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 不貞寝してもいられない。
 真里は思い切って起き上がった。その勢いで机が揺れ、床にガシャッと音を立てて落ちた物があった。
 それは分解された携帯電話であり、そして既に爆発の機能が失われた爆弾であった。
 それを見下ろして、真里はふふん、と得意げに笑った。
「よし、まずお腹が空いたぞ」
 冷蔵庫に向かい、中身を物色していると、見覚えのない食べ物があるのに気づいた。
「……こんなの買ったっけ? ハムサンド……」
 透明なプラスチックの容器に、ハムサンドがひとつ。容器の表面に貼られたシールには「ベーカリー清水」とある。
「……聞いたことないなぁ……ベーカリーしみず……」
 よく見るとその下に「京都府○○町」とある。
「……『しみず』じゃなく『きよみず』か!」
 脳内のイメージは、清水の舞台から思いっきり遠くにこのハムサンドを投げている画である。
 頭の中で何かがひらめいた。これはきっと普通のハムサンドではないに違いない。なぜならここは東京だからだ。
 そして案の定、耳を近づけると、カチ、カチ、と音がしているのであった。
 携帯電話の残骸をゴミ箱に捨てて、真里はカーペットにどっかりとあぐらをかいた。机の上にはハムサンド。右手にはドライバー。左手にはルーペ。どうみてもこれは朝食の格好ではない。
 まず、持ち上げて裏側を確認するが、プラスチックのせいでうまく見えない。
「……分解しなきゃだめかぁ……」
 先ほどは気づかなかったが、蓋の隅にネジがある。ホチキスではない。
 ため息を一度。二度。三度。もうやる気はない。しかし、やらなければ爆発してしまう。リアルボンバーマンだけはごめんである。
「うし!」
 気合を入れて、ゆっくりとネジを回し始めた。慎重に、慎重に……。
 二個目のネジを外すと同時に、パコッと音を立てて、蓋が開いた。単にプラスチックの容器が開いただけだが、緊張感は普段の比ではない。中に入っているのはハムサンドの形をした爆弾なのだから。
 慎重に行きたいところだが、しかし真里もまた焦っていた。
 理由のひとつは、爆弾のタイムリミット。そしてもうひとつは、異常なまでの空腹感である。
「こいつ解除したら、貪り食ってやる!!」
 一声吠えて、真里はドライバーを握りなおした。これからが本番である。
 ハムサンドの裏側には、携帯電話の時と同じく、メッセージがあった。ルーペで確認する。

『美味しそうなハムサンド。ベーカリー清水のご自慢の一品です。是非ともレタスと一緒にハムを食べていただきたい』

「……これはヒントなの? なんなの?」
 余計に空腹感が増した気がした。すでに真里は食欲の権化である。口の中に唾液を一杯に溜め、いつ爆弾と承知した上で目の前のハムサンドに喰らいつくかもわからない。
 腹の虫をなんとかなだめて、パンの三角にあるネジを緩めていく。回るたびにパンくずが出てくる。少し力を入れて引っ張れば取れるのに気づいたのは、三本目を外してからだった。材質は本物のパンだった。
 取りあえずこのパンは用済みとして、頬張りながら作業を続ける。

 レタスである。
 本物のレタスである。
 そしてそれに挟まれているのはハムである。

「これどうしろってのよぉ!!!!」
 目の前にあるのはレタスである。
 完全なるレタス。そしてハム。
 間に塗られた絶妙な量のマヨネーズ。反対側の微量のマスタード。
 ジューシィなハム。みずみずしいレタス。お腹空いた。お腹空いた。
 爆弾には見えない。パンはとうの昔に飲み込んだ。
 ハム。レタス。マヨ。マスタード。お腹空いた。真里のお腹は空っぽです。
 美味しそうなハム。きっと食べたら美味しいんだろうな。だって美味しそうなんだもん。
 ハム。ピンクなハム。グリーンレタスとあとなんかマヨネーズって感じのマヨネーズ。
 ハムレタスマヨマスタード。頭の中はその文字が駆け巡り、お腹の中の小さな真里たちは暴動を起こすどころか早くそれをくださいお願いしますと懇願している。

 我慢、できない。

 真里は目の前のモノにかぶりついた。

 ……無言の一分間。
 真里は幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「ごちそうさまでしたぁ……」
 小さな真里たちは食後のおねむタイムです。そして大きな真里は爆弾の存在を思い出しました。
「……ちょ、爆弾! どれだったの!? 食べちゃったの!?」
 カッチ、カッチ、カッチ、カッチ……。
 時計の音は続いている。
 それは、プラスチックのケースからだった。
「嘘だ」
 本当でした。
 そして、貼られていたシールの裏側、つまり蓋の裏側に、素敵な贈り物がありました。
 目の前にあるのは赤いコードと青いコード。どちらもなんか三十分前に見たものに似ています。
「どっちだ……どっちだよぅ……」
 満腹感の直後に押し寄せた絶望感。もう真里の精神はズタボロです。

 しかしその時、さらにひらめくものがありました。
 清水寺。そこにある、色にまつわるもの──。
「……せいりゅうえ……青龍会!!!!」

 清水寺のイベント、「青龍会」。京都の東を司る青龍の存在を切るなんて──。

「できないっ!!!!!!!」
 思いっきり、力いっぱい、真里の手にしたニッパーは赤のコードを切断しました。
 時計の音は止まり、再び真里は爆弾の解除に成功したのである。
「うおぉ……感謝するよ、裕子……」
 京都にまつわる知り合いの代表、それが中澤裕子である。真里の頭の中では、笑顔の裕子がベッドに寝そべり、美女をはべらせて「やぁぐちぃ~♪」と微笑んでいる。なぜだ。

 ともあれ、真里は二度の危機を脱し、そして今再び危機に陥ろうとしているのであった──。