Heat ◆H7btjH/WDc



堅い感触を、後頭部に覚え、目が覚ました時ウィリアム・ナカヤマ・スペンサー(男子三番)は、傍らにあったデイパックから懐中電灯を探し当てて取り出し、それで辺りを照らした。
よく磨かれたキレイな木材を組み合わせて作った、ログハウスのようだ。
そうしてウィリアムは、このゲームの理不尽さに、静かに激怒していた。
ラトは気のいい奴だったし、決して死ななければいけない罪を背負っているような罪人ではなかった。

「……俺はどうすればいいんだ……ゲームに乗らなきゃダメなのか?」

ラトの魂……が安らかに眠らんことを祈り、彼は十字を切った。父は敬虔なクリスチャンで、ウィリアムは父のことも、宗教も嫌いだし、十字を切る意味もハッキリ分かっていなかったが、ラトに何かをしてやりたかった。
そして、これは多くのクラスメイトにも言えることだ。彼らを護りたい。
イギリスでの忌まわしい記憶を、全て忘れてしまえるほどに、彼らとの2年間は深く、濃く、楽しいものだった。

特に自分に対しよくしてくれた朽樹良子や、クラスメイトから散々イジメられていた苗村都月を、優先的に護ってやりたい。

苗村都月は、その引っ込み思案な性格から、貝町ト子、銀鏖院水晶、卜部悠、北沢樹里などからイジメのターゲットとなっていた。

だが、本当にイジメていたと言うのは貝町、銀鏖院、卜部の三人かもしれない。
北沢の場合は、時々苗村を小突いたりしてからかったりしていたが、酷いものにまで発展させることはしなかった。寧ろこれは彼女なりの気遣いなのかも知れない。
事実、苗村への北沢の態度は、貝町のような陰湿さや、卜部、銀鏖院のような残酷さはなかった。その点だけはマシと言える。

……そんなことを思い出していると、見てみぬ不利をしていた自分や、クラスメイトに怒りが湧いてくる。そりゃあ全員取っ付きにくいし、銀鏖院の場合は取っ付きにくさに加え電波がある。
「だからって何で止めなかった!」

ウィリアムは、すぐさま立ち上がり、両手を天井に突き上げ、すごい形相でそう呟いた。
この時のウィリアムの仕草は、一人芝居のようであり、人によっては滑稽にすら映りえた。


「ラトの時だってそうだ……俺も……クラスの皆も…」

心の中の怒りが最高潮に達した時に、ふとウィリアムは我に帰る。

無意識に掴みかかった木製のクローゼットに、手の平と同じ形の焦げ目が付いていたのだ。

「……ダメだ…怒りを抑えろ………怒るな…“僕”」

彼は、ひと時の落ち着きを取り戻そうとしていた。そして、それは、何らかの介入がなければなしえた。
突然ドアに穴を穿ち、ウィリアムに向けて突っ込んできた小さな鉛弾によって、いともたやすく阻まれた。


間もなくして、ドアが開き、そこから先ほど話題に上がった苗村都月が姿を現した。
息遣いは荒く、何かから逃げているようだった

「殺さなきゃ……殺される……殺さなきゃ…………」

そう、ブツブツ呟きながら、再び都月は弾丸を放つ。
それをウィリアムは躱し、デイパックから何か武器になるものを探す。
だが、手に当たった感触からナイフや銃などの武器はない。ペットボトルや何かよく分からない瓶。そしてパンを包装するビニルのような感触しかない。

待てウィリアム。何を考えている。
苗村さんを……優先的に護ろうと決心した彼女になんで今反撃しようとする?
説得するべきじゃないのか?

ウィリアム。お前は自分のことしか考えていないんじゃないのか?
ウィリアムはそう、心の中で繰り返す。


その矢先に、三度弾丸が放たれる。

「やめてくれ!」

ウィリアムがそう叫ぶと、弾丸は何もなかった空間で静止し、そのまま床に落ちた。

「何で?どうして当たんないの?」

都月は、あからさまに戸惑った。
当然、ウィリアムの持つ能力を、都月は知らない。
ウィリアムには二つの能力がある。一つは念動力。彼はそれを応用して空間に見えないシールドを張り、銃弾を防いだのだ。

「どうして? どうして死んでくれないの? 私は帰りたいだけなのに」

都月の、その態度に、ウィリアムは少なからず腹が立った。どうしてこんなに腹が立つのか不思議だったが、都月は第4の弾丸も、こちらに向けて放とうとする。

万全のコンディションではないウィリアムにとって、シールドの多発は極度の疲労に繋がるため、避けたかった。
だが、幸か不幸か。都月は銃を落としたのだ。

「あっ……落ちちゃった。拾わなきゃ」

都月は、とっさにしゃがみ、銃を拾おうとした。だが、都月の手が銃身に触れた時点で、急に銃は火を吹いた。

暴発である。

一瞬だけ、早く放たれた銃弾に、ウィリアムは意識を向けることは出来なかった。
そのまま銃弾は、ウィリアムの右足を掠めた。ズボンは、その部分だけ切れ込みが入り、血が滴った。

「え……」

都月は、ウィリアムに当たった(掠った)ことよりも、暴発したことに驚いたようだった。

時を同じくして、ウィリアムもまた、何かを感じ取っていた。痛みよりも先に、この感情を。

それからすぐにウィリアムは、都月の元へ駆け寄り、左手で首を絞めて立ち上がらせた。


「かっ……あ゙…………」

「おいクソアマ。よく聞きな 俺は戦いたくねえんだよ」

「少しは俺の話を聞け! 話を無視されるのは一番嫌いなんだよ俺は おい!聞いてんのかクソアマ!」

聞こえるはずはない。都月の意識は、もう既に薄れつつあったからだ。

「焼き殺すぞ……話を聞かねえなら」

オレンジ色の光を帯びた右掌を、ウィリアムは都月の顔に押し付けようとする。
湯気が立ち伸べ、熱気の漂う、炎のように燃え盛る右手を。

「や……め…て……」


それが都月の最後の言葉だった。



―――――――



ウィリアムは、都月から手を放した。
既に恐怖で意識が飛んでいたが、生きてはいる。
彼女の見開いた目を静かに閉ざすと、彼は彼女を強く抱きしめた。

「ゴメン……本当は君を護りたいんだ」

その言葉は、都月には通じてはいない。

ウィリアムは、都月から手を離すと、ログハウスの奥まで運び、ベッドをすぐに見つけると、そこに彼女を寝かせ、毛布を被せた。


「目を覚ましたら、まず誤解を解かなきゃな……」

都月を寝かせると、ウィリアムは、静かにその場から去り、自分が焦がしたクローゼットのあった場所まで戻った。


クローゼットの中を開けると、衣服ではなく鍬や鋤といった農具が姿を現した。
だが、ログハウスの外には軽トラックも見当たらないし、耕す田畑ももちろんない。
これを武器にしろとでもいうのか?
理不尽さに怒りが込み上げてきたが、それをグッと抑えた。

「“僕”には苗村さんを護る義務がある……」


それに信じていたいのだ。誰もゲームに乗ったりしていないと。
ウィリアムは、都月の物だった銃を拾い上げた。
自分に支給されたこの瓶は、何かは分からないがきっと使えないだろう。
瓶をデイパックにしまうと、彼は同時に取り出した菓子パンを、イスに腰掛けて頬張った。


【G-5 ログハウス/一日目・深夜】
【男子三番:ウィリアム・ナカヤマ・スペンサー】
【1:僕(達) (本来(激怒時)は俺(ら)) 2:きみ(たち) (本来はお前(ら)) 3:彼、彼女(ら)、○○(名字さん付け) (本来は○○(呼び捨て))】
[状態]:右足に裂傷(応急処置済み)、怒りを必死で抑えている、能力を行使したことによる疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、シアン化カリウム、S&W M56オート(6/15)、都月の支給品一式、M56オートのマガジン(3)
[思考・状況]
基本思考:苗村都月を保護する。しばらくはログハウスに篭城する
0:殺し合いに乗る気はない
1:怒りが爆発しないか心配
2:都月を説得し、殺し合いから手を引かせる
3:都月が説得に応じた場合、彼女を護りながら島から出る方法を画策する
[備考欄]
※銀鏖院水晶同様、超能力の行使は心臓に負担を掛け、体力を消耗させます
※シアン化カリウムについて、彼は薬のパッケージをよく見ていないためよく理解していません
※バトルロワイアルと言う環境下は、ウィリアムにとって通常よりもストレスとなっています

【G-5 ログハウス/一日目・深夜】
【女子二十番:苗村都月】
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(達)】
[状態]:極度の怯え、被害妄想による狂気、ウィリアムに対し恐怖、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本思考:気絶中につき、なし
[備考欄]
ログハウスの中にあったベッドで、静かに眠っています


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GAME START W・N・スペンサー Shake!
災渦の中心 苗村都月 Shake!

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最終更新:2009年03月15日 11:45