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 その少女は、とても嬉しそうに小さな欠片を手にしていた。  それは、小さな小さな、硝子の破片である。      *  少女が硝子片を好むようになったのは、ほんの一週間前。  キッチンで食事をしていた時、水の入ったコップを手に取り損ねたのである。  それは砕け散り、いくつかの破片が彼女の脚を切り裂いた。  ほんの少しの出血。  痛くは無いが、傷ついた脚に恐怖を感じた。  しかし、少女はもう一つの感情に目覚めた。  自分の脚を傷つけた破片を手にする。  大きなものは片付ける。少女の目的は、小さな欠片だ。  僅かに血が付着した硝子の欠片は、とても綺麗な色をしていた。  片付け終わり、手元に残った破片を、少女は口に運んだ。  自分の血を吸った破片は、美味だった。  もっと、血を吸った硝子片が食べたい。  少女はそう思った。  次の日、わざとグラスを割り、その破片で腕や脚を傷つけては血を吸わせて、そして味わってみたが、何か違う。  偶然がいいのだ、と考え付いた。  偶然に血を吸うこととなった硝子片が美味しいのだ、と。  二日後、近所の交差点で交通事故が起こった。  乗っていた運転手は双方共に死亡。車は互いに大破していた。  少女は妹を迎えに家を出ていて、その事故の瞬間を目撃していた。  ある程度片付けられた交差点に、深夜に向かう。  未だ道路には細かい破片が──フロントガラスなどの破片が残っていた。  溢れる唾が抑えられない。少女は誰も見ていないのを確認して、その場に這いつくばった。  舌先で、アスファルト上を舐め取っていく。  粒子に近い破片が、少女の舌を傷つけながら、そして自らが思いがけずに吸う事となった、血液と少女の舌から流れ出る血液を混ぜていく。  口の中にある程度の硝子片が溜まる。  噛み締めると、じゃりっ、と音がした。  血の味が、口内に広がる。  見ず知らずの他人の血液はとても美味しく、そこに自分の血が混ざることにより、より濃厚な味となった。  彼女は満足していた。  しかし、物足りなさを感じ出す。  そして、どす黒い考えが頭に浮かぶ。  近所の店で買った、妹とお揃いの、少し大きめの硝子の花瓶。  これで、妹を傷つけたらどうなるだろう。  妹は当然泣くだろうし、親や周囲の人間には怒られるだろう。  ひょっとしたら、警察沙汰になるかも知れない。  だが、この感情は抑えきれない。  取り返しがつかなくなってもいい。  妹の血を吸った硝子を口一杯に頬張りたい。  少女の頭はそれで一杯になった。   そして今日。  彼女は、両親のいない時間を狙った。  一階には、妹がいる。  花瓶を手に、階段を一段ずつ下りる──。      *  少女は、とても嬉しそうに小さな欠片を手にしている。  少女の足元に倒れているのは、自分の姉。  信じられない、といった表情の姉の頭からは、今も鮮血が流れ出ている。  自分とお揃いの花瓶を手にして部屋に入ってきた姉の側頭部を一撃、倒れたところへ更に一撃。  二回目で砕け散ったお揃いの花瓶は、姉の血と共に宙を舞う。  あの日。  姉が迎えに来てくれたあの日。  近所で起こった大惨事を目撃して、そして、魅せられたあの日。  真夜中の姉の行動は気付いていた。  そして、姉よりも先に、どす黒い考えは頭を支配していた。  花瓶の欠片を手に取ると、口に放り込んだ。  まるで甘い甘いキャンディを味わっているかのように。 「美味しい」  少女は笑った。
 その少女は、とても嬉しそうに小さな欠片を手にしていた。  それは、小さな小さな、硝子の破片である。      *  少女が硝子片を好むようになったのは、ほんの一週間前。  キッチンで食事をしていた時、水の入ったコップを手に取り損ねたのである。  それは砕け散り、いくつかの破片が彼女の脚を切り裂いた。  ほんの少しの出血。  痛くは無いが、傷ついた脚に恐怖を感じた。  しかし、少女はもう一つの感情に目覚めた。  自分の脚を傷つけた破片を手にする。  大きなものは片付ける。少女の目的は、小さな欠片だ。  僅かに血が付着した硝子の欠片は、とても綺麗な色をしていた。  片付け終わり、手元に残った破片を、少女は口に運んだ。  自分の血を吸った破片は、美味だった。  もっと、血を吸った硝子片が食べたい。  少女はそう思った。  次の日、わざとグラスを割り、その破片で腕や脚を傷つけては血を吸わせて、そして味わってみたが、何か違う。  偶然がいいのだ、と考え付いた。  偶然に血を吸うこととなった硝子片が美味しいのだ、と。  二日後、近所の交差点で交通事故が起こった。  乗っていた運転手は双方共に死亡。車は互いに大破していた。  少女は妹を迎えに家を出ていて、その事故の瞬間を目撃していた。  ある程度片付けられた交差点に、深夜に向かう。  未だ道路には細かい破片が──フロントガラスなどの破片が残っていた。  溢れる唾が抑えられない。少女は誰も見ていないのを確認して、その場に這いつくばった。  舌先で、アスファルト上を舐め取っていく。  粒子に近い破片が、少女の舌を傷つけながら、そして自らが思いがけずに吸う事となった、血液と少女の舌から流れ出る血液を混ぜていく。  口の中にある程度の硝子片が溜まる。  噛み締めると、じゃりっ、と音がした。  血の味が、口内に広がる。  見ず知らずの他人の血液はとても美味しく、そこに自分の血が混ざることにより、より濃厚な味となった。  彼女は満足していた。  しかし、物足りなさを感じ出す。  そして、どす黒い考えが頭に浮かぶ。  近所の店で買った、妹とお揃いの、少し大きめの硝子の花瓶。  これで、妹を傷つけたらどうなるだろう。  妹は当然泣くだろうし、親や周囲の人間には怒られるだろう。  ひょっとしたら、警察沙汰になるかも知れない。  だが、この感情は抑えきれない。  取り返しがつかなくなってもいい。  妹の血を吸った硝子を口一杯に頬張りたい。  少女の頭はそれで一杯になった。   そして今日。  彼女は、両親のいない時間を狙った。  一階には、妹がいる。  花瓶を手に、階段を一段ずつ下りる──。      *  少女は、とても嬉しそうに小さな欠片を手にしている。  少女の足元に倒れているのは、自分の姉。  信じられない、といった表情の姉の頭からは、今も鮮血が流れ出ている。  自分とお揃いの花瓶を手にして部屋に入ってきた姉の側頭部を一撃、倒れたところへ更に一撃。  二回目で砕け散ったお揃いの花瓶は、姉の血と共に宙を舞う。  あの日。  姉が迎えに来てくれたあの日。  近所で起こった大惨事を目撃して、そして、魅せられたあの日。  真夜中の姉の行動は気付いていた。  そして、姉よりも先に、どす黒い考えは頭を支配していた。  花瓶の欠片を手に取ると、口に放り込んだ。  まるで甘い甘いキャンディを味わっているかのように。 「美味しい」  少女は笑った。

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