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「さーて、今日は前も言ったように小テストやるからねー」
 1時間目。数学の授業。担当教師の如月冷夏がそう宣言するやいなや、教室全体からブーイングが飛ぶ。
「よーし。私に逆らったら今期の数学、評価1ね」
 ブーイングが一瞬で止んだ。冷夏はニッコリと微笑んで、プリントを配りだした。配りながら、全員に向けてしみじみと言う。
「しかし私も鬼じゃないので、お馬鹿かつ脳内お花畑なあなた達にビッグボーナス。教科書、ノート、電卓の使用を許可します」
 教室全体から拍手喝采雨霰。
「ただし」
 プリントを配る手が止まる。その席は、このカオスな教室に咲く一輪の常識人、一年風組委員長、龍宮三子の席だった。冷夏はその微笑みのまま、三子を見る。
「委員長はそんなものいらないわよね」
「当然です」
 眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら応える天才少女。
「あなた達、カンニングと同等の手段を用いながらも頭脳のみで勝負するこの龍宮さんより点数悪かったら……」
 空気が凍った。
 冷夏の微笑みが消えた。
「……はじめ!」
 数人を除く全員が一斉に教科書を開いた。

(や、やってしもたあああああああっ!!!!!!!)
 心の中で明日葉姉ことユカリは絶叫した。
 勢いよく開いた教科書はこともあろうに英語のテキストだった。しかも、どれだけ机の中を漁っても数学に関連するものは無く、一番奥から発掘した電卓は壊れていて、何度押しても÷と+が反応しない。
 ユカリは獣のようなスピードで自分の妹のテスト用紙を見た。
 が。
(な、なにいいいいいいいいっ!?)
 明日葉妹ことミドリは、澄ました顔でテスト用紙をひっくり返したのだ。
(ま、まさかミドちゃん、もう終わったというの!?)
 事実、ミドリは全問を解いていた。
 というのも、このテストの内容は前回の授業のおさらいみたいなものであり、ミドリは三子と同じく教科書などを見なくてもあっさりと解いてしまったのだ。当然、三子もミドリとほぼ同時にテスト用紙をひっくり返していた。
「……ミ、ミ~ドちゃん」
 超小声で妹を呼ぶ姉。
 ミドリはその蚊の飛ぶような音に気づいて、ユカリの方を見た。
「……どうしたの?」
「教科書、貸して」
「自分のは?」
「天使か悪魔か妖怪が隠した」
「……ちょっと待ってて」
 机の中から教科書を取り出してユカリに渡そうとした時、冷夏が言った。
「こらー、明日葉姉妹。テスト中にいちゃつくなー」
「い、いちゃついてません!」
 ミドリは冷夏に言い返す。その時、教科書を再び机に入れてしまい、ユカリは小さく「はぅっ!」と叫んだ。
「か、貸してよ、ミドちゃん」
「……いちゃついてるとか言われるからヤダ」
「いいじゃん、ね」
「よくない」
「ミ~ド~ちゃぁ~ん」
 泣きそうな顔の姉。真っ赤な顔の妹。
「……わかったわよ」
 今度こそ教科書を手渡し、ミドリは机に伏してしまった。不貞寝をするらしい。
(ありがとう、ミドちゃん。あなたの死は無駄にしないわ!)
 勝手に妹を殺す姉であった。

「はーい、制限時間一杯でーす。後ろからプリント回収してきて」
 テスト終了のお知らせ。
 ミドリは顔を上げて、姉を見た。
「お姉ちゃん、教科書……って何その顔!!」
「うぅ~、ミドちゃん……」
「ど、どうしたの?」
「何書いてあるのかわかんなかった……」
「……お姉ちゃん……」
 明日葉縁終了のお知らせ。

「ミドリ、テストどだったネ」
 時間は進んで昼休み。ミドリの後ろの席の王鈴々が話しかけてきた。
 中国からの留学生である彼女は、脳味噌まで筋肉でできているとの噂である。
「完璧とは言えないけど、大体できたわ。リンリンは?」
「ワタシ、数字は食べれないからキライネ」
「あー、そうですかそうですか」
「そうヨ。せめて数学も身体動かして覚えたいネ」
 今日の昼食だろうか、近くのパン屋の目玉商品である超巨大殺人メロンパンを頬張りながら鈴々は言った。
 ──でも、リンリンは体育の成績はいつも5じゃない──
 池澤卑弥呼が、サンドイッチを飲み込んでから言った。
「ヒミコ、何て言ったカ?」
「あー。体育の成績はいいじゃん、って」
「当然ヨ! ワタシの運動神経は四千年の歴史が詰まってるネ!」
 胸をはる鈴々。
「そこは威張るとこなの?」
「当然ネ! ワタシの身体、万里の長城よりも曲がりくねってるネ!」
「ごめん。もう意味がわからない」
「ワタシもネ!」
 鈴々はやはり馬鹿キャラであった。