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 ――私の名前は龍宮真名。中学生だが、『ただの』中学生ではない。実家では巫女なんてやっているが、実はスナイパーでもある。
 裏の世界は知っている。私は平穏な日常を望んではいない。スリルに満ち溢れた日々を楽しんでいる。

 が。

 こんな非日常は、さすがに望んでいなかった。

 ある日、道端に転がっていた緑色の石。
 それを手にした瞬間、私はこの世界にやってきてしまったのだ。
 巨大な樹の根元に広がった、この街に。

「お、何だ嬢ちゃん。見ない顔だな」
 酒場らしき場所に入ると、マスターであろう男にそう言われた。
「あんたも冒険者か? ギルドは? 悪いが、許可がないと仕事はやれねぇな」
 正直、意味がわからなかった。だが、私はそれに従い、酒場を後にした。悪戯に動くべきではない。まずは自分が置かれた状況を知るのが先決だ。
 ギルドに冒険者、か。まるでゲームか漫画の世界だ。……魔法に囲まれた世界でスナイパーなんぞをやっていた私が言う台詞ではないが、な。



 ――私の名前は鏡明日香。フレイア鏡という名前で女子プロレスラーをやっている。
 ヒールとしてリングに立って数年。毎日が真剣勝負だ。

 そんな私は今、可愛らしい少女を目の前にしている。彼女は戦う相手ではない。近くで気を失っていた私を助けてくれた、いわば命の恩人だ。
「フレイアさんはどこの街からいらしたんですか? 私はこの街から出たことがないので……」
 東京だ、と言ってもわからないようだった。彼女の中ではどこか別の街として認識されたようだった。

 ここはハイ・ラガードという国で、世界樹と呼ばれる巨大な樹の下に広がっている街だ。
 まるで、子供の頃に読んだお伽話のようだった。気を失う前に手にした石を見ながら、夢でも見ているのかとも思ったが、それにしてはリアルすぎる。
 私は間違いなくこの場所に存在していた。この街に。この少女と共に。



 ――私の名前は島津由乃。リリアン女学園に通う、普通の高校生……な、はずなんだけど。
「記憶が混乱しているようですね。大丈夫、すぐに落ち着きますよ」
 なんだか格好いいような頼りないような、お医者さまが目の前にいる。

 私は冒険者……らしい。いやいや、高校生だから。むしろ冒険者なんて、令ちゃんの方が似合ってるんじゃないかな。
 なんだか、ここはハイラガだか言う国らしいけど、たぶん夢だろうから話し半分に聞いていた。まぁ、後から考えたら、もう少し真面目に聞いておけばよかったけど。
「冒険者の登録が見当たらないんです。ひょっとしたら、樹海に迷い込んでしまったんでしょうか……」
 樹海。登録。何がなんだかわからない。あー、令ちゃん、助けてよぅ……。
 私は緑色に光る石を握り締めて、ため息をついた。