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「……江利子。ちょっとそこに座りなさい」
「なに? どうしたのよ、そんなに眉間にしわ寄せちゃって」
 こめかみの辺りに人差し指を押し当て、苦虫を噛み潰したような顔をしている蓉子と、逆に普段以上の笑顔を浮かべる江利子。聖は頬を赤らめてそっぽを向いているし、他の面々、例えば祐巳ちゃんなんかは顔も上げれずに深くうつむいたままだ。
「いいかしら、江利子」
「だからなに?」

「……服を着なさい」

 きょとんとした顔の江利子。
 顔を真っ赤にしている江利子以外の面々。

「……えー?」
「えーじゃないの! なんだって今日に限っては、は、は、裸なのよっ!!」
 蓉子は両手で顔を隠して叫ぶ。
 そう。今日の江利子は全裸なのだ。
「だって、朝の占いで、今日のラッキーファッションは『産まれたままの姿』だったのよ?」
「だからって実行する人がいるもんですか!!」
「そうなのよ。がっかり」
「他にもいると思ってたのか……」
 聖が呆れたような声を上げる。
「い、いいから何か着なさい。もう気が済んだでしょう?」
「むー、この広大なリリアンの中に一人くらいはいると思ったんだけども」
「はいはい、その一人は江利子で決まり。いいからとっとと着替えなさい」
 聖が江利子を促すが、江利子は至極当然という顔をして。
「着替えがないのよ」
「はい?」
「ほら、家から裸だったから、何も」

「……はい、体操着。今はこれでも着てなさい」
 聖は江利子の手に体操着一式を握らせる。
 息を切らしている令。さっきの江利子の発言の直後、猛ダッシュで自分の体操着を取りに教室まで行ったようだ。床に倒れてヒューヒューと喉を鳴らす令に、由乃はコップに水を汲んで差し出している。
 もそもそと体操着を着る江利子。
「それにしても、よく誰にも突っ込まれなかったなぁ」
「みんな私を見てないようだったし。気づいてなかったんじゃない?」
「……いや、それは確実に気づいてたよ。気づいた上での措置だ」
 聖が令を立たせながら、江利子と掛け合いをする。
「わお」
「今度はなに」
「いや、ノーパンでジャージなんてはいたことないから新鮮で」
「黙って着ろ」
「むー、ねぇ聖ー」
「……今度はなんなの」
「胸がきつい」
「だあああらっしゃああああああああ!!!!」
 ついにキレた聖が、思いっきり江利子のデコをひっぱたく。スパーンといい音が響いた。

 とりあえず令の体操着を着た江利子は、椅子にちょこんと座り、相変わらずのにこにこ笑顔で書類を片付けている。
「体操着のまま帰るなんて初めてだわ~」
 令たちの赤面は未だ戻らず、パッツンパッツンのバディを強調されているデコ薔薇さまをちらちらと見ては手元の書類に視線を戻す。
「……痴漢されたらどーしよー」
 ガタンッ、と派手な音を立てて令が立ち上がった。椅子が思いっきり床に倒れる。
「わ、わ、わ、私が一緒に帰ります! お姉さまをガードします!! むしろ私が触ります!!!」
「……令ちゃん、本音出てる」
「あら~、持つべきものは妹だわ。でも大丈夫よ、おとなしく迎えを呼ぶから」

 ──次の日。

「……江利子。ちょっとそこに座りなさい」
「なに? どうしたのよ、今日は裸じゃないわよ?」
 こめかみの辺りに人差し指を押し当て、苦虫を噛み潰したような顔をしている蓉子と、昨日以上の笑顔を浮かべる江利子。聖は肩を小刻みに震わせてそっぽを向いているし、他の面々、例えば由乃ちゃんなんかは口を押さえてはいるが時折噴き出している。
「いいかしら、江利子」
「だからなに?」

「……服を脱ぎなさい」

 きょとんとした顔の江利子。
 ついに志摩子と祐巳は「ぶふうっ」と噴き出してしまった。

「……えー?」
「えーじゃないの! なんだって今日はそんな服装なのよっ!!」
 蓉子は両手で顔を隠して叫ぶ。
 そう。今日の江利子は食い倒れ人形の衣装なのだ。
「だって、朝の占いで、今日のラッキーファッションは『大阪を象徴するメガネの彼』だったのよ?」
「そんなピンポイントで実行する人がいるもんですか!!」
「そうなのよ。今日もがっかり」
 ここで祥子も噴き出した。

 これからしばらく江利子の「朝の占い」騒動は続いたのであった。