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水晶の間欠泉」(2009/09/10 (木) 13:43:55) の最新版変更点

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*水晶の間欠泉 ◆EGv2prCtI.  エヴィアンはただ、救いを求めていた。  家族を殺されて、それでも自分は生き残ってしまった。  その重みに耐えられなくなりそうな時もあった。  自分の部屋で震えて、何度も何度も家族のことを思い出していた。  優しかった母親。  少し痩せていた体格だったが、頼もしかった父親。  普通の子供なら持ち合わせている筈の家族を、エヴィアンはいっぺんに失ってしまった。  そんな時に自分を助けてくれたのが、あの弁護士だった。  篠原涼花。  それが彼女の名前だった。  綺麗で、すごくかっこよくて、頭もよかった。  そして献身的に、自分を支えてくれた。  警察やマスコミからの執拗な質問攻めで精神が追い詰められた時も、受け止めてくれた。  あの人が居なければ、今のエヴィアンは居なかっただろう。  それでもエヴィアンには、内面に大きい傷が残ってしまった。  男性が、どうしようもなく嫌いになった。  そして、同時に恨めしくなった。  きっと、男は誰も彼もがあの強盗犯と同じだと思い込むようになってしまったのだ。  クラスメートにしたってそうだ。  太田太郎丸忠信を始め、森屋英太、グレッグ大澤や楠森昭哉、そして、ラト。  特にラトにはより大きい嫌悪を感じていた。  以前からやたら自分に話しかけきて嫌だったのだが、しかしそれよりも、もっと決定的な事件があったのだ。  そうだ。少し前、夕暮れの校舎裏、タクシーを呼んで駐車場へ出る為にたまたま通りかけたそこの学校の影でラトが仰向けになって、その上でテトが――  ――思い出すだけでもおぞましい。  テトをたぶらかしたに違いないのだ。  あの、汚らわしいオスが。  そして、今に至る。  男に依存した女子生徒にもいい加減怒りがこみ上げつつあったが、でも、ようやくエヴィアンにも安心出来る時が来たようだ。 「あの……吉良さん?」  エヴィアンはためらうことなく声をかけた。  目の前の少女、吉良邑子(女子九番)に。  一人でその場に座っている。  声に気が付いた邑子が振り向くと、そのやや右側の額から血が流れているのが分かった。  エヴィアンは予想もしていなかったのでぎょっとした。  どうやら、誰かに襲われた、らしかった。 「吉良さん! 大丈夫!?」  エヴィアンはすぐさまハンカチを取り出そうとする。  その時、邑子が呻くように言った。 「どうしてです?」 「え?」  エヴィアンは少し驚いた。  まさか、そんなことを聞かれるとは思いも寄らなかったからだ。  自分は邑子を助けたい。  ただ、それだけだったのに。  エヴィアン自身も内木聡右から逃げていて、余裕はとても無かったのだけれど、しかし目の前に傷ついている人(男性除く)が居るのに放っておける訳が無い。  だが邑子の思考はエヴィアンが思う場所よりも全く別のところにあった。 「どうして、私を置いていくのですかあああああ!??」  瞬間、ぱあんと乾いた音が耳を劈くと、エヴィアンの右腕に熱が起こった。  何が起きたか理解が出来なかった。  エヴィアンが熱を感じたその腕の部分に手を当てると、妙にぬめりを帯びた感触が伝わった。  それが分かった時、唐突にエヴィアンの脳に激痛が届き、全身に伝わる。 「ああっ!」  エヴィアンは右腕を押さえてその場に倒れ込んでしまった。  邑子のデリンジャーから至近距離で放たれた弾丸はエヴィアンの右腕を貫通し、そしてまた、美しい蝶の羽の片方すら貫いていた。  どくどくと脈を打って傷から熱さと痛みが広がり、次第に血が地面の葉にもこぼれ落ちる。 「英人様、お願いします、もう一度私に機会を!」  邑子は懇願するような口調でそう口にして、再び銃を撃った。  今度はエヴィアンの右耳の近くに当たり、再び羽に新たな穴が空いた。  そのまま、邑子は銃に新しく弾を詰め替え始めた。  このままならば今度こそ次に超スピードで飛んできた鉛がエヴィアンの額を抉り、そのまま脳髄を後頭部から吹き飛ばすだろう。  しかしそれより何より、エヴィアンは邑子に対する恐怖よりも強い怒りがこみ上げつつあった。  英人――玉堤英人(男子十九番)のことだ。  その英人の為に、邑子はエヴィアンを殺そうとしている。  ――最高に腹が立った。  今までに経験したことのない激昂。  エヴィアンの他の感情全てがそれにぶっ飛ばされてしまった。  今世紀最大のヒットだ。  ――確か、エルフィもそうだった。  どうして内木聡右と一緒に居た?  そんなに――そんなに男などと居なければ生きていけないのか?  そしてこの邑子もまた、わざわざ英人の名前を上げてまで英人に奉仕しようとする――  エヴィアンは腰に隠していた催涙スプレーを取り出し、急いで上半身を起こすと弾の装填をまさに完了しようとしていた邑子目掛けて吹き付けた。 「ああああああああああ!?」  邑子は突き刺すような目の痛みに叫び、銃を持ちながらだったが顔を両手で抑えた。  そしてエヴィアンは怪我をした右腕の代わりに左手でカッターナイフを逆手に持ち直し、邑子に斬り掛かった。  ざっ、と皮膚を切り裂く感覚がエヴィアンの手に伝わった。  邑子の左手の甲に赤い線が引かれて、そこから血がぷつりぷつりと溢れ出してきた。  構わず、エヴィアンはカッターナイフの刃を突き刺すように振り上げる。  今度は刃が邑子の手と指の間を通り抜けて、顔に一気に向かった。 「いいいいいいいい」  邑子が絶叫した。  思いがけないぐらいあっさりとカッターナイフが深く入り込んでいる。  カッターナイフが瞼を割って邑子の眼球を破壊しているのだ。  普段のエヴィアンなら嫌悪感と罪悪感で、下手したら吐いていたかも知れない。  しかし今はそんなことどうでもよかった。  人を傷付ける恐怖よりも、怒りの方がずっと勝っていた。 「どうして男なんかと、男なんかと!」  邑子の左目に突き刺さったカッターナイフを引き抜いて、再び振り回し始めた。  次々と邑子に傷が刻まれ、そして顔面を赤く染め上げていく。 「私はあ……英人様の為に……」  邑子は左目から流れくる血と何か水みたいな透明の液体を押さえて、息も絶え絶えのようにつぶやいた。  ――この期に及んで、まだ男のことを!  エヴィアンは、カッターナイフを大きく振りかぶって叫んだ。 「もう、男なんかにすがった女のことなんか誰も信じない。あなた達なんて死ねばいい!!」  そのまま小さな刃が邑子の額に落ち―― ――  唐突に、思い出す。  いつか、弁護士の篠原涼花にこんなことを言ったことがあった。 「あなたは男の人が嫌いじゃないの?」と。  すると、涼花はこう答えたのだ。 「嫌っていては仕事にならないけど、前に一時期怖い時があったわ。  でも、分かったの。怖がって逃げていては駄目だって。  立ち向かって、その怖い感情を克服しなきゃ前に進めないって」  その時はその言葉は理解は出来なかった。  立ち向かうって何? とか思っていた――のだけれど。  ――こんな時になって、思い出した。  ようやく、その言葉の意味を分かった気がする。  すると自分の今、邑子に対して行っている行為は愚かだとも理解した。  少なくとも、エヴィアンは邑子に撃たれた時には恐怖を感じていた。  その後、邑子に立ち向かおうとせず、怒りに身を任せて傷付けてしまった。  殺してしまうより、話し合って分からせた方が、ずっと良かったのだ。  なのに自分は、邑子を殺そうとしてしまった。  話せば分かるかも知れなかった相手を。  ――単純に、玉堤英人に脅されていただけかも知れない邑子を。  ――ああ。  今、このことを思い出した理由が分かった。  あの人は、自分に殺人なんて禁忌を犯してほしくないに決まっているのだ。  きっと、エヴィアンはそのことを頭の隅だろうとなんだろうと、いつも留めていた筈だ。  ああ。 「ひどい、エヴィアンさん。こんな人だとは思いませんでした」  その回想が、僅かな時間を作った。  邑子のデリンジャーが二回、火を吹いた。  エヴィアンの顔が弾けてイチゴジャムを塗りたくったようになると、カッターナイフを邑子の腹部の辺りに落として、邑子に覆い被さるように崩れ落ちた。  その時にはもう、事切れていた。  恐らく邑子がデリンジャーを発砲したことにも気付かなかったままだろう。  邑子は顔が潰れた死体を見下ろして、言った。 「カッターなんかじゃ人は殺せませんよ?」  事実、その通りだった。  左目を失いこそはしたが、他は全く致命的な傷ではない。  重要な血管を切断されたわけでもない。  カッターナイフの刃では浅い傷しか付けることが出来なかったのだ。  もちろん、落ち着いてみればすぐさまデリンジャーを撃てる状態にあった。 「ご主人様……何処に行かれたのでしょう?」  先程まで居た、玉堤英人の幻影は消失していた。  痛みによるショックによって覚醒したのだろう。  しかし、邑子はその事実には一切気付かなかった。  それから、邑子は思い立ったように突然叫んだ。 「そうだ、この綺麗な羽をご主人様に持って行きましょう! きっと喜んでくださるわ!」  邑子はカッターナイフを手にした。  そして、エヴィアンの死体から傷が付いていない左羽を切り取る作業にかかった。  片目の潰れた傷だらけの顔で、無邪気な笑みを浮かべながら。 【G-6 山道/一日目・朝方】 【女子九番:吉良邑子】 【1:私(たち) 2:貴方(たち) 3:あの人(たち)、ご主人様、お嬢様、○○(名字くん、さん付け)】 [状態]:左目失明、顔と手に大量の切り傷、頭を殴打、倦怠感 [装備]:カッターナイフ、レミントン・デリンジャー(0/2) [道具]:支給品一式×3、予備用44マグナム弾(22/40)、木刀、エヴィアンの羽 [思考・状況] 基本思考:ご主人様(英人)の命令に従い、間由佳以外を皆殺しにする 0:間由佳がもしゲームに乗っていても出来うる限りは説得する 1:もし彼女を殺してしまった場合はご主人様を殺して自分も死ぬ 2:自分が見つける前に彼女が死んでいた場合も、1と同様の行為を行う 3:聡右を逃がしてしまったことが相当ショック [備考欄] ※他生徒に出会い、交戦に縺れ込んだ際に、彼女は「ご主人様(英人)の命で動いている。」と言いかねません(彼女に悪意はない) ※如月兵馬の「雫切り」の太刀筋をなんとなく覚えています ※放送は聞いてません &Color(red){【女子三番:エヴィアン 死亡】 } &Color(red){【残り25人】} *時系列順で読む Back:[[Visit O,s Grave]] Next:[[Life was like a box of chocolates]] *投下順で読む Back:[[高校生デストロイヤー]] Next:[[Life was like a box of chocolates]] |[[traffic]]|吉良邑子|| |[[traffic]]|&Color(red){エヴィアン}|&Color(red){死亡}|
*水晶の間欠泉 ◆EGv2prCtI.  エヴィアンはただ、救いを求めていた。  家族を殺されて、それでも自分は生き残ってしまった。  その重みに耐えられなくなりそうな時もあった。  自分の部屋で震えて、何度も何度も家族のことを思い出していた。  優しかった母親。  少し痩せていた体格だったが、頼もしかった父親。  普通の子供なら持ち合わせている筈の家族を、エヴィアンはいっぺんに失ってしまった。  そんな時に自分を助けてくれたのが、あの弁護士だった。  篠原涼花。  それが彼女の名前だった。  綺麗で、すごくかっこよくて、頭もよかった。  そして献身的に、自分を支えてくれた。  警察やマスコミからの執拗な質問攻めで精神が追い詰められた時も、受け止めてくれた。  あの人が居なければ、今のエヴィアンは居なかっただろう。  それでもエヴィアンには、内面に大きい傷が残ってしまった。  男性が、どうしようもなく嫌いになった。  そして、同時に恨めしくなった。  きっと、男は誰も彼もがあの強盗犯と同じだと思い込むようになってしまったのだ。  クラスメートにしたってそうだ。  太田太郎丸忠信を始め、森屋英太、グレッグ大澤や楠森昭哉、そして、ラト。  特にラトにはより大きい嫌悪を感じていた。  以前からやたら自分に話しかけきて嫌だったのだが、しかしそれよりも、もっと決定的な事件があったのだ。  そうだ。少し前、夕暮れの校舎裏、タクシーを呼んで駐車場へ出る為にたまたま通りかけたそこの学校の影でラトが仰向けになって、その上でテトが――  ――思い出すだけでもおぞましい。  テトをたぶらかしたに違いないのだ。  あの、汚らわしいオスが。  そして、今に至る。  男に依存した女子生徒にもいい加減怒りがこみ上げつつあったが、でも、ようやくエヴィアンにも安心出来る時が来たようだ。 「あの……吉良さん?」  エヴィアンはためらうことなく声をかけた。  目の前の少女、吉良邑子(女子九番)に。  一人でその場に座っている。  声に気が付いた邑子が振り向くと、そのやや右側の額から血が流れているのが分かった。  エヴィアンは予想もしていなかったのでぎょっとした。  どうやら、誰かに襲われた、らしかった。 「吉良さん! 大丈夫!?」  エヴィアンはすぐさまハンカチを取り出そうとする。  その時、邑子が呻くように言った。 「どうしてです?」 「え?」  エヴィアンは少し驚いた。  まさか、そんなことを聞かれるとは思いも寄らなかったからだ。  自分は邑子を助けたい。  ただ、それだけだったのに。  エヴィアン自身も内木聡右から逃げていて、余裕はとても無かったのだけれど、しかし目の前に傷ついている人(男性除く)が居るのに放っておける訳が無い。  だが邑子の思考はエヴィアンが思う場所よりも全く別のところにあった。 「どうして、私を置いていくのですかあああああ!??」  瞬間、ぱあんと乾いた音が耳を劈くと、エヴィアンの右腕に熱が起こった。  何が起きたか理解が出来なかった。  エヴィアンが熱を感じたその腕の部分に手を当てると、妙にぬめりを帯びた感触が伝わった。  それが分かった時、唐突にエヴィアンの脳に激痛が届き、全身に伝わる。 「ああっ!」  エヴィアンは右腕を押さえてその場に倒れ込んでしまった。  邑子のデリンジャーから至近距離で放たれた弾丸はエヴィアンの右腕を貫通し、そしてまた、美しい蝶の羽の片方すら貫いていた。  どくどくと脈を打って傷から熱さと痛みが広がり、次第に血が地面の葉にもこぼれ落ちる。 「英人様、お願いします、もう一度私に機会を!」  邑子は懇願するような口調でそう口にして、再び銃を撃った。  今度はエヴィアンの右耳の近くに当たり、再び羽に新たな穴が空いた。  そのまま、邑子は銃に新しく弾を詰め替え始めた。  このままならば今度こそ次に超スピードで飛んできた鉛がエヴィアンの額を抉り、そのまま脳髄を後頭部から吹き飛ばすだろう。  しかしそれより何より、エヴィアンは邑子に対する恐怖よりも強い怒りがこみ上げつつあった。  英人――玉堤英人(男子十九番)のことだ。  その英人の為に、邑子はエヴィアンを殺そうとしている。  ――最高に腹が立った。  今までに経験したことのない激昂。  エヴィアンの他の感情全てがそれにぶっ飛ばされてしまった。  今世紀最大のヒットだ。  ――確か、エルフィもそうだった。  どうして内木聡右と一緒に居た?  そんなに――そんなに男などと居なければ生きていけないのか?  そしてこの邑子もまた、わざわざ英人の名前を上げてまで英人に奉仕しようとする――  エヴィアンは腰に隠していた催涙スプレーを取り出し、急いで上半身を起こすと弾の装填をまさに完了しようとしていた邑子目掛けて吹き付けた。 「ああああああああああ!?」  邑子は突き刺すような目の痛みに叫び、銃を持ちながらだったが顔を両手で抑えた。  そしてエヴィアンは怪我をした右腕の代わりに左手でカッターナイフを逆手に持ち直し、邑子に斬り掛かった。  ざっ、と皮膚を切り裂く感覚がエヴィアンの手に伝わった。  邑子の左手の甲に赤い線が引かれて、そこから血がぷつりぷつりと溢れ出してきた。  構わず、エヴィアンはカッターナイフの刃を突き刺すように振り上げる。  今度は刃が邑子の手と指の間を通り抜けて、顔に一気に向かった。 「いいいいいいいい」  邑子が絶叫した。  思いがけないぐらいあっさりとカッターナイフが深く入り込んでいる。  カッターナイフが瞼を割って邑子の眼球を破壊しているのだ。  普段のエヴィアンなら嫌悪感と罪悪感で、下手したら吐いていたかも知れない。  しかし今はそんなことどうでもよかった。  人を傷付ける恐怖よりも、怒りの方がずっと勝っていた。 「どうして男なんかと、男なんかと!」  邑子の左目に突き刺さったカッターナイフを引き抜いて、再び振り回し始めた。  次々と邑子に傷が刻まれ、そして顔面を赤く染め上げていく。 「私はあ……英人様の為に……」  邑子は左目から流れくる血と何か水みたいな透明の液体を押さえて、息も絶え絶えのようにつぶやいた。  ――この期に及んで、まだ男のことを!  エヴィアンは、カッターナイフを大きく振りかぶって叫んだ。 「もう、男なんかにすがった女のことなんか誰も信じない。あなた達なんて死ねばいい!!」  そのまま小さな刃が邑子の額に落ち―― ――  唐突に、思い出す。  いつか、弁護士の篠原涼花にこんなことを言ったことがあった。 「あなたは男の人が嫌いじゃないの?」と。  すると、涼花はこう答えたのだ。 「嫌っていては仕事にならないけど、前に一時期怖い時があったわ。  でも、分かったの。怖がって逃げていては駄目だって。  立ち向かって、その怖い感情を克服しなきゃ前に進めないって」  その時はその言葉は理解は出来なかった。  立ち向かうって何? とか思っていた――のだけれど。  ――こんな時になって、思い出した。  ようやく、その言葉の意味を分かった気がする。  すると自分の今、邑子に対して行っている行為は愚かだとも理解した。  少なくとも、エヴィアンは邑子に撃たれた時には恐怖を感じていた。  その後、邑子に立ち向かおうとせず、怒りに身を任せて傷付けてしまった。  殺してしまうより、話し合って分からせた方が、ずっと良かったのだ。  なのに自分は、邑子を殺そうとしてしまった。  話せば分かるかも知れなかった相手を。  ――単純に、玉堤英人に脅されていただけかも知れない邑子を。  ――ああ。  今、このことを思い出した理由が分かった。  あの人は、自分に殺人なんて禁忌を犯してほしくないに決まっているのだ。  きっと、エヴィアンはそのことを頭の隅だろうとなんだろうと、いつも留めていた筈だ。  ああ。 「ひどい、エヴィアンさん。こんな人だとは思いませんでした」  その回想が、僅かな時間を作った。  邑子のデリンジャーが二回、火を吹いた。  エヴィアンの顔が弾けてイチゴジャムを塗りたくったようになると、カッターナイフを邑子の腹部の辺りに落として、邑子に覆い被さるように崩れ落ちた。  その時にはもう、事切れていた。  恐らく邑子がデリンジャーを発砲したことにも気付かなかったままだろう。  邑子は顔が潰れた死体を見下ろして、言った。 「カッターなんかじゃ人は殺せませんよ?」  事実、その通りだった。  左目を失いこそはしたが、他は全く致命的な傷ではない。  重要な血管を切断されたわけでもない。  カッターナイフの刃では浅い傷しか付けることが出来なかったのだ。  もちろん、落ち着いてみればすぐさまデリンジャーを撃てる状態にあった。 「ご主人様……何処に行かれたのでしょう?」  先程まで居た、玉堤英人の幻影は消失していた。  痛みによるショックによって覚醒したのだろう。  しかし、邑子はその事実には一切気付かなかった。  それから、邑子は思い立ったように突然叫んだ。 「そうだ、この綺麗な羽をご主人様に持って行きましょう! きっと喜んでくださるわ!」  邑子はカッターナイフを手にした。  そして、エヴィアンの死体から傷が付いていない左羽を切り取る作業にかかった。  片目の潰れた傷だらけの顔で、無邪気な笑みを浮かべながら。 【G-6 山道/一日目・朝方】 【女子九番:吉良邑子】 【1:私(たち) 2:貴方(たち) 3:あの人(たち)、ご主人様、お嬢様、○○(名字くん、さん付け)】 [状態]:左目失明、顔と手に大量の切り傷、頭を殴打、倦怠感 [装備]:カッターナイフ、レミントン・デリンジャー(0/2) [道具]:支給品一式×3、予備用44マグナム弾(22/40)、木刀、エヴィアンの羽 [思考・状況] 基本思考:ご主人様(英人)の命令に従い、間由佳以外を皆殺しにする 0:間由佳がもしゲームに乗っていても出来うる限りは説得する 1:もし彼女を殺してしまった場合はご主人様を殺して自分も死ぬ 2:自分が見つける前に彼女が死んでいた場合も、1と同様の行為を行う 3:聡右を逃がしてしまったことが相当ショック [備考欄] ※他生徒に出会い、交戦に縺れ込んだ際に、彼女は「ご主人様(英人)の命で動いている。」と言いかねません(彼女に悪意はない) ※如月兵馬の「雫切り」の太刀筋をなんとなく覚えています ※放送は聞いてません &Color(red){【女子三番:エヴィアン 死亡】 } &Color(red){【残り25人】} *時系列順で読む Back:[[Visit O,s Grave]] Next:[[Life was like a box of chocolates]] *投下順で読む Back:[[高校生デストロイヤー]] Next:[[Life was like a box of chocolates]] |[[traffic]]|吉良邑子|[[愛にすべてを]]| |[[traffic]]|&Color(red){エヴィアン}|&Color(red){死亡}|

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