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夕暮れ。世界は赤く染まっていき、やがて闇に包まれる。
そんな全てが曖昧な雰囲気の時間帯、可南子は薔薇の館に向かっていた。

誰にも出会わない。
誰の声も聞こえない。
初めての感覚に、可南子は少し戸惑っている。

直前までは体育館で部活の仲間と一緒にいたのだが、ほんの数分でこの雰囲気になるとは思っていなかった。
振り向いてみる。既にバスケ部のメンバーはいなかった。

「……部長ー?」

不安になった。この声を聞いて、部長が顔を覗かせてくれれば安心できるのだが。
しかし、誰の姿も見えない。
ぐびり、と喉が鳴った。可南子は廊下を引き返して、体育館に向かった。
一分もかからずに戻れたその場所は、無音の世界だった。

……可南子は駆け出した。スカートにもセーラーカラーにも構っていられない。
恐怖。この二文字しか頭には無かった。
誰かに呼び止められて欲しかった。先生でもシスターでも誰でもいい。怒られても構わない。
誰かの存在を確認できれば、それでよかった。

薔薇の館が視認できる場所に躍り出た。息が切れているのは、疲れではなく恐怖だ。
館に入る人物が見えた。その姿は、支倉令に似ていた。

「令、令さま!」

声を上げて、再び走り出す。靴が上履きのままだったが、構わずに土を踏む。芝生を踏む。

扉が閉まる、そこを閉じられたら二度と開かない気がする、扉が、扉が──。

可南子の手が空を切る。扉は音を立てて閉じられた。

「令さま! 令さまぁっ!!」

すぐに扉を開けたが、薔薇の館の一階は、体育館と同じ空気だった。

耳が痛くなりそうな、無音。
自分の息の音がうるさい。心臓の音が耳に付く。

二階に上がる。
大きな扉は閉じられていたが、中から声は聞こえる。

たぶん、祐巳の声であろう。
なんと言っているかわからないけれど、きっと。

可南子は扉を開けた。そして、三度同じ空気を感じた。

床に膝を付き、天井を見上げ、涙を流した。

──マリア様。もし私が異形の世界に迷い込んでいるのなら、どうかお助けください──




……という内容でしたの」
「……それがあなたの見た夢? 夢の中でも私を不幸にして楽しいの?」
「いや、私はそういうつもりでは」
「じゃあどういうつもりなのよ!!」

 ──ああ、いつもの光景だ。

 乃梨子は、ハリガネVSドリルを間近で見ながら、今夜のおかずを考えていた。

 ──うん。今日も平和。