――雪が、降る。
「……寒いな」
「心頭滅却すれば、火もまた涼し。で、ござるよ」
「今涼しいとまずいんじゃないか?」
「だからさっきから寒くて寒くてたまらないでござるよ」
「……馬鹿か」
目の前の糸目忍者は、唇を真っ青にしている。焚き火を前にしてそれはないだろ、お前。
「しっかし、なんだってこの季節に野外で修業なんだ」
「んー、特に決めてなかったでござる」
「……やっぱり馬鹿だな」
どうやって捕まえたか知らないが、蛇を焼いている。
一応魚も焼いてはいるが、どうしても目線は蛇に行ってしまう。
「……なぁ、帰らないか? 寒いだろ。帰って、一緒に……」
「いや、申し出は嬉しいがごめんなさいでござるよ」
「どうして」
「んー。一度決めてしまったから、でござるかな」
でたよ。
こいつは妙に頑固で、妙に義理堅くて、妙に優しくて……。
だから、私が惚れたんだよなぁ。
「それより、真名こそ帰った方がいいのではないでござるか?」
私は答えずに立ち上がる。
「無理して拙者に付き合わずとも――」
黙れ。
唇も、首筋も、指先も。冷たくなってしまって……。この、馬鹿。
「……ま、真名……」
「付き合うさ。恋人の帰りをじっと待てないから、私はここに来たんだ」
二度目の口付け。紫色した唇を激しく貪る。
隣で、焚き火が爆ぜた。なんだ、暖かいじゃないか。
――まぁ、寒かったら暖めあえば済む話なんだがな。
私は、楓を強く抱き締めた。
雪は、止まない。
最終更新:2008年04月02日 02:18