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スレイヴマスター - (2010/03/18 (木) 14:10:10) のソース

*スレイヴマスター ◆H7btjH/WDc 

玉堤英人は、民家を出て早々、再び近くの民家に身を隠していた。 
少し遠くに、暗闇でぼんやりとしか見えないが、人影が見えたからだ。 
かなりの体躯の男……恐らく尻田堀夫(男子十七番)かグレッグ大澤(男子十二番)だろう。居間の近くのから彼が通り過ぎるのを待っていた。 
両人共に、恐らくゲームには乗らないだろう。グレッグは人がいいし、正義感も強い。 
尻田も同様に正義感の強いバカ。 
だが、内心では彼がこちらに気付かないことを願っていた。 
両人共に、こちらに気付いたとしても、襲撃はしてこないだろう。いや、むしろ協力してくれるかもしれない。 


だが、どっちも嫌なのだ。 

グレッグならばまだいい。問題は尻田だ。 
彼はクラスメイト全員からゲイ疑惑を向けられているからだ。 

大きくうるさい笑い声を上げながら異常なまでに、男子の尻を触りに来る彼を見て、奴がゲイだと思わないほうがおかしい。 
神崎健二(男子九番)や鹿和太平(男子十四番)などが主な標的だ。自分も由佳の目の前でその被害に遭ったこともある。 


奴がただの尻フェチで、ゲイじゃないと主張する擁護論は、一切無い。 
彼自身は気付いてないみたいだが、実際にはクラスメイトから総スカンを喰らっている。 

故に英人は、彼がどちらであってもこちらに気付かないことを願っていた。 

「はぁ……面倒事は御免だよ……」 

英人は、思わず愚痴を溢した。 
だが、その瞬間、バスルームの付近から物音が聞こえた。 

そして、その物音は、すぐに足音に変貌し、こちらへとまっすぐ向かってくる。 

足音が、廊下に突き当たった辺りで、居間の電気が、突然点いた。 


姿を現したのは、出席番号女子九番:吉良邑子だった。 

「…………吉良?!」 


「そうか……玉堤くんだったのね…………」 

彼女の髪は、少しだけ湿っていた。明かりに照らされているため、よく見える。 
衣服もかなり乱れており、バスルームで一体何をしていたのか想像もつかない。 


「私はね……一番最初に会った人の『奴隷』になるってこのゲームが始まってからずっと決めてたての」 

「奴隷だって…………?」 

「そうよ。奴隷って……信頼関係と適度なサドマゾによって成り立っているでしょう?それって……素敵だと思わない?」 


スカート越しに、股を手で軽く弄くりながら、自分語りを始めた吉良に、英人は軽く恐怖を憶えていた。 

この感覚は、昔どこかでも味わった。 


そう―――――二階堂永遠だ。 

「貴方は私が契約を結んだ……ご主人様と呼ばせてもらうわ」 

飛び交う電波の込められた言葉一つ一つが、玉堤英人を不快にさせる。 
逃げたいという気分だけがただただ募り、気付けば後退り。 
一歩、二歩、彼の足は玄関のほうに、既に向かっていた。 

「何だ?何でここだけ電気点いてんだ?」 

そこに、間髪入れずに玄関の外から声がし、同時にドアが開く。 

姿を現したのは尻田堀夫だ。 

「ついてないっ!」 

英人は思わず心の中でそう叫んだ。八方塞がりのこの状況。逃げ場はどこにもない。 


「おーう!何だ!玉堤に吉良じゃないか!ハッハッハ!お前らはこんなゲームに乗ったりしてないよな!」 


相変わらずのうるさい声。コイツには危機感というのがないのか?英人は本能に忠実に、尻田にもまた不快感を抱く。 


「尻田くん……貴方には用はないのよね。消えてくださるかしら? ご主人様もきっと貴方みたいな空気の読めない方は不快に思うでしょうから」 

吉良は、いつの間にか英人のすぐ後ろに立っていた。 
英人は、吃驚して思わず腰を抜かし、床に落ちた。 


「何だ何だ~おまえらもしかしてラトが死んだと思ってるのか?」 

「んなわきゃないだろ!殺し合いなんてのはどうせ嘘さ!ありゃシージーだよシージー!だから映画でも観にいかねーか?森屋や鹿和も誘ってよ!今夜はオールナイトだぜ!!ひゃっはぁっ!」 

おめでたい奴だ。 
と心から英人は思う。 
空気が読めないにもほどがあるこの男に、一瞬殺意のまなざしを向けてしまった。 
だが、それがいけなかったのだ。 

次の瞬間、2発の銃声が響いた。 



発砲したのは、吉良だった。小さい銃が彼女の右手には、握られており、銃口からは硝煙が立ち込め、不気味な静寂を醸し出していた。 

「!?」 

英人は、驚いて腰を抜かしたまま、必死に居間へと逃げ込む。 

尻田は、右頬と喉に被弾した。傷口は浅いようだったが、それはこの状況下では逆効果で、銃弾は尻田の肉体を貫通することは無かった。 


「いっ……い゙ぃぃぃいいい」 

声にならないような叫びを上げて、尻田は喉を押さえ悶え苦しむ。 

「痛いでしょう?でも苦痛は続きますよ?」 

英人は、玄関で繰り広げられるその描写を見てはいなかった。 
だが、尻田の元へと吉良が駆け寄るのは、一瞬だけ見た。 

「あ゙ああああああああああああああああっ」 

尻田の、声にならないような叫びと、数発の銃声が、奇妙なリズムを刻みながら廊下へと零れる。 

二発目の銃声が、鳴り終えた時点で、ついに叫びは聞こえなくなっていた。 

そして、もう一発だけ、銃声が響くと、返り血を大量に浴びた吉良が、英人の元へと戻ってきた。 


「お前……尻田に何したんだよ……」 

英人は、震えながら吉良に問いかけた。 

「もちろん殺しました。ご主人様」 

彼女は笑顔でそういった。 


「お目にかかりますか?尻田くんの死体を?ご主人様が拝見なさりたいのなら私は死肉を切り裂いてこちらに持ってきますよ?尻田くんのデイパックの中にこんなものがありましたし」 

そう言って吉良が取り出したのは一本のナイフだった。 
だが、悩みと恐怖の中で交錯し続ける彼の脳内では、既にそれを聞き入れる余裕は一切無かった。彼女とはまともに目を合わせられない。追い詰められた小動物は、きっとこんな幹事の恐怖を抱くのだろうと。彼は思った。 

「……いよ」 

「?」 

「いいよ……そんなことしなくても…………僕は尻田を殺せだなんて一言も言ってないんだよ!」 

英人は、震えながら吉良を怒鳴った。 
何をされるかは全く予想できない。殺されるかもしれない。だが、保身よりも彼女への拒否反応が選出してしまった。 

冷や汗が彼の頬を伝う中、吉良は、突然英人に頭を下げる。 

「申し訳ありません……ご主人様!!ご主人様が尻田を鬱陶しそうに見ていらしたので…………気絶させたほうがよかったでしょうか?籠絡したほうがよかったでしょうか?」 

英人は驚いた。彼女もまた、震えながら頭を下げていたのだ。 

「いや……いいよ」 

死んだ尻田は、どれだけ吉良が頭を下げようとも尻田は生き返らない。当然だ。 

「私めに罰をお与えください。ご主人様」 

吉良はこんなことを言い放つ。 
罰?それならお前も死ね。そういってやりたかったが、英人は躊躇した。 
恐怖は、吉良の先の行動によっていくらか払拭……いや、押し流されたが、彼女へと向けられた不気味なイメージ自体は一切紛れることはなく、寧ろ増幅される一方だ。 


だから英人はこう言った。 

「間由佳を探してくれ。そして彼女をきっと護ってくれ」 
その瞬間、吉良は水を得た魚の如く笑顔を取り戻した。 

そして「はい!全身全霊で頑張りますご主人様」 

と、満面の笑みで言い放ち、走って民家をあとにした。 


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彼女は、強き意志の下、走り出す。
英人より下された命を速やかに遂行するためにだ。 

「間由佳を見つけて護り……それ以外はすべて殺せばいいのですね。ご主人様」 

彼女が任務を曲解したことを、玉堤英人は知りえない。 


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吉良邑子が民家を出て、しばらくしてから英人も民家を出ることを決意した。このままこんなところにいても危険なだけだろう。 

立ち上がった彼は、吉良が置いていったナイフを手に取るとそれを握り締めて廊下に出た。 

最初に目に付いたのは、尻田の死体だった。 
だが、彼はすぐに死体から目を離し、奥のほうへと向かう。願わくば裏口から外に出たいからだ。 

彼は玄関の近くの廊下を通るたびに、尻田の死体を見ないように目を瞑る。 
だが、家中を探しても全く見当たらないのだ。裏口が。 

「嘘だろ?」 

あそこを通るしかない。下手に窓から出ることもできないし、目を瞑っていれば大丈夫だ。 


例の廊下に、差し掛かった。嗅いだこともないような異臭が立ち込めるなか、英人は、何を思ったのか、目を開く。 

その惨状は、酷いものだった。 
手の指は全て折られており、身体には先ほどの弾痕のほか、腹部と胸部に4発。至近距離で発砲したのか銃弾は貫通しており、吉良の一方的な残虐性がよく体現されている。 

英人が目を開いたのには、ささやかな意図があった。 


自分の所為でおきた惨事を、憶えておくためである。 
物言わぬ尻田に向けて、英人は手を合わせると、そそくさと民家をあとにした。 

まずは吉良よりも先に由佳を見つけて保護しないと…… 
吉良に見つかったら彼女は何をされるか分からない 

そう思い、彼は気持ちを逸らせる。 
と、同時に、彼は閉ざしたドアの前で、吐いた。 

【H-5 市街地/一日目・深夜】 
【19:玉堤英人(たまづつ ひでと)】 
【1:僕(たち) 2:君(たち) 3:あの人、あいつ(ら)、○○(名前呼び捨て)】 
[状態]:健康 
[装備]:アウトドアナイフ 
[道具]:支給品一式、USBメモリ 
[思考・状況] 
基本思考:間由佳と合流したい。主催側がどうなっているか知りたい。 
0:ゲームに乗る気はない。基本的に身を潜めてやり過ごす。 
1:吉良よりも先に由佳と合流する。ゲームに乗っていない生徒に会ったら彼女(吉良)は危険だと知らせる 
2:尻田の冥福を祈る 
3:武装面での不安要素は拭えないため、ゲームに乗っている生徒に会ったら逃げる 
[備考欄] 
※USBメモリに玉堤英人の推測を書いたデータが入っています。 

【9:吉良邑子(きら ゆうこ)】 
【1:私(たち) 2:貴方(たち) 3:あの人(たち)、ご主人様、お嬢様、○○(名字くん、さん付け)】 
[状態]:健康、高揚 
[装備]:レミントン・デリンジャー(2/2)、 
[道具]:支給品一式(尻田のデイパックと自分用の計2つ)、予備用44マグナム弾(34/40)、 
[思考・状況] 
基本思考:ご主人様(英人)の命令に従い、間由佳以外を皆殺しにする 
0:間由佳がもしゲームに乗っていても出来うる限りは説得する 
1:もし彼女を殺してしまった場合はご主人様を殺して自分も死ぬ 
2:自分が見つける前に彼女が死んでいた場合も、1と同様の行為を行う 
[備考欄] 
※他生徒に出会い、交戦に縺れ込んだ際に、彼女は「ご主人様(英人)の命で動いている。」と言いかねません(彼女に悪意はない) 
※H-5の民家の一つは、未だに電気が点いています 


&color(RED){【男子十七番:尻田堀夫 死亡】 }
&color(RED){【残り49人】 }





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|[[玉堤英人は大いに悩み推測する]]|玉堤英人||
|&color(cyan){GAME START}|吉良邑子|[[No Country For Old Man]]|
|&color(cyan){GAME START}|&color(red){尻田堀夫}|&color(RED){死亡}|


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