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 ある日起こった、一組の姉妹の悲劇。
 妹を愛していた姉と、姉を愛していた妹。
 妹はロザリオを返したが、時が経ち、再び姉妹に戻った。

 しかし、それが切欠で、一時的にではあるが、多数の姉妹が破局を迎えたという、リリアン史上に初の大事件となったのだ。

 黄薔薇革命と名づけられたその事件の次の日。
 纐纈みどりは、体育館の裏手に呼び出されていた。呼び出したのは、妹の水無瀬葉月である。
「お待たせしました、お姉さま」
 葉月の声。みどりは思わず、顔だけで振り返ってしまった。
「葉月」
「お姉さま」
「一体、どういうこと? 私をここに呼び出して……まさか、黄薔薇革命の真似事でもしようと言うんじゃないでしょうね」
 みどりは内心、気が気ではなかった。先週末の、些細な理由から起こってしまった口喧嘩を思い出してしまう。
 葉月は何も言わず、笑顔のままみどりの手を取った。みどりの手の中に、何かが入り込む。
「葉月?」
「さようなら、みどりさま」
「え? ちょ、ちょっと、葉月!?」
 ロザリオが、するりと手から落ちる。一瞬それに目を奪われてしまい、次に前を見たときは、すでに葉月の姿は無かった。
「う……そぉ……」
 みどりは葉月が走り去ったであろう方向をみたまま、呻くように言った。

 水無瀬葉月は、息を切らしていた。壁に手を付き、肩を上下させる。
 涙は出ない。後悔はしない。纐纈みどりは、あの瞬間をもってただの先輩になったのだ。
 涙は出ない。今目から流れているのは、きっと違うなにかだ。汗が目に入ったのだ。そう言い聞かせ、葉月はその場にしゃがみこんだ。
 泣いていない、と自分に言う。小声で「私は泣いてなんかない」と呟きながら、葉月は泣きじゃくった。

 窓の外から、泣き声が聞こえる。大泣きとまではいかないが、しかし一度聞いてしまっては見ぬ振りはできない。
 真野智美は窓から身を乗り出して、そこにうずくまる乙女を見た。
「ちょっとあなた、どうしたの?」
「ひっ」
 見た感じでは後輩だろう。可愛い顔は涙でぐしゃぐしゃ。目も真っ赤になっているし、見れば鼻水も出ている。
「とりあえず、これ使って」
 ハンカチを取り出し、目いっぱい手を伸ばす。思いのほか距離があったが、彼女が立ち上がって歩み寄ってくれたので、なんとかなった。
 しかし。
「あっ、わったぁ、やば、やばい!」
 重心がずれ、智美はバランスを失ったやじろべえのように、身体が傾きだした。

 ふと、廊下側を見ると、窓から落ちそうになっているお馬鹿を発見する。
「智美!」
 厨川英美子は慌てて立ち上がり、幼馴染を救出しようと教室を飛び出した。
 立ち上がった勢いで自分の机の上に置いてあった筆箱が床に落ちる。お気に入りの筆箱だったが、そんな事よりも目の前のお馬鹿だ。
「お、落ちる……っ!!」
「こんの、お馬鹿!!」
 脚をばたつかせる真野智美に飛びつく。

 カシャン、という音と共に、厨川英美子の筆箱が床に落ちた。当の英美子は教室を飛び出して行った。
 諏訪部翔子は「あらあら」と言いながら、床に散らばった文房具を片付けようと、一歩踏み出した。
 その瞬間、何かを踏んでしまった。
「あ、あらぁ~?」
 翔子の視界はぐるりと回る。派手に背中を床にぶつけてしまった。
「あらら……目がまわりますわぁ……」

「あ、あらぁ~?」
 のんびりした声。黒板消しで数学の数式を消していた鹿嶋千夏は、諏訪部翔子の独特な声を聞いて、振り向いた。
 瞬間。世界はスローになった。
 誰の物かは知らないが、使い古されて丸くなってしまった消しゴムが、目の前にある。
 それは、猛スピードで飛んでいるものだ。そしてそれは、恐らく消しゴムの先に見える光景が答えののようだ。
 翔子がゆっくりと倒れていく。彼女はこれを踏んだに違いない。そして、転んだ拍子に、宙を舞い──千夏は、消しゴムを避けれなかった。
 顔面にクリーンヒットしたおかげで、千夏は翔子とまるで鏡写しのようなポーズになってしまった。
 右足を前に出し、それは教卓を思いっきり蹴り上げる。
 花瓶が一回転して、床で砕け散った。綺麗な花と共に、多量の水が流れていく。

 両手に社会科の授業で使った資料を抱えて、舞阪姫子と佐伯あさみは廊下を歩いていた。
「ねぇ、なんか向こう、騒がしくない?」
「……窓から落ちそうになってる人がいますわよ」
「見えないわ」
「見なくてもいいですわよ、ぉ?」
「えぁ? あさみ? って、ちょっと!!」
 あさみは、足元の水で滑った。転びはしなかったが、バランスを崩してしまい、持っていた資料が姫子に襲い掛かる。
 姫子も思わず、資料を放してしまった。

 纐纈みどりは、とぼとぼと廊下を歩いていた。
 別に黄薔薇姉妹を責めるわけではないが、やっぱり何かに当たりたい気分でもある。
「……はぁ……」
 ため息をつき、角を曲がった瞬間。
「え?」
 意識を失う寸前に見た映像は、少しレトロな地球儀の太平洋の部分だった。

 鳥居江利子は、面白い事が起きている気配を感じていた。センサーが針を振り切る勢いで反応している。
 しかし彼女は、大きな口を開けていた。これから彼女は拷問に合うのだ。
折角面白い出来事に出会えるチャンスなのに……。
「はい、痛かったら言ってくださいねー」
「ひゃい」
 自分の妹と孫がきっかけだから、よしとすべきか。
 しかし江利子がそれを知ることはできない。

 親知らずの治療が始まった。