※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 ここは、少し現代で、それでいて少しファンタジックな世界。
 その中のとある国の、とある街。そこで起こった、風変わりな怪盗団と、それを追う警察と、そしてそれらに係わる人々の、ちょっとおバカでちょっとマジメな物語。

   F.L.O.W.E.R.S. -Mission.00/Prelude-

 街中を猛スピードで走る車が二台。明らかにスピード違反だが、確実に後方の車は罪には問われない。なぜならそれは警察車両、すなわちパトカーであり、前方を走る車を追っていたのだから。
「いい加減に観念しなさいよーっ!!」
 パトカーの窓から身を乗り出して叫ぶ女がいる。名前はアリシア。王国立警察の警部である。拡声器を使わずに張り上げた声は、しっかりと前方の車に乗る連中の耳に届いたようで、お返しとばかりに身を乗り出した女がいた。
「そっちこそ、いい加減に諦めたらどうなのーっ?」
 ゴーグルタイプのサングラスをした女はアリシアに向かって手を振りながら軽口をたたく。仲間からローズと呼ばれる彼女は、明らかにこの状況を面白がっていた。
 アリシアはローズの言葉を受け、頭に血がぐんと上るのを感じた。シートに乱暴に座りなおし、運転している部下に怒鳴り声を浴びせた。
「誰が諦めるもんですか! イヴィザ、もっと飛ばして!!」
「は、はいっ!!」
 アリシアの部下であり警察学校での後輩でもあるイヴィザは返事をしたが、そう言っても踏み込んだアクセルがスピードを劇的に増幅させるはずもなく、逆に前方を走るジープはスピードが上がり、じわじわと引き離されていく。
 ギスギスした空気のパトカーに対して、ジープの中は余裕の雰囲気であった。
 乗っているのは四人の女性。後部座席でパトカーを面白そうに眺めているのは先程のローズ。黙々と運転を続ける大柄な女はダンデライオン。ローズの隣でうっとりとした表情で奪ったばかりの宝石を見つめているのはツバキ。そして、助手席でボブカットの髪をかき上げて的確な指示を出す女──、一見するとまとまりのないメンバーを統率しているリーダー、それがこのリリィであった。
「リオ」
「はい」
「道具屋通りを左。川飛んで」
 簡単な仕事を頼むかのように言ったリリィに、ローズが言う。
「ちょっとリリィ、子供にお使い頼んでるんじゃないのよ」
「あら、リオなら買ってきてくれるわよ。向こう岸の通りに美味しいクレープ売ってる店があるのよ」
 ツバキが宝石をケースにしまい、ローズにしなだれかかる。鼻にかかるような甘ったるい声でそう言うと、ミラー越しにリオに微笑みかけた。
「ね、リオ?」
「……私は甘いのが苦手だから、クレープは三つでいいかな?」
 ダンデライオン──リオという愛称を持つ運転手は、微笑みを浮かべてハンドルをきった。

 ジープが派手に音を上げて道具屋通りを左に曲がる。アリシアは前方を見ながら叫んだ。
「イヴィザ! 左に曲がったわよ!!」
「はいっ!!」
 尊敬する先輩の期待を受けて、イヴィザはハンドルをきった。すると、直線の向こうに広がる、街を南北に両断している運河に向かって更にスピードを上げるジープが見えた。
「あいつら、飛ぶ気!?」
「せせせせせ先輩、どどどどどどどどうしましょう!?」
「と、飛べる訳ないでしょ!! ブレーキ、ブレーキ!!」
 パトカーが急ブレーキをかけて運河の手前で停まる。大きく身体を揺さぶられた二人は軽いめまいを起こしながら、ジープの行方を見た。
 ジープは、運河を超えようとしていた。運河通りの道路の端に傾斜があったのを利用して、彼女らは空を飛んだ。そして見事運河を飛び越え、そのまま北側の町並みへ消えていく。
「先輩……、あの人たち……飛びましたね……」
 イヴィザは呆然とした感じで呟く。すると、アリシアは不気味な笑いを漏らしだす。
「ふっふっふ、ふふふふふふふふふふふふ!!!!」
「せ、先輩?」
「面白い! 面白いじゃないの、FLOWERS!! 絶対に捕まえてやるわ!!」
 ──「FLOWERS」。それが、彼女たちの組織名だった。

「あっはっはー! 宝石ゲッチュー!!」
 とても作戦参謀とは思えない能天気な声でローズは笑った。
 場所はFLOWERSのアジト。詳しくは明かせないが、限りなく常人は気づかない場所にある。
「今回もローズの作戦と、リリィの変装が役にたったわね」
 自慢の胸を強調するように腕を組み、ツバキは艶かしい仕草で長い脚を組み替えた。「お色気担当」とは名前だけではないようである。
 ダンデライオンは美味しそうに紅茶を飲んでいる。パワー担当で、そして捕縛術のプロでもある彼女は、その女性としては大柄で凛々しい顔つきとは裏腹に、「リオ」という可愛らしい愛称を持っていた。
「さて、その宝石はいつものようにピスケスに任せるとして、と」
 ツバキの手の中にある時価数百万ギアの宝石を一瞥してから、ローズはシャワーを浴びたばかりのリーダーに問いかける。
「次はどうするの? しばらく南国でバカンスでも?」
 リリィはソファに座り、ローズに微笑みかける。
「バカンスはもうちょっとお預け。次はパーティでも楽しもうかな、って考えてる」
「あら、パーティなんて楽しみだわ」
 ツバキは宝石をケースにしまうと、隣に座るリオの肩に頭を預けた。リオはちらりといい香りのする魔性の女を見て、少し頬を赤らめてから視線をリリィに向けて言った。
「女王の誕生日は二ヶ月も先だよ、リリィ」
「あら、あの悪徳代議士の就任五周年パーティなら二週間後じゃないの」
「ふん、パーカー代議士かぁ」
 ローズはソファから愛用のパソコンが置いてあるデスクに移動した。
「あの代議士センセイほど黒い霧に包まれてる人はいないよ」
「だからこそ、私たちが浄化する必要がある」
「汚いお金は、キレイにしなくちゃね」
「そういうこと。ローズ、いい作戦期待してるわよ」
「美味しいコーヒーと引き換えでどう?」
「困ったわ。ローズより美味しいコーヒーなんて、私には淹れられないわ」
 おどけてリリィが言うと、ローズは声を出して笑う。
「じゃあ新しい端末で手を打とう」
「OK。まずはそのお金を稼がなくちゃね」
 二人は笑い合う。リリィはソファに軽く横になり、ローズは早速キーボードを叩き始めた。
 少しの間会話はなく、ラジオから流れる静かなジャズが部屋を満たした頃、ツバキはリオに聞いた。
「ねぇリオ」
「うん?」
「あのメイドさん、どこにしまったの?」
 リオはツバキの髪を軽く撫でながら答える。
「階段の下に物置があってね。そこに」

 数時間前。宝石を奪う為にある屋敷に侵入していたリリィとリオの二人は、リリィと背格好が似ているメイドを一人見繕い、衣類と人格を失敬しようと試みていた。
「ほら、おとなしくしなさいって……」
「んんっ、んぅーっ!!」
 リリィは耳を塞ぐジェスチャをしながら、中々元気なメイドを見て苦笑する。彼女の両手はリオによって縛られている最中だった。リリィはメイドの衣類を身につけ、ウィッグを彼女に似た髪形に調整している。
 後ろ手に縛り終え、続いて胸を上下から挟むように縄を掛けていく。暴れる彼女を上手に利用しながら、リオは手際よく縛っていく。
 口にはタオルを押し込まれているので、メイドは呻き声を上げることしかできなかったが、その声は意外と大きい。これにはリオやリリィも閉口していた。しかし自分の身体が縛られていくのを実感していくと、彼女の元気も削がれていったのか、最終的には目に涙を浮かべて静かになっていた。
「大丈夫、少しの間だけ我慢して。手首の縄は緩めてあるから、上手くやればすぐに外れるわ」
「……ん、んんっ……」
「ごめんなさいね。いい機会だから、この屋敷から離れるといいわ。ここのご主人、悪い事いっぱいしてるから」
 リリィは下着姿で縛られてしまったメイドの彼女の涙に気づき、指先でそっと拭う。
「最初の元気はどこへ消えたの? 私をもう一度憎んで、睨んでちょうだい。そうすれば、縄なんかあっという間に解けるわ」
「んぅ……っ」
 彼女は少しだが、身体を動かしはじめる。それを見て、リオとリリィは彼女に背を向けた。
「さよなら、可愛いメイドさん」

「今頃は、きっと保護されているんじゃないかな。彼女、元気があったから」
 リオは紅茶のカップを両手で包むようにしている。
「リオもリリィも、優しいんだから」
「印象を少しでも良くしておかないとね。それに、あれがきっかけでトラウマになられても困るし」
 リリィがそう言って身体を起こすのを見て、今度はリリィに抱きつく。
「痛くするのが嫌いなのよね、リリィもリオも」
「……そうだよ」
「ふふっ、だから好きなのよ、みんな」
 ツバキは豊かな胸をリリィに押し当てて、一通り満足したのか、鼻歌交じりにシャワーを浴びに行った。
「……ふぅ」
 リリィは小さくため息をついて、リオを見た。そして、くすりと笑う。
「何その笑い~。私も混ぜてよ」
 ローズがデスクから声を上げる。二人は笑いながら立ち上がり、デスクに近寄った。

 ジャズが流れる中、彼女たちは楽しそうに、次の作戦を練っていく。
 悪事に手を染めて、欲にかられた連中だけを狙った泥棒家業。
 四輪の華はいつも美しく咲き誇りながら、裏の世界を生きていた。

 二週間後のパーティに出席するべく、彼女たちは最高のショウの演出を企画する──。