とあるヤクザと居候少年 ◆H7btjH/WDc




夢を見ていたんだ…………心地いい夢をな……







目が覚めると内木聡右(男子二十二番)は、いつものように、和室の、畳の上にしかれた緑色の無地の布団の中にいた。

枕元に置いてあった携帯で時刻を確認する。時刻は午前5時39分。

「よし……」

聡右は、布団から目にも止まらぬ速さで這い出ると、布団の周りに散乱していた丸まった4~5枚のティッシュペーパーを集め、ゴミ箱に投げ込み、ゴミ箱の中のゴミだらけの、近所のスーパーのビニール袋を固く結び、慎重に、だが素早く襖を開けて廊下に出た。
ゴミ収集所にこっそり置きにいくためである


「よーし。今日も問題なく通過だな」

「何が?」

突然声が響いた。

鬼崎喜佳(女子七番)がパジャマ姿で現れた。
聡右は彼女の家に居候と言う形でもう7年いる。

驚いた聡右は、急いでゴミ袋を後ろに隠そうとするが、時既に遅し。おまけにその急ぎが仇となり、ゴミ袋をブチ撒けてしまう始末だ。


「あーあー零しちゃったねー」

喜佳の態度は極めてわざとらしかった。
大根役者のようなその態度を伴いながら、彼女はティッシュを拾う。


「あれ~? 何かこのティッシュ臭いねえ~? 聡右くん聡右くんイカ焼きでも喰ったの?」

明らかに確信犯である。そして愉快犯でもある。
小憎たらしい顔でほくそ笑む喜佳を、顔を真っ赤にしながら無視する聡右が、かえって痛々しい。

「…………まあアンタもアタシも年頃だしね~ そんな気持ちも分からなくはないよ。昨日せっかくエロ本押収してやったのに頑張ったのは褒めてやんよ」


「でも夜這いとかはしないでよー」

ティッシュを投擲し、一回で不安定に立つゴミ袋に入れた喜佳は、振り返りザマに欠伸をすると、そのまま邸内の奥へと消えた。

聡右は意気消沈した。


その日はちょうど土曜日で、帰宅部所属の喜佳は、朽樹良子(女子十二番)や麻倉美意子(女子一番)らを連れたって、隣町に遊びに行ったのだ。
何でも最近転校してきた長谷川沙羅(女子二十四番)も、歓迎の意味を込めて誘ったらしい。

その日、早朝の惨劇を引き摺ったまま、聡右は結局二度寝をすることもなく、昼を迎え、昼食前に喜佳の父ちゃんに呼び出された。

鬼崎虎之佑(きざき とらのすけ)
この人は元カタギだが、鬼崎組の一人娘・鬼崎芙美江(きざき ふみえ)に一目惚れし、敢えて修羅の道を行く覚悟を決めたマジな強者だ。

旧姓は堀田(ほった)
トラボルタとセガールを足して二で割ったような厳つい外見と、ダンス好きが高じて、昔は“ディスコボーイ”なんて言われてたこともあったらしい。
で?そのディスコボーイが何故聡右を呼んだのかって?


親父さんは、三十畳はあろうかというほどの広い和室の、中央に焦げ茶色の座布団を敷いて溢れんばかりの威圧感を放ちながら座っていた。
傍らには鞘に収められた白鞘と鍋蓋ほどの大きさのある杯が置いてあり、親父さんの頬はすでに若干赤かった。

「おい聡右よぉ。また喜佳にエロ本押収されたらしいな」

聡右が来て早々親父さんは、ドスのきいた渋みのある声で、さらに重圧をかけるようにそう言った。

「……」

聡右は呆然となった。厳つい顔して言うことは中学生以下だからだ。

「オイオイオイ。漸く芙美江の目を盗んで貸してやれたってのに何だよこのザマぁ」

「いやいやいやいや。親父さん。入院してる女房の目を盗んでなんてことやってんですか」

汗をダラダラ垂らしながら聡右は反論する。この人の独特の空気を、彼は畏怖し、嫌った。



「まあ…………エロ本の話はさておきだ。」


「最近この界隈でカタギじゃねえ奴ばかりを狙うふてェ野郎がいやがんだよ」

親父さんの顔つきが変わった。
ヤクザ狩りの話題に関しては、すでに聡右も多少は知っている。
鬼崎組からは被害者は出ていないようだが、周辺の組は組全員が半殺しにされたと言うから周辺はシマ争いだの何だのしてる余裕はないというのだ。

それに驚くべきは加害者が一人だということだ。
一人でありながらそこまで強く、一人でありながらここまでヤクザを出し抜ける。
ヤクザであっても恐怖するような“脅威”を、親父さんが話題に出すということは、
何かよからぬことが起きたということを暗示させる。

頭の悪い聡右であっても、それを想定するのは容易であった。

「実はよぉ……昨日遂にうちの組の若いのもやられちまったらしいんだ。こっちも本腰入れてその餓鬼を探すつもりだ」

「喜佳やお前も気をつけろよ。そして何かあったら喜佳を護れ。だが無理はするな」

「……俺にはもうお前らしかいねえんだから」


このときの親父さんの顔が、すごく悲しそうだった。
この時の聡右には「何故?」と聞き返す勇気はなかった。
もしあの時聞き返していれば……


夢はここで途切れていた。修学旅行にいく数ヶ月前の出来事を、最近になって彼はよく夢として見ていた。
これはこの悲劇の序章を予感させる予知夢だったのか。と今になって思い始める。

冷静に辺りを見渡す。ここはどうやら森の中のようだ。

「平静を保て…………内木聡右……お前はやれば出来る奴だ……」

自らを鼓舞し、枕代わりとなっていたデイパックを開け放つ。
懐中電灯を取り出し、よく中身を見渡すと、その中には妙に見覚えのある銃が一丁。


「コルト・パイソンか……」

喜佳とその親父さんから使い方を最初に指南されたリボルバーの姿がそこにはあった。
彼は、その銃を完全には扱えない。だが、その懐かしさが心の支えとなったのか、聡右は力強く立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。


【G-7 森の中/一日目・深夜】
【男子二十二番:内木聡右】
【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:あの人、奴(ら)、○○(名前呼び捨て)】
[状態]:健康
[装備]:コルト・パイソン(6/6)
[道具]:支給品一式、予備弾(18/18)
[思考・状況]
基本思考:喜佳と合流したい。仲間を集めてゲームを潰す
0:ゲームに乗る気はない。
1:戦いを極力避ける
2:助けを求める生徒は見捨てない(だからと言って油断もしない)
3:襲ってくる者は退ける(殺しはしない)
[備考欄]
※喜佳がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(死ぬことはないだろうとは思っていますが、それでも心配です)
※喜佳が銃を扱える事実は聡右以外は知りません

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最終更新:2009年02月10日 11:27