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 島津由乃は力説していた訳でもないのだが、何故か目の前に座っている猫の少女は、真面目な表情でしきりに「ふん、ふん」と言いながら顔を縦に動かしていた。
「料理も得意で、かっこよくて……令さまって、藍さまみたいです」
 由乃の話を聞いて、橙はそう言った。
 そして、由乃はこう返す。
「誰かが絡むと情けなくなるところまで、そっくり」


   ***


 [ スキマ様がみてる ~プリンセス天狐の贈り物~ 前編 ]


   ***

「……っくしょん!」
 クシャミは一度で終わると思ったのだが、その後たて続けに二度、合計三回でやっと終わった。いや、正確には、それをほぼ同時に二人が行ったので、合計にして六回のクシャミが家庭科室に響いたことになる。
「……うぅ、風邪はひいてないはずなのになぁ。クシャミ三回だから、物凄い悪い噂を言われてるってことか……」
 支倉令はそう呟くと、少し肩を落とした。噂をする相手は見当がついている。一人は、姉である鳥居江利子。もう一人は、従姉妹であり妹でもある島津由乃だ。
 江利子と比べると、由乃は昔から一緒にいることもあり、歯に衣着せぬという言葉がピッタリくるくらいに令のことを好き勝手に喋ることがある。今回も、福沢祐巳あたりにあること無いこと織り交ぜて話しているのだろう。
 そう考えていると、机を挟んで反対側の椅子に座っている八雲藍がフォローをしてくれた。
「いや、『一そしり、二笑い、三惚れ、四風邪』という言葉もあります。クシャミ三回、恋贈りってことで。令さん、愛されているんですよ」
 この発言は、自分に三回もクシャミをさせる相手が橙以外にありえない、という考えから来ていた。ちょうど橙の話をしていたこともあるが、今の藍には、相手が八雲紫の可能性は綺麗に吹き飛んでいた。
「なるほど。だったら、藍さんも愛されているってことですね」
「ふふ、そう思っていたほうが幸せじゃないですか」
「そうですね。ふふ」

 リリアン女学園を代表する、剣道の達人・支倉令。
 幻想郷を代表する、数学の魔術師・八雲藍。
 二人はお互い似たような境遇ということもあって、意気投合していた。

 第一に、戦闘能力が高い。令は剣道の試合では主将を務めることもある。藍は紫の式でありながら、橙という式を自らも使えるほどの能力の持ち主だ。
 第二に、料理など家事が得意。藍は式であるので、主人の身の回りの世話はもちろん、時には紫に代わって幻想郷を囲み護る結界の調査・点検も行っている。令は外見や強さと結びつかないほど、手先が器用である。編み物に料理、お菓子作り。恋愛小説などを読んで涙することだってある。要するに乙女なのだ。
 そして極めつけは、お互い『次女』であること。これが二人にとって一番の共通点だった。
 八雲紫は幻想郷を取りまとめる妖怪たちの長のようなもの。しかし基本的に昼間は寝ていて、仕事は藍任せ。冬には冬眠だってする。
 鳥居江利子は『黄薔薇さま』というリリアン高等部の頂点の一人であったが、その性格は非常に理解しにくい。令のことは『背が高くて凛々しいのに誰よりも乙女』という理由で妹にしたし、普段は何をやってもつまらなそうな顔をしているのに、一度トラブルが起きると水を得た魚どころか赤兔馬に乗った呂布のような勢いで首を突っ込んでくる。それも、とても嬉しそうに。
 橙は藍の式である。素直な性格で、藍の教えは絶対だと思っている。従順すぎる部分もあるが、その分、能力の上達や習得などは早い。藍が愛する化け猫の少女なのである。
 島津由乃は橙とは正反対に近い。ことあるごとに「令ちゃんのバカ!」と姉を姉と思っていないような発言をする。かつては病弱だったが、今ではすっかり暴走機関車。上級生にも平気で噛み付き、江利子とは対立関係であり、好敵手でもある。体力が無いのに剣道部に入り、とっさの嘘から妹をオーディションで選ぼうとする。そんな、猫のように自由な少女であった。
 そして、藍も令も、そんな『長女』と『三女』が大好きなのである。

 そんな二人が家庭科室にいる理由は、一つしかない。
 机の上に広げられた数冊の雑誌には、様々なスイーツの名前やレシピが踊っている。これを作り、愛する妹たちに振舞おうという考えなのだ。
「幻想郷には何でもありますが、何もない。ケーキはあまり食しませんし、実際紅魔館かそこらでしか見ませんね」
「食べることは多いですけど、いざ作るとなると和風のこういうお菓子は難しいですからね」
 ううむ、と二人は腕を組んで雑誌を見ていた。
 エプロンを着けるのは、まだ先になりそうだ。


   ***


「情けなくなんかないですよ! 藍さまはいつでもかっこいいです!」
 勢い良く立ち上がって橙はそう言ったが、頭に浮かんだのは凛々しい藍と共に、「ちぇえええええええええんv」と甘い声を上げながら橙を抱き締める藍だった。
「……情けなくは、ないですよ?」
 椅子に座り直して、自信なさげにそう言い直した。
 その姿を見て、由乃は「やっぱり同じか」と呟いた。
「いいのよ、隠さなくても。どうせ橙ちゃんには甘いんでしょ? 藍さまって」
「は、はい……。紫さまの湯飲みを割ったときも、かばってもらいましたし……」
「そういうもんよ、姉ってのは」
「そうなんでしょうか?」
「そうなんですよー」
 由乃はニコッと笑った。
 橙もつられて笑った。