壱里塚と久世の異常な愛情 または彼らは如何にして心配するのを止めてサーシャを愛するようになったか ◆H7btjH/WDc


壱里塚徳人(男子二番)が、樹の近くに靠れかかりながら座っている久世明日美(女子十一番)に遭遇したのは、20分ほど掛けて、じっくり辺りを探りながら鉄塔周辺にむかって歩いていたが、ようやく着いた。

その矢先の遭遇だ。壱里塚にとって、初めて遭遇する生徒となる。
傍らに立っても明日美は、一向にこちらを向かないし、最初彼は無視しようと思ったが、その方針を、制服の袖口を捕まれて、その方針を変える。


「いたのか。久世……気付かなかったよ」

これもちろん嘘ね。壱里塚にとって、同じ人間の生き死になど至極どうでもいいことであり、興味はまるでわかなかった。

故に壱里塚のテンションは、ナイアガラの滝張りに一気に急降下し、彼の明日美を見つめる視線は、あからさまに嫌そうという感じだった。


「アタシがいるのには気付いてたんでしょ? 壱里塚くん」

「あーあーホントに気付いてなかったよ」

「でもおっきいピストル持ってるしそれでアタシ襲うの?」

「襲わないよ」理由は興味がないから。
だが一応デイパックから取り出した懐中電灯で、一度照らす。一応明日美の状況を確認するためだ。

それによって、明日美の全様が見えてきた。
まず、彼女は、思った以上に、無防備だった。暗くて彼女がしゃがでることくらいしか分からなかったが、彼女のデイパックは、彼女から2m以上後ろに離れた位置にあった。
そして、しゃがんでいるがためにスカートの中が丸見えとなっていた。
如何に興味がないと言え、自分自身以上に無防備だった明日美の丸見えな下着(ちなみに色は白で模様はなしのシンプルなの)

「見た?」

それに気付いたのか。明日美はすぐさま立ち上がった。

「いや。何のこと?」

久世明日美は、比較的アベレージの高い女子集団の中でも、突出して可憐(壱里塚的には3位)であり、男子であれば一度はあんな娘を彼女にしてみたいと思うはずだ。
壱里塚の興奮度は、若干回復した。

そこへ来て、さらに彼を狂喜乱舞させる“材料”が転がっていた。
彼の目には、ハッキリと映った。

明日美の服の胸の部分についていた。たった一本の、普通の人ならば見逃してしまうであろう。真っ青な色の一本の毛を。


壱里塚は、すぐさまそれを取ろうとする。
だが、当然位置が悪い。それに気付いた明日美からは、すぐさまビンタが飛んでくるの。
それは壱里塚に直撃し、彼は倒れた。


「な……なにするのよ変態!!今胸揉もうとしたでしょ!!」

明日美は、顔を赤らめながら絶叫した。当然っちゃあ当然である。
だが、倒れながら壱里塚は、気味の悪い笑い声を浮かべている。

そこに、明日美が何を思ったのかは分からないが、突然ギャーギャー叫ぶのを止めた。

「そ…………そうよね……壱里塚くんだって男の子だし……ヤラしいこと考えても不思議じゃないよね……でも優しくしてね…………?」

「お前は何を言っているんだ」


制服のボタンを外そうと手を掛ける明日美に、壱里塚は冷たくそう言った。

「僕が言いたいのはこのことだよ。紛らわしいことしたのは謝る。」

壱里塚は、先の反動で明日美の服から落ちた青い毛を拾い上げる。

「間違いなくサーシャのだ。…………久世…お前サーシャと会っただろ」



この時明日美は壱里塚の表情に、恐怖に似たものを抱いていた。
前に映画で観たような狂える悪役が放つギラギラと射す(刺すとも捉えられる)ような視線に、非常に類似していた。
明日美は、恐怖に似たものだけを抱いていたわけではない。妙な恍惚も抱きえた。
そして明日美自身にも分からないが、この時何故か彼女は、彼の狂気に“共感”を覚えていた。

「会ったわよ。でもハッキリ言ってどこ行ったか分からない」

「分からないって何でだ?」

「私は彼女と一緒に行動したかったけど……彼女はそれを拒んだわ。一度彼女の腕を掴んだけど引き離された。その後すぐにどっかへ行っちゃった。どこへ行ったのかもよく分からなかったわ」

「ところで……壱里塚くん。何でサーシャさんをさ…」

「決まってるじゃないか!!!彼女を救うためだ!」

予想以上に早い返答だった。その言葉にも、もちろん狂気が見え隠れしていた。彼女は、汗や血、涎などの体液をなめることで相手のことをなんとなく把握することが出来る。
根拠はないが、大体当たるのだ。

そんな能力……と言えるのかは定かではないが、そういうのが備わっていると人を見る目も自ずと肥えるというものだ。
いや、目に見えて壱里塚を怪しいと思っただけなのかもしれない。だが何にせよ。明日美は何かしら壱里塚を不審に思っていた。
救いたいという言葉の中にさえ、狂気が見え隠れしている。だが、根拠がないのも確か。
ひょっとしたら彼は自己犠牲を以ってしてサーシャを救おうとしているのかもしれない。その為の狂気であるかもしれない。
意味を履き違えて悲劇を起さないためにも、彼女はこう言った。

「……私もそうよ。彼女を救いたい」


時は数十分前にまで遡る。

サーシャ(女子十六番)がトボトボと歩いているところを、久世明日美は、目が覚めてからすぐ発見し、彼女に駆け寄った。


「サーシャさん。サーシャさんでしょ?」


サーシャには、生気がなかった。その生ける屍のような希望のない表情を明日美はそのとき見てショックを受けた。

「久世さん」
「……ショックだったわよね。分かるわ」

何も言わずに、明日美はサーシャを抱き締めた。


「私だってショックだったもの。」

「………………テトさんと……」

突然サーシャが力なく言った。

「?……何」
「テトさんと…………ラトくんが……相思相愛だと……思ってたの」


サーシャの言葉は、急に力を増した。
彼女は涙を流していた。
ラトには、最近テトがベッタリしていたし、ラトも満更ではないという感じだった。
誰が見ても相思相愛に見えた。サーシャの目にもそう言う風に映っていたのだろう。

全てを理解した明日美は、静かにこう言った。

「苦しいわよね。サーシャさん」

「………」

サーシャからの返答はない。明日美は続ける。

「今すぐラトくんと仲直りするべきよ。こんなの悲しすぎるわ」





そう言って明日美はサーシャに突然小さい銃口を向けた。


「!」

サーシャも、流石にそれには驚愕した。そして避ける。
初弾は至近距離だったが、気付くのが早かったため難なく回避できた。

「久世さん!?」
「ラトくんはきっと待っててくれるわ。だからアナタはすぐに死ぬべきなの! 死ぬことでしか救われるないのよ!?」

「そんなの間違ってる! 私は……」



「言わなくていいわ!!」

明日美の表情は、人を殺めようとしている危険人物の顔つきとは思えないほど慈愛に満ちていた。
それが、かえってサーシャを震撼させた。

そして、サーシャはデイパックから取り出す。手を伸ばしてまず掴んだものを投げた。


「何!?」

煙幕が立ち込めた。このことは明日美はもちろんサーシャ自身も驚いただろう。
明日美は未だ次弾を装填できていなかった。この銃には予備銃弾の入った箱と共に、説明書のような小冊子も付いていたが、それには目を通さなかった。

それに気付いた明日美は、すぐにその小冊子を取り出す。

「えーと…後ろのグリップを……」

明日美が次弾を装填したあとに、煙幕は晴れていたが、サーシャはいなかった。


「……サーシャさん! アナタは死ぬべきなのよ!」

明日美はそう呟いた。
ちなみに、彼女は最初からこの銃を握っていたし、壱里塚と会った今でも握っている。
だが、今はもちろん、サーシャと会う前から、狙うのは彼女だけと決めていた。

全ては彼女を救うため。
彼女の愛は歪んでいた。

【A-1 鉄塔の近く/一日目・深夜】
【2:壱里塚 徳人(いちりづか-とくひと)】
【1:僕(達) 2:お前(ら) 3:あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:興奮状態(やや冷め気味)
[装備]:レミントンM870(6/6)
[道具]:支給品一式、予備弾(18/18)
[思考・状況]
基本思考:獣人の絶望した表情がみたい
0:待ってろよ、獣共!
1:獣人を狩り、絶望の表情をみる
2:サーシャを追跡し、彼女の絶望した顔を堪能する
3:久世明日美は、一応同行させておく(彼女の生き死にには興味がない)
[備考欄]
※獣人以外への対処は、「襲われない限りスルー」に決定しました

【女子十一番:久世明日美】
【1:私(たち) 2:キミ(達) 3:○○(さん付け)(達)】
[状態]:健康
[装備]:FP45“リベレーター”(1/1)
[道具]:支給品一式、予備弾(24/25)
[思考・状況]
基本思考:サーシャを“救う”ために追跡し殺す
0:サーシャを探す壱里塚に協力
1:彼女に遭遇したら壱里塚よりも先に彼女を殺す
2:サーシャ殺害後は、壱里塚と共に対主催に回る

【FP45“リベレーター”】
全長140mm、重量454gの小型銃
構造は単純だが、故に威力が低く、一撃で相手を仕留めなければこちらがやられることになる。
また、発射後の装填には、中の空薬莢を細い棒でつついて取り出すという面倒な手段を必要とする。(少なくとも明日美には1分は掛かる)


【?-? ?/一日目・深夜】
【女子十六番:サーシャ】
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:○○(さん付け)(達)】
[状態]:深い悲しみ、テトへの深い憎悪
[装備]:発煙筒×4
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本思考:ラトのためにもゲームを潰す
0:仲間を募ってゲームを潰す
1:明日美から逃げる
2:テトに会った時に、何故こんなゲームを開催したのか問い詰める
3:テトを殺さずに、生かして罪を償わせる
4:3を実行できるか不安(憎悪と憤怒に任せて殺してしまうかもしれない)
[備考欄]
※サーシャがどこへ行ったのかは次の書き手さんに任せます
※少なくともテトはこのゲームに絡んでると確信しました

【発煙筒】
ピンを外し、投擲することで約1分間(室内では最長3分)半径10mの地点に煙幕を展開する。
煙が人体に与える影響は皆無であり、発煙筒自体にも殺傷能力はない。
言うまでもないが室内の方が使い易い。

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狂相 壱里塚 徳人 欺き欺かれて
GAME START 久世明日美 欺き欺かれて
試合開始 サーシャ I am…

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最終更新:2009年02月04日 16:39