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<2日目/二条乃梨子/三階廊下>

 ……ん?
 何が起こってるんだろう……。よくわからない。
 悲鳴が聞こえて、それで、志摩子さんと一緒にここまで来て……。

「──由乃を殺したのは誰──」

 ……そうだ、由乃さまが、血まみれで、いや、その前に、江利子さまが。

「乃梨子、逃げて!」

 え、どうしたの、志摩子さん──。

「由乃を殺したのは誰!!」
 突然、私の身体に衝撃が加わった。そのまま壁に叩きつけられ、胸元をぐいと引き上げられた。そこでようやく、私は今の状態を理解した。
 目の前には、怒りを全身からあふれ出させている令さま。ギリギリと歯を食いしばり、今にもこの場にいる全員を殺してしまいそうだ。着ている服は血で汚れている。由乃さまを抱きしめたからだった。
「止めろ、令!」
「令、落ち着いてちょうだい!」
 聖さまと祥子さまが令さまを私から引き剥がす。
 私はどうやら息をするのを忘れていたらしく、床に尻餅をついてからようやくその場に溜まった焦げた臭いと血の臭いのする空気を肺に取り入れだす。
「乃梨子、大丈夫!?」
 志摩子さんが私のところに駆け寄り、心配そうに覗き込む。
「大丈夫、大丈夫だよ」
 私はそれを言うのが精一杯で、でも、視線は目の前の令さまを捉えていた。凛々しい姿でも、優しい姿でもない。全てを憎み、全てを怨み、全てに絶望した姿だ。
「放せ! 祥子、放せっ!!」
「令、駄目! 今貴方を放したら、私きっと後悔する!!」
 しかし、令さまは。
「放せぇっ!!」
「きゃあっ!」
「うわっ!!」
 力任せに祥子さまと聖さまを振りほどき、一旦資料室に消えたかと思うと、大降りな日本刀を持ち出してきた。たっぷりと血が付着しているところを見ると、由乃さまはそれで殺害されたのだろうか。
 とにかく、私たちは令さまから離れるしかなかった。志摩子さんをかばう様に、祥子さまは祐巳さまの手を握り、そして聖さまは──可南子さんの肩を抱き、令さまから距離をおく。
 剣道の達人である令さまが真剣を手にしているのだ。それに、今の状況……。間合いに入れば、斬りかかってくる可能性だってある。
「乃梨子……」
 志摩子さんの消え入るような声が耳に入った。
「元はと言えばねぇ、祥子ぉ。あんたが私たちをこんなところに連れてきたからよぉ」
「な、何を言うのよ、令!」
「あんたがこんな島に私たちを誘わなかったらぁ、由乃は死んだりしてなかったのよぉ!!」
 まずい。令さまが日本刀を構えた。完全に目が据わっている。
「令……そんな、私は、ただ、みんなに楽しんでもらおうと……」
 祥子さまが涙を流し、そのままその場に泣き崩れた。祐巳さまがキッと令さまを睨みつける。まるで「祥子さまを斬るなら私を斬ってからにしろ」と言わんばかりの眼差しだ。私も、無意識に志摩子さんをかばうように立っていた。
「祥子ぉ……、祥子が悪くないのはわかってるわよぉ……。でもぉ! 何かに当たらなきゃどうしようもないのよぉ!!」
 令さまが叫んだ。それと同時に雷が激しく鳴り響いた。ずいぶんと近くに落ちたらしい。
「あっ、令!」
 令さまが資料室に入り、中から鍵を閉めてしまった。
「近寄らないで! 私は、ここから一歩も出ない!!」
「令、駄目だ! 私たちと一緒にいよう!!」
 聖さまが説得を試みる。しかし、令さまはより大きな声を出した。
「私は……私は! みんなを信じられない!!」
「……令……。どうして、どうして!」
「……聖さまは、お姉さまの部屋で火の手が上がったことを気がつかなかったんですか!? どうして、どうして可南子ちゃんが聖さまの部屋にいたんですか!? 瞳子ちゃんは何処へ行ったんです!! どうして……どうして、由乃が、閉じこもったはずのこの部屋で殺されたんですか!! 私には、もう、訳がわからない!!」
「令、令!」
 聖さまは何度も呼びかけたが、二度と令さまは返事をしてくれなかった。
 私は無意識に──聖さまと可南子さんを見ていた。

<2日目/細川可南子/三階廊下>

 ……。

 ……聖さまは、私に優しくしてくれた。

 あの時だけは、祐巳さまを忘れていた。

 あの時だけは、この惨劇を忘れることができた。

 聖さまの部屋のベッドの上で、私と聖さまは──。

「……可南子ちゃん。どうやら私は、みんなに疑われているみたいだ」
 聖さまが呟いた。
「無理もないか。江利子が死んで、蓉子も死んで、由乃ちゃんまで──」
 うつむき、しかし口元は──笑っている?
「江利子の時は、私に動機があるって……可南子ちゃんが言ったんだよね」
「え、あっ……はい……」
 聖さまが私の首筋に指を這わせた。
「確かに私は、階段で江利子に突き落とされたよ。そこには蓉子がいて、幸いにも階段から転げ落ちはしなかったんだけど──。その蓉子が死んだグラスに毒を仕込むのは、誰にでもできた。当然、この私にもね。そして、江利子を焼いて、由乃ちゃんを──まぁ、密室に近い状態だったあの部屋でどうやって殺したのかはアレなんだけど──殺せる可能性があったのも、私だけだね」
「そんな、それだったら、私にも」
 私がそう言うと、聖さまはそっと唇を重ねてきた。少し触れ合うだけのキスだったけど、私が言葉を失うには十分だった。
「可南子ちゃんはやっていないよ。私が保証してあげる」
 聖さまはそう言って、みんなに向き直った。
「さぁ、筆頭容疑者の私をどうしようか、乃梨子ちゃん」
「え、えっ!?」
 慌てる乃梨子さん。志摩子さまも目を大きく見開いている。
「なんだか、一番私を信用してなさそうなのは乃梨子ちゃんだったからね。じっと見てたし」
「そ、そんなつもりじゃ」
「まぁ、私はおとなしくどこかに閉じこもりますよ。なんなら、ドアが動かないように何か物を置いてもいい。──だから、可南子ちゃんだけは疑わないでくれないかな。私がここまでするんだから」
 聖さまは部屋に入ろうとする。その手を私は握り、
「だったら、私も一緒に入ります!」
 と言った。
「私だって、聖さまが犯人じゃないことを証明できますから」