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 ランプの灯りに、机上が照らされる。
 気付けに、と渡された赤ワインは未だ手付かずであり、空のグラスと仲良く並んでいる。
 松平瞳子は、正面の壁際に鎮座する白銀の鎧を見た。
 ──明日、私はあれを着て、戦場に赴くのだ。

 隣国と同盟を結んではいるが、今回の敵に立ち向かえるとは思えなかった。
 噂では、良くて雀の涙ほどの兵力、悪ければ援軍の見込みは無い。
 リリアンに生まれ、リリアンに仕え、リリアンの為に殉ずるのも、悪くは無い。
 現在の女王である小笠原祥子は、迫る敵国の軍勢に立ち向かうことを決めた。
 数では圧倒的にリリアン側が不利。そして、こちらは女性兵士の割合が高い。
 国内も、負のムードが漂っていた。戦場から遠ざかる者、リリアンから隣国に亡命する者……反応は様々だ。
「まだ若い小笠原の姫さまに、女王の椅子は荷が重いのでは」という言葉も聞こえる。それは当然、親戚筋である瞳子にも届いていた。
 しかし、祥子は自信に満ちた笑顔で答えた。
「リリアンの乙女が、負けるはずがないでしょう?」

 ノックの音で、瞳子は我に返った。
「瞳子さん」
 細川可南子の声だ。別の部隊の隊長だが、今作戦では一緒に動くのだ。
「どうぞ。開いていますわ」
 ドアが開く。可南子の右手には、白ワインが握られていた。
 可南子は、手付かずのままの赤ワインを見て、苦笑いを浮かべた。
「一緒に、と思って持ってきたけど」
「飲めませんわよねぇ」
 椅子に座り、可南子は呟いた。
「明日のこの時間、生きていれるのかしらね」
「生きて見せますわよ」
「あら、強気」
「私の指揮する魔法騎士が、敗れると思いまして?」
「どこから来るの、その自信……」
「なんとでもおっしゃいな」
「でも、ま、いいわ」
 可南子はそう言って立ち上がる。手には、瞳子が貰った赤ワインを持って。
「可南子さん、そのワインは」
「明日、生きて帰れたら、ワインを飲みましょう」
「……可南子さん」
「これは、その時までの人質」
「──ふふっ、わかりましたわ」

 可南子は部屋を後にした。
 机上には、可南子の白ワイン。
 リリアンの為に殉ずるのも悪くはないけれど、明日、ワインを飲むのも悪くない。
 瞳子は微笑みながら、ベッドに入った。