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いつも、こんな感じで」(2008/01/01 (火) 00:14:34) の最新版変更点

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 平和台商店街の一角にある、とある店内。  店の中心にあるカウンターを挟んで、二人の女性が睨み合っていた。  カウンターの中にいるのは、少し吊り気味の目をした女性。口元の黒子が、色気を醸し出している。  カウンターの外にいるのは、髪の長いスレンダーな女性。もう一人の女性よりは身長が高い為、少し高い位置から、カウンターの中を見下ろしている。  二人はいつになく真剣な表情で、互いの顔をじっと見ていた。 「……覚悟はいい?」  髪の長い女性が訊く。左手の指で、自分の髪の毛の先を弄びながら、余裕のある表情をしている。  一方、吊り目の女性はこちらも不適に笑い、椅子から立ち上がった。 「そっちこそ。後悔はしないでよね」 「しないよ。これは戦いなんだから」  二人はそれぞれ右手を握りこぶしにして、身を屈めた。今にも一勝負を始めようとしていた。 「行くよ」 「オーケー」  一瞬の沈黙。 「……せぇのっ!!!!」  二人は同時にこぶしを突き出した。 「……うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! 負けたぁ~~~~~っ!!!!」 「イエーイ!! カオの勝ちぃ~!!!!」  勝負はついたようだった。  ここは朝日奈市の中心部に位置する、平和台地区の平和台商店街。そこの中のひとつ、保田写真館という店の中である。  握ったこぶしを開かなかったばかりに、勝負に敗れた女性が、ここの店長の娘である保田圭。握ったこぶしでカウンターを叩き、悔しがっている。  途中で手を広げたおかげで勝利を収めた女性は、平和台女子大学の生徒である飯田圭織。喜び、くるくると回っている。  二人は学生時代からの親友であった。  今のジャンケンは、学生時代のひょんな事から続いている、約束のひとつだった。内容は単純明快。どちらかが写真を現像する時、負けた方が現像代を払うというものだった。  圭は負けても自腹を切るわけではないので別にいいのだが、圭織は払わなくてはいけないので、いつも本気だった。 「それにしても、なんか納得いかないんだよね」  圭は現像の準備をしながらブツブツと言う。 「圭ちゃんはいいでしょ? 圭ちゃんの写真代をカオリが払うのは、それこそ納得いかないよ」 「そりゃまぁ、そうだけどさ」  受取ったフィルムをセットしながら、圭は呟く。  暗室に入り、カーテン越しに話す。 「で? 今日は何の写真なの? ……どこここ。廃墟? あんたルインマニアだっけ?」 「あ、それ心霊写真」  至って普通に答える圭織。  暗室の中から、ガタンと音がした。圭が驚きのあまり、椅子に足をぶつけてしまったのだ。 「は、はぁ!? マジで!?」 「いや、ひょっとしたらだよ?」 「ひょっとしたらって、あのね」  圭は暗室から出てきた。椅子に座って圭織を見た。彼女はいたって真剣な顔つきだった。 「今回の応募で、最優秀心霊写真には賞金が二十万円出るんだよ」 「何の募集なの?」 「知らないっけか。これこれ」  圭織は、鞄から取り出した本をカウンターの上に置いた。 「……『月刊・心霊写真ライフ』……こんなのあるんだ」 「『月刊アトランティス』の増刊みたいな本なんだよ」 「そっちも知らないわよ」 「まぁまぁ、話を聞いて。あのね」 「なによ」 「ベスト心霊写真には五万円なんだけど」 「いや、そっちの話はいいから」  圭は立ち上がり、「何か飲む?」と訊いた。 「お構いなく」 「じゃあ私はコーヒー飲むから。ちょっと待ってて」  圭が一旦自宅の方に引っ込んだので、圭織は椅子に座って、写真を撮った時の事を思い出す事にした。  平和台地区の東側に、「殺人館」と呼ばれる大きな洋館がある。数年前、関東一円を騒がせた連続猟奇殺人事件の最後の舞台となった場所である。  真夜中に一人で忍び込み、至る所でシャッターを切り続けた。消費した三本のフィルムのうち一枚くらいは写っているだろうと願って。 「お待たせ。一応あんたの分も持ってきたよ」  圭はコーヒーを持って帰ってきた。席に座り、一口飲み、「それで?」と話を繰り出す。 「んっとね。これ以外にも、もう一個企画しているものがあるんだ」 「写真を撮るの?」 「そう。あのね、私以外にも何人かでその場所に行って、撮りまくるっていうやつ」 「まぁその現像は私なんだろうけど」 「またジャンケンしようよ」 「で、どこでやる気なの? また『殺人館』?」 「ううん。もっと身近で、怖い話が一杯あるところ」 「……どこ?」 「耳をお貸しなさい」  圭織は圭の耳に近づき、小さい声で話す。それを聞いた圭は驚きの声を上げた。 「……はぁ!? 許可取ってんの!?」 「今から話しつけに行こうかなって思ってる。この時間だからまだいるでしょ」 「裕ちゃんはいるだろうけど、矢口はどうかな」 「まず行ってみる。コーヒー飲まなくてごめんね」 「いいよいいよ。写真、帰りにでも取りに来て」 「うん。じゃあね」 「はーい」  圭織の背中を見送ると、圭は暗室に戻った。少しは気になっているようだった。

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