※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

<1日目/小笠原祥子/森の入り口>

「……あら?」
 私の呟きを聞いて、祐巳が小首をかしげる。
「どうしたんですか、お姉さま」
「いえ、この森、こんなに広かったかしら?」
「かしら? って言われても、私たちはわかんないよ」
 聖さまが苦笑しつつそう言う。
 しかし、私は本当に覚えがないのだ。この森は、こんなところに入り口はなかったはずだ。
 本来なら、桟橋から真っ直ぐ進むと、森に続く道と館へ続く道の分岐がある。だから、真っ直ぐ歩いてきたこの道に、森があるのはおかしいのだ。
 上がった場所を間違えた? いや、それは違う。桟橋は一箇所しかないのだから。海岸を歩き、ぐるりと反対側までいけば道はあるが、そっちだって館の裏手に続くのだから。
「祥子?」
 お姉さまの声に、思考の海に潜っていた私は我に返った。
「い、いえ。……行きましょう」

 なぜここで私たちは引き返さなかったのか。
 私は死ぬまで、この決断を悔いていくことになるのだ。

   ***

<1日目/佐藤聖/森の中>

「結構歩くんだねぇ」
 私はのんびり言う。少し汗ばんでいるが、ほどよい疲れだ。
「え、ええ……、もう少しで着きますから……」
 祥子はさっきから歯切れが悪い。
 道に迷ったとか……? でもずっと一本道だしなぁ。もし迷ってても、戻れば済むことだ。
「ねぇ、こんな話、知ってる?」
 そんなとき、江利子が変なことを言ってきた。
「んー?」

 後で思った。
 江利子の話を、聞かないほうがよかった、と。

   ***

<1日目/鳥居江利子/森の中での会話>

 ──ある豪華客船が沈んで、8人の乗員と乗客が1隻の救命艇に乗っていたの。
 その救命艇の周囲には濃い霧が立ち込めていて、数メートル先は全く見えない。
 そんな時、乗り合わせていた占い師がこう言うのよ。
「この船には、死神が乗っている。その死神を追い出さない限り、霧は晴れず、助けは来ない」
 最初は乗っている人は、誰もその占い師の話に耳を貸さなかった。
 その内、怪我をしていた男が死んだ。
 食料を独り占めしていた男は、もみ合いの末に海に落ちた。
 だんだんと皆は疑心暗鬼に陥ってきた。
 そしてついに……殺し合いが始まるの。
「こいつが死神だ」
「こいつを殺せ」
 狂った思考に支配された人々は、占い師を殺し、海に落とした。
 しかし、霧は晴れない。
 じゃあ、こいつだ。次の人を殺しても、海に落としても、霧は晴れない。
 そして最後は、誰も残らなかった。
 霧は晴れない。誰も助からない。
 死神は、その船に乗っていた全員の心に宿っていた悪しき心だったのよ──

   ***

<1日目/島津由乃/森の中>

「江利子さま、それって昔の漫画のやつでしょー」
 私はそう言って笑い飛ばした。すると、デコを光らせて、
「あ、やっぱり由乃ちゃんは知ってたかー」
 なんて言ってカラカラ笑っている。
 まったくもう。このデコは。

 でも……怖い。
 もし、本当にそうなら、嫌なんてもんじゃない。
 うーん。面白い、とは思えないなー。

 私の発言で、深刻そうな皆の顔が和らいだ。
 皆で「このデコ」「デコが」と言って江利子さまのデコをペチペチ叩いている。
 ま、大丈夫でしょう。この皆なら、明るく済ませれるでしょう。
 迷ったって大丈夫。絶対に、いいバカンスになる。

 そう思っていたのに……。
 あんなことに、なるなんて……。
 やっぱり私は、このデコのことを、許せそうにない。