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 六本木の朝は早い。鳩よりも烏を見る事のほうが多いし、空気は寒いというより冷たいので、肌に突き刺さるような痛みを覚えることもある。

 そんな朝。とある一件のホストクラブの前。
 彼はいつも通りの笑顔を見せ、女性を送り出していた。
「また今夜来るからね、ロミ夫。プレゼントすっごいの持ってくるから」
「本当? じゃあ、期待してるから」
「期待してて。あと、ピンドン用意しておきなさいよ?」
「二十本用意しておくよ」
「ふふっ、じゃあね」
 彼女は待たせてあるタクシーに乗り込むと、あっという間に去っていった。それが見えなくなるまで、路上にいた。そして見えなくなった時、彼はようやく笑顔を止めた。

 ロミ夫は、小さくため息をつく。無意識の舌打ち。何故か、自分の手が汚らわしいものに見えるのは、さっきまであの女社長の肩を抱いていたからだろうか。
 白いスーツのポケットから煙草の箱を取り出すと、一本くわえる。普段は客の為に使っているライターで火を点けた。
 客はさっきの女社長で最後だ。少し外にいても大丈夫だろう。煙を吐き出しながら、彼は携帯電話を見る。客たちに教えている番号ではない、本当の彼自身が入っているといってもよい、プライベートの携帯電話だ。
「……あ」
 メールが届いていた。数時間前──その時間に、彼女は仕事を終えたらしい。内容は、今日についてだった。

 今日──12月24日。クリスマス・イヴである。本来ならば愛しい彼女と過ごしたいが、しかし彼はこの店のみならず六本木界隈でNo.1の呼び声高いホストである。休む訳にはいかなかった。
 返信しようとして、指が止まる。一般人ならまだ眠っていてもおかしくない時間である。勤勉なサラリーマンか新聞配達に精を出す学生か、ロミ夫のような職業の人間しか、起きていないのではないか。
 とにかく、彼女は休んでいるだろう。深夜まで仕事をしていたのだ。身体を動かす職業の彼女は、毎日疲れている。彼女の眠りが深いことをロミ夫は知っていた。

 携帯電話を畳み、煙草をアスファルトと靴底ですりつぶす。先ほどよりも大きなため息をついたところで、ふと思う。
 以前出席した、ポップンパーティ。そこで知り合った天使の少女。少しやさぐれてはいたが、楽しみを忘れないサンタの少年。彼らは今日、自分に何か幸せを分け与えてくれるだろうか。
 そして、やはりパーティで知り合った、愛しい彼女。眩しい笑顔を思うと、元気が湧き出てくる。

 後で電話をしよう、と考えた。自分が眠りにつく辺りならば、彼女は起きているだろう。少し話をして、今夜も一緒にいれないことを詫びて。
 いつか一緒に旅行にでも行こうか。この季節、寒い日本を離れて、どこか暖かい──南国へ。ビーチで遊ぶのもいいだろう。彼女も忙しいが、きっとOKしてくれるだろう。
 そしていつか、彼女の頭にティアラを載せて、白いドレスを着せて、自分も今よりも更に白いスーツを着て、そして、指輪を──。

 ロミ夫は僅かな笑みを口元に浮かべて、店内に戻った。
 今夜のイベントは、とても派手なものになるだろう。しかし、きっと辛くはない。
 俺はプロだ。最高のクリスマスにしてやろうじゃないか──。