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 彼は、震えていた。
 人を殺したのは無論生まれて初めてのことであり、それ以前に自分が誰かを殺すだなんて考えたこともなかった。しかし、彼は人を殺してしまったのである。

 彼女と出会ったのはたった数時間前。それも、路上でのナンパであった。彼女から声を掛けてきたのは所謂援助交際目当てであり、とどのつまりは金目的であった。
 彼女は非常に美人で会話も上手く、彼はすっかり彼女にのせられていた。
 何を考えたか、彼は自宅に彼女を連れてきた。そして一緒に酒を飲み、身体を重ねようとしていたのだ。
 その後、彼女と口論になったところまでは覚えていた。それも、酔っていたのが原因だろうか、本当につまらない内容が発端だった。
 気が付けば、彼女の首にはくっきりとした痕があり、そしてそれは自分の指の痕であった。

 彼は、自宅の裏の林に彼女の遺体を運び、埋めた。埋めた場所を落ち葉で隠し、そして逃げるように部屋に戻った。
 そして、今、彼は震えていた。

 埋めるところを近所の人に見られていないだろうか。彼女の両親は。ナンパされた場所は。彼女と歩いていたところを目撃されていないか。
 突然のサイレンの音に身体を反応させる。それは消防のサイレンなのだが、彼を追い詰めるのには十分だった。
 恐怖心、不安感、罪悪感。様々な感情が彼を支配していく。

 彼が涙を流し出したとき、部屋のチャイムが鳴った。
 続いて、か細い声。
「ねぇ、開けて。開けてよ」彼女の声。
 部屋のドアが叩かれる。小さなノックがだんだん激しくなっていく。
「開けてよ。私と寝たいんでしょ?」
 彼は動けない。
「ねぇ、私をあんなにして、逃げようって考えてるの?」

 唐突な無音。

 そして、耳元で。

「それはないんじゃない?」

 彼は叫ぶことすらできなかった。

 数日後。とあるアパートで男性の変死体が発見された。
 自分の首を、痕が残るまで強く締め上げた状態で発見され、自殺とみられるが、死に方が不自然だった為、他殺の可能性もある。
 なにより男性の遺体には土や泥が大量に付着しており、大きく開かれた口にも、落ち葉が詰め込まれていた。
 死亡したと見られる日の夜に女性と歩いてたのを目撃されているが、その女性の行方は不明。
 なお、自宅アパートの裏の林に不自然な穴が掘られており、何らかの関連があるものとして、警察は捜査を進めている。