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・投下予告

※これから投下するのは99%のギャグの裏側を書く事を夢とした話です。
 目標ではなく夢なのは、現実の厳しさから逃げ出す為です。
 目標は何時だって叶いませんが、夢は優しく僕らを包んでくれます。

※クリスマスと素直シュールの誕生日記念の話ではありますが
 「何故、今更?」という質問は誰かの心をえぐるので止めましょう。

※「いつものシューちゃんじゃない!」と泣くのはおよしましょう。
  兎のぬいぐるみという名のサンドバックが出ます。結構怖いです。

※同様に「いつものシベリアちゃんじゃない!」も禁句です。禁則事項です。
 タブーです。今の内に『い』をいっぱい言っておかないといけません。

※深夜にこっそり投下すれば全てが許されると思っている人がいます。
 生暖かい目で見守って下さい。冷たい水を下さい。できたら愛して下さい。

※ネタが大好きです。分からない人には地獄ですが許して下さい。
 あいちゃんは好きですが「イッペン、死ンデミル?」はまだ聞きたくありません。

※全9話ぐらいだそうですが、過疎を見計らってのんびり投下してみます。
 スレが落ちるまでには完結するかもしれません。基本的にスルーが安定行動です。

※空気が読めません。申告する事が既に空気を読めてない事に気付いてません。
 シュールなら何でもよかった。米俵のようなものでやった。今は反省している。

※「何もお前だけが丑三つ時の後を狙っている訳ではないのだぞ、ふっふっふ」
 という気は全くありません。むしろ割り込んでごめんなさい。では一話ずつのんびりと。



最近、男がお弁当を持ってこない日がたまにある。
そうなると多分彼はパンを購入している訳であり
お米派としては断固阻止したいところなのだが、当人は私にばれていないつもりらしい。

しかし流石の私も怒りで有頂天なので、今日は彼のライス弁当も一緒に作ってきた。
これを渡せば彼も今までの行動を反省して、お米の大切さを思い出してくれるだろう。

そして現在、お昼休み。
彼は恐らく購買に行ったのだろう。姿が見えない。
だが、こんな事もあろうかと今日は秘密兵器を持ってきていた。

円形で上にボタンがあって、星のついたボールを捜すドラゴンなんとかに酷似しているが気にしてはいけない。
彼にこっそり取り付けた発信機が球状でスターがついている事も口にしてはいけない。

「さてさて、探してみるとしましょうか。……ぽちっとな」

画面を見るに反応があった場所は……屋上?
しまった、既にパンを食べているやも知れぬ!

クラウチングから最高のスタートを決めた私にとって階段などない様である物でしかなかった。
……まだご飯を食べていないのに走ったのは失敗だったかもしれない。

でもこれを突きつけて奴の驚いた顔をまじまじと眺めるまではっ!
どんな誘惑や困難が私に迫ってこようとも引く事は出来ぬのだよ。
それが私のジャスティス。心躍る愉悦の瞬間なのだなぁ、みつを。

と言う訳で屋上へ辿り着いたのですが。
何やら話し声がしますね、ザーボンさん。

よし、ここは潜入操作としよう。指示をくれ、大佐。
こちとら偶然にもダンボールのストックがあるから、準備は完璧だ。
ちなみに今日は保存用、観賞用、貸し出し用その1、その2まで持ってるさ!
障害物のない屋上で使っても意味がないので使わないけれど。

ドアを少しだけ開けて、こっそりこっそり。耳を立てましてっと。
片方は男に間違いない。いわゆる一つのターゲットだ。で、もう一人は…………シベリア?

「今日は突然どうしたんですか? 話したい事がある。しかもシューさんには内緒だなんて」
「ああ、いきなり呼び出して悪かったな。けど、大切な話なんだ」

――――えっ?

「……もしかして」
「こうして面と向かって話すのは恥ずかしいんだが真面目に聞いて欲しい。実は俺……」

二人ともそんな所で、二人きりで、私に内緒で何を話しているのだろう。
分からない。なのに体が震えるのは何でだろう。それも分からない。

「……あっ」

手にしていた秘密兵器を落としてしまった。
カタッ、と大きな音をたてたそれは、もうこの扉の向こうにいる男に反応してくれなかった。
まるでそれが何かを暗喩しているかの様に。

気付いたら走り出していた。
きっと私はあそこにいてはいけない存在だったと、直感したから。
この手に残った二つのお弁当箱が――何故か今はやけに重かった。




「さて、今日も急がないとパンが売り切れちまう」
「……君は今、何と言った?」

「え? だからパンを……し、しまった!?」
「そうかそうか、最近お弁当じゃない日はこそこそしていると思ったらそういう事か」

「お、お前が米を愛しているのは知っているが、たまにはパンもいいと思うぞ、うん」
「ファイナルアンサー?」

「待て、やけにそっくりな某もんた顔は止めてくれ」
「と言う訳で不正解だった君にもんた改めサンタから残念賞を」

「袋が風呂敷なサンタは始めてみたぞ。しかもそれ、何処から出した?」
「君は子供の夢をその様な安易な一言で、時間の果てまでブーンさせる気なのか?」

「まあシューなら、不可能じゃないの、の一言で解決だからこれ以上は尋ねない」
「(´・ω・`)にょろーん」
「……言っちゃ駄目だけど聞いて欲しいという微妙な乙女心を表情一つで表せるお前を俺は尊敬する」

「とりあえず物資は配給したので今日はそれを食べなさい。じゃあねー」
「食べ物なのか。えーっと中身は…………赤飯おにぎり?」

何がめでたいのか分からないが、こうしてシューにお昼ご飯を作ってもらえるのは嬉しいな。

「ん、何だこのシール?」

【保存料、着色料などは一切使用しておりません。素材そのものの風味をお召し上がり下さい】

……この表示、自分で作ったな。どこでこんな技術を会得したのだろう。
おにぎりは確かに美味しかったが、その事が昼休み中ずっと頭を離れなかった。




まだまだ俺はシューの事を知らない。
何時も俺をからかうシューが何を考えているか分からない。

「今日もわざわざ来てもらって悪いな」
「いえいえ、私もシューさんにはお世話になってますから」

「じゃあ、早速。プレゼントの事なんだが……」
「26日の誕生日が近いので何か渡して喜ばせたい、との事でしたね」

「頼む、アイツが好きな物が米ぐらいしか
 すぐに思いつかないのもそうだが、何より女の子が好む物なんて俺には全く分からないんだ」
「私は男さんにもお世話になってるんです。私で良かったら喜んで協力しますよ」

本当にいい子だ。
礼儀正しいし、何時もあんなに振り回されてるのにシューに付き合ってくれているし。
校則もしっかり守ってるし、行動も模範的で…………うん、ウォッカの話は止めようか、そこ。

「でも、二人ってまだ付き合ってなかったんですね。驚きました」
「さりげなく凄い事を言うな。何処をどう見たら、シューと俺が付き合ってる様に見えるんだ?」

「……あれだけ息がぴったりなのに気付いてないんですね」
「ん?」

「でも確かにシューさんが相手なら……それも当然と言えば…………」
「……おーい?」

「いえ、こっちの話です。とりあえず色々と考えてみましょうか」
「ああ、そうしよう」

知らない事が山ほどあった。
知りたいと思った事も山ほどあった。
けれど、踏み込んで今の関係が崩れるのが怖かった。

――それでも。
それ以上に、知りたいと思ってしまったんだ。

結局はそういう事なんだろう。
相手をもっと深く知りたいと思う感情。
それが人間だけが持つ、特有のモノ。

しかし誕生日がクリスマスの一日後なんて面白い。
世の中の色んな人たちがソレに溺れてく日の翌日。
その事が何だかアイツらしいのが、行動に移そうと思った俺の背中を押してくれたのかも知れない。

……遠まわしな言い方なのは別に気取ってる訳じゃないぞ?
乙女の恥じらいなんていうが、乙男の恥じらいだってあっていいじゃないか。

簡単に言えば、シューは好意に値するという事だ。
つまり――――好きってことさ。




ついに。ついに入手したっ!
知る人ぞ知る、米好きの、米好きによる、米好きのための店。
テレビや雑誌じゃ紹介された事のないほどの隠れっぷりなのに店内は何時も混雑しているというこの米聖地。

もちろん、クリスマスともなれば大変な事になるであろう事が予測される訳だが。
ふっふっふ。今、私が手に持っている物を何だと思う諸君。
さあ、某紋所の様な異常なまでの効力がある訳じゃないが、これを見てひれ伏せい。

――ねんがんの クリスマスチケットをてにいれたぞ!――

これさえあればばっちり。
目の疲れ、充血や肩こり、腰痛、かぜの諸症状などに絶大な効果がっ!!
……ある筈はないけど、当日はこれさえあれば店に手ぶらで行ってもOKという優れものだ。
ちなみに一枚で四人まで大丈夫という安心の構造。欠陥などありません。
万が一、そんな事があったら、私は懲役五年を命ずるね。罰金は180万円で。

ああっ、この喜びを今すぐ誰かに伝えたいっ!
有り余る若さのパワーを存分に使い、駆け抜けろ、この長き道のりを!

……しまった、つい屋上まで来てしまった。
あまりの嬉しさに興奮し過ぎてしまったな。ここは姉を見習い、クールにいかねば。

「君が好きだ。付き合ってくれないか?」
まずは形からと見習ってみたが駄目だった。
こういうのは私には向いていない台詞だ。むず痒い。
それに私が好きなのは黄身ではなく米だ。アイライクライス。

ただ、大好きなお米を一緒に食べたい人はいる。
私が大好きな時間を、共に、同じように感じて欲しいと思う人が。
だから私はこのチケットでその夢を叶えたいと思う。さて、探し人はいずこに。

「すまん、屋上を選んだのは失敗だった。今日は結構寒いな」
「冬ですからね。でも私は慣れてるので大丈夫ですよ」

あれ、これは男とシベリアの声?

「そうか、ロシアから来たんだものな」
「ただ、この季節になると……何となく故郷が恋しいな、とは思ってしまいます」

二人が、また屋上で、二人きりでここにいる?

「ホームシック?」
「あ、別にここでの生活が楽しくない訳じゃないんですよ。皆さん、いい人たちですからね」
「……」
「それでも、たまに思い出してしまって……ほんの少しだけ心が寒いです」
「……俺に出来る事があったら何でも言ってくれ。力になりたい」
「大丈夫ですよ。こうして聞いてくれただけで、気持ちが凄く楽になりました」

そうか。この前、男が……。

「無理だけはしない様にな」
「ふふっ、ありがとうございます」

幸せそうな二人の会話。
それは明らかに友達同士の会話じゃない。

ああ、二人とも水臭いなぁ。
そういう事なら、わざわざ内緒にしなくても言ってくれればいいのに。
それとも私は信頼されてないのかな。こういう時はからかったりしないよ。

結局、また私は走り出していた。
二人が黙っていたいと思うなら、私が何かを言っちゃいけない。
三人で過ごすクリスマスという私の夢を乗せたチケットは……目から零れ落ちた何かで濡れていた。




「それにしても難しいですね」
「考えてみたら、シューが『女の子が好む物』を好きかどうかが物凄く疑問だしな」

「素直に炊飯器とかはどうなんでしょう?」
「こだわりがあるだろうから、自分の持ってそうだし……釜とか使ってそうなイメージもあるからなぁ」

「プランクトンとか」
「好きそうなのは分かるが、何と言うかそれは、分かりづらいし渡しづらい」

「ワッシャーはどう思います?」
「いい線だと思うが駄目だな。いや、ロックワッシャーなら……」
「それ以前に問題だらけな気がしますけどね」
「……そうだよな。プレゼントってレベルじゃないな」

真剣に考えるほど、逆に本来の目的から遠ざかってる気がするのは何故でしょう。
それを感じているのか、男さんもガックリと肩を落としてます。

「ああっ、分からん。プレゼントらしくてアイツが喜ぶ物が分からんっ!」
「……何をあげても喜ぶと思うんだけどなぁ」
男さんからのプレゼント。
その一点だけで、シューさんは喜ぶと思う。
二人に出会ってから、まだ半年ぐらいしか経っていないけど私には分かる。

――シューさんは男さんが好きだ。

例え半年でも。
二人の友達として今日までずっと二人を見てきた私だから分かる。
相思相愛でありながら、二人はそれを全く分かってないだけです。

恐らく今までは現状に満足していたのでしょう。
男さんの反応を見るのが楽しくて仕方ないシューさんと。
そして、そんなシューさんとの会話を心地良いと感じる男さん。

クールでもない。ヒートでもない。
恋の形は様々だからこそ、こんな形も存在した。
二人の間に流れる穏やかで温かな雰囲気こそが愛の印。

それが誕生日というきっかけを得て、少し形を変えようとしているだけ。
もし二人が結婚したとしても、それが変わる事はないんだろう。
それはきっとシューさんがシューさんだから。
だから、何も心配しなくていいんです。
普段は分かりづらいかもしれないけど。
ギャグだと笑い飛ばしてしまうかもしれないけど。

シューさんは確かに――――男さんの事が大好きなんですよ。

「米か、やはり最後に究極的に行き着く先は米なのか、ラーイスっ!!」

だから、問題なのはプレゼントの内容よりも
むしろ、それに気付いてない事なんですが……難しいものです。

結局、直接言いたい気持ちを抑えて、私は再び一緒にプレゼントを考える事にした。
これは私が口を出す事ではないですからね。例え二人の友達であったとしても。

だって愛し合う二人の未来は、二人が築き上げていくものなんですから。



プレゼントをどうするかという問題は解決した。
答えは、分からなければ聞けばいい、というもの。
単純だがこれこそ一番確実なはず。しかし問題はもう一つあった。

俺は、誕生日にプレゼントを渡した後、シューに告白しようと思っている。
だが、これがなかなか難しい事で未だに決意が揺らいでいた。

『実は俺、シューに告白しようと思っている』

シベリアにそう話したのもそれが原因だった。
ウジウジする様な柄じゃないのだが、やはり断られるのが怖いんだ。

「覚悟は出来ましたか?」

けれど、仕方がないだろう?
だってそれは好きだって証拠なんだから。
だから覚悟は――――決めなくてはいけない。

「……ありがとう。お陰でもう大丈夫だ」

最後の迷いは恋の力で断ち切った。

……ちなみに震えているのは怖いからじゃなくて、寒いからだからな?
情けないですねと言いたそうなシベリアの目が、何故かとても痛かった。




「シュー、あのさ」
「おお、ちょうどいい所で会ったな、マイフレンズ」
「同じクラスでたった今、授業が終わって昼休み、の場面でよくその言葉が出るな」
「君は中々酷い事を言うね。……お客サンにだけ特別でいいモンを持て来たと言うアルのに」

エセ中国人め。アルの付け方に底知れぬ違和感を悔しいけど感じちゃうぞ。ビクビクと。
だが特別などと言うお買い得に見せかけた、高額商品など買わんぞ。
で、でも貴方がそこまで言うなら買ってあげてもいいわよ?
……と、こんな風に壺とか買わされる様なツンデレじゃないぜ、俺は!
ちなみにシューへのプレゼント代を稼ぐのに必死でお金がないだけとか、そういう裏事情は秘密だぜ。

「で、あれか。つまりはそっちも用事があるというのかね?」
「と言う事は、ユーもミーに用があるというのYO!」

エセ米国人め。そこはかとないお米アピールとかしやがって。
語尾をアルファベットにすればいいという程度の考えないんだろう。
これだから、困るよ、最近の若い素直シュールは。
でもそこがいわゆる一つの萌え要素なんだよな、ちくしょう、大好き。

「して、何のようだね。おじさんに話してみなさい」
「いやいや、そっちから話して下さって構わなくってよ?」

「レディーファーストという言葉があってだね」
「なるほど、そして君はピッチャーでシベリアがキャッチャーか」
「そうそう、黄金バッテリーとして有名な二人は甲子園に…………って待て」
シベリアもレディーです。勝手にキャッチャーにしない様に。
確かに女房役という意味では女性的なポジションだけどな。

「……はぁ、話が進まないからこっちの用件を言うとだな」
「実は今回持って来た物と言うのはこれなんだ」

俺の話は見事に無視された様です。
本当にありがとうございました。

「……で、何でチケット?」
「ノンノン、ただのチケットではない。クリスマスチケットだ」

解説を要求する。

「これ一枚で隠れおこ名店のフルコースが食べれる優れものなのです」
「ほうほう」
「しかも混雑するクリスマスにも関わらず、静かな個室で堪能できます」
「おおーっ!」
「そして……何と今なら、一枚で四名様までご案内可能!」

今日のエセ中国人は凄いな。
でも、何でその話を俺に?

「だからこれでシベリアを誘ってクリスマスに食べてきなさい、はい」
「……シューは?」
「ん?」
「四名様まで何だろう? 誘ってくれるのは物凄く嬉しいけど、シューは?」
渡されたチケットにも確かに四名様の文字がある。
しかも、お米の名店でフルコース。
そんな豪華なチケットがまさか無料で配布されてる訳ないし
手に入れる為にはかなりの苦労があったんだろう。それなのに何故?

「残念ながら外せない仕事がありまして」
「……いきなりの話だからな。俺は真面目に気になっている」

こんな話を突然するのだから、それなりの訳を聞かないとな。

「あ、えと……ちょっと用事が出来ちゃって諦めようかなって」

ちょっと用事が? ……何かがおかしい。
俺の頭の中にそんな言葉が過ぎった。
だって、今の発言をシューがすると言う事が意味するのは。

「……何かあったのか?」
「えっ、どうしてそう思うの?」

俺は知らない。シューの事をまだまだ知らない。
でも知ってる事だって沢山あるさ。ずっと一緒だったんだからな。

だから、お米が大好きなシューがこんなにすんなりと受け入れているのはおかしい。
何よりも米を愛しているというのに、諦めるなどという選択肢をこうも簡単に取る訳がない。

つまり、これだけのチャンスを逃してまでもしなければいけない事が今のシューにはある。
愛しているものを捨ててまで、選ぶ重要で重大な事とは一体なんだろうか。それが知りたい。
「だってさ、俺がずっとこの一年間、一緒に過ごしたシューという女性は……」
「……」
「俺が大好きなシューは、そう簡単にそんな事は言わない」

たかが米の事で何を、と思われてもいい。
何があっても米に対しては真摯であり続けたシューがそう言ったから。
だからこそ俺は何かあったのではないかと、心配なんだ。

「……男さん。今、大好きなシューって言いましたよね?」
「シベリア、悪いけど邪魔しないでくれ。これは真剣な…………え、何だって?」
「大好きなシュー、と言いましたよね。いえ、確実に言ってました」
「……へ?」

ちょっと待て、何を言ってるんだ、俺。
そして教室の盛り上がりようは何だ。
あっちこっちで騒いで、俺とシューの事を見てるぞ!?

「い、今のって本当……?」
「それはつまり『大好きな、の部分は本当か』という問いでしょうか?」
「い、イエス」

こんな状況で新たに知ってしまった。
慌てるシューの表情と……それがとても可愛いという事実を。

ええい、もうこうなったらどうにでもなれだ。
順序など知るものか。断られる恐怖など米粒以下に圧縮してやる。

「ここ数日、シベリアに協力してもらって誕生日プレゼントの準備をしていた」
「……そ、そうなの!?」
「そしてプレゼントを渡した後に、告白しようと思っていたが、つい先ほど口を滑らしてしまいました」
「……うん」
「だから、というのも変だが今、告白しようと思う」

周りの目線はもう気になっていなかった。
見つめる先にあるものは、俺を見つめ返すきれいな瞳だけ。
つぶらで、真っ直ぐで、それが俺だけを見ている。

さっきから心臓の音がうるさくてたまらない。
少し黙れ。酷かもしれないが俺が今から大切な事を言うから。

――――強い想いは勇気に変えて。


「俺はシューが大好きだ」


一片の曇りもない、俺の本当の気持ちを伝えた。




「…………っ!!」

な、泣かせてしまったのか?
この胸に飛び込んできたシューを抱きながら思う。
ああ、そうかこれは当たり前なんだ。シューが泣いているのを見て、急に冷静になれた。
シューからすればみんなが見てるこんな所で突然そんな事を言われて、辛い訳がない。

「私も……私も大好きです」

そうだ、俺は馬鹿だ。
シューだって俺の事を…………待った。今、何と言った?

「私も君の事が大好きです」
「……な、何ぃ!?」

これはこの場を和ますシューなりのジョークか何かなのだろうか。

「相思相愛ですね、お二人さん!」

他の人に混じって、笑顔でこちらに野次を飛ばしてきたのはシベリアだった。
多分、純粋に喜んでくれているのだろう。それだけに何も言い返せない。

「……君のせいで、ずっと君とシベリアが付き合ってるんじゃないかと思ったじゃないか」

俺とシベリアが!?
その言葉でハッと気付いた。あの赤飯のおにぎりの意味に。

「だったら、応援するしかないじゃないか。シベリアが相手なら……諦めるしかないじゃないか」

そして、クリスマスチケットを俺に渡した訳にも今なら分かる。
シューは勘違いで行きたくて堪らない筈のお店を諦め
俺とシベリアの為を思って、このチケットを渡そうとしていたのか。

あれほどまでに大好きだと言っていたお米の店だというのにも関わらずそうしようとした。
という事は、もしかするとそれはつまり、シューにとっては俺とシベリアはお米よりも――――。

「だから、この抱きつきは今までの分の仕返し」
「……こんな嬉しい仕返しなら何時でも歓迎だ」
「仕事と米、どっちが大事なの、って言われても私は米を取るからね?」
「……米か俺かなんて質問はしないから安心してくれ」

俺だって米は大好きだからな。
だって、俺とシューとの関係は米から始まったのだから。
米がなければ、俺はシューに出会えなかった。

初めて交わした言葉は今でも覚えてる。「突然なんだが、米」だぜ?
いきなりそう言われて俺は何と言えばいい。
結局、その時はシューに何も返事出来なかったさ。

けれど、きっとその日から、その瞬間から惹かれていたんだと思う。
ただ純粋な意味での興味だと思っていたけれど
日に日に彼女の事をもっと知りたいという想いは膨らんで。

そして、ついに俺は辿り着いたんだ。
俺の事を好きだという彼女の気持ちに――――。



三人で過ごすクリスマス。
そこには相変わらずな俺たちがいた。

「い、いいか皆の衆。取り乱すでないぞ。『初めてなのね。うふふ、可愛いわ』と思われたら負けかなと思ってる」
「台詞に若干のいかがわしさがあるのはデフォルトなのか。どう思う、シベリアよ」
「まあ、シューさんですからね。あ、それから皆のシューではなくて男さんのシューですよ?」
「……君もか、君もなのかシベリア君。こうして常識人は俺だけになってしまうのか」

ほら、例え店内でもこんな風に何時もと変わらない光景が。
……というか、シベリアはパワーアップしてないか?
純粋無垢ないい子だったのに、どうやら俺をからかうという事を覚えたらしい。

「さあ、今日は待ちに待ったライスポーリー。遠慮せずに食べてねー」
「しかし本当にいいのか? あのチケット、高かったんだろう?」
「ただで食べさせてもらうというのは、やっぱり……」
「む、君たちはまだそれを言うかね。四名様までご招待だというのに」

確かにお願いはされたのだが、いざ目の前にこれだけの料理が並ぶとな。

「二人が私のお願いを聞いてくれるというのが一日早い誕生日プレゼントなんだから、野暮は言っちゃだめー、フツーにだめー」
「ん、そうだったな。じゃ、ありがたく頂こうか」

「……ところでこんな時間に私達だけで外食なんて大丈夫なんでしょうか?」
「こんな事もあろうかと、姉さんが待機してるから問題ない」
「お姉さんなんていたのか。でも、姿が見えないんだが?」
「そりゃあ、別室で彼氏さんと今頃お楽しみでしょうから。いい意味で」

言葉の端々にまた若干のいかがわしさがある様な気がするのだが。

「……それに、今日は三人だけがいい」
「シューさん……」
「一年間本当にありがとうございました。不束者ではありますが、どうかこれからもよろしくお願いします」

完璧なまでのジャパンカントリースタイル、DOGEZAだった。
それは、目の前の光景が信じられなくなるほどに美しかった。

「よし、じゃあ頂きますの呪文を唱えるよー」
「……」
「MP0でも大丈夫。食べ物が美味しくなるという、誰でも使用可能で素敵な魔法なんだぜ?」
「……」
「あ、あのー、私のメッセージ届いてますか?」

少し慌てるシューの前で、シベリアと俺は完全に硬直していた。

だって、そうだろう?
さっきのアレはシューのこれまでの想いの全てが込められた一言なんだから。
そう、さらっと聞き流すなんて真似が出来る筈がない。

「男さん、時間もちょうどいいみたいですし、ここは一つ」
「……そうだな。では、しばし待て、お二方」

クリスマスがもうすぐ終わる。
白ひげ蓄えたお爺さんと赤鼻のトナカイが飛び交う魔法の夜が、あと少しで終わってしまう。

――――けれど、まだ終わりじゃない。

魔法はまだ解けない。
むしろ、ここから始まるんだ。
そう、俺たちはもう一度魔法にかかるのだから。

サンタだけが魔法を使えると思ったら大間違いだと教えてやろう。
本当は、全ての人間は魔法を使えるんだ。
ただ、その素晴らしさに普段は中々気がつかないだけ。

頂きますは素敵な魔法。
そんな事をはっきりと言えるシューとこの一年、共にいたからこそ俺はその事に気付いたんだ。

では、これから大魔道師の誕生日を祝うとしようか。
俺たちに幸せの魔法をかけてくれる――――シューという大魔道師の誕生日を。



「さっき、男と何を話してたの?」
「恋する乙女としては気になってしょうがない、という訳ですね」
「……否定はしないけど、私は最近シベリアが悪い子になった気がする」
「無知な私が悪いとはいえ、散々騙されてきたので少しばかりお礼がしたくなったものでして」

くそぅ、おでこ怪獣シベリアめ。
さては調子に乗っているな。でも今日は機嫌がいいから許す。
だって、目の前に広がるのは米々天国だからねっ!

……それに、何よりも今日は二人が私の為にいてくれるのだから。
未だに、男とシベリアを見ていると少しだけ不安になってしまうのは反省しなければいけないけど。

「そうですね、確かに私は男さんが好きです」
「……ふぇ!?」

そ、それはつまりドロドロ泥沼バミューダトライアングル?
BさんとCさんが親友という、あまりにも王道な三角形。

「同時にシューさんの事も好きです」

私と男で二股!?
い、いけないぞ、君だけは常識人でいて欲しかったのに両刀使いなんて属性を持ってしまっては。
しかし偏見はよくない……でもっ……いや、けれどシベリアになら…………。

「……シューさん?」
ううっ!?
ならぬっ、近づいてはならないのだ、シベリアよ!
し、静まれ……私の心よ……動揺を静めろ!!

だ、だから顔を覗き込んじゃ駄目だって。
私には男と言う大事な人がいるんだからねっ!?

「何故でしょう、今私は物凄い勘違いをされている気がします」
「あれ、そういう展開じゃないの?」
「あくまで友達と言う意味でです。日本の文化の一つとして、興味がない訳ではありませんけど……」
「……何と言うか、君から、悪いお友達に影響を受けてるかわいそうな子のオーラが出ている」
「確かにシューさんから受けた影響は大きいでしょうけど、悪い友達なんかじゃない事は絶対です」

そういってもらえると嬉しいかな。
当たり前だけど、私色に染まり始めてる事じゃなくて、「絶対です」と言ってくれた事が。

「いい機会なのではっきり言うと、始めから二人の関係は分かっていたので恋愛感情が湧いた事はありません」
「……ほんの少しも?」
「む、それを聞かれると少しは。でもそれ以上に大切な友達としてみています」
「本当に?」
「八百万の神に誓いましても、この身にやましき事はただの一つもございませぬ」

この世に生まれてから今までの人生の中で、一番巫女装束が欲しいと思った瞬間だった。
これは不味い。シベリアに惚れ直したかもしれない。
「分かって頂けましたか?」
「そうだね、今度一緒に我が家に来ようね。大丈夫、衣装はこっちで用意するから」
「衣装?」
「ちょっと厳しいかもしれないけど……それでもクー姉なら、クー姉ならきっと何とかしてくれる」
「……ロシア人もびっくりの凄まじい寒気がするのは何故なんでしょうか」

似合うと思うのだが。
日本人もびっくりの素晴らしい巫女が誕生すると思う。

……ん、誕生?
部屋の時計を見てみると、短い針が12を指していて、長い針がそれを追い越していた。

「……話を大本まで戻すと、私は男さんにある物を取りに行く様に頼んだんです」
「ある物?」
「何だと思います?」
「何でしょうね」
「ヒントは先ほどクリスマスが終わった事」

自惚れてもいいのだろうか。
だって今日は私の誕生日なんだから。
二人が来てくれた。それだけのプレゼントで大満足だった筈の心が揺れ動く。
欲張りだと思っても、無意識に期待してしまう。もしかして、と考えてしまう。

「さっき、『頂きますは素敵な魔法』って言ってましたよね?」
「……さり気なく言ったのに聞いてたのね、君」
「そういう事を素直に言えるシューさんが私は好きです」
「あ、ありがとう」

「そして、今日はシューさんの誕生日」
「……」
「大切な人が生まれた日を、大切な人と祝える。それは私にとってクリスマスにだって負けない素敵な魔法の時間なんです」
「……は、恥ずかしい台詞禁止っ」
「ふふっ、そういう訳でアレを用意したんです」

見計らったかの男が笑顔で帰ってきた。
その手に持っていたのは、炊いたお米の様に真っ白なケーキだった。


10

「しっかし、こんな時間にご飯も食べず、先にケーキ出すのは間違いだらけだと思うのだが、その点どう考える?」
「誕生日特性ライスケーキを、シューさんが満腹で食べられないなんて事態になるのは避けたいですから」

まさかこれは店長が誕生日の人だけに作るという幻の裏メニュー!?
米は別腹とは言わないけど、米があればご飯3杯はいけるという
無限ループ発言をした事のある私にとっては、これはまさに脱出口。奇跡の方程式。

「ほら、ロウソクもちゃんと用意しといたぞ」
「じゃあ、電気消しますねー」

暗くなった部屋の中でゆらゆらと揺れる炎。
その向こうには男とシベリアがいる。そして火の下にはライスケーキ。

「……今更な発言で申し訳ないんだが、これって恋人と過ごす初めての誕生日って奴だよな」
「クリスマスに関しては何も言わなかった件について」
「それも確かに大切な日ですけどね。でも、今日はもっと特別ですから」

――ああ、こんな幸せが。

「俺にとっては、恋人たちの為の日よりも」
「……うん」
「シューが生まれて、そして出会った今日という日の方がさ。……大切なんだ」
「そう、ストレートに言われるのは……苦手なんだけどな」
「俺らしくないか?」
「振り回されるのは慣れてないというか……いや、台詞がカッコいいのは君らしい」

――こんな幸せな日が私に訪れようとは。

「ん、私は君が好きだ。今はっきりと言おう。私と付き合ってくれませんか?」
「……そうか、あの日は結局、細かい話はうやむやになってしまったんだったな」

「それはつまり、私と付き合うという事は細かい話だと言うなのか?」
「な、何よりも大事なのは二人が愛し合ってるという事実なのだよ、ワトソン君」

「事実は確認されてこそ現実になるのだよ。その点、君は勉強不足だったな、明智君」
「その確認とは?」

幸せ分満タンの私はもう止まらない。
これでもクー姉と同じ血が流れているのだから。

「手を繋ぐ、抱擁、接吻、性交などが一般的とされているそうだ。そうだよね、シベリア?」
「ふぇ!? ええ、そうですね。……ただ、最後の一つは流石に二人きりの時だけにして下さい」

クー姉に習った通りに言ってみただけなのだが、そうか、駄目なのか。
我が家では父に続き、2番目の常識人だと思っていたのに騙された。
自分の想いは真っ直ぐ相手に伝えるのが大切だと教わったのだが。
しかし、今の私がその程度で恥ずかしがるとは思わないで頂きたいな。

「という訳で、許可も下りた。では、早速抱きしめてくれ」

両手を広げポーズ。これも姉から伝授された技だ。
例え常識人でなかったとしても私はクー姉が好きだからな。
教わった48の殺人技は大切に使わせてもらおうと思う。
姉曰く、これで意中の相手を萌え殺しだそうな。効果は絶大らしい。
「……自分から、というのは初めてだからな。かなり緊張してるぞ、俺」

こちらまでやってきた男は胸に手をあて、深く呼吸していた。
うん、何だか可愛い。

「……これで、いいのか?」
「んー、許可が出たのはもう二つあった気がするなぁ」
「それは欲深いんじゃあないでしょうか」
「自分の欲望に素直なだけですよーだ」

ご飯を食べなければ、死んでしまう様に。
私には君がいないと駄目なんだ。

君の見せる色んな表情が楽しみでしょうがなくて。
だから君を惑わせて。けれど何時も最後は優しく受け入れてくれる君をもっと好きになり。

「……シューって、思ってたより小さいのな」
「私は君の手は温かい事を今知った」
「……ちなみに、恥ずかしながら照れてて火照ってるだけだったりする」
「で、最後の一つがまだな訳なのだが?」

シベリアと君が会話しているのを聞いて、ついにはっきりと分かった。
私がこれまで以上の関係を強く求める程に、君を大好きだと言う事が。

「し、シベリアが見ているんだが?」
「許可は貰ったんだけどなー。ねー、シベリア?」

「はいはい……もう既にこっちが恥ずかしくなってくるほどのレベルなのでお好きにどうぞ」
「シベリアよ。に、日本にはだな。簡単に諦めてはいけないというネバーギブアップの精神が……」

「思いっきり横文字じゃないですか。男さん、諦めが肝心と言う言葉を知らない訳ではないですよね?」
「……むぅ、君は私とキスするのがそんなに嫌なのか?」

そう、だからこそ不安なんだ。
今でも、君が本当に私を好きなのかどうかが信じられない。
大好きだと言う言葉はもらったけれど、もっと行動で示してほしい。

「……嫌じゃない。むしろ、そうしたい」
「だったら、何で?」
「……怖いんだ」
「怖い?」

それは恋に溺れる事が、なのだろうか。
私はまだまだ君の事をよく知らない。
だからこそ、もっともっと知りたいんだ。その胸の内を。

「望んでいたのは確かなのに、俺は今までの関係が変わる事が怖い」
「……今までの関係?」
「ああ、今までの騒がしくて、滅茶苦茶で、振り回されて、時には迷惑だとも思うようなシューとの毎日」
「……」
「けれど、何よりも楽しかったあの時間が無くなってしまいそうで怖いんだ」

何だ、そんな事か、とは思わなかった。
私が不安を抱えている様に、君もまた不安を抱えている。
同じ気持ちなのだから、君が本当に悩んでいるのはよく分かる。
けれど、私にはそれを怖いと思わない理由がある。

「……突然だが」
「いきなり何を言って……」
「……」
「……」
「私は米よりもパンが好きだ」
「……へ?」

「さて、どう思う」
「明らかに嘘だ。ましてこのお店で言う事じゃないぞ」

「はい、それはずばり何故でしょーか。手元のフリップにお書き下さい」
「俺の手はしっかりとシューに握られてるのですが」

「では、ボタンを押した方からの回答という形式にさせて頂きます」
「……小学校の通信簿に人の話を聞かないって書かれただろ、お前」

君も気付いてないだけで、分かってる筈だよ。
ずっと一緒にいたのだから、この一年間を共に過ごしたのだから。

「じゃあ、言ってみて。答えられるのは一回だけだけど、君なら分かるよね?」

――――だから、きっと君は。

「だってシューが米よりパンを好きな筈がない。シューはシューなんだから」
「その通りだよ。私は私で、それはどんな時も変わらない…………変わらないよ」
正解してくれると信じてたよ。
でもシベリアはもっと早くからその事を分かってたみたい。
恥ずかしさの頂点を通り越したのか、こっちを見てニヤニヤしてるし。

けれど、正解者には商品をあげないといけないのが決まりなんだよねっ!

「という訳でご褒美のキスを」
「え!? ……ん、んんっ!?」
「ん…………んぁ……」

あ、これは中々病み付きになりそうだ。
クー姉が説いていたキスの素晴らしさも今なら分かる気がする。

「……い、いきなり何をするかね、君は!」
「まあまあ」
「初めてだったのに……」
「あは、奪っちゃった♪」

ちなみにこういう時も習った人差し指を口につけるポーズは忘れていない。
数ある殺人技も中には相手によって効かないものがあるそうなので「色々試してみるといい」とは姉の談。

「……でも、ありがとう。おかげでもう怖くはない」
「それはよかった。じゃあ、今度は許可を貰った分のキスを……」
「ご、ごほんっ!」
「そうだったな、では早速……」
「……二人とも小学校の頃、通信簿に人の話を聞かないって書かれましたね?」
「咳払いは話とは言わないよ?」
「そうだぞ、言いたい事があるならはっきりと言葉や行動にしないとな」
「……男さんはともかく、シューさんが正しい事を言っている」

失礼な。普段も7割方は本当の事を言っているというのに。
まあ、シベリアにとっての7割と私にとっての7割が同じとは限らないけど。

「何もないのなら、再開して……」
「ああっ! だからですね、私が言いたいのはっ!」
「働いたら負けかなと思ってる、とか?」
「同情するなら金をくれ、かもよ?」

うむ、駄目人間扱いされてガックリと肩を落としてる姿も中々良いのぅ。
しかし、それでもまだ粘りますか。仕方ない、そこまでするなら聞いてあげよう。

「で、何が言いたいの?」
「ケーキのロウソクがもうかなり溶けきってしまってるんですよっ!」
『……な、なんだってー!!』

その声は見事なまでに重なったのだった。
まるで息の合うカップルを祝福するかの様に、ね。


11

「数々の困難を乗り越え、私達は今やっとここまで辿り着きました」
「……本当に申し訳ない」
「今も反省はしていない」
「待て、お前も一緒に反省しなさい」
「……いえ、もういいんです。こうして用意し直せたんですから」

「なあ、シューよ。これって禁句なのかも知れないが、シベリアのおでこが広いのって……」
「皆まで言うな、男よ。苦労人の彼女にその事実を告げるのは残酷でしかない」
「……全部聞こえてますよー。うぅ、もうウォッカをやけ飲みしたいよぅ」

「……何か、シベリアがシベリアじゃなくなり始めてる気がするんだが」
「それは禁則事項だぞ。あんまり喋りすぎると、情報操作されるから気をつけた方がいい」

「はいはい、その話はもう止めて下さい。ほら、火もつけ終わりましたよ」
「じゃあ、電気消すぞー」

「それでは火を消す前にみんな一言ずつ何かを言いましょうか」
「そうだな、折角の誕生日なんだからな」
「今度はロウソクが溶けない様に手短にねー」
「……原因の一人がいうのも何だが、お前が言う事じゃないだろう」
「まあまあ。さて、まずは私からですね」

「シューさん、お誕生日おめでとうございます」
「うん、ありがとう」
「そしてこれからも宜しくお願いします。あと、男さんとお幸せに!」
「大事な友達のお願いを無視したりはしないよ。……本当にありがとう」
「いえいえ、頑張って下さいね」

「次は俺だな。まずは誕生日おめでとう」
「ん、ありがとう」
「出会ってから今日で一年。めでたく付き合う事になった訳だが……これからも宜しく頼む」
「つまり、これまで通りの感じで君を振り回していけばいいと」
「……お手柔らかにお願いします」

「最後は本日の主役、私。まずは誕生日おめでたい」
「間違ってないがそれは自分で言う事なのか?」
「こうして二人が来てくれた。お祝いの言葉とケーキまで貰った」
「……」
「それがめでたくない訳ない。だから私は素直に宣言したまでだよ」
「何だか、照れますね……」

「……本当に、本当に感謝してる」
「ま、まあ友達として、そして恋人としての当然の行動だ」
「あ、男さんも照れてるんですね」
「……仕方ないだろう、こういうのは苦手なんだ」

「諸君、この一年は最高だった。だからこそ私は最後にこの言葉で締めたいと思う!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「米!」

「待て! いいのか、それで!?」
「だってさ、もうお腹が空いてしょうがないの! さっきから米の香りが食欲をそそるの!」
「えーっと、まあシューさんらしい締めで良いじゃないですか」
「でも、普通はこれからの一年間も宜しくとか言う場面な気がするんだが」
「普通?」
「そうだったな、シューに普通という言葉を使う事が既に間違っていた。……それに、な」
「ふふっ、はい」
「じゃあ、火を消すねー」

ロウソクの火に向かって、優しく息を吐くシューは笑っていた。

――普通。
確かにそれが普通かも知れない。

けれど、シューは既に感じ取っていた。
何も言わなくとも、二人はもうその事を分かってくれている事を。
そして、これから始まる一年間もまた、きっと今までに負けないほどの素敵な一年になるという事を。

だからこそ、シューは何も言わずとも笑ってくれる二人が大好きで堪らないのだ。

「Happy birthday!」

こうして素直でシュールな彼女は、また一つ大人へと成長していく。
ただ、そこにある温かな空間だけは、彼女達がいくつになっても変わる事はないのだった。