけどデイパックは返すよ」
「そうか。ついでにお前が私のチチを揉んだって事実もお前ごと闇に葬りたいよ」
「お前も俺らを撃ったからおあいこでいいだろ乳揉みなんて」

シルヴィアと英太は、顔にうっすら血管を浮かべながら言い合った。
そうして、彼女は、デイパックを受け取ると、すぐに森屋英太と仲販遥に背を向けた。

「…私は方針変えねえよ。このクラスの奴らを皆殺しにする。お前らも次あったら殺すからな………」
「シルヴィアさん…やっぱり………わかりあえないの?」

遥からの無垢な問いにも、シルヴィアは振り向くことはない。だが、彼女はそのままこう言う。

「お前らみたいな奴も…………まだいてくれたんだな…」


シルヴィアは、そそくさと走り去っていった。その足取りは次第に速くなっていき、数10mほど彼らから離れた時点で、彼女はもうすでにスプリンター並みの走行速度で走っていた。
息は随分荒い。顔も赤い。だが疲労しているわけではない。原因は全く分からないのだ。

「…………何でだ…? あの森屋だぞ? 何で…」

ただ覚えておいてほしい。シルヴィアだって女の子だってことを。


「いっちゃったねー」

遥は、英太が散弾を受けた脚と自分が傷を受けた数か所に、彼のTシャツから引きちぎった布切れで覆い、巻きつけて応急処置を済ませていた。遥は、英太の肩をぽんっと、全く力を込めずに叩いた。だが、それに英太は、思いのほか悶絶し、その末に沈んだ。

「あ゙あぁぁぁあああ」

「えいたくん?」

「メンゴメンゴ……悪いけど俺もう限界だからさ…ちょっと休ませてくれや」

英太は、再びスカートの下から覗く遥の、ピンクの縞パンをにやけ面で見ていた。
と、ピンクの縞パンが、突然すぐ近くにまで近づくのを、森屋英太は確認した。遥がしゃがんだのだ。

「ありがとうね。まもってくれて」

「………ああ…礼には及ばんさ…………」

英太は、遥のその言葉に束の間の幸福感を覚えると、縞パンを満喫するのをやめ、少しだけ目を閉じた。

「ねちゃったの? えいたくーん」

「退け。仲販」

突然後ろから、妙にスカした声が響いた。
そうして、木の陰からそれは確かに姿を現した。銃を構える太田太郎丸忠信の姿があったのだ。彼はうすら笑みを浮かべ、英太を狙っていた。

「シルヴィアが消えた今しかねえと思ってな…まあ悪く思うなよ?」

太田は、ずっと見ていたのだ。そして動いた。

仲販遥は、その場で直感した。彼は敵だと。
仲販遥は、その場で察した。彼は森屋英太を狙っていると。
仲販遥は、その場で思った。自分は森屋英太を守りたいと。
仲販遥は、その場で動いていた。そして…


「な…仲販? どうしてんだ…って」
「えいたくん…いきて」

仲販遥は、そう言って英太を思いっきり突き飛ばした。そして英太が吹き飛び、次の瞬間、弾丸をその身に受けた。
直後に目を開けた英太は、それを見ていた。

「…やっぱしそうなる? やっぱ守っちゃうかね?」

「何で………お前がいんだよ。太田…」

その場に倒れる、遥を傍らで見つめ、英太は、新たな脅威である太田の存在に絶句した。

「ンだよ…俺はちょっとお前らで遊んだだけだっつーの……セオリー通りすぎて笑えちまうぜ… あ゙~仲販みたいな上玉手放すのはちょっともったいねえな~」

太田のその言葉は、あからさまとも言えるほどにわざとらしかった。


「どこ行くんだてめえ! 逃げるな! ブッ殺してやる! この外道野郎!」

「逃げる? お前は放っておいても死ぬだろうよ? 俺様が手を下すまでもねえ。そう判断しただけだよ。それに俺は死姦趣味ねえし」
「死んでねえよ! 遥は死なせねえ!」
「言ってろや勘違い野郎」

太田は、遥を撃った時の笑みのまま、消えて行った。
彼は英太のような勘違いをしている男を心底嫌っていた。奴にとっては、仲販遥に当たろうが、森屋英太に当たろうが、どうでもよかったのだ。

「だがあの上玉は惜しいかったな………」



「…………」
「遥……よかった…」

遥は、英太の腕の中で目覚めた。ふと自分の下腹部を見つめると、そこに穴があいていて、そこから血がゆっくりと大量に流れ出ていた。

「いたい…」
「いたいよ……え…えいた……えいたくん……!!」
口元から血を、瞳から涙を流しながら、必死に英太に縋りつこうとする。だが、彼女は一向にそれをできないでいる。どんどん力が抜けてきているのだ
そうして、すぐに遥は完全に倒れた。英太もすぐ近くに駆け寄る。

「遥!! 遥ぁぁああああ!!」
「…………えいた…くん……えいたくん…わたし…………ね」

「わたしね………だいすきなひととおはなやさんやるのがゆめだったの…………」
「もういい…もういいから……もういいよ遥」

英太は、遥の下腹部にぽっかりと空いた風穴を押さえながら彼女の話を聞いていた。
彼のその瞳からは、ゆっくりと涙が零れおちてきており、その顔はくしゃくしゃに崩れていた。だが、その時そっと、英太の目もとに遥の手が添えられ、流れ出る涙をせき止めた。

「ないちゃだめ…ないたらしあわせにげちゃうから……」
「ねええいたくん……」
「……うん…」
「め………つぶって……」


そう言われるがままに、英太は目を瞑った。
口元に、突然違和感を感じた。目を開けると、遥は、英太の口元に顔を近付けた。そして英太は気づく。彼女が自分の唇にキスをしていることに。
しばらくして遥は唇を離し、笑顔でこう言った。

「えいたくん………なみだでしょっぱいよ……」
「……で…も…………これで…さびしくない…よ…………こ…わく……ないよ…………」

遥はその後静かに倒れ、一筋の涙を流しながら、まるで眠り姫のように逝った。
遥のあの最期の唇の暖かさをまだ覚えている英太は、ただその場に崩れ、すすり泣いた。ほとんど動けず、太田を追えない自分が、ひたすら不甲斐なく、憎たらしかった。


【D‐5 森/一日目・深夜】
【26:森屋 英太(もりや‐えいた)】
【1:俺(たち) 2:お前(ら) 3:あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て、女子限定で名字さん付けで、脳内ではフルネーム)】
[状態]:疲労(特大)、スティンガー発射の反動と足に受けた散弾の傷の影響でほとんど動けない(散弾の傷には包帯を巻いている)、ショックで放心状態、制服の下に何も着てない
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、小型ミサイル×3、赤い液体の入った注射器×3(詳細不明)、FIM-92スティンガー(0/1)
[思考・状況]
基本思考:………………
0:…………遥…

【男子六番:太田太郎丸忠信(おおた-たろうまる-ただのぶ)】
【1:俺(達) 2:あんた(達) 3:○○さん(達)】
[状態]:左肩に裂傷(応急処置済)、脇腹に打撲
[装備]:イサカM37(3/4)
[道具]:支給品一式、簡易レーダー、12ゲージショットシェル(8/12)
[思考・状況]
基本思考:生き残る
0:男は皆殺し。女は犯してから奴隷にする
1:仲販遥を奴隷にできなくて少し残念
2:女を引き連れてる“勘違い野郎”は苦しめて殺す(同行している女にトラウマを植え付ける意味合いも込めて)
3:間由佳、エルフィ、ノーチラス、シルヴィアを警戒(近くにいるだろうシルヴィアを特に警戒)
[備考欄]
※森屋英太はすぐに死ぬだろうと思っています
※シルヴィアとは逆の方向へ向かっています

【女子十七番:シルヴィア】
【1:私(達) 2:お前(達) 3:あいつ(ら)、○○(呼び捨て)】
[状態]:左腕裂傷(応急処置済)、全身を強打(今後の行動に支障なし) 、胸の中がモヤモヤしてる
[装備]: なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本思考:ゲームに勝ち残る
0:全ての生徒を殺す
1:何?……この気持ち…
[備考欄]
※太田とは逆の方向へ向かっています

【21:仲販遥(なかひさ‐はるか) 死亡】
【残り41人】

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MAJIYABA 森屋英太 すくいきれないもの
MAJIYABA 仲販遥 死亡
MAJIYABA 太田太郎丸忠信 EGO-IZUMU
MAJIYABA シルヴィア 殺戮行


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最終更新:2009年03月16日 11:58