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<ある日のダーマ神殿>

「……あのさぁ……」
 勇者であるユーニはこめかみを押さえながらつぶやいた。
 目の前にはずっと一緒に旅をしてきた仲間がいる。
「なんでしょう」
 ポプリはすました表情で聞き返す。
「……なんでそれに転職しちゃったワケ?」
「前の職業に、飽きたからです」
 網タイツ。ハイヒール。ハイレグのスーツ。そして、ウサギの耳。
「いえ、言うなれば、古巣に戻ったというところでしょうか」
 元遊び人にして前賢者、そして、現遊び人。
 そんなポプリに、ユーニは頭を抱えた。
「どうしました? 回復魔法でも唱えましょうか? あ、今の私には無理でしたね」
 冗談を言ったつもりだろうか。
 ユーニはかつてのポプリを思い出していた。

「あたし今日から賢者になりましたー!」
 ハイレグスーツを脱ぎ、賢者の正装をまとって登場したポプリだが、頭にはまだウサギの耳がついている。
「それ、外さないの?」
「えー? だって、これは私のトレードマークだしぃー」
 こんな調子だったが、徐々に賢者としての自覚が芽生えたのか、
「え、それ外しちゃうの?」
「はい。これをつけていては、戦闘に集中できません」
 そう言ってあの耳を捨てたのだ。

「……またアレに戻っちゃうのかぁ……」
「はい。ご心配なさらずに。すぐに戻しますよ」
「いや、そういう心配はしてないんだけど……」
 ポプリはクソ真面目な顔で遊び人の振る舞いを思い出すべく、怪しげな踊りを踊っている。確かにMPは減りそうだ。
 そんな時、背後から声がした。
「ユーニさ~ん。私も、転職が完了しましたぁ~」
 振り向けば、赤い鎧を着けたリズがいた。
 が。
「これ、重いです~……」
 大振りな剣をズルズルと引きずりながらこっちへ歩いてくる。
 元僧侶から戦士に転職した彼女は、非力なままだった。
「……こんなんで冒険できるのかなぁ……」
 うなだれるユーニ。
 そこに、さらなる悲劇が襲い掛かる。
「ユーニ。アタシも転職が終わったぞ」
 大きな帽子を被ったビーナスが歩いてくる。
「……杖は、肩に担ぐものじゃないよ」
「だってよー。今までもこうしてたから」
 元戦士から魔法使いへ。
「これでアタシも魔法使いだ! さぁ、どんどんこの杖で戦うぜ!」
「……杖は振り回すものじゃないよ……」
 もうユーニにはツッコむ気力もない。
 肩を落として、とぼとぼと歩き出した。

 神殿を出て少し進むと、敵が出てきた。
「転職したばかりなんだから無理はしないでよ!」
 ユーニがそう叫んだが、3人には聞こえていなかった。
「どおりゃああああああああああ!!!!!!」
 ビーナスが思いっきり杖を振り下ろした。敵の頭に当たったのはいいが、そのショックで杖がバキリと音を立てて折れる。
「ありゃ。折れちまった」
「え、え~い!!」
 剣を振りかぶったリズは、そのまま後方にヨロヨロと歩いていく。
「え、あれ、ふぇ……」
 そのままパタリと倒れてしまった。
「皆さん不甲斐ないですね。では!」
 かっこよく決めるポプリは、冷静な表情で、倒れたリズに近寄り、そっとお尻を触る。
「……」
 ユーニは手にしていた剣を下ろして、敵に向かって言った。
「……もう、一思いに殺して下さい」
 敵も哀れに思ったのか、ゴツイ手をユーニの肩に置き、何度か頷いてから去っていった。
「……魔物に、励まされた……」
 ユーニは情けなさ過ぎて涙を流す。

 その日は野宿だった。
「なぁリズ。あの炎がぶわーって出るヤツどうすんだ?」
「ビーナスさん、剣の使い方教えて下さい~」
「もっと、完璧に道化になりきらないと……」
 真剣な表情の三人を見ながら、ユーニは思った。

 転職、失敗だったなぁ……。

 キリリと痛む腹部を押さえながら、母親の笑顔を思い浮かべるユーニだった。