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「これは遊び? それとも人生のすべて?
 ひとかけらのパンかしら? それとも人類の歴史のすべて?」

  ──森博嗣「有限と微小のパン」より

<2日目/細川可南子/???>

 ここはどこだろう。気がつけば、こんな場所に。
 聖さまの部屋?
 それとも、まさか犯人の部屋?
 手足がしびれている。縛られていたから、血が止まってしまったのか。
 喋れない。口に、布が──。

 ──ドアが、開いた。
 ああ、あの人は、私を──。

<2日目/福沢祐巳/広間>

 雨が、降る。
 ああ、とても嫌な雨。
 いつかの、お姉さまとの出来事を思い出す。

 窓の外を見ることを拒否した私達は、カーテンを完全に閉め切っていた。
 頭上の部屋で起きた、連続事件。
 たった一日で、江利子さまが、蓉子さまが、由乃さんが……。
 聖さまと可南子ちゃんが、二人で聖さまの部屋に閉じこもった。
 令さまは全てを呪い、由乃さんが眠る資料室に閉じこもった。
 そして、瞳子ちゃんが姿を消した。

 全てが嫌になっていた。

 あの令さまの一件から、どれくらい経ったのだろう。
 部屋の真ん中に椅子を動かして、私とお姉さまはそこに座っていた。志摩子さんと乃梨子ちゃんも同じように座っている。二人も疲れているようで、うつむいたままだ。
 沈黙は続く。聞こえる音は、自分の呼吸音と、激しい雨の音。
「──祐巳」
 お姉さまが口を開いた。
「は、はい」
「……瞳子ちゃんを、探してくるわ」
 ゆっくりと腰を上げるお姉さまの腕を、私は慌ててつかんだ。
「駄目です、お姉さま!」
 咄嗟に言ったが、何が駄目なのか自分でもわかっていない。
 お姉さまを一人にするのが? それとも、自分がお姉さまと離れるのが? 志摩子さんたちを置いていくのが?

 ──瞳子ちゃんが、もし犯人だとしたら?

「……祐巳さん、どうしたの?」
「祐巳さま……」
 志摩子さんと乃梨子ちゃんがこちらを見ているのに気づく。お姉さまは、少し眉をひそめていた。
「あ、す、すみません……」
 私は手を離すと、お姉さまが頭を撫でてくれた。
「大丈夫よ。瞳子ちゃんは、私の大事な……」
 そこまで言うと、お姉さまは目を閉じた。
「そして、祐巳にも、乃梨子ちゃんにも、志摩子にも……大事な人なんですもの」

<2日目/佐藤聖/???>

 私は、必死に縛られた手足をもがかせていた。
 早く、ここから逃げなければ。
 早く、犯人をみんなに伝えなければ。
 祐巳ちゃんを、志摩子を──可南子ちゃんを、守らなければ。
 床の上を転がる。縄は緩む気配を見せない。

 いや、少しだけれど緩みだした。いける、これなら……!

<2日目/支倉令/広間>

「だから、犯人なはずはない、って言うの?」
 私はドアを開け放つと同時に言った。祥子や志摩子が、ハッとした表情で私を見る。
「令……」
 祥子はよほど驚いたらしい。他の三人も、私をじっと見ている。
 それもそうか。私はまだ、右手に日本刀を持っているのだ。
「みんな、聞いて。……可南子ちゃんが、殺されたわ」
「そんな!」
 勢いよく立ち上がったのは乃梨子ちゃん。志摩子は口を押さえている。
 祐巳ちゃんも、そして祥子も、口をパクパクと動かしているだけ。
「……嘘だ! 可南子さんが!」
 乃梨子ちゃんは私が日本刀を持っているのも忘れて、こちら目掛けて走ってくる。私は避けない。
「あんたが! あんたが殺したに決まってる!!」
 私を思い切り突き飛ばすと、階段に向かって走っていった。
 床に座り込んだ私。カラン、と音を立てて、刀が床に落ちる。
「……令、本当なの?」
 祥子の声に、私は頷くことしかできなかった。

<2日目/二条乃梨子/三階廊下>

 嘘だ。嘘だ。可南子さんが殺されるなんて。
 だって、聖さまと一緒に部屋に閉じこもったじゃないか。
 聖さまはどうなったんだ。どうしてあの人だけ。
 聖さまが犯人か。それとも、令さまがあの刀で斬りつけたか。

 ──まさか、瞳子が?

 そんなはずは無い。
 でも、もう、ここにいるのは──。

 三階に上がると、私はあのバリケードに飛びついた。しかし、聖さまの部屋のドアを塞いでいたバリケードは、どかされていた。ドアが開いている。人が一人、通れるくらいのスペースが出来ている。
 令さまがどかしたに違いない。外からこれを動かせるのは、あの人しかいない。

 私は、そのスペースに身体を入れ、部屋を覗いた。
 聖さまはいなかった。可南子さんもいない。

 まさか、と思う。
 まさか、令さまは「可南子さんが殺された」と嘘をついたのではないだろうか。
 そうすれば、きっと私か祐巳さまが動くと思ったのだ。そうすれば、残るのは祥子さまと……。
「志摩子さん!!」
 志摩子さんが危ない。あの刀で、令さまは──!!

 私がそう叫んだ瞬間、嫌な臭いが鼻に届いた。
 もう、嫌だ。この、血の臭いを嗅ぐのは!
 しかし、私は部屋に足を踏み入れていた。
 クロゼットが開いているのが見えた。そして、そこから、すらりとした足が見えている。

 可南子さんは、そこにいた。
 不自然なポーズだ、と一瞬思ったが、それは、首が胴体と離れているせいだ、と気づいた。
「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!!」
 私は叫んだ。
 その場に座り込む。頭を抱える。
「もう嫌だ、嫌だ!」
 もう、こんなのは沢山だ。いくら日常から離れた場所だからとはいえ、悪夢を見るなんて。
 そうだ、早く志摩子さんを連れて逃げよう。嵐だからって構うものか。この館にいるよりはマシだ。
 この天候に、小笠原の人が様子を見に来てくれるかも知れないじゃないか。
 あと何時間も、ここで迎えを待つなんて!

 ……ズシン、と重い衝撃が。
 痛みは感じない。視界がぼやける。
 ゆっくりと振り向く。
 右腕が、無いのに気づいた。
「……は、はは、あははは、はははっ」
 笑いがこみあげてきた。そして、もう一撃。

 倒れる私の視界に見えた人物が誰なのかわかった瞬間、私は「ちくしょう」と呟いた。

 大振りな斧の三撃目が、私の意識を切断した。

<2日目/???/聖の部屋>

 何回か痙攣を繰り返して、二条乃梨子は動くことを止めた。
 彼女は、どうやら死の間際に、私がどうやってこのゲームを行ってきたかを悟ったらしい。
 でも、遅かった。

 誰も、この空間からは逃れられない。
 誰も、このゲームから逃れられない。

 このゲームを終わらせる方法はただ一つ。

 誰か、私を殺して。